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2 1-A(後編)

 理科準備室に向かう。

 私は手に人という漢字を何十回も書いていた。彩葉は私を見て何か言いたそうな顔をしている。

 背負い鞄がやけに重い。


 理科準備室は一階の北棟にある理科室1と理科室2の間にある。一年生の教室は南棟の三階にあるので随分遠く、その分の疲労も重なり教室に着いたときに疲れ果てていた。

「開いてる」

最初にそう言ったのは彩葉だった。

「ホントだ……。開いてる……」

私もつられて言った。

 昼間なのに中は暗かった。ドア付近にあるスイッチを押し、明かりをつけた。中は思ったより色々な物が転がっていて汚れている。"めすしりんだー"とか"でんあつけい"とか授業で聞いたことある実験装置の他、プリントやパソコン等も置いてあった。

「こんな中で告白する男子は相当だな……。本当に大丈夫なの?」

「大丈夫! いいから彩葉はそこで隠れていて!」

良く分からない自信が湧いて、少しカッとなってしまった。彩葉は素直に「はーい」と言って棚の裏に隠れた。

 どこで待って居るのが正しいのだろう。これといって安定した足場が無い。中央にパソコンが置いてある机があり、椅子が対称の位置に二つ、置いてある。椅子に座る、というのは流石に偉そうだろうか。かといってずっと立っているのも疲れる。

 結局座って待つことにした。



 チャイムが鳴った。

 完全下校時間が決められており、今日は部活が無いのでおそらくそのチャイムだろう。

 待つに十分、また十分と経っていく。

「本当に大丈夫なの?」

と言った彩葉の言葉が不意に頭に過った。

 そんな彩葉といったら物陰でスヤスヤと熟睡していた。


「はぁ」

 何もかもにため息をついた。

 自分がこれだけ期待したことにも腹が立ってきた。

 手紙を送ったやつに対する苛立ちは大きくなって、徐々に小さくなって、遂にはそんなことさえ忘れて自分も寝てしまっていた。



 目が覚め、辺りを確認すると、明かりが消されていた。そのままドアを開け、理科準備室を出ると目の前にあった窓には夕日が透けて見えていた。

 もう一度準備室に入り、今度は明かりを付けて中を見回した。

 そこには彩葉の姿は無く、入った時と何と変わらない部屋だった。

 周りの教室の明かりはすべて消されており、人の気配は無く、夕日に照らされ橙色の自然光がいつもより輝いて見えた。


 その後といえば、特に何もなく、そのまま帰った。涙なんて零れなかったし、どちらかと言えば目は乾いていた。




 次の日。いつも通り自転車に乗り登校した。手紙は燃えるごみとして家で捨てた。下駄箱に靴を入れようとした。一度、中をよく確認した。何か淋しい感じがしたが、そのまま靴を入れた。


 教室に入ろうとしたところ、足が止まった。正確に言えば廊下を歩いて、階段を昇っているときから足取りが重かった。

 教室はいつもより騒がしく、恐らく足が動かなくなった原因はこれだった。

 恐る恐る後ろのドアから教室に入ると、皆んなの視線が自分に向いた気がした。怖くてずっと下を向いて、自分の机へ向かった。その途中で、クラスの男子とぶつかり、多少会釈した後、そのまま進んだ。本当は謝りたかったが、声が出なかった。

 鞄を机に置き、筆箱を出していると、真っ先に彩葉が近寄ってきた。

 近づくな。触れるな。話すな。見るな。どっか行け。


 何も考えず、目も開けず、とにかく走った。全力疾走。

 細目から流れてくる雨のような塊が体にかかった。

 制服が汚れた。クリーニングに出さなきゃ。また叱られる。ごめんなさい。でもしょうがないの。ちゃんと片付けるから許して。




 私は学校を休んだ。

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