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調査2 アルバム

 私たちは喫茶店に来ていた。

 駅前のチェーン店の喫茶店ではあるもののそういうお店はとても良い。一つは安心である。妙な金額設定もしていないし、全国一律でどこのお店に行っても基本的には同じ味と同じメニューが提供される。そして、一番いいのは人がいるという事だ。必ず人がいるという安心感。

 その安心感を求めて、私たちSOC企画は喫茶店に来て、四人掛けのテーブル席に座っていた。

 通路側に私と高橋ディレクターが座り、奥の壁側に五条アシスタントと一人の男性が座っていた。テーブルの上においたビデオカメラを、男性はちらちらと気にする様子で視線を送る。初めに五条アシスタントが「気にしないで」と言うがやはり気になるのであろう。


「えっと、投稿した大木戸博、です。で、いいんですか」


 大木戸博。投稿者である。仮名であるのに合わせて、見た目については、本人の希望もありぼかさせてはもらうが、一つ言うと想像していたよりも年齢は若干高かった。中年であるとは思っていたが、少し高めの落ちついた雰囲気もあった。短くそろえた髪で、あのような怪談というかと無縁であるように思えた。

 しかし、いざ、話をしてみると、怖い話というのが好きらしい。と、いうのも土木業をしているために移動が多い為、その移動の運転の眠気覚ましとして怖い話の朗読をスピーカーで流しているらしい。もちろん、それは同僚からは受けが悪いそうであるが、別段気にしていないらしい。流石に、夜の帰りには流さないようにしているとのことだ

 だから、不気味な体験というのも我々SOC企画に送ってきてくれたのだ。

 さて、その大木戸博がどうして一緒にいるか、というと投稿内容を確認する為である。


「それで、さ。大木戸さんさ。アルバムなんだけど、本当にあったの?」

「ももも、もちろんです」

「じゃあさ、どこにあるかわかんない?」


 高橋ディレクターはそう話を詰める。

 そうだ。私たちがこの大木戸博と連絡を取り、対談の場を設けたのは、話の中にあったアルバムを探し出す事であった。一つは大木戸博の方が連絡を手っ取り早くとれ、かつ、アルバムという具体的なものがすぐに手に入りそうであったからである。また、アルバムというのが話として弱く、それを除外するかどうするかを判断したかったのだ。

 同じ人物が写っていたアルバム、というのも、ただ、同じ人物が写っているだけであればただの写真集だ。

 なんの怖さもない。

 大木戸は少しばかり考える素振りを見せた後に何か思いついたように、スマホを取り出した。


「あの、その時、一緒に解体作業に入った同僚がいるんで。もしかしたら、そいつなら何か知ってるかも」

「おぉ、いいじゃん。そいつに聞いてよ」


 わかりました、と大木戸は連絡を取るために電話をかけ始めた。その様子を見ながら高橋ディレクターは事態の好転を予感したのか少しばかり肩の力が抜けた様子を見せていた。当然だろう。そのまま、その同僚がアルバムを知っていれば、話としては終わる。その期待を持って、大木戸と同僚の電話がつながるのを待ったが、一向につながる様子がない。

 おかしいな、と一度、電話を切った大木戸が、再び電話をかけるも、呼び出し音だけで相手がでない。


「おい。大丈夫なのか?」

「いや、わかんないっす」


 何度電話しても大木戸の同僚は電話に出ない。


「仕方ない。その同僚の住所はわかるか?」

「え、はい。そいつ社宅に住んでるんで。場所はわかります」


 なら都合がいい、と高橋ディレクターは席を立ちあがった。もはや、シンプルなもので直接家に行けばわかる、という事である。それを簡単に大木戸に伝えると、困った様子の大木戸ではあったが、高橋ディレクターが「連絡がつかないってことは、倒れてるかもしれないだろ」と伝えると、渋々、協力してくれる様子を見せてくれた。

 車で走らせて30分ほどした所にあるアパートが、その社宅だった。運転していた五条アシスタントは、適当な駐車場を探してくると述べて、車から私と高橋ディレクター、大木戸を降ろすと車を走らせた。

 高橋ディレクターは抜かりなく、事務所から持って来ていた金属バットを手に、少し怯えた様子の大木戸に


「おい、どこの部屋だよ」


 と、案内させ始めた。

 ここです、と大木戸が足を止めた部屋の扉には、ネームプレートも表札も何もない。ただ数字と郵便入れの小窓があるだけだ。玄関脇にある呼び鈴を何度か押す。が、反応はない。


