君の手は雨より冷たい
第一章 君の手は冷たい
俺の名前は零。
高校の入学式を終え、教室で新しい雰囲気を感じていた。今は授業で自由に自己紹介をする時間だ。やっぱり友達は数人作りたい、ここで友達ができるかできないかでこれからの学校生活が決まると言っても違いない!
隣の席の子に話をかけるのが1番無難だと思うんのだが...女子だから話しかけずらい...
そんな事を考えていた時だった。
「君...」
隣の女子がそう声を掛けてきた。
「はい...なんでしょうか⤴?(裏声)」
声を掛けられたことに動揺して声が裏返ってしまう...
「.....消しゴム落としたよ?」
と言って消しゴムを俺に差し出す、その時少し顔が笑っているように感じた。
「ありがとう!」
相手が敬語を外していたからこちらもそれに合わせて敬語を外す。
ここで陰キャを発動してもしょうがない...
「私は愛芽、よろしくね!えっと...」
「俺の名前は零だ。よろしくな愛芽」
挨拶を交わした後に愛芽は手を出してくる...
「...?」
困惑する俺...
「何ボーッとしてるの?握手よ」
初対面なのに!?と混乱しながら少し経ってからその手を握る、
その瞬間!
「冷たっ!!」
愛芽が叫び出す
言い忘れていたが俺は他の人と違って少し手が冷たい性質である...
「すまん...言い忘れてたけど俺の手は少し冷たい性質なんだ」
すぐに俺は愛芽に謝る
「少しどころじゃないでしょ?ものすごく冷たいんだ
けど?あなた本当に生きてるの!?」
「……そんなにか?」
思った以上にびっくりされて俺もびっくりする。
愛芽はコクコク頷く。
「まぁ...よろしくな」
(チャイムの音)
そんな会話をしていたらチャイムがなり、授業が終わった。この日は入学式なため、これ後授業はなく下校になる。
「新しい学校生活が始まり、これから大変な時期になると思います。でも楽しいことも沢山あります。5月の下旬には文化祭があるので楽しみにしておいて下さいね!」
という担任の先生、後藤先生の話を聞いて下校となった。
その後……俺は下校の準備をしていた。
「零、一緒に帰ろ〜」
先程会ったばかりなはずなのに、なぜかこんなに俺に絡んでくるため...俺は混乱してしまう。
てか...だれでも混乱するな...
「愛芽...少なくとも今日会ったばかりだぞ?さすがに俺を信用しすぎじゃないか?」
「別にいいでしょ?さっ、帰りましょ!」
愛芽の勢いにそのまま乗ってしまい結局一緒に帰ることになった...
下校中...たまたま家が同じ方向なのか、愛芽とは帰り道が同じだった。
(正直かなり気まずいな...まず、女子と一緒に帰るのなんて幼なじみのあいつぐらいだったからな
普通に、意識しようとしなくても意識しちゃうだろこのシチュエーションは!)
「零はさ、好きな花とかあるの?」
愛芽がふと質問を俺にしてきた。
「好きな花か...”ユキハナソウ”とかかな?まぁシンプルが好きって言うのもあるけどな」
「愛芽はなんの花が好きなんだ?」
と質問をし返した
「う〜ん...特にない!」
きっぱりと言った愛芽に
(じゃあなんでこの質問したんだよ…)
と心の中でツッコミを入れる俺
後少しで家に着くところで...
ポツ...ポツ...
雨が降ってきた
(予報にはなかったがこれぐらいの小雨なら別にいいか)
そう思っていると、バサッという音が隣からした。
愛芽が折り畳み傘を開く音だった。
(予報になかったのに持っているなんて、女子力高いんだなぁ)だけど……
「傘にしては少し小さいんじゃないか?」
ふと思った質問を愛芽に投げる。
「まぁ...折り畳み傘だしね」
その瞬間愛芽がにやりと笑う
「なに?傘入りたいの?」
「別にそういう訳じゃねえよ!」
間髪入れずにツッコミをする俺
「私の家あっちだから、また明日ね零!」
(ここまで来たらすぐ俺の家だから愛芽の家は近いのかもな...)と思いながら
「また明日な」
と愛芽を見送ったその直後あることを思い出す
(.......明日休みじゃん!)
こんなからかわれる学校生活が続くのだろうか?
そんな事を考えながら帰るのだった...。
入学してから5日ほど経過した。
そろそろ部活を決めていく時期なため、部活動見学に行く生徒が多い。今どき珍しいかもしれないが、この学校は必ず部活に入らなければ行けないというルールがある。だから仕方なく俺も部活動見学に足を運んでいた...
(文化部を色々見て回ったが卓球部もいいかもな..見に行くのもありだな…)
と考えていると、愛芽が話しかけてきた。
「零はどこの部活に入るの?」
「今のところ卓球部か文化部で迷っている。」
と答えると愛芽は...
「早く決めてよね、同じ部活に入るから」
などと勝手なことを言っている。
「自分の好きな部活に入りなよ」
「だって別に入りたい部活はないし、せっかくだったら 知っている人がいた方がいいじゃん。」
(確かに知り合いがいるのは心強いが...からかわれる未来が見えているんだよな)
(!!)
ここでとんでもなくすごいことに気づく!
(卓球部って男女で別れているから絶対に同じ部活場所にはならないんじゃないか?)と...
早速そうしようと愛芽に
「俺は卓球部にするよ、運動をした方がいいからね!」
「そう?じゃあ私もそうする!」
と、愛芽はつられてきた
(少し酷なことをしたか?でも常にからかわれているし、たまにはやり返すのもいいか...)
そう考えて特に何も考えずに卓球部に入部届けを出しに行った。
部活当日
部長や部員たちに自己紹介をして貰った
部員は3.2.1年生全員合わせて8人程度だった。
俺はそんな中あることを考えていた。
(おかしいぞ?男女で別れないで部活が始まった)
と混乱していると
「知ってると思うけど卓球部人数少ないから男女で部活をわけないよ?」
と愛芽は笑顔で俺に言ってきた。
(...また愛芽に1本やられたな、というか俺の計画も全てお見通しだったのかもしれない)
でも自分がちゃんと文化部だけでなく卓球部に見学に来てればこんなことにはならなかったのでは無いか?
と感じ自分の心の中で反省をした。
でも部活に入ったからには努力して強くなろうと反省と同時に決意して約1週間
部長である鷹梨先輩や副部長の鈴木先輩などを中心に少数部活ながらも県大会に行っている人が多い。
そのため初心者の俺でもとても優しく分かりやすく教えてくれる。なんでそんなに教えてくれるかって?
それは.....
1年生の部員は俺と愛芽の2人のみだからだ!
部を継続していくために育てておきたいという裏もあるのだろうが、それにしても親切に接してくれる。
いつも通り先輩に教えて貰っていた時、
「私と試合してみない?負けた方は勝った人の言うこと を1つ聞くで」
と愛芽が俺に提案をしてきた。
言うことをひとつ聞くは少し嫌だが...
(自分の実力を確かめるのにいい機会なのかもしれない)と思い試合に望むことにした。
ーーーーー試合は一瞬で終わった...
愛芽の圧勝...
セット数は3対0でぼろ負け
俺がミスをする中、愛芽は確実に点を取ってきた。
(強すぎるだろ...こんなに差が開いていたなんて)
普通にショックだった...
「で、愛芽は何が望みなんだ?」
「う〜ん、じゃあ...今日一緒に帰ろ?」
入学式以来一緒に帰ることはなかったから少し驚くが
(まぁ、一緒に帰るぐらいなら)
「それが願いなら従うよ……」
そこで視線を感じた。
視線を感じる方を見ると部長がニヤニヤしながらこちらを見ていた。
「いいな、今のうちに青春しとけよ。進路を考え始めたらそんな暇無くなるからな。」
「青春って...俺はからかわれているだけですよ」
「なんでからかわれていると思う?」
(なんでか...なんでか聞かれたら理由は分からないな、そもそも入学式で会ったばかりなのに妙に馴れ馴れしかったんだよな...)
「それは分からないですね」
「分からないのか...」
と部長は卓球台の片付けに向かう
俺はそれを手伝いに部長について行った。
その後俺と愛芽は2人で帰路を辿っていた。
「今日は予報だと雨が降るはずだよな...」
俺は空の雲色が悪いなと思いふとつぶやく、
すると...
「えっ?今日雨なの!?」
と愛芽が何やら焦り出す
「朝晴れてたから傘は置いてきたけど、この空を見たら降りそうだな……雨だと何か都合が悪いのか?」
「いや...ちょっとね、折り畳み傘を忘れたから」
(折り畳み傘を気にするなんてやっぱり女子力高いな)
「そうえば、もうすぐ中間テストだね!」
「そうだなー」
(うん?)
「もちろん勉強してるよね?零?」
(中間テスト?)
「ちなみに...後何日ぐらい?」
少し顔を下に向けて愛芽に質問をする
「3日後だけど?」
少し愛芽がにやりとした表情で言う。
(完全に忘れていた...やばい...)
「俺急用思い出したから急いで帰るな!」
(早く帰って勉強しよ...)
「じゃあな!」
「うん、勉強頑張ってね」
バレてるなと思いながら家に向けて走り出す
家まで3分で着くぐらいまで走った頃だろうか...
ポツポツ……
雨が降ってきた...そう思いながら空を向いた。
次の日
学校に来るといつもからかってくる愛芽の姿がなかった。何か遅れる理由でもあるんだろうと思い特に気にしなかった。
(.....)
(あれ?俺って愛芽がいないともしかしなくても...ぼっち?)
先生が教室に入ってきて
「今日の欠席者は愛芽さんだけかな?欠席連絡は来ているので問題は無いですね!」
などと言い始める...
(ぼっち...いや...友達を作ろう!)
朝の会で普通の人は眠気が取れずにぼーっとしている中俺はそんな決心をしていた。
そんな決心をしたのはいいんだが...
気づけば既に昼休みになっていた。
こんなに人と喋らないのは小説的にもまずいんじゃないか?と思いながら作戦を立てる
(作戦1:ご飯一緒に食べよう作戦
これは既に一緒に食べるグループが出来てしまっているので難しい...除外!
作戦2:一緒にスマホゲームしよう作戦
これも既に一緒にゲームするグループが出来てしまっているので難しい...除外!
作戦3:なし...諦める)
脳内で諦めるという結論が出た
(別に友達を無理に作る必要は無いもんな。)
そんなことを考えていると...
「ねぇ君!隣に座っていい?」
となりの席は愛芽だが休んでいるため空いている
その席に俺に話しかけてきた子が座る
「あの...」
ここで陰キャを発動しても何も変わらない、決心した俺は思い切ってその子に話しかける。
「俺と友達になんない?」
空気が凍る音が聞こえる
(そうだよな...まずはなんで隣の席に座ったのか質問するのが順序ってもんだよな...)
「ぷっ...あはは」
「第一声それ?面白いね君!いいよ友達になろう!」
(あれ?この人もしかしなくてもめちゃくちゃいい人?)
「俺の名前は大輔、鈴木大輔だ。実は話しかけようと思ってたんだけど常に周りに愛芽さんがいて話しかけずらかったんだよな」
「俺は零、よろしくな」
大輔は手を俺に出してくる
(これ?学校で流行ってるのか?)
とまぁ混乱しながらも俺も手を出す...
これなんか...何故か俺はこの後を予想出来てしまう...
「冷たっ!」
予想通り大輔が叫ぶ
なんかデジャブ感じるな...
