10 火をつけた
ぽちっとな。
「能力が追加されたんですか??」
言おうか言わないか迷ったが、なんだかんだでいろいろ世話になっているのは事実だから言う事にした。言わないまま、能力追加を名目に見当はずれな事をされるの困るし。ただ、言う事によって、何をされるかわからず怖いところもある。精神的にも、肉体的にも。
「⋯⋯っ⋯⋯⋯」
嬉しそうな?悔しそうな?よくわからない表情をしている。⋯また叫ぶんじゃないだろうか。
「な、何が追加されたんですか?!何か条件分かったんですか?!」
村を走ってたら、何かがぶつかってきた事。その後に能力に表示されてた事。回復も含め、体験したから使えるようになったのではないか。日本では実際にないけど、ゲームの中では似たような能力を見た事があるという事。という事を説明してたら時間になりそうだったので、今日は肩を掴んでおく。
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯ヒャッッハァァー!!」
奇声に思わず手を離しそうになったけど、堪えていたら部屋に戻ってきた。でも、離した方が良かったかもしれないと思った。
「いいですねっ!もし!そうなら!体験すれば使い放題じゃないですかっ!っっ!くぅーっ!」
「そうなんだけど⋯」
「どうしたんですかっ!?せっかくわかってきたのに!なんでもできそうじゃん!!」
「いや、その体験しないとってのがねぇ」
「それが何か?」
「下手すると死んじゃうかなって⋯」
言わんとする事が分かったようだ。テンションが急に変わった。
「あぁ⋯。そうですね。体験する。つまり攻撃されないといけないって事ですもんね⋯⋯」
「そう、それ」
わかってくれたって意味なのか、違う意味なのか、急に目を見開かれた。
「でも!でもでも大丈夫ですよ!すぐ治せばいいんだから!ほら!回復でパッと!」
⋯⋯⋯あー、やっぱそういう思考だよねぇ。回復の時もそうだったもんねぇ。
「いや、痛いでしょ」
「最初だけですって!」
「いや、最初だけって、そもそも痛いのは嫌なんだけど。サシャさんが自分で傷つけてんのも、見てんのも嫌なんだからね?」
「私の事はいいんです。それより、すごい事なんですよ?!能力に職業が左右される事が多いのに、気にせずいろいろ使えるなんて!それこそ魔王退治なんていけるんじゃ?!⋯⋯は!?だから無職なの?!⋯それなら、次きたら火魔法使えるあの人のと⋯」
「いやいやいや!?何言ってんの?!火魔法?!熱いじゃん!火傷すんじゃん!ダメだって」
「だから、治すから大丈夫ですって!」
「いやー⋯⋯⋯⋯⋯とりあえず、サシャさん、落ち着いて。これでも食べて」
来た時にあげようと思ってた物で気をそらす。
「??これは??」
「アイスです。氷菓子っていうのかな」
「これがアイス?!王都の方では食べれるって聞いた事ありますけど」
「同じものかはわかんないけど、ほらスプーンで」
食べて見せると、同じように食べ始めた。
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯ヒャッッハァァー!!最高ですよ!うまっ!!なにこれ!!冷たい!!」
「⋯⋯良かった。気に入ったみたいで⋯」
「なにこれなにこれ!?甘い!口の中で溶ける!こんなの普段から食べれるんです?」
「そんなに高くないし、作ろうと思えば作れるし」
「作れもする!?なにそれ、ニホンすごい!ずるい!なんなの!なんなの!」
「よ、喜んでいただけてなにより」
「おいしい!冷たい!」
「いつもサシャさんには助けてもらってるからさ、これくらいなんでもないしね」
ついでにもう少し気を引く為にテレビをつける。スマホを接続して、教会やサシャさんの写真をみせてみる。
「っっ!!??」
