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調査8 手記より

 以下は、アクチェータ・高(本名:高田文彦)の自宅より見つかった手記よりの引用である。

 この手記に関しては、原本は警察当局へと引き渡しをされている為、SOC企画の手元には残されていない。


***


 この手記を残しているのは、私の明瞭な意識が文字という形でしか保つことが出来ないからだ。

 もしかすると、この手記を読んでいるのは、私が傷つけたり、損害を与えたりとした罪なき人々であったとすれば、先にお詫びを記しておきたい。申し訳なかった。詫びて、謝罪して済む事柄ではないとは思う。しかし、それでも、私がこうやって明瞭な意識であるうちに、明確に述べておきたいのだ。

 事の発端は、尾田あどという女と私が知り合った頃に遡ろう。彼女と知り合ったのは、私が大学生の頃だ。彼女は地方から上京してきたモデル志望だった。バイト先の居酒屋で知り合った彼女と意気投合したのが始まりだ。私はその頃、カメラを趣味にし始めた。

 彼女をモデルにした作品群を作ろうと思い立ったのは、自然な流れだ。

 いくつかの作品を作った。それが私と彼女の絆だ。

 しかし、尾田あどに問題が起きた。彼女自身のモデルとしての仕事が順風満帆になったというのは、問題ではない。むしろ、喜ばしい事で、それを問題として呼ぶことはできない。問題は、彼女が重病に侵されたことだ。彼女はそのために、もうモデルとして精力的に活動が出来なくなった。さらに進行が恐るべき速さであり、あっというまで死の淵が覗いてきていた。

 何とかしてほしい。

 彼女はそれを懇願した。

 私は医者ではない。ただの学生だった。院に進学したばかりであり、医学部の知人を介してその病について聞いたところであっても、もはや手の施しようがないという事ばかりを知らされるのみでしかなかったのだ。打つ手なし、そういう状況であった。

 好転したのは、一人の学生の提案です。


「尾田あどさんの精神をカメラに移してしまいましょう」


 正気で言っているとは思えない提案だった。そもそも、そんなことが可能なのかという疑問があった。しかし、その学生の提案は全てにおいて筋が通っており、荒唐無稽な案だとは思えなかった。そして、何よりも強い思いがあった。尾田あどの必死の思いが、その選択肢をとらせたのだと思います。

 尾田あどが死んだ。行政的には行方不明である。学生曰く抜け殻の遺体は、彼が処分するとなった。

 私としてみれば、彼女の精神が残ったカメラがあればそれでいい。

 カメラで撮影した写真には、赤いワンピースを着た尾田あどが映っていた。

 私はこの時、初めて、自分の行いが正しいのかわからなくなったのです。彼女はこのまま、一生をカメラの中で精神として過ごしていくことになるのか。それは正しい事なのか。私がそれを引き起こしたのか。そうなったとき、私は逃げ出しました。

 カメラはその時、行方不明になりました。おそらくは、あの学生が回収したのでしょう。

 その頃から、私は精神的に不調をきたすようになりました。正確には、わかるように、なったのです。

 この宇宙には、私たちの現代科学では認識できない領域があります。その領域、私たちからしてみれば、領域外からのアクセスがあるようになったのです。正気ではないと思われるでしょうが、本当なのです。彼らは私に対して色々な事を教え、私の身体を介して、この世界に介入をしてきました。

 故に、私は自分を皮肉としてアクチェータと名乗ることにしたのです。

 そんな中、尾田あどについて教えられました。彼らは尾田あどが今、多くの人々の目に触れる事で力を得ようと画策をしている別の力が働いていると教えてくれました。私は、そこで覚悟を決めました。あのカメラを破壊しようと、あの時、私は尾田あどにしてあげるべきだったことを、正しい結末を迎えることを、時間を変えて今、してあげようと。

 そのため、SOC企画という場所にあるカメラを奪うことを命じられました。私はそれを奪いました。

 が、偽物であるとわかった時、領域外の彼らは落胆し、次いで、最後の機会として、とあるテレビ局のスタジオを押してくれました。もう手段を選ぶことは出来ません。そこでそのスタジオでカメラを破壊する。それが私の役目として彼らが介入してきました。

 もうそろそろ、行くこととします。

 迷惑をかけて、申し訳ありませんでした。


***


 以上が、アクチェータ高こと、高田文彦の家から我々が回収した手記の要約である。

 すでにご存じの通り、高田文彦容疑者は先日、テレビ局のスタジオに侵入した。公開生放送の収録中ということもあり、現場の警備は手薄であった。スタジオに侵入した彼は、観客の中に紛れ潜み、タイミングを待った。お笑い芸人のメソポタミアンズと、アイドルの本田美奈子が壇上に現れ、呪いのカメラとそれに映る赤いワンピースの女について話を始めた。

 高田文彦容疑者が動いたのは、メソポタミアンズが呪いのカメラを手に取り、一枚、観客席を撮影した後だ。

 撮影された写真をテレビ局のカメラが映し、スタジオの大きなモニターに表示された。この時、予定ではスタジオのどこかにある赤いワンピースの女を探すというはずだった。

 が、予定と実際は違った。

 赤いワンピースの女が、目いっぱいに大きなモニターに映り、こちらを指差していたのだ。それはまるでスタジオにいる人々を指差しているかのように、さらに言うと、今の今まで、顔を布袋で隠していたというのに、モニターに映った写真では顔がさらされていたのだ。

 晒された顔はとても正視に耐えられるものではなく、そんな映像が映されてスタジオは混乱に陥った。その混乱に乗じて、高田文彦容疑者は動いた。包丁を取り出して、カメラを持つメソポタミアンズに対して襲い掛かったのだ。まさか、襲われるとは思っていなかったメソポタミアンズはカメラを手放した。それは幸いだったと思う。高田文彦容疑者の目的はカメラだったからだ。

 彼は地面に落ちたカメラを包丁でずたずたに破壊し、カメラの形状が認識できないほどまで残骸を踏みつけた。

 そこを確保され、今、彼はテレビ局襲撃犯として警察に拘留されている。

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