「俺の手は普通により冷たくてな」
「お、おう、夏はかなり楽そうだな零...」
(言われてみれば今まで夏に暑さで苦労したことはなかったな)
と感じる
「テスト2日後だけど大輔って勉強したのか?」
(偏見だが、大輔は勉強が出来そうだからな...出来れば勉強を教えてもらいたい)
「俺か?全くもってやってないぞ?」
意外な返答に少し驚く
「そうなのか...テスト2日前だからやばいんだよなぁ」
「まじか?偏見で悪いが...零って真面目そうで勉強出来そうだし、ていうかそれで教えてもらおうと声かけたんだけど?」
(俺と全く同じことを考えていたのか...)
「一緒に生き残ろうな...」
この時期は文化祭準備に影響してくる、絶対に赤点は取れない!
「ああ!」
ここに新たな友情が生まれた...
テスト当日
俺たちの勝負の日、愛芽は余裕そうだが...
「大輔自信はどうだ?」
「もちろんない!」
大輔という同類がいて安心する
(本当に友よ)
「いつの間に私以外に友達なんて作ったの?」
「ふふ〜ん、俺だって本気を出せば友達の1人や2人できるさ」
友達が出来た喜びで上がった調子のまま煽る
「へ〜?」
愛芽はニヤリとした顔で
「ま、大輔くんに色々事情は聞いたんだけどね〜」
「ちょっとまて!それはどういうことだ?」
あの第一声”友達になろう”はかなり恥ずかしかった...のでそのことを知られていたらと思うと……
俺は耳が赤くなる。
(チャイムの音)
この学校は3日にテストを分けている。
今日が1日目のテストの日
英語、国語、数学と地獄の教科の日だ...
(まぁ、できるだけのことはやるか)
そんなこんなで地獄の3時間を過ごした俺たち(俺と大輔、その他生徒)
3時間目の最後(チャイムの音)
「やばかった...」
絶望のあまり小さくつぶやいていまう
大輔は既に机に顔を伏せている
「零はテストどうだった?」
「言わなくてもわかるだろ?愛芽は?」
「少なくても平均85点は固いかな?」
(え?すごくない?いや逆におかしいのは愛芽だよな?)
(ルートの計算ってなんだよ?解けるわけないじゃん)
そんな絶望を抱えながらテストを含めて土日を挟んで7日間が経過した。
テスト返却日
「今からテストを返します!番号順に取りに来てください。」
(この学校は全部のテストが一度に帰ってくるから絶望が一度に降りかかる。)
テストが返ってきて思い切って答案用紙をひっくり返す。
国語:42点
英語:38点
社会:56点
理科:46点
数学:23点
(数学がーーー)
平均点の半分を下回ると赤点...赤点...アカテン
やばい意識が朦朧としてきた。
恐る恐る黒板に書いてある平均点を目を動かして見る。すると...平均点46点...
(1点耐えたーー!)
心の中で叫ぶ!
「大輔はどうだった?」
「ふっ...23点...」
ドヤ顔で言ってくる大輔に、
(同じじゃん、最高の友達じゃん!)
「何言ってるんだ?もうそんなの親友でしょ!」
と大輔が言ってくる。また友情が深まった気がした。
(うん?今大輔心読んだ?)
「零は何点だったの?」
後ろから愛芽の声がする
「な、内緒」
「えー?まぁ聞こえてたからいいけど」
(聞こえてたのかよ!)
「じゃあ、私の数学の点数当てたら、ジュース奢ってあげるよ。」
(えー?分かるわけないってそんなの...まぁ91点とか適当に言っておくか…)
「91点とか?」
びっくりした表情になる愛芽に
まさか...と思ってしまう
「正解!答案用紙見た?」
「いや全然!」
俺が1番びっくりしてると思う
「まぁジュースは奢るね」
「いいよ別に...」
「いいよ奢る、私が言ったしね」
(人の親切を否定しすぎてもダメか...)
「じゃあ、お言葉に甘えて...」
そのまま2人で自販機に行こうとしたら
「買ってくるから待ってて!」
と愛芽に言われたので、教室で待つことにした...
早帰りなため、既に教室は下校をした生徒がほとんどなので、すっからかんだった。
ぼーっとしていると
首に冷たい感覚があった。
後ろを見ると愛芽がペットボトルを持っていた。
「冷たっとか驚いて言わないの?」
と愛芽が質問をしてくる。
「驚いて声も出なかった...」
「これ!約束だったからね」
ジュースを差し出す愛芽
「ありがとう!」
受け取る時、指が少し触れる
「やっぱり君の手は冷たいね...」
少し愛芽の顔が赤くなった気がしたが気のせいだろうか?俺は気にせず受け取ったあと、早速飲もうと開けようとしたら気になることがあった。
ペットボトルって最初開ける時、少し硬い気がするんだけど...
(あれ?少し緩かったな)
と感じるがあまり気にしないことにした。
そのまま一口飲む...
愛芽が
「言い忘れてたけど、喉乾いてたから一口貰ったよ」
とニヤニヤしながら言った。
その直後俺は5秒ぐらい硬直した。
「え?」
「あれ?こういうことってなんて言うんだっけ?零分かる?」
分かるけど言わないで黙る俺...
「そうえばさ...言い忘れてたけど
私ホントの数学の点数95点ね!」
「じゃあまた明日ね!」
笑顔で言って、バックを持ちそのまま廊下に向かう
「うん?はめられた?」
また、からかわれたと思い机に顔を伏せるそれに……もっと点数高いのかよ!
そしてやっとここで思考が追いつく。
(そういえば愛芽が一口飲んだものを飲んだってことは
...)
「帰るか...」
俺は顔が真っ赤になりながらカバンを持つーーーーー
第二章 文化祭
テストを終え、文化祭が近づき、気づけば2週間前になって学校は文化祭準備をし始めていた。
先に説明しておくと、俺のクラスではお化け屋敷をすることになった。え?恋愛系はメイドカフェとかだって?そんなのは知らない。
「ごめん今日用事あるから文化祭準備に参加できないや」
と大輔が俺に言ってくる。
放課後文化祭準備をするため人が集まるはずが...
愛芽と俺しかいない
(なんで!?)
「なんか...みんなたまたま今日用事が重なったみたいだよ?」
「だからって2人になることある?」
「まぁ...驚きだよね...」
話すことがない...と思っていると
「零はなんの変装するの?」
「俺はゾンビかな?」
「なんか言うのはなんだけど...地味じゃない?」
(まぁ誰でもそう思うよな...)
「愛芽はなんの変装をするんだ?」
逆に俺が聞き返す。
すると...愛芽が顔を近づけてくる。
その距離は...少し近づけば鼻が当たりそうなほどに...
「!?」
びっくりした俺はとっさに離れる。
まだ心臓がドクン、ドクンと鮮明に聞こえる...俺の顔は少し赤くになる。
「どうしたの?今教えようと思ったんだけど?」
かなり真顔で言ってくるので混乱する。
「だから吸血鬼!今首を噛み付こうとする真似したでしょ?」
「へ?」
そうだったのか...
「何を想像してたの?」
「別になんも」
そうしてまた沈黙が続き、やがて愛芽がある提案をしてくる。
「また勝負しようよ...」
愛芽が提案してきた。
「ちょうどお化け屋敷の担当時間別々でしょ?お互いに脅かしあって驚いた方が負けってのはどう?」
「ゾンビでどう脅かせと?」
(この勝負は分が悪いから引くか)
「零がそうしたんでしょ?それとも何?勝負が”怖い”からなの?」
「別にそんなことないし」
あっ...この流れは...
「じゃあ勝負しようよ!」
やっぱり...
(また勝負に乗ってしまったな)
「やるからには勝つからな!」
「ゾンビでどうやって勝つの?今のうちに変えてもいいよ?」
(変えれたら変えるけど、もう変装道具買っちゃったからな)
「じゃあまた負けた方は言うこと1つ聞くでいいかな?」
愛芽がまた提案してくる...
卓球の時の二の舞にはならないようにしたい...
そう思いながら準備を進めた。
(!!)
考えるうちにひとつ秘策を思いついた。
道具なんて使わなくてもこれなら勝てるんじゃ?と程々に自信がある。
「あのさ...話変わるけど、零は誰かと文化祭回るの?」
「うん?特に決まってないし、そんな相手いると思うか?」
そう、俺は友達が少ない...
「確かに!」
(納得しちゃうんだ...つらい)
「じゃあ、私と一緒に回る?」
と笑顔で愛芽が言ってきた。
「へ?」
俺はびっくりする...愛芽は友達が沢山いるし、隣の席たがら少し聞こえていたがもちろん異性の人も誘う仕草を見せていた。
「なんで?」
(なんで俺を選ぶんだ?また、からかっているのか?)
「私は君と回りたいんだよ...」
と小声で言っているのが聞こえた...
その仕草がとても.....
「分かった、俺も回る人がいないから困ってたし。」
(そうだ、ここで断っても一緒に回る人なんて後は大輔ぐらいだしな...)
少し顔が熱い気がした...
「じゃあ約束ね?」
と小指を出してくる
「ああ、約束」
小指と小指が触れる瞬間やっぱり...
「君の指は冷たいね」
と言われてしまうのだった。
文化祭当日
生徒会の企画で1人1枚番号の書かれた紙が配られた。
同じ番号の人を文化祭当日に探し、同じ人2人で受付に行くと何か貰えるらしい。
(出来たら見つけたいな)
と思い、番号を見ると.....
4番か...
「私は4番か...」
と愛芽のつぶやきが聞こえる
(文化祭開始5秒で同じ人見つけちゃったよ.....いつもからかわれてるしやり返したいからな...ちょっと泳がして見るのも楽しいかもな。)
「零は?」
と愛芽が聞いてきたので
「7番だった」
と答えた
「違うか〜残念...じゃあ最初は私係だからお化け屋敷来てね!」
と準備をしに行く。
「零はなんの番号だったんだ?」
大輔が聞いてきてとっさに
「4番だった」
と嘘の番号を言おうとしていたが、正しい番号を言ってしまった。
「俺は59番だったから誰か見つけたら教えてくれよな!」
「分かった!この1日をお互いに楽しもうな」
「お前も愛芽さんと楽しめよ…(小声)」
そう俺に聞こえないように言って大輔は友達と歩いていく。
まずは愛芽がお化け屋敷の係なので
決闘をしに行く。
「深呼吸をしていけば驚くことは無いはず...俺は怖いのは得意だから有利だ...」
(時間があったら部活の先輩達のお店にも行っときたいな。)
と思いつつ自分のクラスの前に行く。
見慣れたお化け屋敷のデザインが目の前に見える。
「1名様ですか?ではこのライトを持って道なりに進んでください!”逝ってらっしゃい”!」
と受付の人に見送ってもらいお化け屋敷が始まる。
(愛芽がどこで出てくるのか分からない以上、常に警戒して進まないと行けないな。)
「わっ!」
と脅かしてくる人には大してびっくりしない。
と思っていると...後ろから気配がした...
後ろを見ると誰もいない...前を見るともちろん誰もいない...すると次は右から気配がする。
(!?)
不穏な演出だな...
その時、後ろから飛びつかれる...
前のめりに倒れ、背中に誰かが乗る...
(びっくりした……!)
でも声には出していない...
こういうことをしてくるのはどうせ愛芽だろう...
するとこの後、首に地味な痛みが走る!
