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4 2-A(後編)

 1人、私にも気になる人がいる。

 栖輪菜という少し落ち着いた人。私と似てて、あまり注目される人ではない。でも、その静けさもカッコよさも全てが可愛く見える。席が隣になったとき、趣味が合って、自然と笑顔になった。私に嫉妬せず、というと偉そうだが、関わってくれた。安心する。彼がいるからこそ、私は学校に来れている、と言っても過言ではない。


 瑠奈は親友であり、少し恨むところもある。だが、彼女は何も悪くない。悪いのはむしろ彼女と無神経に喋る私だ。彼女が悪いのは、私がいるからだ。前に、瑠奈にこんな話をした。その時だって、若菜は何も悪くない、悪いのは私だから私が守ってあげる。約束する。と言ってくれた。

 でも、その言葉は芯が無く、ただ仮面を被ったピエロだったのかもしれない。あの頃から、確かに少し虐めは減った。逆に新しく友達になってくれた人もいた。その友達が本当にそう思っているかは分からない。でも、瑠奈には感謝してるし、裏切って欲しくない。瑠奈が居なくなったら私には何も残らない。


「失礼し…ます」

 私はドアを開けて、中を見回した。

 図書室はよく行く。

 瑠奈が休みの時は学校のほとんどを図書室で過ごす。

 だから構造は勿論、どの本がどこにあるかもほとんど暗記している。

 図書室の入り口と出口ではドアが分かれており、カウンターから遠い方に入り口、カウンターのすぐ隣に出口がある。入り口の近くは机と椅子が十数個置かれている。机の上にはゴミを捨てるための新聞紙で作られたゴミ箱が置いてある。本棚は本の内容ごとに0~9で仕分けされており、9の小説が最も多い。

 私が行ったときには先生も委員もいなく、図書室には一人の状態だった。

 何も考えずにまっすぐ進み、窓側の椅子に座った。

 いつも私が本を読むときに座る席だ。

 当たる日差しと触れる本の感触が一つの醍醐味といっても過言ではない。

 カウンターの近くの柱に付いている時計がチクタクと動く音が癒される。


 少し時間が経ってから、小説の棚から本を取りに行った。

 最近読んでいる『最高最悪の少年少女』の続きを、読もうとして手に取る。ペラペラ捲ると、本についている紐の栞が一昨日読んだところよりずれていて少し唸った。が、そのまま席に戻り103ページに栞を置いてそこから読み進めた。

 『最高最悪の少年少女』は何もかもに上手くいく少年「怜」と運に欠如している少女「舞」が様々なことをして学校生活を過ごす学園モノで、怜が舞に、舞が怜に片思いし段々と関係が近くなる。恋愛モノにハマっている私からするととても最高な作品だ。シリーズにもなっており、今は5巻まで発売されている。