「おい、グエン、グエン。いないのか?」


 大木戸はそう呼びかけながら、何度か呼び鈴を鳴らすもやはり反応は返ってこなかった。


「本当に留守かもしれませんよ」

「いや、そんなわけない。見ろよ、電気メーターは回ってる。中にいるんだよ」


 確かに高橋ディレクターのいう通り、電気メーターが回っている。ゆっくりとした回り方ではなく、しっかりとした回り方であり、それは中で電気を誰かが使っているという確かな回り方であるように見えた。そんな様子を見ていた高橋ディレクターが痺れを切らした様子で、ぐいと前に出る。

 

「おい、グエンさん。いないんですか? いるだろ。電気メーター回ってんだぞ、わかってんだぞ、こっちはよ!」


 拳でドアをどんどん、と叩く。が、やはり反応はない。

 郵便受けのベロをぐいと奥へと押しやり、中を覗き込んだ高橋ディレクターは、舌打ちをした。


「これはもう、これで開けるしかねぇわな」


 高橋ディレクターが、事務所から持って来ていた金属バットのグリップを強い力で握り締める。

 大木戸はそれはやめてくださいよ、というように高橋ディレクターの腕を抑えた。さすがに、金属バットで賃貸アパートの扉を破壊したとなれば、話は大事になる。少なくとも警察沙汰を避けることは出来ないだろう。

 私はそんな高橋ディレクターと大木戸の様子を尻目に、ドアノブに手を触れた。

 ドアノブを握ってゆっくりと回す。

 扉が開いた。


「開いてる」


 高橋ディレクターがつぶやくと、大木戸はちょっと待ってくださいというように手を上げた。が、気にする様子はなく、高橋ディレクターは扉を開けて、躊躇うことなく中へと入っていった。私もそれについて部屋へと入っていく。部屋の中は、ワンルームであちこちに物が散らばっていた。

 どこにも誰もいない。

 蛍光灯が点いたままであるので、電気メーターが回っていたのだろうか。

 なら、鍵をかけずに部屋を出た。それこそ、あり得ない。


「グエンのやつ、どこに行ったんだよ」


 部屋に入ってきた大木戸が、呟く。

 が、私は一つの心当たりをじっと見た。

 襖である。押し入れが、その部屋にはあったのだ。その襖の向こうくらいしか隠れるところはない。そして、それは他の二人、高橋ディレクターも、大木戸博もそうであったようで、襖を三人で見ていた。

 高橋ディレクターが、襖を勢いよく開ける。

 そこには、誰もいなかった。

 が、私たち三人は固まってしまった。

 押し入れの中には布団も何もなく、ただ一冊のアルバムが開いたままに置かれていたのだ。


「あ、ああ、あれは」


 腰を抜かした大木戸が震える声で指さした脇で、高橋ディレクターが足早に近寄ると、アルバムを手に取る。

 

「これが、それか?」


 アルバムを大木戸に近づけながら問いかける。明確な返答を大木戸は言葉としては発しなかったが、首を縦に振ってそうだ。というような意思を見せる。だが、それは高橋ディレクターは満足する返答ではない。へたり込む大木戸の顔の間近にアルバムを近づけ、高橋ディレクターはさらに質問する。


「何を見てそう判断したんだ? え?」

「間違いない! 中身は見なくてもわかる! 背表紙を見間違えることはない!」

「どうして、ここにあるんだ?」

「わかんねぇよ! グエンが持ち帰ってたんだろ、もう、勘弁してくれ」


 大木戸はそう言うと、携帯電話を取り出して、どこかへと電話を始めた。漏れ聞こえてきた通話の内容からは、会社に連絡をとっているのであろうというのがわかったが、それは私たちの関与するところではない。ただ、おそらく、あの様子では、何を語りかけても無駄だろう。


「高橋ディレクター、アルバムなんですけど」

「おい、堀江。見てみろよ」


 高橋ディレクターが、アルバムのページをこちらへと向けた。

 一ページあたり、六枚ほどの写真がおさまったアルバム。

 その一つ一つの写真には、別々の家族が写っていた。別々の場所が写っていた。

 だが、それぞれに共通点があった。

 家族が並んだその奥に一人の女が立っている。

 一枚どころではない。一枚ならば風景に紛れ込んだ人影のようなものである。が、全ての写真だ。一ページ六枚にあるその全てに移り込んでいるし、また、ぺらと次のページをめくれば、またある十二枚の写真それぞれに、その女が必ず映り込んでいた。


「本物かもしれねぇぞ、これぇ!」


 高橋ディレクターの声が上ずった。

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