「わっ!」
これにはさすがに思わず声が出てしまう
愛芽は吸血鬼の変装だったはず...てことは本当に噛み付いているのか?
「驚いたね〜?零」
「さすがにこれはやりすぎだろ?」
と言いながら後ろを見ると...
クワガタを持っている愛芽がいた!
「うわぁーーーーーー!!」
と尻もちが着いたまま逃げようとする
「まっまままさかそれで首を!?」
「それはどうでしょう?」
とニコニコしながら言う
実を言うと俺はものすごく虫が嫌いだ
(なんで知っているんだ?)
「すごく驚いてるじゃん笑。これは私の勝ちかな?」
愛芽はニヤニヤしながら俺に手を振って見送る。
さすがに驚きすぎたと思い、とても元気を無くした俺がお化け屋敷から出てくる。
「でも俺にはまだ...秘策がある!」
お化け屋敷を出たあとは疲れたが...時間があるので、
先輩達の店や幼なじみの美結の店に遊びに行き、交代の時間がやってきた。
俺は中盤で脅かす役だった。
愛芽以外には秘策は使わない...
普通の人には普通のゾンビを演じるが...多くの人は驚かない...
(そりゃあただのゾンビだもんな...)
こうして待っているとついに愛芽がやってきた...
俺の秘策...それは.....!
こんにゃくを首につけるあれ!
俺の手は冷たいからそれをこんにゃくなしでやる!
最初会った時の握手、あれはものすごく驚いていた。
あれを不意に出来れば驚くはずだ。
暗闇の中俺は愛芽の後ろに回り込む。
そして首に優しく触る...
「.......……」
「ひゃーーーーーー!」
愛芽が大声をあげて驚く
死体を見つけたぐらい叫んでいる
(こんなに上手くいくとは...)
愛芽相手に出し抜けたことが初めてで逆に不安になる
「こ、これは俺の勝ちかな?」
「そんなこと……!」
と愛芽が言うが途中で言葉が止まる
「腰.....抜けた...」
と愛芽が言う
「……嘘だろ?もうすぐ次のお客さんが来るぞ?」
「ほ、ほんとう、負けは認めるから...お願い、出口まで連れてって」
(愛芽に勝った!? いや...それどころじゃない)
俺は少ししゃがんで背中を向ける
「え?」
愛芽は少し混乱しているが...
「ほらおんぶしてやるから乗れ」
「ありがとう……」
とつぶやき勢いよく背中に乗ってくる
その乗った勢いで何かがポケットから落ちる
暗闇で見えないが、愛芽が手探りでそれを掴んだらしい
「掴んだよ!」
と同時にすぐ後ろで悲鳴が上がる
「急ぐぞ!」
そのまま俺と愛芽は裏方に移動する
「自分で歩けるようになったらそのまま裏から外に出ろよ。俺は仕事に戻るからな」
私は仕事に戻る零の背中を見守り
「負けちゃったか...でも勝つよりいいことがあったし、まぁいっか!それより、零がさっき落としたのは?」
それを見て私は驚愕する!
これはーーーーー
文化祭の仕事終え、愛芽との集合場所に向かう。
(ふぅ〜文化祭の仕事は終わったし後は楽しむだけだな!)
その後は愛芽と色んなお店に行って、クレープを食べたり、すごろくをしたり、文化祭を楽しんだ。
最後の醍醐味である劇を見に体育館へ移動していた。
その途中放送が流れた
(放送の音)
「近況報告です!今の所生徒会企画の同じ番号の人を探すの達成者はおりません!文化祭が終わったらあるものは貰えないので、注意してください!文化祭も終わりが近づいてきたので、積極的に話しかけに行きましょう!」
ここで思い出す俺
(そういえば俺と愛芽は同じ番号だったな。いつネタバラシをするかとか思っていたが...初めての達成者は目立ちそうだから黙っていよう...)
と思いながら劇を見る、
「私はあなたが好きです!」
「ごめんなさい...」
(劇だからいいけど本当の告白は振られるのは辛いんだろうな.....まぁ俺には縁のない話だからな)
と気づけば俺はチラッと愛芽の方を見ていた。
すると愛芽もこちらを見ていた。
俺は愛芽の方を見ていないけど...おそらく同時に目を逸らしたのは分かる...
胸はドクンッと高鳴っていた...
その後...
愛芽は少しお手洗いに行っていたその時、
「君、零くんだよね?」
と大人の男性に声をかけられた。
文化祭は当然保護者の方も来るため、大勢大人の人が来ている。
(だからといって俺に用がある人なんているのか?)
俺は少し怪しむ
返事なんてしてないのにその男性は話を続け
「失礼...誰だか分からないんじゃそりゃあ警戒するよね。私は愛芽の父親だ。早速本題に入ろうか...
愛芽にこれ以上関わるのやめてもらってもいいかな?」
(!?)
(何を言っているんだ?この人)
「いやすまん...関わるなではないな...付き合ったりしないでくれだな。」
「私たちは夏休みが終わる頃には海外に引っ越すんだ。君も別れが苦しくなるだろうから今のうちに言っておく」
(いやいや)
「そもそも俺達はそんな関係じゃありません!付き合う?何を言っているんですか?」
思わず声を荒らげてしまう
「そうか...そろそろ愛芽が帰ってくるかもしれんから私は帰るな...すまなかった零くん。私の杞憂だったようだ。」
その人は言うだけ言って帰って行った。
(本当になんだったんだよ...付き合うな?その気持ちはない。別に愛芽とは腐れ縁みたいなもんだ...)
だが少し否定する時に胸がズキっと痛んでいた。
そんなことを考えているうちに愛芽が帰ってきた...
(さっきの出来事は言わない方がいいのかな?)
と感じ、言うのを辞める...
忘れようさっきのことを、まだ文化祭は終わっていない!
「次はどこに行く?」
「待って!」
「私さ...零に言わなきゃ行けないことがあるんだ...」
愛芽は俺の手を掴み進む俺を止めた
「どうしたんだ?」
俺は先程の出来事もあり、心はかなり動揺している。
(さっきのことが本当なら...寂しくなる、だからこそ俺は愛芽が言い放つ言葉を聞きたくない気持ちがある。
愛芽の口から聞いたらそれが本当だと”疑惑”から”確信”に変わってしまうのが怖かったから)
「.....」
「もう一度聞きたいんだけどさ!君の番号って何?」
「へ?」
思っていたこととは違うため、安堵する俺...それと同時に
はぁーーーと溜まっていた息を吐く...
「なんでそんなこと聞くんだ?」
(よくよく考えれば俺はいつものやり返しのために嘘をついてたんだった。)
「別になんでも…それで何番なの?」
「俺は...」
(俺何番って言ったけ?本当にあの時何番って言ったけ...)
安心するのもつかの間、急に焦り出す
「3番!」
「7番って言ってなかった〜?」
(外したーーーーー)
「さっきお化け屋敷で零が落としたの拾ったじゃん?」
「うん?」
(まさか...)
俺はポケットを確認する
(無い...番号の紙が...無い!)
「私と同じ...4番だったよ?」
「あれ?見間違えたかな〜?」
「なんで嘘ついたの?」
(全然話聞いてくれない...)
もう無理かと感じ
「いつも愛芽にからかわれているからそのお返しのつもりでやったんだ...ごめんあと少しでネタばらししようと思ってたんだ」
「ふ〜ん、まぁいいや、どうせ零のことだから企画クリアの最初のペアになりたくなかったんでしょ?」
「.....」
図星だ...
「行こうか?(圧)」
(怖いです愛芽さん)
ものすごく怖い笑顔で俺の腕を引っ張る
もう諦めておとなしく愛芽について行く...
ついて行った先は屋上だった...
太陽が沈もうとし始めていて山に重なりとても幻想的な景色が広がっていた!
「え?」
「日常的なことならからかうけど、零が嫌なことを無理にやれとは言わないよ。」
(そんなこと...愛芽が考えていたなんて)
「私はこの景色を見せれて満足だからね!」
本当に綺麗な景色で心を奪われてしまうほどだった。
屋上は人がいなく...俺達2人だけだった。
俺は頭をかきながら
「愛芽はお菓子貰いたいか?」
と聞く
「...?景品?」
勘がいいな……
「ああ、大輔から聞いた情報で、ペアを連れて本部に行けばお菓子が貰えるそうだ!」
「貰えるなら欲しいけど...零は目立つのが嫌なんでしょ?」
「.....気が変わっただけだ」
(本当は嘘をついたのに愛芽のその気遣いに申し訳なくなってしまっていた。)
「それは嬉しいけど...文化祭終了まで残り5分よ?」
放送で言っていた
(放送の音)
「近況報告です!今の所生徒会企画の同じ番号の人を探すの達成者はおりません!文化祭が終わったらあるものは貰えないので、注意してください」
(そうだ...文化祭が終わったら貰えない!あそこまで言って諦めるは逆に恥ずかしいからな)
「急ぐぞ!」
と今度は俺が愛芽の腕を掴んで走り出す。
2階まで降りるも人が多くてなかなか前に進めない...
「ちょっと零?諦めようよ」
「後3分もあれば間に合うさ...」
残り1分
やっと1階に降りる...
体育館前に本部の受付があるため急いで走る!
(間に合うか...?)
受付が見えてくる...
「すいません!」
「すいません!」
2人で同時に受付の人に言う
と同時にチャイムの音がなる...
「同じ番号の人です!」
「ギリギリ間に合いましたかね?」
「はい!間に合いましたよ!景品のお菓子と」
(……と?)
「写真セットです!」
(写真セット?そんなの知らないんだが...)
「恋人なら、こちらのセットがオススメですよ...」
「いや...恋人じゃ...」
と否定をしようとしたら
「じゃあそれで!」
と愛芽が言う
ハートのサングラスを愛芽に付けられ、
カメラを持つ受付の人
周りの人は俺たちを見ている...
やっぱり目立つのは嫌だと思っていると
「私、零が行ってくれるって言ってくれて凄く嬉しかったんだ!」
愛芽が笑顔で俺に言ってくる。
「そうか...」
(写真に残るのなら笑顔で...)
「はいチーズ!」
カシャッという音と同時に
愛芽が口パクで何かを言っている
「なんて言ったんだ?」
「教えな〜い」
「写真どうぞ!凄くよく取れましたね!」
と写真を受付の人が渡してくる
「ありがとうございます!」
「ありがとうございます...」
さて、文化祭は終わった!
(楽しかったな...)
「まだ終わってないわよ?」
(そうだったな...)
「お化け屋敷は愛芽の勝ちでいいよ。俺は虫のせいでやばいぐらいに驚いた...」
「え?いいの?」
「ああ...それに別に願いなんてないからな...」
「私も実はよく考えてなくて...」
「それなら保留でいいよ...」
「零...ありがとう!」
とても笑顔で愛芽は俺にそういった
俺の心臓はドクンッと一定のスピードを外れていく。
その笑顔はとても...
(放送の音)
「片付け明日になります。一段落したら生徒の皆さんは下校してください。それと...生徒会の企画のクリア者は1ペア出ました!零さんと愛芽さんです!おめでとうございまーーーす。」
「.....名前をなぜ知ってるんだ?」
「あはは!どんまい!」
愛芽は完全に楽しんでいる...
そんなこんなで文化祭は今度こそ終わりを迎えた...
第三章 君の頬は暖かい
ミーンミーン
セミの音が聞こえて気温は30度を超えて夏がやってくる。
最近こんな日が続くため普通の人は苦労する...
