35 まずは日常へ
洞窟内は時間が停止される。そのせいで、結構な時間を洞窟内で過ごしたにもかかわらず、実際には二十分しか時間が経っていない。だから、今日はいつも通り出社しなければならない。⋯だが、
行きたくねぇ⋯。
この一言に尽きる。
実際に活動した時間の疲れを癒やすには時間が足りていない。怪我は回復で治しているが、そういう問題ではない。かといって、職場には復帰したばかりでまだ有給はなく、欠勤すると収入に影響がでる。ただでさえ、最近は出費が激しい。⋯だから、
行きますか⋯。
残念ながら、こうなる。
⋯そういえば、魔物の洞窟は一段落って事だよな。でも、道中でアイテムを見つけたわけでもなく、報酬があったわけじゃないんだよね。ダンジョンってなんかあるんじゃないのかね。いや、現実はこんなもんだってことかな。これはゲームや物語じゃないし。⋯⋯そう考えると、あがった位階と土が追加されたのが成果報酬ということか。⋯ダヌさんは違う意味で報酬を手に入れたかもしれないけど。
「おはようございます!」
「え?」
出社するべく準備をしていると、サシャさんが現れた。こんな時間になんて珍しい。
「おはよう。今日は早いね?」
「ユウジさんこそ、早くないです?」
「いや、仕事行くときはこんなもんだけど⋯」
「そうでしたか。あ、朝ごはんですか?私にもください!」
「え、あ、俺の⋯。あー⋯」
止める間もなく、準備していた朝食を食べ始めてしまった。どう見ても一人分しかなかったのに。言ったところでどうにもならないから、諦めてトーストしてないパンにかぶりつく。
「コーヒーはまだあったよな。⋯あ、そうだ。サシャさんは位階あがった?俺はあがったよ」
「あがりましたかっ!⋯もぐもぐ。私は状態を見るの忘れてました」
「あれ、珍しいね」
「もぐもぐ⋯。あ、この卵美味しい。いえね、昨日は戻ってから少し大変だったので」
「あ、そうなんだ」
何が大変だったのか、なんとなくわかったけど触れないでおく。触らぬ神になんとかだ。
「なので、すっかりと⋯。もぐもぐ」
「⋯⋯そっかぁ。あ、あとね、土が追加されたみたい」
「ほぇ??!!⋯もぐもぐ。じゃあ、あれはやっぱり能力だったんですね。このサラダ、シャキシャキですねぇ!」
「そういう事だね。実際に攻撃としてくらったから、使う時のイメージはしやすいかな」
「ふんふん。それはなにより。ゴクゴク⋯っ!?これ苦いっ!!」
コーヒーを持ったまま、消えていった。
「朝はブラックなんだよね。って、単に朝ごはん食べにきたのかな」
その可能性は高い。なんてったって、サシャさんだから。
「⋯はぁぁ。会社行かないとなぁ」
ーーーーー
「苦いっ!!」
「何が?!いや、それよりどうだった?!」
「この黒いのが苦くって。でも、パンがカリッとしていたし、卵とハムとサラダが美味しかった」
「いいなぁ。⋯って、そうじゃないでしょ?!」
「ん?ああ、あとは位階あがってたって」
「結構倒したもんね。って、違うの!」
「え、えぇ?」
「あの盾!!⋯⋯違った。ほら、私達の服!下着含めて見られて触られてたんでしょ?!なんか言ってなかった?変じゃなかった?!」
「んー、特にいつもと変わらなかったと思いますけど?」
「本当に?!次に会った時にどんな顔してれば⋯」
「あれはあれで仕方なかったんだし、普通でいいと思いますよ?むしろダヌさんの方が⋯」
「なんでそこでダヌさん?!なに?!」
「あ、なんでもなかった」
「なんでもなかった?!」
「です」
ダヌさんにあられもない姿を見られた可能性が高いけど、その事をミラには言ってない。ただ、ダヌさんが持ってきてくれた服を着たんだから、冷静に考えればわかるはず。でも、ダヌさんはダヌさんで、回復した後に特に何も言ってこなかったし、おかしな反応もしてなかった。あの一撃でうまく記憶を飛ばせたんだと思いたい。
私の攻撃なんかで倒せるはずないんだけどなぁ??どうしたんだろ??⋯⋯⋯まぁいっか。
「さてさて、美味しい朝食をいただいたし!今日も今日とて稼ぎにならない治療をしますかねぇ!」
「私は食べてない!!」
あ、その前に状態を見ておかないと!位階あがってますように!
ーーーーー
「まだ最初の階層だけど、クリアできたみたいだね。良かった良かった。ボスにはやられちゃうかと心配だったけど」
戦っている様子を見てたけど、思わず叫んじゃったよ。スポーツ中継とかを見て、テレビの前で騒ぐ人間の気持ちがこんな形でわかるとは⋯⋯。




