5 あ、これだな
今日は少し準備をしてからボタンを押すことにした。本当に一日一回だとしたら、せっかくの機会を大事にしたい。
押した先がまた教会になったとして、それはどれくらいの時間なのか。体感的には数分だったと思うが、正確な時間を知っておきたい。スマホのアプリで時間を計る準備をする。あとは動画と写真も撮ってみたい。服は着たままだったから、このスマホも持っていけるはず。とりあえず、やってみよう。
あとは⋯これも持っておくか。よし、ぽちっとな。
ピンポン。
景色が教会になった。一日一回は正しかったようだ。
「こんにちは」
「っっ!?こ、こんにちは、ユウジさん」
いきなり後ろから声をかける形になったからか、驚かせてしまったようだ。
手にはスマホがある事を確認し、開始ボタン押す。時間の計測が始まった。次にカメラに切り替え、動画撮影開始のボタンを押し、撮影が始まったら、写真としても残せるシャッターボタンを押す。
カシャッ!カシャッ!カシャッ!
撮影音を気にせずに、歩きながら撮影を続ける。
「??何をしてるんですか?」
「ちょっとした実験です」
「実験ですか。ユウジさんの持ってるそれ、なんですか?」
「スマホって知りませんか?あ、すいません。今何時ですか?」
「今ですか?確かお昼の鐘がなったので、少し過ぎたあたりだったかと。ここでは何時かまではわからないんです」
「あ、そうなんですね」
時計アプリに切り替えて見ると四分半を超えたところだった。
⋯そろそろか?
「多分、もうすぐ消えるかもしれません。なので、明日またこの時間に来ますね。あ、そうだ。この本持っていてもらえますか?中を見ても大丈夫ですよ」
「え?消えるんですか?本?」
本を渡したタイミングで部屋に戻った。
時計アプリを確認すると五分六秒だった。写真のフォルダを開くと教会の中とサシャさんが撮れている。動画の再生ボタンを押すと、『??何をしてるんですか?』『ちょっとした実験です』とさっきの会話と風景が再生された。
スマホの中にデータとして残っている事からも、夢や幻覚ではなく、現実だという事がわかった。そして、もう一度ボタンを押してみるとピンポンと音が鳴るだけ。
ここまでの事から、このボタンを押すと一日一回五分だけ、あの教会に行く。正確な場所はわからないけど。あの回復って言ってた魔法が本当だとすると、日本や外国どころか異世界の可能性がある。
このボタンは一体なんなんだ?どうして家にあったんだ?
いろいろ考えをまとめていたところに、スマホの着信音が鳴った。画面見てみると会社からだった。
「はい。⋯⋯はい。そうですか。⋯⋯はい。わかりました。それで大丈夫です。ありがとうございます。よろしくお願いします」
一気に現実に戻るけど、生活に関わる大事な連絡だった。元の会社に戻れる事になった。ただ、やはり以前の部署は違うには後任が入っている為、別の部署になった。そして、働く時間が最初は短かめで、徐々に長くしていく。病気が治り、体調が大丈夫とはいえ、会社としても様子を見たいそうだ。こちらとしても助かる。多分大丈夫なんだろうけど、いきなりフルタイムで働くのは少し不安だ。それに、ボタンを押した後の異世界?の事も気になる。
次の日、またボタンを押した。
「こんにちは」
「こんにちは。今日も突然ですね、ユウジさん」
「そうですね、すみません。あの、今分かる事だけ伝えさせてください。どうやら一日一回五分だけ、こちらに来る事ができるようなんです。それで教えてほしいんですが、ここは日本っていう国じゃないんですか?」
「ニホン?初めて聞きました。ここはパラデリアっていう国ですよ」
「⋯パラデリア」
そんな国あっただろうか。仮にあったとしても、どのように移動してるのかわからない。日本語が通じてるのは何故だろう。
「あ、そうだ!昨日渡された本!なんですか?!あれ!」
「はい?」
「凄く綺麗な絵がたくさんありましたけど、あんな絵初めて見ましたよ!立派な紙だったし、結構高い本なんじゃないですか?!」
「あー、あれは絵じゃないんですよ」
「絵じゃないんですか??」
「あれは写真といって⋯」
会話途中で戻ってきてしまった。
写真を知らない?あれを絵だと思っていた?⋯あ、それもだけど、パラデリアって言ったか?
スマホで「パラデリア 国」と入力して検索してみた。一文字違いの店とか出てくるが、それらしいのは何もなさそうだ。過去にもなかったっぽい。
「となると、やっぱり異世界なのかなぁ⋯」
外国や過去の可能性も考えたけど、ある意味では外国が正解のようだ。この世界ではない、外国だけど。
ーーーーー
「あー、消えちゃった⋯」
シャシン。そう言ってたな。絵じゃないんだ、あれ。確かに絵とは思えないくらい綺麗だよね。あんな本買ったら高そう。⋯ってことはお金持ち?
「あ、ニホンって言ってたね。ユウジさんの国の名前なのかな。どんなとこかな。⋯それにしても、一日一回五分って⋯何も出来ないじゃん」
まぁ、でも来てくれるなら話し相手になるし、あの本みたいに珍しいのを持ってきてくれるかもしれないなぁ。⋯それを治療費がわりって事にすればいいか。
「明日も来るのかなぁ」