そう普通の人ならな...
「生き返るわねぇ〜」
「本当に」
俺の冷たい手を愛芽と大輔は触っている...
「零...もう私達以外の人に零の手が冷たいことを言っちゃダメよ?」
(冷たいのを独占したいんだなぁ)
「でも今日から体育の授業がプールだぜ?」
(あぁ...プールか…)
「どうしたの?顔がくらいよ?」
愛芽が顔を下から覗いてくる
「もしかして...零カナヅチ?」
大輔が当ててくる
そう俺はほんと〜うに泳げないのだ...
「へぇ〜?」
(うわぁ〜からかわれる気がする...)
「私はプールの授業は見学だから頑張ってね〜」
「お前も泳げないんだろ?」
「そんなわけないでしょ?」
と愛芽と俺が言い合っていると
「夫婦喧嘩はやめろ〜」
と大輔が止めに入る
いや...止めていると言うよりからかってるな...
「零、そろそろ着替えに行こうぜ!」
(嫌だな〜)
と思いながら仕方なく大輔について行く。
準備体操を終えた俺達。
日陰の差したベンチには見学者である愛芽が座っている...
(いやぁ本当に5mも泳げるかなんだよ...)
オリエンテーションってこともあって最初はプールの端から端まで水の中走ったりしていた...
「では!2人1組でペアを作ってください!」
「零組もうぜ…」
と大輔が俺に言ってくる
「ああ」
「最初は、ペアの人と海中でじゃんけんをしてください...」
という先生の指示に
俺と大輔は同時に潜る
俺はチョキ、大輔はグーを出す
負けた...
(息が..…)
「ぷはぁ〜」
「俺の勝ちだな零!」
(ただのジャンケンだけど普通に悔しい...)
「授業の最後に洗濯機をやります!」
洗濯機は全員が同じ方向で回転することで流れるプールみたいなのを作り、楽しむことだ。
先生も含め全員がいっせいに回り出す。
(段々と回転の量が上がってきて油断をすれば足を踏み外して転びそうだ...)
「あっ!」
ツルッと足を滑らす
「ゴボボッ」
(まずい...泳げないから息継ぎが...)
息を吸おうと上にあがろうとしてそれが逆手となってしまう。逆に身体は沈みだし...焦り出す
「たす...け...ゴボッ」
大声を出そうとしても声が出ないし、他の人の騒ぐ声や水で音でかき消されてしまう。
(このままじゃ...ほん...と...に...お...ぼれる)
(意識が朦朧としてきた...)
霞む意識の中で誰かが泳いで向かってくるのが見えた...
(だ...れだ?)
(助かるのか……俺。これは...愛芽に...からかわ...れるな)
そこで俺の意識は途絶えた...
(はっ!)
(俺生きてるのか?そうだ助けてくれた人!)
起き上がろうとしても俺の体は動かない...
「おい!大丈夫か?」
学年主任の先生が俺に声をかける。
(声がまだ出ない...)
「目を覚ましたぞ〜!保健室に運ぶぞ!」
そんな中、かすかに声が聞こえる...
「助けてくれたのは感謝します。本当に私の不注意でした。でも...あなたは...ダメじゃないですか...」
「あの時彼が溺れていたのをあの中見つけて、助け出すことが出来るのは見学で上から見ていた私だけでしたから...」
「だけど...とりあえず今日は早退してください!」
(なんで?愛芽が助けてくれたのか?)
(助けてくれたなら、お礼をいやなきゃ...)
「あ...め...ありが...とう」
「無事でよかった...早く元気になってね!」
その時!
「すいません...零さん私の責任です...」
と先生が謝罪をしてきた
「別に...大丈夫です...」
(俺が泳げないのが悪いし、それを言わなかったのもダメだったからな...)
「とにかく君も今日は早退よ零くん...」
そう言われて保健室に運ばれる...
あの後俺は親が迎えに来るまで保健室で愛芽と一緒にいた....
気まずい...愛芽は何かを肌に塗っている...
きっと俺を助けるために無理をして怪我でもして、薬でも塗っているんだろうと思い罪悪感が襲う...
「ごめ...」
(いや違うな...)
(今俺が愛芽に1番言わなきゃいけない言葉は)
「ありがとな...愛芽...お前が助けてくれなきゃ俺は...」
俺は倒れそうになる。
「無事で良かった!」
一瞬の出来事だった
愛芽が俺に抱きついてくる...
「バカッ!死んだらどうするんの?...からかう相手がいなくなるじゃない!」
怒りながら愛芽は泣いている...
「でも生きてる...愛芽のおかげで...」
「でも君の手は冷たいから生きてるか不安...」
「もう死にそうになんてならないで...これは文化祭の勝負の時の願いよ!これは絶対に守ってね!」
「ああ...」
頬をなにか冷たいものがつたる
「涙出てる」
愛芽がとそうつぶやきながら俺の頬を触る
すると愛芽は笑顔になって
「暖かい...生きてる」
(本当に迷惑をかけたな...)
「この仮はいつか返すよ」
そう俺は言い
「そういえば愛芽、泳げたんだな…」
俺の言葉に何かを返そうと愛芽が口を開こうとした時に愛芽の親が迎えに来る。
(あの時の人だ!)
と俺は目を逸らす
俺の方に近づいてくる愛芽の親
「本当にもう...愛芽に関わらないでくれ、後1回でも愛芽が危険な目にあうのなら、関わるのすら許さない(小声)」
と耳の近くで愛芽に聞こえない程度に俺に話した。
愛芽に聞こえないようにってことは引っ越すことを愛芽は知らないのか?
「何を話してるの?」
愛芽が聞くと
「ああ...大丈夫か不安だったから心配の言葉をな」
「そうなの?」
(この人、誤魔化したな...)
「それじゃあ帰るか...」
と言って愛芽を連れて帰る...
(よしじゃあ俺も帰るか...)
俺は親なんて迎えに来ない...だって俺に親は居ないからな。
(だいぶ辛いけど歩いて帰るか...)
今思えば誰かに叱られるなんて久々だったな…そう思いふらつきながら俺は家に帰る...
その日の夜は疲労が溜まっていたのか…ぐっすりと眠ってしまい、おかしな夢を見た。
俺と同じ目線に女の子が雨の中走っている……
「お前!びしょ濡れじゃん!大丈夫か?」
「私…傘忘れちゃって…えっと…濡れるのはダメなの」
「なんだそりゃ」
「とにかく急いでるから」
そういって走り去ろうとする女子に
「待てよ!濡れるのはダメなんだろ?」
俺目線の子?がさしている折り畳み傘を
「折り畳み傘……やる!」
男の子が女の子に渡す。
「あっ……ありがとう!あの!名前は?」
俺目線の子?は既に走っており、かすかに何か聞こえてるが何を言ってるか雨の音で分からないーーーーーーーー。
俺は目を覚ます。
「夢か…」
俺はつぶやく
(変な夢だったな)
その後プールの1件は騒ぎにはなったけど、時が経つに連れて…その騒ぎは収まっていき、気づけば夏休みに入っていた。
第四章 俺達の夏
夏休み初日
ミーンミーン
せっかくの休みなのに関わらずセミの鳴き声で俺は目を覚ます。
(まだ7時か...)
ぼーっとしているいると
ピンポーン
とインターホンが鳴る
(こんな朝早くに誰だろう?)
と思いながらドアを開けるすると...
「零、おはよう!」
愛芽が立っていた。
「なんで俺の家を知っているんだ?」
「……」
愛芽は答えない…なので俺は質問を変える。
「で?何の用だ?」
「......」
「まさか用なんてないのか?」
静かに愛芽がこくりと頷く。
(じゃあなんできたんだよ!?)
「じゃあ家、上がっていくか?」
俺がそう提案すると...
「いいの?じゃあお邪魔しま〜す!」
と家に入っていく。
「ねぇ...親御さんは?」
愛芽は俺の家を見ながら俺に聞く
「両親どちらとも俺が10歳の時に亡くなった〜」
俺はコップを棚から出しながらさりげなく言う
「...!?ごめんなさい...」
「気にしないでいいよ!飲み物は何がいい?」
「お水で...」
(別にもっとジュースとかでもいいのにな...)
そう思いながら水を注ぐ
「そういえば、夏休みになったら連絡取れないし、連絡先交換しとこ〜?」
(確かに部活のこととか聞くためにも交換しといた方がいっか)
「そうだな」
そのまま連絡先を交換した後すぐに
愛芽のスマホがピコンと鳴った。
それを見た愛芽が...
「あっ!私用事があったの思い出した!」
「じゃあね〜私が飲んでいた水飲んでもいいよ笑」
「そんなことするかよ」
(家に来てまでからかうのかよ...)
愛芽を見送ったあと机に置いてある、1つのコップを見てひとつのことに気づく!
「水減ってるか?」
と思っていると1つの通知が来た。
私の水減ってないでしょ?飲んでないからその水勿体ないし、ちゃんと零が飲んでね!
との事だ...
(これって信じていいのか?本当か?)
「でも、実際に減ってないしな…勿体ないのは確かだし、飲んどくか...」
そう考えて俺は水を飲む、ゴクッと一口飲んだ時…
ピコンッ
通知には...
「まぁ飲んだんだけどね笑」
ブフォ...
俺は水を吹く。
(愛芽のやつまるでここにいるみたいに...)
すると肩をトントンとつつかれ後ろを向くと...
愛芽が笑っている。
「あはは、嘘だよ〜」
「それって用事のことか水のことかどっちなんだ?」
俺は冷静を保って聞く。
「さ〜てどっちだろうね〜!じゃあお邪魔しました!」
取り残された俺は...
「また愛芽の手のひらの上か...」
と呟くのだった...連絡先を教えたのは間違えだったか……
でも不思議と.....少しだけこの日常が楽しいと思えていた。
そこでまたスマホがピコンッとなる。
(あいつまた……)
連絡を確認すると大輔からだった。
そろそろ愛芽さんの誕生日らしいけどお前は何か用意したか?
(え?)
俺は全く知らなかったから当然何も用意してない……
「何かあげた方がいいよな……」
俺は一人でつぶやく
(誕生日プレゼントか……何がいいんだろうな?)
(単純に欲しいものを聞く?いや...こういうのはサプライズにするのがいいはず……)
考えていてもしょうがないので…大輔に相談する。
俺は大輔に
誕生日プレゼントってどういうを貰ったら嬉しいと思う?
っと連絡すると
う〜ん、プロテイン?
(おお、プロテインね〜)
ありがとう!と送り
(よし!次の作戦を考えよう。街中を見に行くか…)
そう考えた俺は、外に出た。
(夏だし小型の扇風機とかどうだろうか?)
早速見に行くと値段が
「2000円!?少し高いなぁ〜でも候補として残しておこう。」
(次は夏関係なしに考えよう。)
「日常で使えるものだったら……ギフトカードとか?」
はぁ〜迷うな〜そう思っていると、
「あれ?こんなところで何してるの?」
愛芽に出会ってしまった。
いや……ここは好都合と考えよう。
「知り合いの誕生日プレゼントを考えていて、お前なら何を貰ったら嬉しい?参考までに教えてくれ。」
(この言い方なら愛芽にも察せられることは無いはず...)
「私なら花とかかな?」
(花か……)
「ありがとな!だいぶ迷ってたから助かった。」
「それじゃ、頑張ってね〜!」
俺はそのまま花屋に向かう...
