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ラーメンはこってり派?あっさり派?

作者: 星海 凪咲

深夜二時、今日も仕事帰りの疲れた体を引きずりながら蛍光灯の光る道路を歩いている。

 大通りを歩き少ししたところで脇道に逸れ、しかし手慣れた様子で進み続けるとひっそりとたたずむラーメン屋がある。


 ――角部屋亭


 その名前に反して通路のど真ん中に居を構えるそのラーメン屋は現在、俺の行きつけの店だ。


 光の漏れるガラス張りの引き戸をガラガラと開けると店内には店長と数名の客がいた。

 店長はもちろんのこと数名の客といってももはや毎度の見慣れた顔ぶればかりだ。


 「いらっしゃい、空いている席へどうぞ」


 そう促されるままに座るのはいつもの特等席、店長の前のカウンター席だ。


 「豚骨ラーメン、背油追加、ネギトッピングで」


 注文も手慣れたものだ。

 いつも同じメニューをほぼ毎日のように頼んでいるせいか俺が注文を入れる前に店長はラーメンを作り始めていた。


 ここ角部屋亭に通い始めて早半年。

 毎日のごとく残業の中、趣味の無い俺の数少ない癒しのひと時だ。


 充満するスープのにおいに空気に混じった油の感触。

 正午を回った深夜にカロリーマシマシのラーメンという悪魔的な魅力は疲れ果てた心身には砂漠の中でオアシスを幻視するかのようだ。


 頭の中で考えを巡らせていると目の前にドンと大きなどんぶりがおかれた。


 「豚骨ラーメン、背油追加、ネギトッピング一丁」


 立ち込める湯気にラーメンのにおいが混ざる。

 鼻の中から脳の中枢まで突き抜けるように豚骨ラーメンの豚が駆け抜けていった。


 ――これだよ、これ


 そう思いながら準備をしてあった割ば箸を割りひと思いに麺をすする。


 ズゾゾゾゾッと口の中いっぱいに麺を吸い込む。

 

 麺をすする、スープを飲む、水で口の中を洗い流してリセットする。

 これをワンセットとして食べ進めていく。


 夢中で食べ進めて最後にはスープを一滴残らず飲みほす。

 ここまでを休憩なしで行って初めて一息をつく。


 ――今日もやっぱりうまいな


 腹いっぱいラーメンを食べたことで少しボーっとしながらも腹ごなしの休憩とばかりに回りを見渡す。


 角部屋亭の一番奥、四人掛けの机のさらに角の椅子に座りながらチャーハンを食べている眼鏡の男がいる。

 あいつはチャーハン。名前は知らないけどいつも見かけるとラーメンを食べずにチャーハンばかり頼んで食べているからチャーハンと呼んでいる。


 入口に一番近いカウンターに座っているOL風の女。

 あいつは特盛。同じく名前は知らないけど小柄な女性には多いであろう特盛を必ず食べている女だ。


 あとは、俺の正面で座りながら備え付けのテレビを眺めている店長。


 ここにいる店長に客二人。

 以上が毎回角部屋亭で見かける人であり、これ以外の人を俺は見かけたことがない。

 そんな穴場ともいえるラーメン屋に通っているのは俺の残業終わる深夜二時ごろで開いているラーメン屋はここしかないからだ。


 「なぁ、兄ちゃんは豚骨ラーメンが好きなのか?」


 不意に店長から声がかけられた。


 「えぇ、何と言いうか油を摂取してるってかんじられて、とても好きです」


 「そうか、兄ちゃんはこってり派なんだな」


 こってり派、考えたこともなかった。

 ここで一つほかのラーメンのことを考えてみる。


 塩ラーメン、あっさりとして塩味の効いたスープはシンプルでありながらも確かに癖になる味に仕上がっているだろう。


 醤油ラーメン、日本人の魂ともいえる醤油がベースのラーメンだ。口の中で故郷の雰囲気が広がるだろうことが想像できる。これもまた癖になるだろう。


 味噌ラーメン、これもまた日本人の魂、みそだ。ただ醤油と違って味は濃いめだろう、濃厚な味噌のスープは一息に飲み干せば癖になることは間違いがない。


 他にはどんなラーメンがあるだろうか?

 煮干し、キノコ、野菜と色々脳裏を駆け巡る様々なラーメンに心が空腹になった気がする。


 さて、店長は俺のことをこってり派だといったけど、考えてみるとあっさり味でもこってり味でも心が躍っていることに違いはない。


 俺は、ラーメンはこってり派?あっさり派?


 考えても意味はないと思って。


 「店長、醤油ラーメン追加で」


 気が付けば追加でラーメンを注文していた。

 あぁ、ラーメン一杯でも腹の中は一杯というのに……。


 無意識の中の行動とは言え食べきれるか不安に思っていると。

 醤油ラーメンのにおいが漂ってきた。


 そのにおいをかいでいるといっぱいだったはずの腹はギュルルと音をたてウォーミングアップを開始していた。

 

 「醤油ラーメン一丁」


 醤油のにおいがするどんぶりが目の前にドンとおかれる。

 琥珀色のスープは俺の顔を少し反射していてそれでいて中で泳ぐ麺は燦々と輝いていた。


 ズゾゾゾゾッと口の中いっぱいに麺を吸い込む。


 ――これは!?


 もくもくと食べ進めていき気が付くとどんぶりは空っぽになっていた。


 ――ふう


 豚骨ラーメン、醤油ラーメンともに甲乙つけがたい。

 非常に悩ましいところである。これは某きのことたけのこの戦いに通じるものがあるのではなかろうか?


 すくなくとも俺の中では結論はすぐには出ないでいた。

 腹がすいていた一杯目の豚骨ラーメンのほうがおいしいような気もするし、腹が膨れてからの醤油ラーメンをあそこまでおいしく感じたのであれば醤油ラーメンのほうがおいしいような気もする。


 頭の中で豚と醤油が大戦争を繰り広げていると……。


 「兄ちゃん、どっちもうまいだろ?」


 店長は自慢げに胸をはった。


 「えぇ、正直に申しましてどちらも甲乙つけがたいといいますか、結論は出ないですね」


 心から悩ましいと思ったのは何年ぶりだろうか?

 ここ最近は流されるままに生きていたからここまで悩んだのは久しぶりだ。


 「俺のラーメンは何をとっても一級品だからな、悩んでも不思議じゃねえよ」


 ふと時計を見ると時間は朝の三時半を指していた。

 これ以上帰宅が遅れれば明日の仕事に差し障る。

 考えることを切り上げて会計を手早く済ませて席を立つ。


 「店長、また来ます」


 そう、言葉を残してガラスを開け暖簾をくぐる。

 外はいまだに暗く時折聞こえる車の音だけが反響していた。


 帰宅の足取りは重く、憂鬱な仕事を思うとすべてを投げ出してどこかに消えてしまいたく思うけど……。


 豚骨ラーメンと醤油ラーメンの決着のことを思い出し、またあのラーメン屋でラーメンを食べいつの日かどちらのラーメンのほうがおいしいのかを決めるためには働かなければと。

 一歩一歩足を進めては脳裏に染み付いたラーメンのにおいを思いだいているのだった。


 あなたにとってラーメンはこってり派?あっさり派?

 


 


 

深夜のラーメンって悪魔的ですよね。

ラーメン食べたい食欲があふれています。

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