58 人それぞれ
「もうね、チートでもズルでもいいよ!それより出発しませんか?!」
いつまでもここにいる意味は何もない。そろそろ先に進まないと。
「そうだな。他の魔物がくるかもしれない」
「ミラさん、盾は大丈夫そう?まだ使える?」
「大丈夫!まだいける!」
「結構キツイのくらってたと思うけど⋯日本の技術ってすごいんだな」
「⋯厳密にはどこ産なんだろね?」
「⋯そんなの知らないよ。書いてるんじゃない」
地図に表示されている黄色い三重丸のマークを目指して出発する。もし、マークの意味が前と同じなら安全地帯かもしれない。
歩き初めて数分。騒がしくなることはなく、むしろ静かになっていく。
「暑い⋯」
まだ大した距離を歩いてないのに、汗が流れてくる。梅雨の季節のような蒸し暑さだ。地面がぬかるんではいないが、かといって歩きやすいわけでもなく、普段と違う体力を使っている気がする。
「こんなとこ、あと三時間って?⋯ふざけてる⋯」
「前と違いますね⋯」
「ほんとにね⋯。適度に休憩しないと熱中症になるぞ」
「⋯その時は回復で⋯」
「そうだね⋯」
⋯ガサッ。ガサササッ。
「なんだ?!」
音がした方を警戒していると、ゴリラがひょこっと現れた。さっきよりだいぶ小さい。子供だろうか?
「また?!」
「くるのか?!くるなら私の盾にこいっ!!」
ミラさんの声で慌てて防御力上昇をかける。
「ウホッ!ウホッ!」
襲ってくる事を想定したが、黒いモヤが漂って魔物化しそうにはない。今のところは動物園で見たゴリラとなんら変わりない。サイズが小さいからか、かわいくさえ見える。
「ウホッ!ウホッ!」
ドラミングをしているけど、ペチペチ聞こえる程度。そのままこちらに向かってくる。
「こっちきたけど⋯大丈夫っぽい⋯?」
「そうですね。さっきとは違いますね」
「少しは警戒しつつ、先に進むとしよう」
「はい」
完全に安心はできないけど、すぐにどうこうなるわけじゃなさそうだ。
「ウーホッ!ウーホッ!」
「あれ?もしかしてついてきてる?」
「きてますね」
「これって親がきたりとか⋯」
「ほんとに来ちゃうから言わないでください」
⋯ガサッ!ガサササッ!
「ユウジさんのせいですよ!?」
「いやいやいや⋯」
今度はさっき倒したのと同じくらいのサイズのゴリラが現れた。わかりやすく黒いモヤをまとっている。
「親どころか、魔物じゃん!?」
「ヴオオオッ!!ヴオオオッ!」
「⋯⋯⋯ウホ?」
小さいゴリラは、初めて見るのかキョトンとしているように見える。とりあえず小さいゴリラ以外に再び防御力上昇をかける。
「来るぞっ!!」
テクノさんの声と同時に、魔物が勢いよく近づいてきて両腕を振り上げた。それが誰に振り下ろされるのかと思ったら⋯⋯⋯小さいゴリラにだった。
「え?!なんで?!」
「ウホッ?!」
「ウガアァッ!」
「ウギャッ!?」
「あっ!?」
勢いよくくらった小さいゴリラはふっとんでいく。
「仲間割れなのか?!」
「そもそも仲間なんですかねぇ⋯?」
「ちょっとサシャさん!?なにしてんの?!」
「ええ?!もしかして治せって言ってます?」
「なんかかわいそうでしょ?!」
「えぇ⋯??」
サシャさんにしては困惑している。それはわかる。だが、だがしかしだ!
「お願いっ!!」
「んもぅ!!なんでゴリラなんか⋯ぶつぶつ⋯自分で⋯」
ぶつぶつ文句を言いながらも治しに行ってくれた。あとはこっちをどうするかだ。
「ユウジ!土の魔法でどうにかできないか?!」
「土ですか?!やってみます!」
槍状で、とても固くなるようにイメージする。
『土』
イメージ通りのものが魔物に向かっていく。
「ガァァッ!!」
何個か振り落とされたけど、何個かは刺さった。それに続くように、テクノさん達も斬りかかっていく。
「はぁっ!」
「グァ?!」
「よし!ユウジ!少し引きつけておくから、トドメをさせるか?!」
「わかりました!」
さて、どうするか?このまま土で倒した方がいいっぽいよな。⋯⋯⋯うん、上から落とそう。
「いきますよ?!」
テクノさんたちが魔物から離れるタイミングで魔法を放つ。
『土』
大きな硬い土の塊が魔物の頭上に現れる。
「グァガッ?!」
ドンッ!!
落下による振動と音が響いた。
「倒せたよね⋯?」
「あれなら倒せたでしょ」
今までほぼ喋ってなかった近藤さんが、ドヤ顔で言ってきた。まぁ、倒せたということには同意する。
「終わりましたかぁ??」
小さいゴリラを治療していたサシャさんが戻ってきた。すごく懐かれているように見える。
「サシャさん⋯?それ⋯」
「はい??⋯⋯あー、なんか懐かれましたねぇ」
懐かれているというより、まとわりつかれているというのが正しいような。
「サシャさんに?!」
「治したからですかね」
「⋯なるほど。じゃあ、そのままゴリラ担当で」
サシャさんが何か言いたそうにしていたけど、出発を告げる。まだあまり進めていない。今回は割とさくっと倒せたんだから進んでおきたい。
「そういえば、すっごい今さらで申し訳ないんですけど、テクノさん以外の方の名前知らないですね」
「ん?そうだったか。じゃあ今のうちに。彼はマッシュ・レイヤー」
坊主頭の彼が反応した。
「こっちがウルフ・セニングだ」
もう一人のスキンヘッドの彼も反応した。
「皆さん、家名があるんですね。貴族ってやつですか?」
「そうだな。ただ、名前だけだな。私もだが家を継ぐ立場ではない。だから騎士になるという人間が多い」
「騎士として頑張ってたら、別の家を興せたりとか?」
「出来なくはないだろうが、な。そんなに簡単にはいかない」
「なるほど⋯」
「ラノベみたい⋯」
あ、そういえば。
「さっき、散々チートだの、ズルだの言われましたけど皆さんの能力は?」
「マッシュが能力を持っているが⋯⋯戦いには向かないものだな。というか、よくわからない」
「わからない??」
「そうだ。『コウツウセイリ』という名前しかわからない」
「コウツウセイリ⋯」
「それを使っても何も起こらないんだ。⋯いや、少しキビキビ動いてるように見えるような⋯」
「⋯え、コウツウセイリってあれ?」
近藤さんがボソッと言ったけど、発音からしても間違いないと思う。
交通整理。
警察官とかが事故現場でやってるやつだろう。それを日常的にやる人なんていないだろう。日本ならまだしも、こっちで誰がやるんだ、そんなの。なんだその能力は。前に聞いた残念な能力といい勝負じゃないか。
「そうですか⋯。いろんな能力があるんですねぇ⋯」
⋯あれ、前に聞いたのなんだったかな⋯?⋯⋯ま、いっか。