(花屋なんて初めて会うな...)
「すごい!花屋なんて初めて来た!」
「確かに、あんまり来る機会がないからな…」
(うん?)
隣を向くと愛芽がいる。
「面白そうだから着いてきちゃった!」
笑顔で愛芽がそう言う。
「どの花を選ぶの?」
「そうだなぁ〜」
愛芽に言われてどの花にしようか迷う。
お店の中を回っていると1つの花を見つける。
「あれ?これって...」
「どうしたの?」
「いや…別に…」
(俺が好きな花だ…)
「ユキハナソウ…...か...」
これにするか…
「どれにするか決めた?」
愛芽に聞かれて俺は
「いや...まだ選ぶのに時間がかかりそうだし、愛芽は先に帰ってもいいぞ?」
今の言い方少し無理やりだったか?
「ああ...そう...じゃあ帰ろっかな?」
(今すぐにも誤解を解きたいが...本当のことを言うと愛芽へのサプライズが台無しになってしまうから...)
「ごめん...」
っとだけしか愛芽に言えなかった。
愛芽が帰った後...レジで店員さんが
「すいません...さっき会話が聞こえちゃってたんですけど...誕生日にこの花を渡すんですね?とてもいいじゃないですか!」
「確かに綺麗ですからね」
「それもありますけど、この花の花言葉.....”君にまた会いたい”ですよ?素敵じゃないですか〜!」
(そうだったのか。誕生日に渡す花ではないか?)
別にそこまで考えていなかったので花言葉を知って余計不安になる。
「誕生日プレゼントに花って変ですかね?」
本当にこの選択が合っているか少し不安になっていた俺が思わず店員さんに質問をしてしまう。
「私なら花言葉を知らなくてもとても嬉しいですよ?」っと笑顔でそう言ってくれる。
(そうか...)
「ラッピングの料金無料しときますね〜!」
「ありがとうございます!」
俺は二つの意味でそう言う。
愛芽の誕生日当日ーーーーー
今日は8月1日愛芽の誕生日当日
前日に愛芽に今日空いている時間があるか電話で聞いておいた。その時は愛芽は予想通り少し不機嫌だった。
「午前中は友達に誕生日パーティに誘われて...午後は空いてる。」
「午後5時ぐらいにえっと...」
どこを集合場所にしようか迷っていると
「〇〇公園に集合とかは?」
っと愛芽が提案してきた。
「そこ集合でいい?」
「ああ...わかった。」
そう言って電話を切る
(あれ?公園で待ち合わせ?予定空いてるか聞く?
俺告白するとか勘違いされてないよな?普通に俺の家来てとかの方が自然だったか?)
心の中で色々考え、一度冷静になる。
(別に誕生日プレゼントを渡すだけなんだ……すぐに渡して帰ろう……)
愛芽視点
私は誕生日パーティに来ていた。
私は今とても嬉しい!
(零から誕生日プレゼントが貰えるのかな?)
「愛芽なんかいつもよりウキウキだね〜」
私の友達が言ってきた。
「そりゃ〜誕生日パーティを開いて貰えたら嬉しいよ!ありがとう!」
「じゃあ早速パーティを始めましょう!」
「あらためて、愛芽!誕生日おめでとう〜!」
「ありがとう!」
(本当に嬉しい、こんなに祝ってもらえるなんて)
そんなかんなでパーティは進み...最後にプレゼントをくれた。
「はい!プレゼント!プロテイン!」
(へ?プロテイン?)
「あ、ありがとう!」
違う友達からは、
「はい!小型扇風機」
「ありがとう!」
(こんなに高価な物いいの?)
と思ったがありがたく貰うことにした。
そのまま誕生日パーティ会は終わりを迎えた。
「今日はありがとう!」
お礼を言って時計を見る。
楽しさのあまりかなり長居をしてしまい。
(今3時30分か……)
待ち合わせと微妙な時間ね...一度家に帰ろうかな
そう思い家一度帰ることにした。
この誕生日パーティだけでかなり最高な誕生日だけど……まだ最高の時間が残っている。
零視点
4時30分そろそろ俺は公園に向かい始める。
「早めに着いた方がいいよな。」
数本のユキハナソウを持って公園に歩く。
(さっき調べたけど花言葉は複数あって”尊敬”という意味があるらしい、”君にまた会いたい”と比べたらこっちの意味で渡した方がいい気がする。)
公園が見えてきて、人の影が見える。
(来るの早くないか?まだ20分前だぞ?)
そこには愛芽が立っていた。
「愛芽...誕生日おめでとう!」
最初に俺はそう言う。
「ありがとう!で?なんで私を呼び出したのかな?
もしかして?告白……とか?」
ニヤリとしながら愛芽が言う。
「そんなわけないだろ!……これ誕生日プレゼント」
と言いながらユキハナソウを渡す。
「ありがとう〜!すごい嬉しい!この花ってあの時の?」
「ああ!愛芽に渡すためにあの時、花屋に行ったんだ。あの時少し無理やり帰した感じがあったのは愛芽にサプライズをしたかったからなんだ。ごめんな」
誤解をとくために真実を言う
「そうだったの?」
愛芽はびっくりしている
「この花の花言葉って……」
(もしかして知ってるのか?)
と思い愛芽が言う前に
「そう、”尊敬”だよ。少し変かもしれないけど、俺にとっては愛芽は命の恩人だし、卓球にとっても目標な存在だからな。」
「そっか...”尊敬”か...ありがとう!」
「あのさ私からも言いたいことがあるんだけどさ、」
「なんだ?」
(もしかしてからかわれるのか?)
「夏祭り!一緒に行かない?」
(夏祭り?まぁ行きたいとは思っていたけど、愛芽と?俺なんかでいいのかな?)
「ダメかな?」
俺が少し黙っていたので愛芽がそう言い出す。
「いや...一緒に行こう」
っと愛芽の暗い顔を見た俺は間髪入れずに自然に言ってしまう。
「やった!約束ね〜8月14日、水神神社で!」
さっきまでとは違って笑顔で言う。
「ああ!」
(もうどうにでもなれ〜)
と思いながら約束をする。
そう考えている俺の脳と違って心の底では嬉しい自分がいた。
第五章 崩壊
夏祭り当日
(へぇ〜花火もあるんだな…)
水神神社のお祭りは最後に花火もあるらしく、多くの屋台と多くの人で溢れかえっていた。俺は集合場所に向かおうとするが人が多すぎて前に進めない。
(これ...集合場所に行っても愛芽に会えるのか?)
そう思いながらも少しずつ前に進む。
すると、何故か人が避けていて人混みの中1つの間隔が空いていた。
(なんであそこだけ?)
俺はそこが集合場所の近くである会話が聞こえて来る
「君1人?一緒にお祭り回らない?」
「行きません!人を待っているんです。」
愛芽の声が聞こえたのでそちらの方向を見ると
「いいからさ!彼氏とかじゃないなら別にいいでし
ょ?」
っと無理やり愛芽の手を引っ張っている人がいた。
(あれってナンパってやつか?)
そう思うのもつかの間
かなり強引にその人は引っ張っており、さすがの愛芽も男性の力にはかなわずにいた。
次の瞬間俺の身体はその2人の方にとっさに動いていた。
愛芽視点
「おい!俺の連れに何か用か?」
「え...?零?」
私はその声にびっくりする。
「こいつがその待っていた人か?なぁ〜彼氏でもないなら今日はこの子とは俺が回るからまた来年来てね〜」
っと勝手なことを言っている...
(私は今日!零と遊びに来たのに!でも...このままじゃ零を危険な目に合わせてしまいそう……この人はその機嫌を崩せば暴力を振ってきそうだし...)
(私達には来年は無いのに...)
心の中でため息をつき、零を帰すために言葉を発そうとしたその時!
「彼氏だけど?」
と一言零はその男性に言葉を発する。
(!?)
もちろん1番驚いたのはその男性じゃなくておそらく私。零はそんなこと言ってくれるとは思っていなかったから。
……いや言っては、ほしかったかな。
「それで?まだなんか用ある?」
「こんな陰キャみたいなやつが彼氏だなんて……覚えとけ!」
そう言って男性は立ち去る。
次の瞬間私は手を掴まれて零に人混みとは離れた方向に連れてかれる。
落ち着いた私は、
「彼氏なの?」
っと聞いてみる。
すると零は
「ごめん勝手にあんなこと言って。身体と口が勝手に動いたというか……」
「それより、浴衣似やってるな!」
と話題を変えて言ってくる。
そう……今日はせっかくのお祭りなので浴衣出来たけど、あんなトラブルに巻き込まれるなんて。
「ありがとう!それと、零が助けてくれなかったらどうなってたことか...そっちの方もありがとうね!」
そこで零が少し暗いということに気づく
「どうしたの?少し元気ないけど?」
「さっきの人に”陰キャ”って言われた……」
(あ〜...これはだいぶ傷ついているやつ〜)
「まっ、気を取り直して夏祭りを楽しもう!」
そう言って私達はまずはお参りをしに神社に向かう。
(……彼氏とか浴衣綺麗だとか、少しドキドキしちゃった……なんか私がからかわれているみたいじゃん……)
私の頬は少し赤くなっていた。
零視点
俺は愛芽を助けたあと、そのまま神社に向かっていた。今でも愛芽を助けられたということに自分でも驚きを隠せない。
神社に向かっている最中少し愛芽の頬が赤い気がした。
(まさか...さっきの男性に暴力を?)
「愛芽!頬が少し赤いぞ?さっきの男性に何かされたのか?」
「え?大丈夫だし、別に何も...」
「大丈夫ならいいけどさ。」
そんな会話ををしながら、神社に着く。
「じゃあ参拝するか。」
(愛芽は何を祈るんだろうな〜)
そう思いながら二拝二拍手をして願い事をする。
(えっと、平和に暮らせますように!)
最後に一拝をして戻る。
「零は何を願ったの?」
「平和に暮らせますようにって」
別に隠すこともないので、普通に教える。
「愛芽は?」
聞き返すと愛芽は
「教えな〜い!」
(え〜気になるんだけど...まぁ無理に聞くのは良くないな……)
「じゃあ屋台を回ろうか!」
「そうね〜、決めた!私との勝負に一度でも勝ったらなんてお参りしたのか教えてあげる。」
(勝負か...何度目だろうか...)
「気になるし、その勝負乗るよ。」
「まずは……」
そこから俺たちはヨーヨー釣りや金魚すくい、輪投げ、ロシアンたこ焼きなどでたくさん勝負をした。
「いや〜全勝、全勝!」
(はい!綺麗に全敗しました!)
「愛芽...強すぎないか?」
「私にも得意不得意はあるよ?」
(本当かな〜?)
少し愛芽が俺を無理にフォローしている感じがして余計落ち込んでしまう。まぁ〜ありがたいけどな…
「じゃあ最後に射的で勝負しましょ?」
「望むところだ!」
(こうなったら最後は勝ちたい!)
そう思いながら愛芽と零は射的屋の前に着く。
「先に俺がやるよ!」
「多く取った方が勝ちね?」
「わかった!」
そう言いながらお金を渡すと
「まいど!彼女さんにいい所見せなよ?」
っと店員さんが言ってくる。
「彼女じゃないです。」
否定すると愛芽が
「彼女じゃないの?」
っとからかってくる、そんな愛芽をスルーして、先手を取った俺は5回分の弾を貰う。
一発目
ポンッ!
