作戦決行②
「しつこいんだもん。ほっといてストーカーがエスカレートしてもやだし。どうせ付きまとわれるなら財布代わりにすれば得っしょ」
「冷めてるねぇ。今の子は……。おっといけねェ」
大志を追い込む為に涼が後を追う。福もそれに続く。
「うぎゃぁぁぁ! 追ってくるぅぅぅ! ママァ! まぁまぁあ! たちゅげでぇぇ」
書いてて情けなくなってきたな、こいつ。
逃げる大志は扉を開けた。前回の福と同じ一番奥の扉だ。
そこには……暗闇の中をランタンでかざして見ると、ほのかな明かりの中うずくまった肉のかたまりが浮き上がって見えた。呼吸にあわせ、わずかに背中が脈動している。
「だ……だれぇ?」
大志はそれを見て固まった。後ろのパーティションに隠れて福と涼はそのさまを見ている。
「登場。オケじゃないすか?」
「そぉね。やるじゃない」
しゃがみこんだ松千代はゆっくり立ち上がると、これまた徐々に振り替える。
「おッ。いいぞ。いいぞ」
「ああああ」
涙、鼻水、よだれ、情けなさ極まった大志はさらに失禁をした。一方、完全に大志に向き直った松千代は、一歩一歩カクカクと首を震わせながら近寄ってくる。そして……。
「モスト・マスキュラーぁぁ! ……からのうらめしや……」
……。
「あ、前回とポーズが違う……」
そこはど~でもいいんじゃないか?
「あ・れ・だ・け……それはやめろっちゅーとんのにィィィ!」
今度は涼のフライング・クロス・チョップが炸裂した。
「あっひぃぃぃぎゃー!」
しかし、大志は恐怖が臨界に達したようで(あれで?)這いずりながら元来た道を逃げていく。恐怖のあまり、途中、福にも気付かず通りすぎた。それに気付いた涼が
「まだいけるかっ? おんどりゃぁ、逃がすかぁ!」
と気合を入れなおし、空中放たれた矢のように追いかける。松千代もどすどすと後に続く。
しかし、涼もおやじもパワフルすぎて、幽霊の風情ってもんがまったく無いなぁ。
「ホントは私が逃げ出す予定だったのに。だーめだぁ、あいつ」
あ、大志の事?
「うん」
まあ、いかに怖かろうと女の子を放り出して逃げ出すのは、作者も男として関心しない。
「だよねー」
そうしていると松千代がまたどすどすと足音をたてて戻ってきた。
「ん?」
「福さん。ありがとうございましたッス。おかげで認定取れそうッス。一人前の悪霊になったら必ずお礼に伺いますッス」
悪霊のお礼は来て欲しくないものだ。
「いいって」
「なにやってんの! 追うよっ!」
階段付近で涼の声がする。松千代はペコッと頭を一つ下げると、再びどすどすと大志を追っていった。しばらくして、小悪魔のような表情を浮かべた福が
「太志のぶわーかぁ。取り憑かれちゃえ~いだ。キャハハハハ」
と笑った。人非人め。