表情を見るに、驚いてはいるようだが、時間に限りがあるからかアイスを食べる速度は変わらない。冷静なようだ。でも、持って帰れるんじゃないだろうか。
よしよし、気を引くには充分だ。でも充分すぎたか??いやこのまま帰ってくれればひとまず火傷は回避できるはず⋯?⋯⋯⋯ダメかもしんないな。サシャさんの行動力は半端ない気がする。
変な顔しながらアイスを持ったまま、消えていった。
ぽちっとな。
しばらく行かない選択肢もあったのに、結局来てしまった。
「待ってましたよユウジさん」
「急に現れた?!」
なんだか笑顔が怖く感じるサシャさんと隣でびっくりしてる知らない人が待っていた。
「あの、そちらの人は?」
「ちょうど怪我の治療にきてましてね。そこまでひどくないので、ユウジさんに回復をかけてもらおうと待っててもらったんです」
「あ、そうなんだ。じゃあ、怪我を見させてもらって⋯⋯『回復』」
いつも通り、ちゃんと治った。
「おおっ?!ありがとう!」
「⋯さて、ダヌさん。残念ながら治療費はもらえません。なので、お願いがあるんですが」
怖い笑顔がさらに怖くなった気がする。
「確か、火魔法を使えましたよね?」
質問と同時に肩をがしっと掴まれた。位階差によるものか、単なる力の差なのか、全然ほどけない。
「ちょっと外で火魔法を使ってもらいたいんですが」
「っ?!」
「そんくらいお安い御用ですよ!」
「いやいやいや!だからダメだって!!」
「まずは!見てみましょう!」
部屋に戻ってきた。
「まずは実際の魔法を見てから判断しましょうよ?」
「えー⋯」
「知らないと思いますが、威力は自分で結構変えられるんですよ。マッチくらいならいけそうな気がしません?」
「マッチなら、まぁ⋯。いや、熱いのは一緒じゃあ⋯」
「とりあえず!見てから!ね?ね?」
「⋯⋯うん」
「じゃあ、昨日のテレビ見せてくださいっ!!」
「あー、はいはい」
俺はこれからも、こうやって押し切られていくんだろうな⋯。
次の日も、ぽちっとな。
「さ、外に出ましょうか」
「ほんとにこの人にかけんのかい?」
「はい。この人は火魔法の威力を身をもって知りたいそうで!でもでも、威力は凄ーく弱めてくださいね。」
「いやいや?!何その設定?!」
「はい、じゃあまずは見本お願いします!」
『炎』
指の上に凄く小さい火が浮いている。確かにマッチ、いやライターの方がしっくりくる。
「ほら、あれくらいなら大丈夫そうでしょ?」
「う、うん」
「と、いうわけで、時間もありませんし」
手を構える。いや、構えさせられた。
「じゃあ、さっきと同じくらいの弱めでお願いします」
「はいよ」
『炎』
「あつっ!」
『回復』
「あつっ!くない」
「ほら、大丈夫だったでしょ」
「いや、まぁ、うん」
部屋に戻ったので、
『状態』
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ユウジ・サトウ
職業 無職
位階 二
体力 満
魔力 満
能力 世界移動 五分間+五分間
学習
学習による効果 回復
突進
炎
経験増
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「学習学習⋯あ、炎が追加されてる」
「されてる?!キタキタキターっ!!」
「あ、時間も増えてる??」
「え???時間も???」
「何か+五分間って表示されてる」
「ひゅーーぅー!!」
「⋯えーと、なんでだろうねぇ」
「時間は位階によるものかと思ってたけど、それだけじゃない?!」
「確かにね。五になったら同じ時間になるかと思ってたよ」
「能力が追加されたら時間も増えるって事?!やれる事が増えて位階も上げやすくなるんじゃない?!位階が上がって時間が増えればさらにっ?!どんどん出来る事は増えますよ!魔物も狩れますよ!」
サシャさんに火がついてしまったようだ。実際に火をつけられたのは俺なんだけど、ね⋯⋯。