と甲高い音を立てて飛んでいく。俺の狙いは小さい景品で数をとる作戦、
小さい景品が集まった場所に当たった!...が落ちない
「惜しい、当たったけどハズレね〜」
隣で愛芽が煽ってくる。
「まだ一発目さ」
そう言いながら二発目を撃つ。だがこれもまた当たるが外れる。そこで店員さんが
「こっちの所空いたから彼女さんどうぞ」
「だから彼女じゃないし...」
俺は少し小声でつぶやきなながら愛芽も射的を始める。
(あと三発...)
もう一度同じところを狙うと……ここで奇跡が起きる。さっきからの蓄積があったからか...連載して一度に落ちる。
「おお〜!彼氏さんおめでとう!」
(もうツッコミはしないぞ...)
店員さんから小さいラムネを3つ貰う。
(よし、ここでリードしたし、でかい景品を狙ってみるか...)
っとぬいぐるみを狙う。
(この波に俺は乗る!)
ーーーーーーーーー。
「惜しかったね〜また来てね〜」
(取れるわけなかったよね〜知ってた。)
普通に小さい景品狙っとけば良かったとあとから感じる。
そんなことを考えていると隣から歓声が聞こえる。
「おめでとう〜!」
愛芽が景品を貰っている。
「お嬢さん上手いね〜」
と店員さんが褒めている。
(この歓声と店員さんの褒め方は俺の負けか...)
「お待たせ〜零!何個取った?」
「………3個」
と言ってラムネを出す。
「え?私2個だ〜負けちゃった!」
(え?絶対嘘だろ?)
「本当は?」
「本当に2個」
っとラムネを2個出す。
「あ〜あ私の負けか...」
「私の願い事言うね?」
まだ混乱している俺を前に愛芽は言う。
「私はね?零と付き合えますようにって願ったんだぁ〜」
……………。
「え?」
(いや、これは嘘だ!俺の事をからかっているだけだ。)
「本当だよ〜」
少しニヤリと笑った後に愛芽は真面目な顔に戻る。
愛芽は真面目な表情になって俺と面になって話し出す。
「本当だよ?私は君のことが...好きなの。」
そう.....俺に言う。
ヒュ〜、…………ドンッ!
その瞬間花火が上がる。
丁度花火を打ち上げる時間になったらしい。
そんなことより……
(俺のことが.....好き?)
「誰が?」
何が起こってるか分からなくてとっさに俺はこう言う。
「だから、正心 零くん!君のことが好きなの...……」
俺の心の中は二つの意見が混じっていた。
(正直な気持ち、すごく嬉しい。もう自分にも嘘はつかない今にでも”俺も好き”と言ってしまいたい。最初は少し、からかわれるのが嫌だった。でも……途中から心の隅で好きという気持ちが出てきて、それは今では大きく広がっていた。)
けど………
(もう一つの気持ち、愛芽の父親について、最初に文化祭出会った時言われたこと...)
文化祭の時ーーー
「愛芽にこれ以上関わるのやめてもらってもいいかな?」
(!?)
(何を言っているんだ?この人)
「いやすまん...関わるなではないな...付き合ったりしないでくれだな。」
「私たちは夏休み最終日に海外に引っ越すんだ。君も別れが苦しくなるだろうから今のうちに言っておく」
(ーーーーーーそう海外に引っ越す...今ここで付き合ったら別れが苦しくなるのは……今になって分かる。あの時からあの人は助言していてくれていたんだ...
あの時はもちろん信用出来なかった、けれど、保健室に愛芽をむかえにきたのは彼だった。あれで、信用性がかなり増した。)
ここで俺はひとつの説を考える
愛芽は父親から引っ越すことを伝えられてない...?
(俺が愛芽の立場なら”絶対”に告白はしない、なぜなら俺が苦しくなるのはもちろん、愛芽を余計悲しませることになるからだ.....)
(愛芽はものすごく良い人だ...だから分かる。知っているなら彼女は俺に告白をしたりしない……)
そこで俺の思考は1つの考えにまとめる。
「………………ごめん、愛芽とは付き合えない...」
そこでまた花火が上がる
(ごめん...愛芽...君のためなんだ!)
「そっか.....」
愛芽の目には涙があった。
そこで愛芽はその涙を隠すように、俺の前から消える。
「愛芽!!」
呆然とする俺
(これで良かったんだ……これで...。)
涙が出てくる。
「感謝するよ零くん...」
背後から声がして後ろを向くと愛芽の父親がいた
「すまない...君には辛い役をさせてしまった。」
「……それより見てたんですか?」
涙を流しながら俺は聞く。
「本当にすまないと思っている。偶然君たちを見かけてね」
(本当に偶然だったのだろうか...?そんなことはどうでもいい)
俺は睨みながら思いのまま叫ぶ
「あなたのためじゃないです!!俺は愛芽のために断ったんです!!」
「そうか...すまなかった。」
愛芽の父親は深々と礼をする。会釈などでは無い最敬礼で……
「もういいです!もう俺に関わらないでください!」
そう言って後ろを向く………
(!?)
…………………………そこに人が立っていた。
「そっか.....私のお父さんが裏で何かしてたんだ...」
後ろをチラ見すると愛芽の父親も驚いた顔をしている。
「いつから聞いてたんだ?」
”愛芽”に俺は聞く……
「さっきの零が私のためって言ってくれた所ら辺...かな?」
「ごめんね理由は分からないけど!私のお父さんが...」
愛芽が謝ってくる。
「愛芽は...悪くない!」
俺は言う、
「そうだ!私のせいだ!」
続いて愛芽の父親も言う。
「とにかく後でお父さんには問い詰めるとして.....」
「仲直り...しよ?」
愛芽は俺の手を握る。
俺は泣きながら...
「ああ……」
と答える
「いつもより君の手は暖かいね。」
(愛芽は強いな.....本当に...さっき俺が振ったばっかりだってのに、父親にも隠し事をされていたというのに。)
「帰るよ...お父さん!」
怒り気味に言いながら
「じゃあね!今日は楽しかったよ!」
その愛芽の笑顔には泣き跡が付いていたそれに気づいて俺の胸は痛くなる
「また……」
愛芽達と別れた俺は少し呆然としていた
理由は……
俺の心は”好き”という本音を伝えられなくて...
モヤモヤしていたから……かな?
いや……
愛芽にあんな気持ちをさせてしまったから……
第六章 君の手は暖かい
あの後愛芽との音沙汰はなく、夏祭りは終わり...夏休みは終わりに近づいてきた。
連絡先を交換した大輔さら1件のメッセージがきていた。
「明後日予定が空いていたら、1泊2日で海に行かね〜?この夏最後の思い出として」
(明後日、明明後日か…...特に予定は無い、部活もないでも、あんなことがあったし気が乗らない……けどせっかく大輔が誘ってくれたから断るのも申し訳ない。)
考えのすえ
行けるぞ
っと送ると
よし!じゃあ明後日9時に○○駅に集合な!
その大輔のメッセージに俺は了解のスタンプを送る。
(そういえば俺、海行くの初めだな……)
当日……
遅刻をせず!雲ひとつない快晴!
朝起きてスマホを見ると...
私も大輔くんに誘われて今日海に行くんだけど...前のこともあって少し気まずいかもしれないけどいつも通り接しようね
と連絡が来ていた。
(嘘だろ〜?まだ時間経ってないし、愛芽の方が辛いだろ?でも……今更断るなんて...)
ドタキャンは悪いためやむを得なく、了解スタンプを送った。
(大輔は良い奴だから俺にサプライズだったんだろうな...夏祭りの事を知らないから大輔は悪くない。)
その後すぐ俺は家を出る。
信号に引っかかることも無く集合場所に向かう。
そのおかげか割と早くついたな…
15分前に着く。
まだ誰も来ていない。
(あれ?これって、海が楽しみすぎて早く来たって思われて愛芽にからかわれるんじゃ?)
そう考えた俺は、
(9時ぴったりにこの場所に来るように少し歩くか…)
そうして少し集合場所から遠のく。
愛芽視点
「あれ?零まだ来てないのか?」
大輔くんがそう言う
「あれ?本当だ!」
私は来る途中に大輔くんとばったり会いそのまま一緒に駅に向かっていた。
「あいつ遅刻するんじゃないか笑?」
「まだ10分あるし、分からないわよ?」
そこで私は1つの説を立てる
(零、やっぱり夏祭りのことが気まずくて来るのをやめたのかも...)
と心の中で思ってしまう....振られた側も辛いけど...お父さんのせいとはいえ、振った側もやはり心には残るものだと必要以上に心配になってしまう。
(やっぱり心配だなぁ...)
と思いながら時計を見る
集合時間まで残り5分……
一方、零視点
「おかしいなぁ〜あれ?こっちだっけ?」
(やばい…道に迷った、後5分か…)
時計を見て確認する。
(あれ?これ裏目に出て今度は遅刻でからかわれるんじゃね?)
少し走るか…っと思い急ぎ出す。
(周りの人に道を聞けばいいが…陰キャには少しきつい。)
とか道に迷っている間に残り3分を切る
そこで駅への看板を見つける
(!?)
「よし…」
俺はその方向にかけ出す。
愛芽視点
「来ないわね…」
私が心配そうにつぶやく
「ああ……寝坊か〜?」
(逆にそうだった方が嬉しい)
と思ってしまう。
「あと1分だぞ?連絡も来ないし、プールのこともあったし少し心配だな。」
「大輔くんはそう思う?」
どうやら大輔くんはプールの方で心配していたようだ。確かに私もそっちの意味でも心配だ。一度溺れたのがトラウマになってしまっているのかも……
「親友として無理に連れて行くことは出来ないしな…」
「確かにそうね…」
9時になる。
「もう少し待って連絡も来なかったら、電車時間もあるし2人で行きましょうか…」
零視点
(駅が見えてきた!でももう9時…)
「あと少し…」
大輔と愛芽が見えた!
「おぉい〜2人とも!」
その声で2人は俺に気づく。
からかわれると思っていたが…
(あれ?)
2人とも俺を笑顔で見つめる…
「良かった!零…!」
そう愛芽が笑顔で言ってくる。
「俺遅刻したんだぞ?からかわなくてもいいのか?」
とつい質問してしまう。
「いいのよそんなこと…来てくれてよかった!」
「ああ!」
愛芽の言葉に大輔も頷く…
「で?遅刻の理由は寝坊か?」
「……迷子(小声)」
「え?」
驚きのあまり大輔が声をあげる
「その歳で〜?」
(やっぱりか…)
「てかなんで連絡しなかったんだ?」
「あっ…忘れてた」
スマホを見ると通知が溜まっている。
そこで俺は、今の時間に目がいく。
(あれ?電車の時間って…)
「やばい!電車が来ちゃう!」
腕時計を見た愛芽が叫ぶ
「急ぐぞ!」
(あれ?なんか助かった?)
と愛芽と大輔の背中をついて行く…
(はぁ……はぁ少し体力が落ちたかな?)
