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2 死に至る病⋯⋯じゃなかった?

 毎年実施される会社の健康診断で、要再検査となってしまった。会社からの指示もあり、仕方なく有給を使って病院を受診した。血液、レントゲン、MRI、CT、カメラ等、もはや何を検査してるのかわからないくらい受けた。


 その検査の結果を、再び有給を使って聞きにきた。


「癌です。複数の臓器に転移が見られます。ご家族に⋯⋯」


 なるほど、頭が真っ白になるとはこういう事か。衝撃的な言葉を告げられ、話を聞いてはいるものの、何を言われているのか、それに対して自分が何を言っているのかわからない。


 理解できたのは、進行スピードが早くて、治療はもう完治を期待出来る状態ではなく、緩和ケアを中心としたものを勧められている状況だという事。


 最近疲れやすいとは思っていたものの、身体に痛みがあったり等の異常を感じなかったから普通に過ごしていた。


 ⋯突然、くるもんなんだな。


 告知されたからなのか、時期的なものなのか、徐々に身体が悪くなっていくのが分かってきた。仕事はおろか、日常生活にも影響がでてきた。迷惑をかけられない。たまりにたまっていた有給を消化して退職する事にした。


 さほど引き継ぎをするような仕事ではなかった為、スムーズに手続きをする事ができた。ただ、今回は内容が内容だけに、ある意味、会社が対応するのは大変だったかもしれない。普通の退職ならそれなりに慰留したりするだろう。でも、今回はそうではない。⋯自分だったら、なんて声をかけたらいいのかわからない。


 それなりに給料をもらっていて、独身だったから貯蓄はある。しかし、医療費がどれくらいかかるのかわからない。⋯死ぬまでに足りるだろうか。頼る家族はいない。他の人に迷惑をかけたくない。金の切れ目が命の切れ目となってくれると大変有り難いのだが⋯。


 しばらくの間、処方された薬を飲むことで自宅で過ごす事ができた。とはいえ、仕事は辞めたし、遠出なんてできないし、やり残した事は⋯⋯あるのかもしれないけど今はもうわからない。だから、終活をしていた。処分できるものは処分し、手続きできるものを手続きをしていた。⋯いつ、どうなってもいいように。


 終活にある程度目処をつけた頃、体調も悪くなってきて入院する事になった。家に居たいが、何をするにもしんどくなってきた。それに、孤独死をして発見まで時間がかかるのは困る。マンションの管理会社に申し訳ない。家賃含め、光熱費などの各種支払いはカードにしてあるし、引落口座にも数カ月持つくらいの残高はある。一気に解約すべきか悩んだけど、やめておいた。⋯無理だろうけど、まだ戻る場所がある方がいい。これは気持ちの問題だ。


 入院中はやる事がなかった。体温を測ったり、血圧を測ったりする程度だ。投薬はされていたが、病院内を歩き回ったりする元気はない。一日がとても長くて退屈だ。体調が良くなるならまだしも、悪くなる一方だ。


 そんな退屈な日々を過ごしていたら⋯⋯⋯なんか体調がよくなった気がする⋯⋯?そんなわけない⋯⋯?


 久々に顔を洗おうなんて気持ちになり、鏡を見てみると、痩せこけた顔は変わってないけど、顔色がいつもよりいいような気がする。動くと疲れるのも変わりないけど、こちらもいつもよりいいような気がする。


 気のせい⋯か?


 他には空腹を感じるようになった。入院してから昨日までの間、何も食べる気にならず、ほぼ点滴で過ごしていたのに。今日は完食し、それでも足りないと感じている。とりあえず何かもっと食べたい。


「あの、食事内容って変更できますか?」

「え?できなくはないですけど⋯」


 言いたい事はわかる。食べれるの?って事だ。そりゃそうだ。ペースト状の食事すらほぼ手つかずで残していた日々なのに。


「お願いします。すごく食べたくて」

「⋯わかりました。少し固形のものを増やせるか確認してみますね」


 結果、次の日から少しだけ固形物が増えた。もちろん完食だ。下膳にきた人も驚いている。自分でも驚いている。


 え、治った?⋯⋯⋯んなわけないよね。燃え尽きる前に少しは持ち直したってやつかな。


 数日間、しっかり食事をしていたら、病院内を歩いてまわれるようになった。なんとなく、自分でもおかしいような気がしていたが、病院側もそう思ったようだ。急に検査を入れられた。


 再検査の時と同様に血液、レントゲン、MRI、CT、カメラ等など、全身をくまなく調べられた。いくら体調が良くなった気がするとはいえ、検査が終わる頃には流石にヘトヘトになった。


 その検査結果の説明を聞いてみると、


「落ちついて聞いてくださいね」

「はい。さらに転移でもしてましたか?」

「⋯いえ、全くの健康体です」

「⋯⋯はい?そんな訳無いでしょう?」

「いえ、健康です。信じ難いのですが、癌細胞が消失してます」

「⋯えぇ?そんなことって⋯」

「検査結果を見た私達も同じ気持ちです。最近、体調はどうでしたか?」

「食べれるし、動けるし、なんかおかしいなとは思ってましたけど」

「そうですよね。言い方は悪くて申し訳ないけど、おかしかったですよね?⋯なので、今回検査させてもらったんです。結果、このままいけば完治ではないかと思ってます」

「んな事って⋯」

「普通ないです。完治って言うのもおかしいと思ってます。癌だったのかすら疑うレベルです」


 検査結果が出た後も念の為、入院を継続し様子を見ていたが、体力、体重など徐々に戻っている実感もあり、入院してる意味がなくなり、病院の許可もあり退院となった。


 ⋯なんでやねん。

 ⋯いや、いい事なんだけどね。

 ⋯⋯なんでやねん。


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