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調査4 アンダーブリッジガールズ

 アイドルグループ、アンダーブリッジガールズは小さなアイドルグループである。

 本当に小さなアイドルグループであり、街にある小さなライブハウスでライブイベントをしたりするのが精々という所である。インターネットで活動を配信したりと精力的に活動はしているものの、それが実を結んではいない。何か一つの起爆剤としてバズれば、人気になるとは思うのであるが、その爆発がないという燻るアイドルグループである。

 そのメンバーの一人が、本田美奈子という女であった。

 アンダーブリッジガールズが所属するビルを我々、SOC企画は尋ねた。流石に高橋ディレクターが金属バッドを持ち込むことを五条アシスタントが許しなかった。そのために、道中は常に不服そうであり、それを五条アシスタントが「いい加減にしてください」と窘めていた。

 事務所で出迎えてくれた初老の男性に案内されて、奥へと進み、会議室へと連れて行かれた。

 会議室には、一人の女がいた。本田美奈子である。ホームページには、明るそうな雰囲気でウェーブがかった髪型をしている宣材写真が載っていたが、実際に目の前にいる彼女は、髪型などの雰囲気は一緒であれども、ボーダーのシャツに薄いジャケットと地味な服装をしていた。

 が、カメラを私が持っているのを認めると、にこりと笑みを見せて


「アンダーブリッジガールズ、本田美奈子です」


 と、笑顔で名乗って見せた。

 芯は強いようで安心した私であったが、それは五条アシスタントも同じであるように感じ取れた。もしも、ずけずけと高橋ディレクターからの非礼な質問をされたとしても、それをうまく受け流してくれる可能性を感じ取れたからだ。勿論、私か五条アシスタントのどちらかが高橋ディレクターの手綱を握らなければならないのは残るが。

 テーブルの上に置かれたお茶のペットボトルの前に、我々三人が座り、簡単な挨拶を交わす。


「それで、ストーカーからどんな写真を送られてきてんの?」

「ちょっと、高橋ディレクター」


 挨拶もそこそこに、率直な物言いに、五条アシスタントが高橋ディレクターに注意をしようと口を開いた。

 しかし、それを制したのは本田美奈子自身であった。


「いいんです。これがその写真です」


 本田美奈子は、会議室のテーブルの上に、写真をいくつか並べて置いた。それらは、全て、本田美奈子を目的に撮影されたものであるというのがわかる。が、その写真に写る本田美奈子は、撮影されるというような意思が感じられないポーズや格好である。ロケーションとしてもとても撮影の場面ではない。すなわち、盗み撮られている。明らかな盗撮写真だ。

 あられもない姿というものはないが、それは処分したのかもしれない。

 が、高橋ディレクターや私たちが気にしていたのは、その写真の中に映るもう一人の人物だ。


「この赤い女の人の事です。天内さんが、あなた達なら詳しい、と教えてくれて」

「あの女」


 高橋ディレクターが苦虫を嚙み潰したような渋い顔を浮かべて呟く。

 が、その顔はすぐにいつも通りの顔に戻って、写真の一枚を手に取った。

 それはバス停でバスを待つ本田美奈子の姿を、道路の反対側から遠目で、望遠レンズであろうかを用いて撮影したものである。その様子には、高橋ディレクターはまるで関心がない事で、その興味が向けられていたのは、本田美奈子の奥で、道路の真ん中に仁王立ちする赤いワンピースの女である。

 明らかに走行中の車列の中で、仁王立ちする赤いワンピースの女。

 それが明らかに不気味さを醸し出している。


「明らかに変ですよね。本田さんはここに本当に女性がいるのは見ていないんですか?」

「見てないです。それに、もしいたら、事故になって大騒ぎになると思うんですけど、そんなのもなかったし」

「そうですか。じゃあ」

「それに、他にもどんな写真にも写ってきているんですよ。おかしいですよ」


 確かに本田美奈子のいう事はおかしい事であった。が、我々にとってはすでに知った情報であり、新鮮味がない。


「この写真、何枚か貰っていい?」

「どうぞ、差し上げます」

「一枚は残してください。こちらとしても、証拠にしますので」


 一刻も早く手放したいというように本田美奈子が言うのに、初老の男性が割り込むように言った。

 証拠と言うからには何かしらの法的な処置をとるつもりであるのだろう。

 高橋ディレクターとしても、一枚くらいで十分、というように赤いワンピースの女の写りが良い物を選別する。


「これを撮った奴に心当たりは?」


 高橋ディレクターの問いかけに、本田美奈子は首を横に振った。心当たりはなさそうである。


「そこでお願いなのですが、そのストーカーを何とかしてほしいのです」


 隣に座っていた初老の男性が、口を開いた。お願いという形ではあるものの、おそらく、事情は天内から聞いているのであろうことは十分に察することが出来る。そして、それはすでにお願いが聞き入れられるであろうという前提で話している事でもあった。答えは決まっているようなもので、高橋ディレクターが二つ返事で承諾しようとした。

 ただし、いくつか条件を付け足そうと、高橋ディレクターが口を開いた時、会議室の扉が慌ただしくノックされる。

 初老の男が、申し訳ないというように詫びてから、入るよう、に扉へと声がかけられた。

 扉を開けて入ってきた男は、手に週刊誌を持っていた。


「来客中でしたか」

「かまわないよ。何か用事だったんだろう」

「あの、しかし」

「いいから、彼らはここだけの話を他言しないよ」


 初老の男性は我々をちらりと一瞥した。それはすなわち、そういう風に望むという意味が目には込められていた。そんな風に男性に促されて、男は写真週刊誌をテーブルの上に置いて、話し始めようとしたが、記事の見出しが全てを雄弁に物語っていた。

 新進気鋭の地方アイドルに関するスキャンダルの記事だ。


「この記事を見てください。どことは明言されていないですけど、わかる人はこれ本田の事だってわかりますよ。これは、一大事ですよ」


 本田美奈子は、私は違うくて、などと弁明を始め、それに対して初老の男性がいくつかの確認をしたり、なんやかんやと俄かに忙しそうにしはじめた。そんな風に勝手に騒ぎ始めた彼らを尻目に、高橋ディレクターは週刊誌を手に取る。

 そこには大きく写真が載せられていた。地方アイドルと大手俳優が熱愛かという文字が躍っていたが、そんなことは大した興味がそそられなかった。そこに載っていた写真に興味が向けられていた。とあるホテルに二人が入り込むという、まさに、その瞬間である。

 が、そこのホテルに入り込む二人の奥に、いた。

 モノクロの写真であるから、色こそはわからない。しかし、たしかに、そこにはあの赤いワンピースの女がいた。


「この写真」


 写真の隅に撮影者の名前が記載されている。

 宮野シンイチ。


「これはカメラ探しが随分と楽になったな」


 高橋ディレクターがそう言ったのを聞いて、五条アシスタントは肩を竦めた。

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