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異世界探偵は神を追う  作者: 瑠衣 美豚
18/20

第18話 煤の谷の過去

瑠衣 美豚です。

前回の続きになります。

楽しく読んでいただけますと幸いです。

【ミッシュ視点】


マダム・ロアンとの衝撃的な再会から、一夜が明けた。彼女は、「今はまだ、話すことはありません」とただ一言そう告げると、固く口を閉ざしたまま、教会の奥へと消えてしまった。

わたしたちが何度声をかけても、彼女はまるで石像のように、祭壇の前で祈りを捧げるだけで、何の答えも返ってはこなかった。その背中は、あまりにも多くのものを背負い、そして拒絶しているように見えた。


「……ふん。ならば、こちらで勝手に調べさせてもらうまでだ」


セオはそう宣言すると、わたしを連れて再び、あの灰色の廃墟の街へと足を踏み入れた。三十年前にこの街で起きたという、「集団怪死事件」。その忘れ去られた過去の中に、全ての答えが眠っているはずだと彼は言った。


わたしはセオとは別行動を取り、廃墟となった家々を、一軒、一軒見て回った。人の住まなくなった家は、驚くほど早く朽ちていく。床は抜け落ち、壁にはカビが生え、家具は分厚いホコリを被っていた。まるでこの街そのものが、ゆっくりと時間をかけて、死んでいっているみたいだった。


でも、わたしには「匂い」がした。どの家からも共通して漂ってくる、感情の残滓。それは、病への恐怖や絶望ではなかった。もっとこう、心の一番奥底に、三十年間ずっとこびりついて離れない、**「深い、深い後悔」と、「誰にも言えない秘密を抱えた、鉛のような苦しみ」**の匂い。


(……この街の人たちは、一体何をしたんだろう。みんな、何か取り返しのつかない悪いことをしてしまったみたいに、ずっと、ずっと苦しんでいる……。そして、その苦しみの匂いは、あのマダム・ロアンの背中から漂う匂いと、どこかよく似ている……)


わたしは、この煤の谷に眠る、名もなき人々の声なき悲しみに、少しずつ心を寄せていた。

その頃セオは、街の役場の跡地で何かを探していた。そして、半ば崩れた地下の書庫の中から、奇跡的に難を逃れた、いくつかの古い記録文書を発見した。


その夜。わたしたちは宿代わりに使っている廃屋で、焚き火を囲みながら、それぞれが得た情報を交換した。


「……どうやら、三十年前の悲劇のきっかけは、これらしい」


セオが差し出したのは、一枚の黄ばんだ羊皮紙だった。それは、当時の鉱山の落盤事故に関する、簡単な事故報告書だった。


「この事故で、一人の若い鉱夫が死んだ、とある。だが……」


彼は、別の書類を広げた。当時の、鉱山の労働者名簿だ。


「この名簿のどこにも、その死んだはずの鉱夫の名前が載っていない」


「え? どういうこと?」


「いや、正確には**『載っていた』**のだろう」


セオは、名簿のある一点を指さした。そこだけ不自然にインクが滲み、黒く塗りつぶされていた。


「……誰かが意図的に、彼の存在そのものを消そうとしている。この事故報告書もそうだ。内容があまりに簡素すぎる。まるで、何か重大な事実を隠蔽しているかのようだ」


隠蔽された事故。消された鉱夫の名前。そして、その直後に起きた集団怪死事件。わたしは、自分が街で感じ取ったあの匂いのことを、セオに話した。街全体が、まるで一つの大きな罪悪感に包まれているようだ、と。


わたしのその感覚的な情報と。セオが見つけ出した論理的な矛盾。その二つの情報が焚き火の光の中で重なった瞬間。セオの頭の中に一つの恐ろしい仮説が浮かび上がったのが、わたしにはわかった。


「……ミッシュ。もしかしたら、この街で起きた本当の悲劇は、奇病などではないのかもしれない」


セオは、戦慄した表情で呟いた。


「我々が今立っているこの場所は、ただの廃墟ではない。**三十年間誰も気づかなかった、一つの巨大な『犯罪現場』**なのだ」


彼は立ち上がると、マダム・ロアンがいるあの教会を見据えた。その瞳には、探偵としての厳しい光が宿っていた。


「……彼女に、全ての答えを聞く時が来たようだな」


「三十年前に、この煤の谷で一体何があったのか。そして、彼女がなぜあの悲しい子守唄を歌い続けているのかを」


(第18話 了)

お読みいただき、ありがとうございました。


本作は「ライトミステリー×アクション」をテーマに、世界の有名な歴史物語・戯曲や古典文学・童話・都市伝説を、二つ以上組み合わせて事件を描いています。

もし元になった物語が分かった方は、ぜひ感想欄で教えていただけると嬉しいです。

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