36 ちょっと昔を振り返ってみる
「サシャ!何度目ですか!?患者さんに治療費を要求してはいけませんって言いましたよね?」
「はーい。わかってまーす。冗談でーす」
「⋯⋯本当にわかってますか?」
「は、はい。ごめんなさい⋯」
こうやって怒られるのは本当に何度目だったかな?怒られすぎて忘れちゃった。⋯でも、仕事として治療をするなら、対価をもらうのは普通なことだと思うんだけどなぁ。
聖女になったのは、私にとって良かったのか。ならないほうが良かったんじゃないか。最近はそのことをよく考えている。
私の家は代々行商をしていた。もちろん両親もしていたから、一緒にいろんな村を巡ることもあった。それなりに幸せだったと思う。もうあまり思い出せない。
父親は、村と村の移動中に魔物に襲われて亡くなり、母親は、父親を追うかのように病で亡くなった。あの時、聖魔法が使えてればと思うこともある。
両親を亡くした私が生きてこれたのは、父親と仲が良かった商人のドンさんが引き取ってくれたからだ。本当に商人なのかって、未だに疑う事がある。
「ヒャッッハァァー!!」とか、
「ヒィーーハァッッ!!」とか、
「コレコレコレッ!!!」などなど。
何かあると奇声をあげて叫ぶし、髪の毛がないし、眉毛がないし、目つきは悪いし、体格はやたらいい。着ている服には袖がない。それにちょっと臭い。最初に見た時は荒くれ者にしか見えなかった。
そんなドンさんは口癖のように言っていた事がある。
「いいか、サシャ!タダ働きはするなよ!?」
「タダ働き?」
「そうだ!タダ働きはいかん!しちゃいけないし、させるなよ?!」
「えーと、多分?」
「多分じゃない!働いたら正当な対価をもらえ!働かせたら聖魔法な対価を支払え!商人になるにしても!ならないにしても!」
「んー、わかったー」
「ほんとにわかってんのか!!?」
「多分」
「多分じゃないっ!!」
タダ働きするな、させるな。
よく言われたからなのか、直接報酬を得ずに働いているような現状に違和感を感じる。患者さんは税金を払っていて、それが私達の生活のもとになっている。一応、タダ働きではないはずなんだけど、なんか違う。
十七才になった頃、状態の板が突然でてきた。そこには職業が聖女、能力に聖魔法と表示されていた。
「ヒャッッハァァー!!おいおい、サシャ!お前聖女の素質あったのか!ヒューッ!!」
「えー?なんで?」
「なんでって?そりゃ、状態に表示されてるからだろう!商人やってる場合じゃねぇ!」
「聖女って稼げるの??」
「稼ぐとか気にしなくていいんだぜっ!」
「??」
「教会の仕事はな、稼げないけど衣食住は気にしなくていいんだ!」
「なにそれ!いいね!⋯でも、お金稼げないならタダ働きじゃない?」
「お金の代わりに衣食住が保証されるから、タダ働きともいえないけど」
「えー、そうかなぁ」
「聖女の仕事で稼ぐ方法ないのかな?」
「それはわかんねぇ!聖女なってみりゃわかんだろ!」
「じゃあ、なってみるかー」
あちこちに行って、商品を仕入れたり、それを売ったりをしなくていい。それは楽。もしかしたら教会で稼げるかも。だから聖女になってみよう!そんな風に考えた時期もありました。
「じゃあ、治療費としていくらかもらえます?」
「え、金とんの?!」
「⋯⋯冗談ですよー。ふふふ」
治療で稼ぐのは一応諦めた。すっごく怒られるから。今さら教会を放り出されるのも困る。だから、それなりに働いて、それなりに暮らせればそれでいい。そう思ってた。
なのに、神託はあるわ、異世界の人と知り合うし、その異世界にも行ったし、魔物の退治にも行った。
稼げない退屈な毎日が一変したのはいいんだけど、興奮するとドンさんみたく叫んじゃうんだよね。
「ヒャッッハァァー!!」
あ、ニホンのものを持ってきて、教会にバレないように商売できないかなぁ。もし、教会追い出されたら、自分で商売するのもいいよね。ついでに治療して、お金もらってもいいし。
「ヒィーーーハァッッ!!!」
ドンさん、何してるかな。あの見た目、変わってないかな?間違って捕まったりしてないかな?元気かな?⋯稼いだお金くれないかなぁ。
ユウジさん、服くれるって言ったの忘れてないよね?まだかなぁ。カップラーメンも欲しいし。あ、あのスマホってのも欲しいんだよなぁ。




