43 え、ぽちった?
ふっとばされたダヌさんが目を覚ました。
「あ、ダヌさん起きました?大丈夫ですか?」
「⋯⋯あぁ、大丈夫だ」
「良かった。じゃあ、もう少し休んだら出発しましょう」
とりあえずの目的地である川へ向けて再出発する。目的地が川ってなんだよとは思うけど、他に何にもないのだから仕方ない。
「また魔物がでると面倒だし、今度は突進を使おうかな?多分魔力も間に合うだろうし」
「ぜひっ!!」
数分後、出発の準備ができたサシャさんとミラさんと手を繋ぎ、どっちかと手を繋ぎたそうなダヌさんには肩を掴ませた。
「じゃあ行くよー」
『突進』
「んー、いいですねぇ。楽です!」
「そうだね!」
この移動方法はすっかり受け入れられたみたいだ。さっきダヌさんをふっとばしたように、本来の用途とはかなり違うけど、使えるものは使っていこうじゃないか。
『突進』『突進』『突進』『突進』⋯⋯。
そうして何度も突進を繰り返していたら、地図に表示されていた予定時間を大幅に短縮して川に到着できた。途中で羊や牛といった動物というか、魔物に遭遇する事がなかったのもよかった。
「この川はどこまで続いてるんでしょうね?」
「え?⋯ちょっと待ってね」
確かに先が全く見えない。マップアプリの縮尺を変えたり動かしてみる。
「⋯⋯えーとね、わかんない。とりあえずずっとかな」
「ずっと?」
「うん、ずっと⋯」
「そうですか⋯」
「考えないほうがいいかもね⋯」
地図を見てもさっぱりわからなかった川は、魚でも泳いでいそうな普通の川にしか見えない。ただ、魚がいたとしても魔物になって襲ってきそうだから、むしろいなくていい。
「ここも濡れないのかな⋯」
手を入れてみると、水を触っているような感覚はあるけど雪や海同様に濡れないようだ。それでは、と靴を履いたまま川の中に入ってみる。
「なんもないのかなぁ⋯ん?ここ、深い⋯?ん?うわっ!落ちる?!やばいっ!?」
「ちょっ!ユウジさ⋯⋯」
少し深いところに足を取られてしまったと思ったら、そのまま川の中に引き込まれてしまった。自分を呼ぶ声が全部聞こえる前に、背中から地面にドサッと着地した。
「⋯いたたたたたっ⋯⋯なんだよー⋯⋯ん?⋯⋯ここは⋯⋯えぇっ?!」
川底にでもある洞窟かなんかかと思っていたら全く違った。とても見覚えのある目の前の光景に困惑していると他の三人も追っかけて落ちてきたようだ。
「あれぇっ?!ここは?!」
「きゃー!きゃー!」
「⋯いつつつっ⋯⋯」
「皆きたんだね。⋯⋯川に入ったと思ったら⋯⋯⋯ここ、うちの近くなんだよね」
そう、外出する時に必ず前を通る小さな公園だった。昼間だと誰かしら遊んでいるけど、今は誰も遊んでいない。
「私はボタンを押したりしてませんよ?!」
「そうだよね。俺の時間も関係ないだろうし⋯」
この公園だけでなく、近くにも人がいそうな感じはしない。多分、本当の日本ではないんだろう。前回の安全地帯みたいなものだろうか?
「⋯とりあえず、家に帰ってみようか」
普段と同じように帰宅してみる。鍵はかかっていなかった。電気もつくし、水も使える。いつもの家と変わりないように見える。テレビをつけてみると番組は映らなかった。
「なんも表示されないけど、安全地帯とか?」
「それならお風呂っ!」
「お風呂っ!」
「お、お風呂だとっ?!」
おっと、ダヌさんまで一緒に行きそうな勢いだ。いけません、いけませんよ、ダヌさん。ふっとばしますよ。
お風呂に直行した聖女達と煩悩の塊と化した火付け役はそれぞれに堪能するだろうから、こちらはその間に少し小腹を満たしたい。
「さて、キッチンには何かあるかな⋯」
カップラーメンくらいあればいいなと少し期待してたけど、残念ながら何もなかった。
「冷蔵庫にも⋯⋯何もないね。仕方ない。持ってきたのを食べるか」
『⋯⋯ちょっ⋯⋯⋯なに⋯』
『⋯ミラ⋯いい⋯⋯きゃ⋯』
ちょいちょい聞こえてくる、お風呂場からの声。仕方ないけど⋯⋯なんかありがたい。⋯⋯いやいやいやいや、困る。俺はダヌさんみたいにはならんぞ。
しばらくしてから、出てきた二人と入れ替わりで風呂に入った。ダヌさんが入りたそうにしてたけど、見てないふりをして先に入ってやった。今回も彼は最後だ。風呂上がりの聖女でも眺めてたらいいんだ。⋯それはそれでいいと思うし。
「ふぅーっ⋯⋯」
体を洗い終えて浴槽に浸かっていると、部屋からの声が聞こえて⋯⋯こない。こうも静かだと、逆に不安になってくる。また、酒にのまれてたりするんだろうか⋯。




