39 ミラさんはまだ知らない
今日は、また魔物の洞窟に行く予定だ。前回を踏まえて、携行食を中心に持っていく。あとは買った盾を忘れてはいけない。忘れようものなら、若干一名、おかしくなりそうな人がいるから。⋯⋯おっと、鉄パイプ鉄パイプ。
「それじゃあ、行くか」
ぽちっとな。
ピンポン。
「お、きましたね」
「私の!盾っ!」
「ユウジ!待ってたぞ!」
いつものメンバーと合流した途端、盾を奪い取られた。渡すつもりだったからいいんだけど、ね。
早速洞窟に入ってみると、先に行く通路は見当たらなかった。前回と同じようなスペースがあって、中央には台座、そこにはボタンが置いてある。もう押すしか選択肢がない状況だ。
「⋯ボタンですね。これって、他の人がきたらどうなってたんでしょうね?」
「さぁ?最初の通路なんじゃない?」
それは確かめようがないし、その必要性もないから先に進む。
「よし、サシャさん!押しちゃって!」
「はいっ!」
ぽちっとな。
ピンポン。
全くの違う景色に変わる。いつものボタン、いつもの音と同じだから、日本に戻るんじゃないかと思ったけど、そんな事はなかった。
「⋯これはまた想定外だわ⋯」
「⋯⋯⋯水です⋯ね?⋯⋯⋯」
「⋯⋯⋯なんじゃ、こりゃ⋯」
「⋯⋯⋯⋯⋯水着が欲しい⋯」
目の前には、一面の海が広がっていた。自分達がいるところ以外に陸地が見当たらない。
「これどうすんの⋯」
「もしかして、海ってやつですか?!」
「そうだと思うよ。前に見たことある」
「⋯⋯頭突きは痛い⋯⋯」
⋯ん?頭突き??なんだなんだ?
ダヌさんが何を言っているのかわからない。とりあえず地図を見るべく、スマホを操作する。
「⋯えーと、何かないかな」
マップアプリを起動する。縮尺を変えながら、上下左右に動かしてみる。近くには何もないようだが、少し離れたところに黄色い丸が表示されている。前回は三重丸だったが、今回は違う。なんなんだろうか?
「少し先に何かあるっぽい」
「⋯⋯でも、これどうやって進みます??」
「そうなんだよね⋯」
地図には表示されている以上、何かがあるのはわかる。でも、どうやって進めばいいのかわからない。舟とかあればいいけど、流石にこんなのは想像してなかったから、ゴムボートなんて買ってない。
「⋯⋯⋯え、泳ぐしかない?」
「「「⋯⋯え?」」」
「いや、それも現実的じゃないんだけどね」
「そうだぞ、ユウジ!水着もないのに泳げないだろ?脱げばいいのか!?」
「いや、俺そこまで言ってないですけど」
「⋯⋯ダヌさん」
サシャさんの動きがおかしいような⋯?ダヌさんを狙ってる⋯??
ただ、現実的じゃないにしても、それ以外の方法が思いつかない。台座にあったボタンはなくなっていて、戻ろうにも戻れない。
「⋯これ、ほんとに海なのかな」
それ以外には見えないけれど、それ以外に期待して触ってみる。
「んん?」
これ水⋯か?水だよな?なんか違うような⋯。あ、このあたりは深くなさそうだな。
「ここらへんは深くないみたいだし、歩いていってみようか?」
「他に方法もありませんしね」
「最初っから濡れるのやだなぁ」
「シャワ⋯⋯いや、ここだと、俺役に立たないんじゃないか⋯?」
ダヌさんの呟きはいろいろ気になったけど、何も触れずに進んでみる。
何かがある方向へ数十メートル進んでも、水につかるのは膝下程度ですんでいる。このまま深くならずに進めればいいなと思っていたら、なんかでてきた。
「あ、あれなんでしょう?!」
「えぇ?」
サシャさんが指をさした方向には、サメの背びれっぽいのが水面からでているのが見える。
「サ、サメ?!」
「サメ?なんかの生き物ですか?」
「サメを知らない?!えーと⋯海の生き物で、種類によっては人を襲ったり⋯」
「⋯⋯この状況⋯それは危ないのでは?!」
「普通ならそうなんだけどね。でも、今日は魔物退治のつもりできてるんだし、なんとかならないかなって」
「⋯⋯あ、それもそうですね」
サメっぽいのもこっちに気づいたのか、スイーっと近づいてきた。
「こっちにくる?!」
急いで防御力上昇をかける。
そのままガブッとくるかと思いきや、直前で止まって水の中から全身を現した。黒いモヤが漂ってるから魔物なんだろう。
「サメじゃねぇ!!」
こちらに手をかざしたと思ったら、水の玉が浮かんでいる。そしてそれがこっちに飛んできた。
『炎』
ダヌさんが火の玉を当てて相殺してくれた。
「当然のように、水の魔法を使ってきたな」
「よし!もう一発!」
『炎』
今度はこちらが最初に火の玉を飛ばす。それを相殺させることはなく、スイーッと避けられた。
「避けた!?」
そのまま、こっちに向かってくる。それをなんとか躱して、攻撃する。
『突進』
「からの⋯」
『炎』
至近距離ということもあり、炎は避けられることなく命中した。そこにダヌさんがもう一発炎を当てて倒す。鉄パイプの出番はなさそうだ。
「⋯⋯倒せたっぽいよね」
「ですね!」
「今までの魔物と違うな!」
「こないだのくっついた魔物を思い出した」
「あーー、確かに?」
こっちの攻撃を避けるし、魔法を使うし。違ったのは見た目と耐久力。あとは喋らなかったくらいか。
「来て早々にこんなやつとは⋯」
「これからこんなのばっかりですかねー」
「炎が効くみたいだし、なんとかなるかなぁ」
「水は効きますかね?」
「槍っぽくしてみたらどうだろ」
「あ、そういえば土は?」
「⋯忘れてた。試さないと」
「あっ!?」
「んん?」
「あれ!また!」
さっきと同様にサメっぽいの水面から出ている。多分また魔物だろう。
「静かにしてたら、どっかいってくれないかな」
そう願って、皆で静かに動かずにいたら離れていってくれた。
「今までの魔物とは違うっていう認識でいかないと⋯」
「⋯あれ??」
「なに?!またでた?!」
「さっき、結構動いたと思うんですけど、濡れてないなって」
「⋯そういえば」
改めてもう一度水の中に手を入れてみると、水に触れている感じするのに手が濡れていない。さっき感じた違和感はこれだろう。前回と雪っぽいのと同様、水っぽいなにかということか。
「濡れる心配がないなら、このまま行っても大丈夫そうだね」
「⋯⋯⋯なんだとっ!このまま?!」
⋯んん?ダヌさん??
「それは助かりますね!!ね?ダヌさん!」
「そ、そうだな」
⋯んん?なんだなんだ?
「サシャ、ダヌさんとなんかあったの?」
「そんなことはないですけど?」
「そーお?」
「そうですよー。むしろ⋯おっと」
「それと、ダヌさんはダヌさんで、ちょいちょい挙動不審なような?」
「そんなことはないぞ!」
「そうかなぁ?」
「そうです!」
「そうだぞ!」
「んーー??」
なんとなく、そこには触れないでおこうと思ってたけど⋯⋯。ミラさん、なんかありがとう。⋯とりあえず、着替えの入った袋を渡したあたりになんかあったってのはわかった。そして、その代償が頭突きだったということも⋯⋯。




