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人 形

作者:
掲載日:2025/11/05

通りを歩いていると、ふと気まぐれに雑貨屋に入った。

私は中を見て回った。ひとつ目に目がついた。髪の綺麗な人形。

私は何かに惹かれて購入した。


その夜、その子をそばに置いて寝た。

次の日、会社でストレスの溜まる出来事があった。

次長が私にミスの責任を押しつけてきたのだ。


私は家に帰り、そのことを人形に話した。

名前を「さくら」とした。昔の友達の名前。

さくらは、当たり前だが黙って聞いていた。

それが、なんだか本当の友達に話すよりもずっと話しやすく、心が穏やかで、すっきりした。


私はその日から、嫌なこと、嬉しかったこと、楽しかったことを、寝る前にさくらに報告するようになった。

時にはさくらを机に置いて夜ご飯を食べたり、外に連れ出したりした。

毎日の生活が少し楽しくなった。


そんなある日、会社でのストレスを愚痴っていたとき、

人形から声が聞こえた。


「大変だったね」


私はとうとう幻聴が聞こえ出したか、と感じた。

共に過ごしすぎて、さくらに慰めてもらいたい私の心が、さくらを喋らせたのだと。

でも、それが幻聴でないと分かることになる。


私の知らないことも、さくらは喋るのだ。

近くの美味しいランチや上司の秘密など、私が知り得ないことを話していた。


もしかしたら本当に、さくらが喋るようになった?

私は嬉しかった。

いつまでも私ばかり喋っていたので、内心うんざりされていたらどうしようか不安だったのだ。


でもさくらは、私の話を聞き、私を励まし、ともに悲しみ、喜んでくれた。


そして今日も話していると、さくらが言った。

「ねえ、なんで私の名前はさくらなの?」


「それはね、昔の友達の名前なの」


そう答えると、さくらは少し間を置いて言った。

「さくらとは遊ばないの?」


つい、目をそらしてしまった。


さくら──かつての友人は、もうこの世にいない。

昔、さくらと私は一緒に自害をしようとしていた。

二人で手をつないで、電車に飛び込もうとしたのだ。


しかし、なぜか私は足が止まってしまい、その子だけが死んだ。


そう話すと、さくらは何も言わなかった。


次の日、なぜか人形は、かつての友人と瓜二つの見た目になっていた。

短い茶髪に褐色の肌、そして死んだときの服装に変わっていた。


私は聞いた。なぜか確信していた。


「ねえ、あなた……さくらでしょ?

昔の、私が裏切ったさくらでしょ?」


人形は答える。


「うん、そうだよ」


私は覚悟した。

あの世から、さくらが私を殺しにやってきたのだと、そう思った。


「さくら、ごめんね。あのとき、裏切ってごめんね。一緒に行けなくて、ごめんね」


私はそう言った。

さくらは、黙って聞いていた。


次の日、私は目を覚ました。

眠ってしまったらしい。


さくらを見ると、なぜか買ったときの姿に戻っていた。

さくらは喋らなかった。


私を恨んでいるだろうか。

早くこちらへ来いと思っているだろうか。


――いや、もういい。


さくらの所へ行こう。

昔、躊躇ってしまったあの世界へ、行ってしまおう。


私は駅に向かって歩く。

電車が来る。


もう、躊躇わない。

飛び込んで、さくらに謝りに行こう。


そして飛び込もうとした。

しかし、誰かに腕を掴まれて、引っ張られた。


電車が通り過ぎて、私は生きていた。

周りを見ても、誰もいない。


私は引っ張られた腕を見た。

そこには――さくらの花びらが、くっついていた。






満開の桜の季節。

私が体験した、奇妙な話。


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