40 お宝ちょうだい
地図の黄色い丸を目指して進んでいくと、海中に何かがあるのが見えてきた。
「この感じだと、この黄色いのはあれか」
近づくにつれ『何か』の全体が見えてきた。
「あれは沈没船?!サシャ!お宝あるかもよ?!」
「お宝ですかっ?!そいつは⋯ヒィーハァッ!!!いいですねっ!!」
いや、うん、そうね⋯。
「⋯お宝があるかはわかんないけど、どうやって行ったらいいんだろ」
「え、潜るしかないんじゃ?」
「やっぱりそれしかないかぁ」
地図を改めて見ても、ここ以外に何かありそうなところがない。そうすると潜るしか行く手段はなさそうだ。
「息が続くかなぁ」
「試してみますか?」
「え?」
「えいっ!」
サシャさんが勢いよく、ごろんっと寝転んで水の中に頭を突っ込んだ。
「ちょっ!?」
「⋯ガボガボガボ⋯ガボガボ?!ガボガボッ!!」
「サシャ?!」
「ガボガボ、ガボー。⋯うん、普通に息できますね。皆もやってみたら?」
水の中に頭を突っ込んだまま、サシャさんが普通に喋り始めた。
「え、ガボガボ言ってたけど、喋れるんだ?!」
「あ、ガボガボは言いたかっただけですから」
「⋯⋯⋯そっか」
なんだか、水の中に突っ込んでいる頭を思いっきり踏んづけたくなった。⋯⋯流石に我慢するけど。
「⋯⋯えーと、潜るっていうことだと皆は泳げるの?」
「泳げません!」
「私も泳げない」
「少しは泳げるぞ」
サシャさんは寝転んだままだ。やっぱり踏んでいいかな?
「でも、ユウジ。これが普通の水じゃないなら、歩いていけるんじゃないのか?」
「⋯⋯あ、確かに」
「崖にでもなってなければ、あそこまで下っていけるだろ」
「そうですね。このまま近づいてみますか」
さっきまで挙動不審だったダヌさんを先頭に、少し進んでみてもサシャさんは寝ころんだまま動かない。
「サシャ?おいてくよー?」
「ガボガボッ?!待ってくださいガボ!」
「⋯⋯踏んでおけばよかった」
少し近づいてみると、船に向かって下り坂になってきた。徐々に水に浸かる部分が増えていく。このまま進めば、もう少しで全身が水に浸かるだろう。サシャさんのおかげで息はできるとわかっているけど、なんか怖い。
「サシャ?!本当に大丈夫なんだよね?!」
ミラさんも同じように不安だったんだろう。頭だけ水の上に残してる状態でサシャさんに確認する。
「大丈夫ですって!」
アピールの為か、サシャさんは勢いよく水の中に入っていった。
「ガーボッ!」
「それ本当に大丈夫なんだよね?!」
「はい。言いたいだけなので」
「⋯⋯そう⋯⋯」
怖かったけどどうでも良くなって、頭も水の中に入れることができた。これもある意味、サシャさんのおかげだ。もう一つどうでもいいけど、先頭にいたはずのダヌさんがいつの間にか一番後ろにいて、一番最後に水の中に頭を入れていた。
「⋯大丈夫だね。息はできるし、喋れるね」
「こないだの雪みたいに見た目だけですね」
「そうだね。なんなんだろ」
「⋯⋯え?ガボガボ言わないんですか?」
「え、言わないけど?本当の水じゃないし、息苦しくもないんだから」
「そうですか⋯」
実際の海やプールと違って、ここの水の中では何も抵抗を感じない。普通に歩いてるのとなんら変わりない。むしろ泳ぐことはできないだろう。
⋯⋯泳げないってことは、あのサメっぽい魔物はどうやって??⋯⋯⋯いや、深く考えるのはやめよう。
「おい、あそこに扉みたいなのあるぞ!」
沈没船っぽく見えていたものは、近づいてみてもそうとしか見えなかった。それなのに、船の側面に数段の階段がつながっていて、そこに扉があった。
「船っぽい建物ってことかな⋯?」
「扉があるって事は、入らないといけませんね!」
「まぁ、そうだね。他に行くとこないし」
「お宝!ありますかね?!」
「お宝!?見つけるぞ!」
聖女がふたりして、お宝とか言ってる。別にいいんだろうけど、なんだかなぁ。⋯聖女って、やっぱりあくまでも職業なんだろうな。
二人が欲望のままに扉に向かって走っていく姿には、神聖とか、敬虔とかいった単語は絶対に似合わない。そもそも普段の態度からして似合ったことはないけれども。
「⋯やっぱり、水じゃないんだな」
ダヌさんは何故か残念そうにしている。本当の水だったら進めなかったのに。⋯何か別の欲望があったんだろうか。
「む?むむむっ!⋯⋯あ、あかない!」
「早くあけてよー!」
「いや、あかないんですって!」
「私があけるっ!」
走っていった二人は扉を開けられないようだ。お宝はさておき、扉が開かないことには先に進めない。
「ミラ!押してダメだったから引くんじゃない?!」
「いや!これ、どっちもダメじゃない!?あかないよ!」
押しても引いても開かないなら⋯⋯⋯。
「じゃあ、壊してみる?」
「え、ユウジさん?!」
「その方が早いでしょ」
欲望にかられた二人が扉を開けられないのであれば、交代したところで変わりないだろう。
「じゃあ、魔法をぶち込むから少し離れてて」
「ユ、ユウジさん⋯」
「⋯ぶち込む⋯」
んん??二人の為に早く開けるんだよ??どうしたのかな??
魔物がいるわけでもないから、まだ使ったことのない土を試してみることにした。こないだくらった砲丸のようなのだとイメージがしやすい。
「⋯よし、じゃあやってみるか」
『土』
目の前に土の塊が複数浮かんでいるなって思ったら、次の瞬間には全ての塊が扉にむかってとんでいった。ちゃんとイメージ出来ていたようだ。
ドドドドドドッ!
硬い扉だからなのか、炎や水と違うからなのか、当たった振動と音を感じる。
⋯開けられたかな?
徐々に土煙がはれていく。と同時に欲にまみれた聖女二人が勢いよく突入していく。
「よし!お宝!」
「ヒャーーッハァッッ!!」
⋯あ、ちゃんと開いたってことね。
「止めても無駄だろうし、行きますか」
「⋯そうだな」
ダヌさんと扉に入ってみると、薄暗い通路のようになっていた。少し先が明るくなっていて、先に入った二人がそこに向かって走っている姿が見える。他に道はないようだから追いかけていく。⋯数秒後、ミラさんの叫び声が聞こえた。
「な、な、なんじゃぁ、こりゃあっ?!」
すごいお宝でもあったんだろうか?
「ヒィーハッ⋯⋯⋯⋯」
あれ??サシャさん??
さほど離れてたわけではないから、すぐに二人に追いついた。そして、声をあげた原因はすぐにわかった。
「⋯⋯なんだ、これ⋯⋯」
目の前の光景は、想像していた船とか建物の中ではなかった。




