表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姫ぎみと『鏡の中に棲む男』  作者: 寄賀あける


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/14

11

 首根っこをアースに抱き込まれた形のフィルが逃れようと暴れる耳元で、アースが(つぶや)く。

「痛い思いをしたくなければ暴れるな」

その言葉にぞっとするフィルだ。今まで何度同じセリフを聞いたことだろう。そしてその後に起きたことはいつだってロクでもないことばかりだ。


「おまえ……おまえも俺を?」

アースは違う、そう思った俺は見誤っていたのか? こいつもまた、俺に欲望を抱いていたのか?


「いいか、後ろを振り向かず聞け。おまえを狙うヤツがいる」

再びのアースの呟きに思わず振り向こうとして、首に痛みが走る。そうはさせじとアースが首に回した腕に力を込めたからだ。


 さっき感じた殺気はそれか。つまりアースが俺を押さえているのは、俺が気が付いたことをソイツに知られないためか。オリレーズには、この場をやり過ごすための嘘を言ったのだ――自分の思い違いにフィルの顔が羞恥で再び熱くなる。


「今朝、おまえが宿を出た後、おまえを探しに来た男がいた。その男が広場でおまえを見つけ、今も後をつけてきている――このままオリレーズの馬車に乗り、ここは(のが)れたほうがいい」

「あんた、俺を助けるために? イヤがってたオリレーズの館に行くのか?」

「ま、本意ではないが、ついでだからオリレーズも助けようと思っている――利用するだけでは心苦しい」


「俺は――俺はあんたにどう礼をすればいい?」

「それより、馬車に着いた。オリレーズがこちらを見ている――芝居だとバレるようなことはするな。普通にしていろ、変に馴れ馴れしくするのもダメだ」


 難しいなとフィルがニヤリと笑う。それを見たアースがフィルの首から腕を(ほど)いた。見ていたオリレーズがあからさまに(きたな)いものを見るような目をした。


「オリレーズ、わたしたちは荷台でいい」

「いいえ、(キャビン)にお乗りなさい」

「いや、籠にはおまえが乗るのだろう? 我らが同席しては居心地が悪かろう――なに、今さら逃げなどしない。安心しろ」


 フィルに籠のうしろに設えてある荷台に乗るよう促したアースが、自分も荷台に乗り込めば、睨みつけるように見ていたオリレーズもやっと安心して籠に乗り込み扉を閉める。走り出した馬車の荷台で揺れながら、アースは追手の姿を確認していた。


 ややあって、アースが

「やはり追ってくるな――」

と呟いた。それに答えるフィルの声は聞こえない。


 どうせ造り酒屋の親爺(おやじ)か、盗賊の(かしら)だ。二人のところから逃げ出したフィルを探していることは知っている。造り酒屋の親爺は懸賞金をかけ、役人に金を掴ませてまでフィルを取り戻そうとした。異国に逃げれば役人の手は届かない、そう思ってこの国に来た。


 なのにこの国でも盗賊に捕まって同じことの繰り返し、やっとのことで逃げ出したが、盗賊の頭は今もフィルを諦めていない。必ず見つけ出し、思い通りにして見せると息巻いていると、酒場で会った顔見知りの同業者から聞いた。あの時は金を掴ませて口止めしたが、どうせすぐに報せただろう。


 だから同じ街に長くは居ない。どこに行っても一通(ひととお)り稼いだら次の街に移った。この街には来たばかり、なのにこんなに早く見つかっちまうなんて()()()ない。()いたら()ぐに別の街に行こう――


 そんなことをフィルが考えていると、察したわけではないだろうが、

「おまえを追っている男は、オリレーズの屋敷の中にまでは入って来られない。屋敷に着いたら裏口から逃げろ」

とアースが言う。


「広場にいた全員が、この馬車の行き先を知っている。当然、あの男はオリレーズの屋敷に来る。必ず裏から出るんだ」

「裏口がどこにあるか教えて貰えるかな?」


 フィルの不安に、ふん、とアースが笑う。

「教えて貰えなくてもおまえなら必ず見つける。得意なはずだ。入り込むのも逃げ出すのも――だが、間違ってもオリレーズの館でひと稼ぎしようなどと思うなよ」


「……アイツにはもう充分もらった」

「でも、もう使い切った――路銀はあるな?」


 動揺を隠してフィルがジロリとアースを見る。

「なぜ使い切ったと? 相当な大金だった。遊んでいても十年以上食える額だ」


「母親が病気の少女に全部くれてやった。住む家を買ってやる手間までかけてな」

「見ていたのか? 俺をつけた?」


「エスカルゴの裏でおまえを見かけた。そして話が聞こえた、それだけだ。無駄なことをするヤツだと呆れたが、(とが)めることでもない。放っておいた……着いたな、余計なことは言わないことだ」


 荷台から身を乗り出して前方を見ると大きな門が音を立てて開くところだった。


(俺のしていることがムダ? なにも判っちゃいないくせに)

視線を後方に戻したフィルがそう思う。


 マナが新生活を始める家はどこらへんだったっけ?――後方に広がる街をフィルが眺める。馬車は門の中に入り、マナの家のあるほうを探し当てられないうちに、フィルの視界は門で閉ざされてしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