18 多分、そうですね
ぽちっとな。
「サシャさん。こんにちは」
「あ、ユウジさん。こんにちは」
「今日も治療してたんだね」
「えぇ、残念ながら⋯。稼ぎにならない仕事ですがね」
「残念ながらって⋯」
治療してる人の前でそんな事を言っちゃうなんて、なんて人だ。
「ぷっ⋯⋯くははははっ!やっぱ、この聖女さん!他の人と違うよな!変だ!はははっ!」
残念ながら、と治療されてた体格のいい人が笑い出す。気分を害してはいないようだ。
「聖女っぽくないですよね?」
「そうだな!教会へのお布施とは別に、個人的に治療費を払ってくれないかって言われた時はびっくりしたぜ!」
「あーー⋯⋯」
「まぁ、あわよくばってやつです!」
いや、もらってないんだよね。どうしてドヤ顔をしているの?⋯⋯え?もしかしてもらったの??え?
「すぐ怒られてたけどな!」
「あーー⋯⋯」
「はい!今日の回復は終わりですよ!治療費代わりといってはなんですが、ひとつ頼まれてくれません?」
「聖女さんが怒られないならいいぜ!」
「大丈夫です!」
サシャさんがこっちをチラッと見た。
あ、なんかヤバいんじゃないか?こんな人になんかされたら怪我するぞ。⋯⋯まぁ、すぐ治されるんだろうけど。
「確か、補助魔法を使ってる方と一緒に仕事してましたよね?」
「ん?そうだな。そいつなら、教会の前で待ってるぜ」
「これからこの人と出かけるんですけど、危険を抑える為にかけてもらえないかなって」
聞いてる感じでは、この人になんかされるわけではなさそうだ。補助魔法って事は危なくないはず。多分、バフをかけられるって事だろう。ステータスの一時的な向上かな?
「なんだ?魔物が出るとこにでも行くのか?」
「そんなとこです。とはいえ回復できるので、保険てとこですね」
体格のいい人が、俺のほうを見る。
「⋯まぁ、なんかあったらすぐやられそうだな」
「⋯⋯そう、ですね」
そりゃあ、あなたと比べればそうでしょうよ!そう言われても仕方がないけど、なんか悔しい。
「まぁ、治療費代わりってんなら、それくらいなら言ってみてやるよ!」
「じゃあ、時間もないのでちゃっちゃとお願いします!」
教会の外にいた、連れの人と合流した。体格は俺とあまり変わりない。
「な?治療費代わりって事で、このがめつい聖女さんと、こっちの兄ちゃんに防御力上げるやつかけてやってくれ」
「治療費ってお前のだろ。⋯まぁ、俺の力不足で怪我させちまったし、構わないけどよ」
「すぐ行かないといけないので、お願いします!」
「なんだなんだ?⋯まぁ、いい。はいよ。『防御力上昇』」
数秒間、体が膜で覆われるような感じがした。そのタイミングで、サシャさんに手を引かれた。
「じゃ!ありがとうございました!また!」
「おぅ!こっちこそ、また頼むわ!」
早足で教会の裏にまわったタイミングで部屋に戻った。
「ユウジさん。ちょっと叩きますよ?」
「え?あ、はい」
見た目は結構な勢いで叩かれたけど、感触としては触られたかな?ってくらいだ。
「おお、確かに防御力が上がってる。痛くない」
「そうでしょう、そうでしょう!」
おっと、またドヤ顔きた。どうしてもドヤりたいのか。
「そしたら確認しましょう!」
「確認?あ、状態ね」
『状態』
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ユウジ・サトウ
職業 無職
位階 五
体力 満
魔力 満
能力 世界移動 十分間+十分間
学習
学習による効果 回復
解毒
防御力上昇
突進
炎
水
経験増
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「さっきの防御力上昇が書いてあるね。あ、時間も五分延びてる」
「ヒャッッ⋯⋯防御力はもちろん!時間まで!!キタキタキタキタキタキターハァッッ!!ぃよしっ!!」
「⋯うん、そうだね。うん、そうだね⋯」
⋯毎度の事ながら、どうなってんだろ、この人。
「⋯とりあえず、位階が五になった時に時間が五分延びたと。最初に教えてくれたサシャさんの状態と一緒だった」
これは間違いない。んで、次だ。
「学習による効果が三種類の時にプラス五分だった。今回、六種類で五分延びた。⋯ということは今後も、三種類追加される度に時間が延びる可能性が⋯??」
「⋯⋯はっ!!⋯⋯そうですね。その可能性が高いですね!!」
おっと、急に現実に戻ってきたな。残念聖女め。真面目な感じで話してももう遅いぞ。
「あと、位階が五上がる度に時間が延びるのではないかと思います」
「五?」
「はい。私も最近位階があがって六になったけど、時間は変わってません。私より上のミラも時間が一緒って事を考えると、そうじゃないかなと」
「そっか。まぁ、あとは十まで上げてみればわかるか」
「ですね」
これらの考察が正しいとして⋯。
「そもそも、能力くらったら使えるようになるってのも特殊なんだよな。んで、経験増があるからか、普段からも使ってると位階も上げやすい。そして、どんどん時間は延びていく、と。だんだんチートじみてきたなぁ」
「チート?」
「んん、ズルとか不正してるってわけじゃないけど、他の人と違って強くなりやすいとか、位階があがりやすいっていうか。他の人と仕様が違うみたいな」
「あー、たしかに。ユウジさんみたいな能力はいないと思いますよ」
「時間はまだ短いけど、徐々に延ばせそうだしね。サシャさんは増えないけど」
「気にしてるんですよー!最近は位階上げ!って真面目に仕事してんですから!」
「え、お金を要求して?」
「⋯うっ、それは⋯癖というか、なんていうか」
「厄介な癖だなぁ。聖女より、流れの治療師でもして稼いだ方がいいんじゃないの」
「⋯⋯⋯はっ!そんな事が!?」
あ、やばいかも。一応釘をさしとこう。知り合いが捕まってしまうのは勘弁だ。
「いや、どうだろ。偉い人から怒られたりしないのかな。勝手な事するなって」
「聖魔法が使える人は、普通は教会に所属しますからね。どうでしょう??」
「知らんけど。あ、そろそろ時間じゃない?」
「!?え?!もう?!」
サシャさんは面白い顔をしたまま消えていった。
防御力上昇。普段使ってもよさそうだな。かけておけば、事故にあっても大丈夫そう。いや、事故にあったことはないんだけどね。でも、何があるかわかんないし、いろいろ物騒だしね。通り魔とか、クマとか。




