61 キモいのは勘弁
適度に食事をとり、シャワーの代わりに水浴びをして、充分な休息がとれたので再出発する事にした。
「さぁ、とっとと行きましょう!」
安全地帯から出発する時に、いつもなんだかんだで渋るサシャさんが行く気になっている。多分教会だったからだろうな。お風呂なかったし。
進む場合はあちらと書かれていた出入り口に向かう。
「あ、ちょっと待って」
念の為に防御力上昇をかけておく。何度かかけ忘れた上で、ふっとばされている事が思い出される。
「これでよし」
「じゃあ行きますよっ!」
サシャさんが一番乗りで行きそうなところに、マッシュさんとウルフさんが割り込んでくれた。ナイスだ。サシャさんはちょっと何⋯?みたいな顔をしているが、こっちこそちょっと何してんのっていう気持ちなんだけど。
教会から全員出ると、出入り口がなくなった。これで戻れない。先に進むしかない。そして⋯⋯マッシュさんとウルフさんがふっとばされた。
「「っぶっ?!」」
「⋯⋯⋯は?」
「っ?!ウルフ!?マッシュ!?」
二人が何にふっとばされたのか分からない。見える範囲には何も見当たらない。サシャさんが回復にと走っていってしまった。二人の状態が分からない以上、とめるわけにいかない。ただ、放っておくわけにもいかない。周りを警戒しつつ、合流すべく全員で追っかけた。
「っがはっ!?」
今度はテクノさんがふっとばされた。
「テクノさんも?!」
それを追ってミラさんが走っていく。
「佐藤さん!あ、あれっ!」
近藤さんが指をさした方向を見てみると、魔物が二体いた。形だけは人のような見た目をしているけど、青紫っぽい色をしている。サイズは人より少し大きい。
「なんであんな色なの⋯キモっ⋯」
感想への文句なのかなんなのか、魔物達が叫びだした。
「い゛いいぃっ!!!!」
「ま゛まままっ!!!!」
「佐藤さん!何か言ってるよ?!」
「⋯キモいわー⋯」
「いや、それには同意するけど!テクノさん達やられてるしヤバくない?!」
「⋯キモヤバイわー⋯。え、なんかニヤついてない?」
こっちを見る顔が、馬鹿にしたように笑っているように見える。
「え、なに?弱そうなやつらしか残ってないとかそんな感じ?」
「い゛ひいぃっ!!!!」
「うま゛ままっ!!!!」
本当にそう思っているかは別にして、ニヤついてるのが腹ただしい。声も見下されているように聞こえてきた。⋯被害妄想ではないはず。
「⋯⋯キモいくせにむかつくわー」
「佐藤さん?」
人型っぽいのを相手するのに躊躇してた時期もありました。でも、そんな時期はかなり前に過ぎました。
「近藤さん!!全力で風をぶつけよう!!」
「えぇ?!」
「あいつらを中心に竜巻を起こすイメージだ!」
「えぇ?!⋯⋯やれるかな」
「やらないとやられるよ!」
もちろん、やってもやれるとは限らないけど。テクノさん達が攻撃されたのは全くわからなかった。それだけ早く動けるなら当てられないかもしれない。
「よ、よーし。やるぞ」
「せーのでやるよ!」
「わかった!」
「せーの!」
『扇風機』
『風』
油断なのか、二体の魔物は動く気配はなく、イメージした竜巻が直撃できた。
「よし、それなら追加しとこ」
『炎』
竜巻に火が加わると、見た目は災害現場のようだ。
「なんか⋯こんなのニュースで見たことあるような⋯」
「やったか?!⋯なんて言ったらフラグがたってしまうか??」
「い゛びいぃっ!!!!」
「うま゛ばまっ!!!!」
「でしょうね!!」
「さ、佐藤さん!どうしようどうしよう!?」
これでも倒せないどころか、あまり効いていないような気がする。どうしたものか。
「⋯これ、やられるんじゃ⋯⋯ふぐぅっ!?」
「近藤さん!?」
近藤さんがふっとんだ。テクノさん達の時と同じく攻撃が見えなくて、何をされたのか分からない。回復すべく慌てて追いかける。
「いひひひ」
「けひひひ」
後ろから声が聞こえる。キモいし、むかつくのは変わらない。⋯⋯けど、倒せるんだろうか??⋯⋯帰れるんだろうか??⋯⋯死んじゃうって事はないよね??
