53 暑いんだし
そろそろ夕飯でも食べようかと思っていたら、ソイツはやってきた。そして、俺の夕飯を当たり前のように食べ始めた。
「捕まるかと思いましたよ!もぐもぐ⋯。このお肉、柔らかい⋯。もぐ⋯」
こうなると、何を言っても無駄だと分かっている。だから、自分の分を追加で用意するしかない。⋯もう冷凍食品でいいかな。
「⋯おや?ユウジさん?追加で作ってくれるんですか?ありがたいありがたい」
「いや、俺の分なんだけど⋯まぁ、いいや。で、捕まらなかったんだ?」
「そうです。無事です!」
「⋯残念だよ。捕まってたら面白そうなのに」
「え?面白くはないですよ?」
「え?そうかな?」
「そうですよ!⋯あ、それどころじゃ⋯もぐ⋯もぐ」
会話ではなく、食事を優先するようだ。話を聞くなら明日以降でもいいか。
電子レンジの音が鳴り、解凍されたものを持っていったらそれも食べ始めた。時間の許す限りは食べるつもりなんだろう。
⋯うん。自分の分はいなくなったら食べよう。
食べる姿を眺めて終わった次の日。
ぽちっとな。
ピンポン。
今日も教会だった。昨日より怪我人が多いように見える。こちらを見つけたサシャさんとミラさんが声を合わせた。
「「ユウジさん!ちょっと手伝ってほしいです!」」
順番を待っている人の視線がこっちに向いた。隣にいる近藤さんも、だ。だいたいの人は何ができるのか?というような目をしていたように思う。
「佐藤さん?何を手伝うの?俺もやる?」
「⋯あー、近藤さんは時間が短いからいいよ」
「ユウジさん!こっち!ここの列と変わって!」
そういうミラさんと交換し、ミラさんは別に列を作りはじめてそちらを治療し始めた。
昨日の今日でばらすのもあれだけど仕方ない。
並んでいる一番前の人の状態を確認する。知識はないけど、これなら自分でも大丈夫だろう。
『回復』
「⋯治ったっ!?教会の人なのか?」
「いえ、違いますよ。たんなる手伝いです」
「手伝いって⋯。聖女さん達と変わらんじゃないか」
「まぁまぁ。他にもいらっしゃるので次の人と変わってもらえますか?」
「あぁ、すまん。ありがとう」
そう言って次の人と変わる様を見ていたら、視界の端で百面相をしている近藤さんが目に入った。叫ぶかと思ったら消えていった。よし。
自分の列にいた十人程度の怪我人を治したところで、サシャさん達ももうすぐ終わりそうだ。俺がいなくても人数的には間に合っただろうけど、早く治さないといけない人もいたようだ。役に立ったなら良かった。
「ちょうどいいタイミングでしたよ!」
「それは良かった。なんかあったのかな?」
「⋯噂を確かめようと、洞窟に行く人が増えているみたいです」
「噂?」
「洞窟が攻略できる、とか。騎士団が動いた、とか。なんかいろいろですね。攻略はともかく、騎士団が動いたんなら大人しくしてればいいのに⋯。聞いてる感じだと位階をあげたり、地図だったりで貢献できれば⋯って事らしいです」
「確かに地図はあったほうがいいね。でも毎回変わるなら意味ないんだよね」
「はい。でも、金の亡者の皆さんはそこまでわからないでしょうし」
「え、自分の事?」
「なんのことでしょうかね。私は聖女です!」
キリッとドヤ顔されると無性に腹が立つ。
「まぁ、いいや。とりあえずそろそろ時間かな」
「おっと、じゃあ休憩しないといけませんね!」
まだミラさんが最後の人を治療しているけど、別室に背中を押して連れて行かれる。と、思っていたら、昨日と同じく公園で待っていた近藤さんが目の前に現れた。
「「うわっ!!?」」
あまりないパターンだったから無駄に驚いてしまった。
「⋯⋯どうしたんですかー?」
「「なんでもない⋯」」
「それよりもっ!!佐藤さん!魔法使えるの?!使ってたよねぇ?!」
「えぇ?」
「そうですよ!ユウジさんは魔法使えるんですよ!」
何故かサシャさんがドヤる。
「え?!なぁんでなぁーんで?!」
「なんでって知らない」
「神様のおかげでしょうね!!」
神様のおかげでもサシャさんがドヤる。
「は?神様?そんなのいないでしょ?」
「あっちにはいるらしいですよ」
「えぇ?!」
「そう!います!こう見えてもわたし!神託を授かってますから!」
渾身のドヤ顔だ。
「神様、ほんとにいるんだ。⋯⋯だったら!だったら俺にも、いや、オラにも何にか能力わけてくれーー!!」
近藤さんが両手をあげて叫んだ。なんかどっかで見たことがあるような気がする。
ここ日本だぞ。通報されたくないんだけど。それにそんなのでもらえるなら苦労しないだろ。変な能力だったら困るんだぞ。⋯まぁ、近藤さんだからいいけど。
ピンポーン♪
ボタンを押した時と同じような音がした。近藤さんがスマホを確認している。メールかなんかだろう。
「ん?なんだこれ⋯」
「どうしました?」
「変なメールきてる。『あげちゃう。扇風機なんてどうかな』って書いてある」
「⋯⋯⋯⋯ちなみにどこから?」
「え?⋯えぇと、通知不可能だね。迷惑メールかな?」
⋯まさか。
「⋯近藤さん、状態を使ってみようか?」
「え?いいけど。こっちでも使えるんだ?」
『状態』
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タクミ・コンドウ
職業 無職
位階 一
体力 満
魔力 中
能力 扇風機
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「「扇風機??」」
「おや、もしかしてなんか能力が??」
「うん。なんか増えたみたい」
「「ヒャハ⋯」」
おっと、二人ともぷるぷるし始めたぞ。
「「ヒィーーーハァーーーッッ!」」
二人が同じタイミングで、同じ声量で叫び始めた。
それはおいといて、扇風機って何だろう??今の季節に使うあれかな?
「「ヒィーーーハァーーーッッ!」」
うまく使えば電気代節約できるんじゃ⋯。
「「ヒィーーーハァーーーッッ!」」
⋯⋯⋯⋯⋯。
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『オラにも何にか能力わけてくれーー!!』
いいよ!あげちゃう!
タクミのポーズを見てたら、なんだか早くあげたくなってきた。
「あ!これならちょうどいいんじゃないかなぁ」
今まで何がいいかと悩んでいたけど、暑そうな日本を見ていて急に思いついた。
じゃあ神託だしてっと⋯。これでいいよね。
どんな能力でも、イメージ次第で使いようはある。うまく活用してほしい。
『『ヒィーーーハァーーーッッ!』』
⋯おっと、これは私のせいなんだろうか。
『『ヒィーーーハァーーーッッ!』』
いや、違うはず⋯。
『『ヒィーーーハァーーーッッ!』』
⋯⋯⋯⋯⋯。