そう思いながら駅のホームに向かう。
俺たちは朝早いってこともあり、席に座ることができた。
(ここから6駅ぐらい待つことになるな…)
「そうえばホテルの予約は大輔がしてくれたんだよな?ありがとうな!」
「ああ、俺と零は同じ部屋で愛芽さんは1人部屋で予約したぞ。」
そこで
「まもなく〜○○駅〜」
(この駅は発展している街だかたくさんの人が乗ってくるはず)
予想通り多くの人が乗ってくる。
そこでおじぃさんが空いている席がないか探していた。
(ここは席を譲るべきかな)
と思い声をかけようとすると…
「ここの席座ってどうぞ!」
という愛芽の声が聞こえてきた。
だが…愛芽が席を座った瞬間……
「ラッキー」
と若者が割り込んで座る。
(最悪だな…)
「ちょっと?そこはあのおじいさんに譲ったのよ?」
「知らないね〜」
若者は席を譲る気はない。
(これ以上もみてもしょうがないか)
「おじぃさんこっちの席を使ってください!」
「おじぃさんこっちの席を使ってください!」
俺に合わせて大輔も言う。
「大輔は座ってな、俺が立つよ」
俺は大輔には座っていてほしい
今回色々予約とか諸々大輔はやってくれた感謝の意味で。
「そうか?お前がそういうなら…」
そう言うと俺はおじぃさんに席を譲り
「ありがとうね!そちらのお嬢さんとお兄さんも」
俺と大輔と愛芽の方を向きお礼を言う
(愛芽は立ち損になっちゃったな。)
「まもなく〜○○駅〜揺れが起こるため、近くの物にお掴まりください。」
周りに掴むもの…そこで席の上についている手すりを掴む。
キィーーーーという急ブレーキの高い音に電車車内が縦横無尽に揺れる。
(!?)
愛芽が俺の服の裾を掴んでいた。
「ごめんね…掴むものがなくて倒れそうになったから。」
(それはしょうがない……問題はそこじゃない。いつもならからかってきそうな所だが、すぐに離れたことだ……)
「次は〜○○駅〜」
「おっ!着いたな。」
そこで俺たち3人は電車から降りる
俺達の町とは違って空は曇っている。
(それよりも…初めての海だ!)
「まずはホテルに荷物を預けに行くぞ〜」
っという大輔について行く
荷物を預けたあと
「海だ〜!」
(広いな…)
「子供みたいね笑」
(愛芽の言葉を聞き流す、仕方ないだろう?初めて見たんだから。)
「私は今回も泳がないから零と待ってるわ。大輔は泳ぎに行ってらっしゃい。」
(あれ?3分の2が泳げないのに俺たちなんで海なんか来たんだ?)
今になってそう思う。
「そう言うと思ってな…ビーチバレー用のボールを持ってきたんだ!これならみんなで遊べるだろ?」
「さすが大輔。できる男!」
「ちょっとまってて」
と愛芽が何かを薄い上着から取りだし肌に塗り始める。
「なんだそれ?」
気になった俺は愛芽に聞く
「え?ああ…”日焼け止め”みたいなものよ」
(こんなに曇っているのに?)
「そうなのか。」
(ここまで曇っていてもやっぱり女子はそういうの気にするんだな。)
「よし、これでオッケー行こう!」
砂浜に行くと……
「3人しかいないしラリーをやろうぜ!」
その後俺たちはビーチバレーを楽しみ。
砂浜で砂の城を作り、海鮮丼は食べてとても満喫していた。
日が沈みかけた頃、ホテルに向かう途中
ブーブー
電話の音が聞こえる
「誰か電話鳴ってるぞ?」
俺が言うと愛芽と大輔がスマホを確認し出す
「あ…俺だ」
大輔が電話に気づく。
「少しここで待っててくれ〜」
「了解〜」
大輔はすぐに戻ってくる…けれどいつもと少し違って暗い顔をしていた。
「さっき電話で親父が倒れたって連絡が来た…俺はこのまま帰る。ごめんな!俺が誘っておいてさ、しかも夏休み最後の思い出作りだったのに。」
自分の親が倒れてしまったら当然優先する。
大輔にも親を優先して欲しい。
「仕方ないよ!大輔の父親の無事を祈るよ」
「そうよ…ここから病院まで距離は大丈夫?」
と愛芽が心配しながら聞く…
「電車で1駅先だからすぐに着く、心配してくれてありがとうな2人とも!悪いがここからは2人で楽しんでくれ。早めに事が済んだら戻ってくるから荷物はホテルに置いておいてくれ。」
俺と愛芽は大輔の背中を見送る。
(あれ?これって……ものすごく気まずい状況では?)
「無事だといいな」
俺がそう言うと
「そうね…とにかく連絡を待ちましょ」
すぐに会話は終わってしまう。
その後、俺と愛芽はホテルに着く
ホテルの人に大輔の事情を説明した後、部屋に向かおうとした時に突如ホテルの人に止められた。
「すいません。先程お電話で急遽このホテルに泊まりたいという人がいまして、ホテルの部屋が空いてなかったため断ってしまったのですが……おふたり方の部屋を一緒にして1部屋分お譲りすることは可能でしょうか?もちろんお詫びとして値引きはさせてもらいます。こちらの勝手であることは承知でお願いします。」
との説明を受けた。
(それって俺と愛芽が同じ部屋になるってことだよな?さすがにあんなことがあった後に?いや普通に男女2人きりでも気まずい……けれど人を助けることだと思えば……)
俺は流石に迷ってしまって何も言えない
すると愛芽が
「大丈夫ですよ!」
「ね?」
と俺の方を向いて笑顔で言ってくる。
「まぁ……」
曖昧な返事をしてしまう。
「本当にありがとうございます!」
深々とお辞儀をして鍵を1つ渡し、愛芽と大輔の荷物を移動させに行く。
ホテルではトランプをした。
2人でやることなんてスピードぐらいだ。
それにしてもとても気まずい空間が広がっていた。
そりゃあ夏祭りにあんなことがあったからな……
途中大輔から電話があった。
父親は無事で朝には戻ってくるらしい。
そしてやがて…消灯の時間となった。
「まだ……起きてる?」
そんな愛芽の質問に
「ああ」
と短く返事をする。
「少し話をしよ?」
「突然だけど、なんで私が入学式初日から異常なまでに馴れ馴れしかったのか分かる?」
「わからない……」
本当に俺には身に覚えがない……
「それはね、何故か君に親近感が湧いたからかな?そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないし、私にもよく分からないや笑」
「なんだ…そりゃ。」
急に眠気が襲ってくる
「そっか…零は覚えてないのか」
そんな愛芽の小さな小言が聞こえてそのまま眠ってしまう。
俺は目を覚ます。
太陽の光が差し込んでいる訳ではなく…まだ夜中だということを察し、ふと隣を向く。
(あれ?愛芽がいない…)
布団から飛び起き、暗いため手を伸ばして当てずっぽで自分の薄い上着を探し、掴む。
(あった!)
俺はその薄い上着を着ながらホテルの外に出る。
走って愛芽を探し出す、
海の方に1人の女の子が立っていた…
心の中で安堵した俺はその女の子にゆっくりと歩み寄る。
「風邪ひくぞ〜」
俺は着ていた薄い上着を”愛芽”の肩にかける
「貸してくれるなんてやっぱり優しいね!なんでこんな夜中に?とか聞かないの?」
とても明るく愛芽は言う。
「愛芽にも事情があるんだろ?」
俺が聞くと案の定
「うん…少し……寝れなくてね」
と愛芽が答える。
少しの間の後愛芽が何かを決心したかのように口を開く
「零…私……引っ越すんだ…外国に。」
強い風の音とザブーンという波の音が響くほどに空気が静まり返る。
愛芽は風に上着が飛ばされないように抑える。
「だからあの時零は私のために”告白”を断ったの
ね?」
愛芽は俺に聞く。
(やっぱり愛芽は知らなかったのか……)
「なんで零が…泣いてるの?お父さんから聞いてたんでしょ?」
(泣い……てる?)
愛芽に言われて初めて気づく、
「だって…友達だから、寂しいに決まってるだろ?ずっとこんな日常が続くと思ってたから…」
(あらためて聞くと本当に引っ越してしまうんだと思い……やっぱり悲しい……)
少し顔が笑顔になった愛芽が
「隣……座りなよ。」
と言い、言われた通り隣に座る。
「この前の夜帰ったあとお父さんに言われたんだ。」
(あの人が言っていたことはあらためて本当だったのか…いや、本当だということを知っていたがそれを否定している自分がいたのかもしれない……)
「そうなのか…」
波の音が鮮明に聞こえる…それほどまでにぼーっとしているのだろう。風と波が先程より強くなっている気がする。
「あの時、零が断ってくれなかったら私はきっと辛かったと思う。こういうのはなんか変だけど...ありがとね。」
俺の心臓は痛む。反射的に俺は左胸を掴む。
「ごめんな...」
俺は謝る。
「いちばん辛いのはお前なのに……」
その言葉に愛芽はニコッと笑い
「日本に心残りがあるとすれば2つかな…」
「話は変わるけど…私さいつもちょっと小さい折り畳み傘を使ってるじゃん?あれ…昔名前も知らない子に貸してもらってから、その子が誰かわからなくてずっとその子に見つけて貰えるように使ってるんだ!」
そう言って俺の方をちらっとみる。
「そうか…」
確かに愛芽はいつもあの折り畳み傘を使っている
「見つけて貰えるといいな…」
「うん……」
俺が言うと愛芽は少し暗く答える。
「あと一つは……」
そう愛芽が言いかけた時に
「へっくしょん!」
大きなくしゃみを俺はする…
ニコッと笑った愛芽が
「戻ろっか!」
そう言いながら薄い上着を俺の肩にかけ返し、その時何か腰に当たった気がした。
「そうだな…」
(しんみりしててもしょうがない今はこの日常を楽しもう!)
そう思い、愛芽に微笑み返し、愛芽の背中を追った。
その時……波が高くなって愛芽を飲み込む。
ザブーン!時間差で俺の耳にその音が伝わる。
(嘘ださっきまであんなところまで波は来てなかった)
「愛芽!!」
俺は…そう叫びながら愛芽のいたところに走る
最悪だ!
風はさらに強さを増し、豪雨現れ初め、やがて嵐となる。
暴風に足を持ってかれそうだ!
(なんでこんなに天気が急変し……)
「!?」
波に飲まれる愛芽の姿を見つける。
「今度は俺が助ける番だ!」
俺はスマホを取り出し
「すいません…………」
急いで俺は119番通報をする。
「絶対に到着を待ってくださi……」
そこで電話を切る。
その後スマホを薄い上着の中にしまい、パラソルのある砂浜に投げ捨て、海にあらがっていく。
スマホをしまった時に手に硬いものに当たったが気のせいか?
泳げないやつが荒れた海に行くなんて普通なら自殺行為でも……
「泳げないなんて関係ない俺は…行かなきゃいけない理由があるんだ!」
フォームなんてなっていない泳ぎ方だろう…だが、俺のその思いだけで着実に愛芽に近づいていた。
「零!戻って…ゴブッ…このままじゃ2人とも……」
と弱々しい声が聞こえてくる
「俺は死なない!お前と約束しただろ?」
俺はあの時のことを思い出す。
「もう死にそうになんてならないで...これは文化祭の勝負の時の願いよ!これは絶対に守ってね!」
「ああ...」
ーーーーーー叫びながら泳ぎ続け何とか愛芽の手を掴む。そうして運がよく何とか陸に戻ってくる……
パラソルを開こうと思ったがこの風と雨じゃ意味をなさないため急いで近くの屋根のある場所に避難する。
愛芽の意識はギリギリだがあるようだった。
「バカ……無茶して……」
そこで俺は海から出て初めて気づく……
「さっきの……もう一つ……やり残したことは...君に隠し...事を……していたこと...かな...」
そうして愛芽はニヤッと笑う。
「私は……軽い水アレルギー…………なの。」
その言葉に俺は今までの思い出が頭の中に浮かぶ
最初から雨は避けていた、初めて一緒に帰った日……
そのほかにも、
折り畳み傘をいつも持っていたこと……
プールの時に見学していたこと……
プールの日の事件の時、先生が怒っていたのこと。
全てがつながり...涙が出てくる。
「軽いと言ってもこんなに濡れちゃもう助からない..プールの時みたいに塗り薬があれば良かったけど……夜中に抜け出してきたこともあって…………何も持ってない……」
その後真面目な顔になって
「もう……助からない!」
とキッパリ俺に言う。
「バカそんなこと言うな!さっき救急車を呼んだから大丈夫だ!」
俺はその事実を否定してしまう。
「ああ...やっぱり好きだなぁ……君のそういう...ところ……。あなたも……気づいているでしょ?零の手って...こんなに暖かいのね……」
涙が出ている愛芽が言いながら意識を失いかけているのが分かる。
(愛芽の手が俺の手より冷たい?)