そんな事を考えていたら、サシャさんとミラさんの姿が目に入った。二人とも、ちゃんと治療をしているようでテクノさん達は大丈夫そうだ。
良かった。じゃあ、とりあえずは近藤さんを回復させないとね。
「⋯さと⋯いた⋯⋯っ⋯」
「何言ってるかわかんない。とりあえず回復かけるから」
『回復』
これでひとまずは大丈夫だろう。
あとはどうするか。あれはテクノさん達が回復しても倒せるのか。あの見えない攻撃をどうするのか。せっかく回復しても、同じようにやられる可能性は高い。
一応、こっちにはまだ他の魔法はある⋯⋯けど、効くんだろうか。効かなかったら⋯⋯⋯終わりなんじゃないか?⋯⋯⋯え、やっぱり死んじゃう?!
「きゃあっ?!」
「サシャさん?!」
叫び声がした方向を見ると、二体の魔物がいつの間にかマッシュさんとウルフさんを頭からつかんでいた。
「⋯うぐ⋯」
「⋯⋯⋯はなせ⋯」
そんな二人の反応に気をよくしたのか、頭をつかんだまま腕をぐるぐる回し始めた。
「「⋯⋯っ⋯⋯」」
「ちょっと?!やめてくださいよ?!」
サシャさんの声にも反応したのか、回すスピードがあがっていく。
「⋯いやいやいや、あんなのマズイでしょ⋯」
「ウホ」
「⋯⋯え?」
後ろから聞いた事がある声がしたから振り返ってみると、見たことがある小さいゴリラがいた。
「ウホホ!」
「なんでまた??⋯いや、そんな場合じゃ⋯」
「ウホッ!」
ドラミングをし始めた。なんか興奮しているように見える。
「ウホウホウホウホウホッ!!!」
「え?なになに?なんなの?!」
「ウホーッ!!」
ドラミングを終えたゴリラは、マッシュさんを掴んでいる魔物に突っ込んでいった。
「いひっ?!」
「うぐっ⋯」
魔物に攻撃すんのはいいんだけど、マッシュさんも巻き添えくってんじゃん⋯。
「あれ!?あなたは⋯」
「ウホ」
「助けにきてくれたんですか?!」
「ウーホッ!!」
「いい子っ!!」
「ウホ」
やっぱり会話してるのかな。⋯⋯て、あれ??なんかまたボタンもってない?
「ウホッとな」
「「え?」」
ピンポン。
お馴染みの音がしたと思ったら、景色が変わった。
「ここは⋯?」
周りをよく見てみると洞窟の入り口のようだった。そうなると、さっきのゴリラボタンは緊急脱出のようなものだろうか。
「また違うところですか?!」
「いや、外に出たんじゃないかな」
一緒に洞窟に入った人以外は見当たらない。ひとまずは全員の姿が確認できる。
「あれっ?!またあの子がいないっ!?」
「いやぁ、あれは洞窟のなかだけでしょ」
「くぅっ⋯!」
とはいえ、あのゴリラはなんだったのか?⋯⋯考えても答えは出ないだろうから、お助けキャラ的な存在だと勝手に解釈しておこう。実際のところ、脱出できてなければ危なかったのは間違いないんだし。
「無事で良かったです」
ふっとばされた人の代表としてテクノさんに声をかけた。
「⋯あぁ、なんとかな。何をされたのか全然わからなかった。あんなのがいるんだな⋯」
「そうですね⋯。でも、進んだからこそわかった事ですよ。まぁ、危なかったですけど」
「あれには⋯⋯勝てそうにないな。私達は運が良かったんだな⋯」
「それはそうかもしれません。でも、調子に乗りそうな人がいますから黙っておいてください」
チラッとサシャさんのほうを見ると、テクノさんにも伝わったようだ。苦笑している。
「そうだな」
「とりあえず無事に帰ってきたという事で終わりにしましょう」
「さと⋯」
いい感じにまとめようとしてたら近藤さんが消えてった。
「あっ⋯。しまらないなぁ、もう」
「んん?戻っていったということは⋯⋯五分経ったのか?んん??とっくに五分は経っていたはずだよな?」
「え?あれ?ちゃんと伝わってなかったのかな。洞窟内は時間停止してたんです」
「⋯⋯時間停止??」
「何時間も入っていても、出た時は入った時間のままなんですよ。俺がいる時だけだと思いますが」
「⋯⋯んん?」
「だから今は、行くぞって合流してから五分後です」
「⋯⋯もう、なんだか意味がわからないな。まぁいい。とりあえず王都に戻って報告する。いろいろ協力助かった」
「いえいえ、こちらこそありがとうございました」
明日は仕事だし、とっとと戻って休みたいんだなぁ。