 着々と読み続け、遂には時間も忘れてしまった。

 フーッと息をついて、席を離れ、今度は2から4巻を持ってもう一度席に着いた。



 4巻を閉じ、机に置いたところでやっと時計を見た。十分没頭していたみたいで140分経った4時37か8に針が差していた。

 誰かが図書室に入っても出てもいず、図書室の前を通ってもいない。

 私は急いで本を元あった場所に返したあと、鞄を持って、普段は出口から出るのだが、入り口から走って出た。

 そのままの勢いで走ったせいで、階段を降りる時に踵をくじいてこけてしまった。痛いが、どちらかというと心の方が痛いので、我慢して帰った。






 下校時間よりかなり遅くに帰ってしまった。あまり常識外れの行動はしたくない自分からすると罪悪感がかなり残る。

 恥をかいた。只それだけで、それ以上でもそれ以下でも無かった。正しく言うとそれを超過してもそれ未満でもない。

 むしろ本を読む時間を作ってくれたとポジティブに考えればそれだけで済む話だ。最初から期待してなかったし。

 だから別に気にはしていない。

 別に誰かに見られた訳でも、誰かに知られた訳でもない。瑠奈は必ず皆んなに言う事はしない。

 多分、絶対。





 あれから約一週間。もうそんなこと忘れたように学校で過ごしている。

 毎日と同じように登校した私はいつも通り靴を脱いだ。

「おはよー! わかなん」

 後ろから聞こえる声に振り返ると、そこには瑠奈が居た。

「おはよ。瑠奈」

 これもまた日常会話であって、おかしな点は強いて言うと瑠奈の髪があらゆる方向に跳ねているぐらいだろう。

「めっちゃ暑くない? 今日」

「うん。そう、だね」

 何にも考えずに適当に相槌を打った。

「なんか乗り気じゃないね。まあ暑いから仕方ないか」

 そんなこと話しながら教室に向かう。

「そういえば、わかなんがおすすめしてた…確か、『サイレント彼氏』だっけ。を読んだんだけど」

「え! 読んでくれたの!? やっぱいいよねアレ。アニメもあって映画もできてしかも曲にもなっていてやっぱりアレにしか感じれない感動とか最高だよね! で、どうだった?」

 自分で言うのもおかしいが、とても否定しずらい空気にしてしまった。だが、ここから引き下がるのも私のプライドが許さない。

「めっちゃ良かった! あの、最後の展開がめっちゃ感動した! 彼氏くんが『好きだから、恋してる』とかいう意味わかんない台詞がやっぱ最高だよね!」

 乗ってくれた嬉しみと臨機応変な対応がすこし羨ましく、嫉妬する。

 けど、そんなことどうでもよくなって熱中して話す。

「そうそう、実はあの台詞、続編の―」

「待って、ネタバレされると楽しみが減るから」

そんなことを話しながら、教室に向かう。

 教室に耳を傾けると、主に男子生徒の声が駄々洩れしている。うるさいなあと思いながら、野生の勘が「行くな」と言っている。とても嫌な気がした。


「これヤバくない?」

そういう女子の声が丁度聞こえたころ、私は現実を目の当たりにした。

 そこには、いくつかの紙が置かれていた。

 そこというのは私の机ということで、野生の勘というのはこのことだった。

「えっぐ、一枚貰っていいかな」

なんて言う男子がその長方形を一枚取って、去って行った。

 それは私が一週間前にいた図書室が映っており、私も映っていた。

 具体的には伏せるが、スカートの中を撮ったものがほとんどだった。

 そこからは最悪だった。

 男子は群がるばかり、私には同一人物だというのに興味すら持たない。

 私はすぐに全て回収して鞄に入れ、瑠奈の手を引き、すぐにトイレに向かった。

 ドアに鍵を閉める。

 瑠奈は外で待ってもらった。

 鞄を適当に置き、そのまま座った。

 頭を抱えるように手で支えた。

 何も考えられない。言葉が一つも出てこない。

「ねえ」

 感覚がおかしくなって自分が言ったと一瞬思ったが、よく考えれば瑠奈が言っていた。

「そんな事する人だったんだ。そうやって私からの票を全て移して人気を取ろうとしたんだ」

 どういう事? そんなこと私がするわけないし、そんな目的があってできるような私ではない。

「私と一緒に居れてるのは誰のお蔭だと思ってるの?」

「違う!」

思わず心の声が漏れてしまった。

 返答になっていないからか、瑠奈は私の声なんか聞こえなかったのかのように我武者羅に声を上げた。

「そんなこと言ったって意味ない。そもそも私の手を引いたのはなんで? 私だと安心できると思ったから? 私は本当は嫌いだったんだよ! 軽々しく喋ってくるのが! でも私は心が広い私を演じないといけないからって頑張ってたの! 私が居ないと価値なんかなかった癖に! このゴミが! カス!」

早口で言ってそのまま出て行ってしまった。

 目から零れる涙に思いがこもってない。

 すぐにドアを開けたころにはもう目の前には誰もいなかった。

 鞄を手に取り、トイレから出た。

 右を見ると瑠奈が誰かと喋っている様子がうかがえる。

 私は反対方向に誰にも見られないように走って、階段を二段飛ばしで降りた。前と同じような目にならないようにやや慎重に走ったから、こけかけたが、転ばずに姿勢を戻して再度走った。

 下駄箱から靴を取った。

 焦っていて履いていたスリッパが下駄箱にきちんと入らなかった。

 頭が痛い。ガンガンとする。嗚咽感がある。

 私はそのまま靴を履いて、私は逃げた。

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