このことを海から上がった時からずっと否定したかったのかもしれない……海の水や雨の冷たさが影響しているだけだと……勝手に思っていたのかもしれない。
「どうしてだろうな?愛芽……”君の手は雨より冷たい”……」
その時の俺の声と手は震えていた。そして涙が止まらず出てくる
そう……愛芽の手が冷たいんだ……。
雨よりも……冷たい俺の手よりも...…...…。
(何とか助ける方法はないのか……何か..…塗り薬!!それさえあれば助けられるのか?)
「……どうする...気?」
愛芽に聞かれ...
「ホテルにある塗り薬を走って取りに行く!」
そう答える。
「無謀よ!零も……安静に...してなきゃ...それに、もう……私は永くない...」
(くそ...!確かに今から走るなら救急車を待った方が早い、でもそれじゃダメなんだ...。…でもやらなきゃ!)
そう決心した俺は駆け出す!
だが、何かに足を取られ...転びそうになる。俺は地面に目を向けると……
ドッカーーーン
と雷が轟音で鳴る。雷の光で周りが少し明るくなり
あることに気づく…
(これは……俺の上着じゃない……愛芽のだ!)
さらにもう一つ愛芽は”日焼け止め”と言っていた”薬”をお昼の時、ポケットに入れていた……それに…
(あの時愛芽は俺に聞かれて動揺していた……水アレルギーを隠すことと同時に”ぬり薬”であることを俺に隠すためでは無いか?だから咄嗟に曇っていたにも関わらず”日焼け止め”と言ったのか?)
これはもう…”賭け”だが、これにかけるしかない。
俺はすぐにポケットの中を確認する。このポケットの中にはスマホと……
(!?)
予想通り塗り薬が入っていた。
「これか!?これなのか?愛芽!」
愛芽はもう気を失っている...
愛芽が日焼け止めと言っていたものだが...今はこれが薬だと祈るしかない...
(頼む!!!)
雨と風がやんできた……
一か八か塗り薬を塗り始めていた俺は...
「好きなんだ……愛芽のことが...」
俺の言葉は響いていた。愛芽は気を失っているけど、俺は続ける。
「夏祭りの時、事情があって断ったけど、自分の気持ちに嘘はつけない!最初はからかわれてばかりで本当にそんな気持ちはなかった...けど...今は愛芽!千堂愛芽、君のことが好きなんだ!」
これは、愛芽の父親との約束も破ったことになる。愛芽は気を失っている..全く聞こえてないかもしれない……でも不思議と後悔は……...ない!
塗り薬を塗って薄い上着を愛芽にかける!
「上着、返すな……」
(頼む生きてくれ!)
その後...
すぐに救急車がやって来て中から何人か人が出てくる。
「大丈夫ですか?意識がない!担架をもってこい!!」
「はい!」
そんなやり取りを救急車から出てきた人の1人に毛布を肩にかけられながら聞いていると……
「心臓は?弱ってきている!」
っという言葉が聞こえてきた。
俺の体はもう疲れきっていてさっきまであまり動かなかったはずだが...謎の力が俺の背中を押し...愛芽の所に駆け寄る。
「動いちゃダメです!君もあの海に入ったとなると危険な状態だ!」
そんな声が聞こえるが今はもう何も考えない。
「愛芽は!愛芽は助かるんですか!?」
そこまで言い切って俺は急に限界が来て膝を砂浜につける。
「急ぐので下がってください!」
「あなたも病院に来て見てもらいます。担架で救急車に運んだ後救急車に乗ってください。」
さっきの人にそう言われた俺は支えられされながらも、何とか救急車に乗る。
(愛芽...!)
俺の手は震えていた。毛布をかけてもらってもう寒くはない。なのにずっと震えている。
「手を握ってあげてください。」
救急隊員にそう言われた俺は……
「……」
動かなかった。
(愛芽の手がさっきの時より……俺の手より冷たいかもしれない……)
そんな思いが俺の手を鉛のように重くしたのだろう。
(愛芽が危険な状態であることを再認識したくなかった... …今はただ……...怖い...)
「零……...」
微かにそう聞こえた...
(今の声は間違いなく愛芽!)
「愛芽!意識が戻ったのか?」
「な...に?その……か...お……は」
もう愛芽の顔はものすごく真っ青になっている。
「もう無理して喋るな」
そう言ったが...愛芽はまた口をわずかに開く
「もし...かして……怖い...の?わ...たしが...しぬ.....の…….....が...」
いつも俺をからかう時の表情をしている愛芽に対して俺の顔は……
「さ……っき……の……...こ……...と……」
そこで愛芽の声が聞こえなくなると同時に
ピーーーーーーーー!!
(!!?)
「下がってください!心肺停止状態!これから心肺蘇生法を始めます!いち!にっ!さん!……」
呆然とする俺を後ろに追いやり心肺蘇生法を始める。
他の救急隊員は
「病院まで残り3分です!」
「すでに病院側の手術の準備整いました!」
と慌ただしくなっている。
(手術?心肺停止?冗談だろ?.....また俺をからかってるだけなんだろ?)
俺の前には涙しか見えなかったーーーーー
ーーーー今は病院に着き、そのまま愛芽は手術室に運ばれ診察を受けた俺は”手術中”の赤いランプが光った手術室の前の扉の前にある椅子に俺は座っていた。
落ち着いてはいられないけど今俺に出来ることはない。冷静を何とか保ちながら大輔に電話をしていた。
「おい!事情は分からないが、愛芽さんは大丈夫なのか!?俺もすぐに行きたいけど、違う病院で...時間がかかりそうだ。」
「今は手術中だ……どうなるか分からない...」
声が震えているしスマホを持つ手も震えている。
「お前は近くで見守れよ!」
「分かってる...」
そう言って電話を切った。
俺は下を向く。
そこで深夜の静かな病院の廊下に足音が聞こえてくる。
隣に誰かが座る。
「君には本当に辛いめばかりに合わせているな...。私のやることは全て裏目に出てしまう……私は……愛芽を……守りたいだけなのに……」
”愛芽の父親”は泣きながら聞く
「愛芽はどうしてこんなことに……?」
「夜中に海で話していたんです...そんな中風が強くなっていき、急な嵐が俺たちを襲いました。その後すぐに波が愛芽を海に引きずり込み...何とか助け出すことが出来ましたが…………水アレルギーとかで...愛芽が...」
愛芽の父親は
「そうか……君が助けてくれたんだな。 本当にありがとう...」
(助けた?いやまだ愛芽は……)
そう思いながら
「まだ……ちゃんと助け出すことが出来てないです...。」
っと思ったことを言う。
愛芽の父親は一度落ち着いてからもう一度口を開く。
「愛芽の話をしよう。愛芽は水アレルギー治るはずがないと言われている病だ……...幸い軽い水なら大丈夫だが...妻は……”愛芽の母親”は重度の水アレルギーで、数年前に亡くなってしまった……。」
俺は目を見開く
(愛芽の母親も……?しかも……亡くなった!?)
愛芽の父親は続いて話す。
「軽い水アレルギーでも雨に濡れる程度でも身体に異常が出てしまう……だからその症状を軽くする塗り薬で今まで耐えてきたんだ。」
「けれど、最近海外でその治療法が発見されたんだ。
だからその治療を受けるために、海外に行くことを選んだんだ。」
(そうだったのか……だからあんなに文化祭の時必死に……)
そのまま愛芽の父親は話す。
「昔も一度雨の日に重症化したことがあってな……名も知らぬ少年が傘を貸してくれなかったら……残念ながら今ここにはいなかっただろう。」
(その少年ってさっき愛芽が言っていた子かな?)
俺はそう考える。
「すまない...君には関係ないな……なんでだろうな?何故か今は昔のことを思い出してしまう……」
そのまま愛芽の父親は黙り込んでしまう。
(愛芽は助かるのか……。)
そう思った時、
赤いランプが緑色のランプに変わる。
その瞬間コツッコツッっと医師が一人扉が開き、出てくる。
俺と愛芽の父親は立つ。
俺の心臓は破裂しそうなぐらいに、
ドクンッドクンッという音が繰り返し鳴っていた。
医師はゆっくりと口を開く。
「…………手術は………成功しました。」
俺は膝を着く……
「本当に...よがっだ!」
泣きながらつぶやく。
愛芽の父親はひたすら
「ありがとうございます」
と医師に言う。
(愛芽が助かった……)
「ですが本当に危ない状態でした……あらかじめ塗られていた薬の効果が無ければ……残念ながらアレルギー反応を抑え切る前に彼女は亡くなっていたでしょう。」
(一か八かで塗った薬は予想通りアレルギーを抑える薬だったのか……良かった...)
「とにかく、まだ目を覚ましていないので目を覚ますまで傍にいてあげてください。」
そのまま愛芽を病室に運び、俺達も移動をする。
俺は大輔に電話で伝えてから向かった。
ゆっくりと時間が進む……
「すまない...零くん、仕事を抜け出してきたので仕事場に連絡をしに行かなくては……」
「分かりました……」
俺がそう言うと愛芽の父親は席を外す。
しばらくの沈黙の後……
「れ……い...」
一つの小さな声が聞こえる。
そこまで長い時間は経っていないはずなのにとても懐かしく思う。彼女の声……
「愛芽!」
俺は叫んで愛芽のベッドに近寄る
「助けて……くれて...ありがとう!」
「俺も一度命懸けで助けてもらったんだ……お互様だろう?」
俺は涙を流しながら言う。
真実を知った今なら、あの時愛芽は本当の意味で”命懸け”で助けてくれたことが分かる。
「手を……握らせて?」
愛芽に言われた通り俺は愛芽に手を伸ばす。
そのまま愛芽の手を握る。
俺は涙を流しながら笑顔になる。
(愛芽の手が俺より暖かい……)
俺はあらためてほっとする。
「君の手はやっぱり私の手より冷たいねぇ……」
途切れ途切れだった声が直り、愛芽は笑顔で言う。
「当たり前だろ?俺の手は”愛芽”より冷たいんだから……」
俺は苦笑いしながら言う。
そう言って、あらためて……言わなきゃいけないことがある。それを言う…
「俺は……”千堂愛芽”のことが好きだ...もし良かったら付き合ってください!」
その言葉に愛芽はニコッと笑い
小さく
「やっぱり……あの時のは聞き間違いじゃなかったんだ」
とつぶやく
愛芽は笑顔で……
「よろこんで!」
っと言ってくれるのだった。