表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/83

エピローグ

――今日は早く帰れそうだから、という声に、

――わかった、と答え、由美は電話を切った。

 ベンチに座った由美は、平井から依頼を受け、ゴーストライターとしてまとめたインタビュー本のゲラを鞄にしまう。

 ライブハウスを出てかかってきた電話で、柏木は、

――まだ三人で歩いていくことはできるか、と由美に訊ねた。

 最初聞いた時は、なんて自分勝手と思った。

 一方で、柏木にはわかっていたのかもしれない。由美が中絶しないことを。それが由美への理解と呼べるかはわからない。けれども、二人で話し合ったあの時、由美には全く見えていなかった「出産」を柏木が見ていたのなら、続きを聞こうと思った。

 柏木は詫び続けた後で、こう言った。

――正直、うまくやれる自信は無い。でも、その時は二人でたくさん失敗しよう

 由美は後ろ髪を留めていたゴムを取る。風ではためく髪を押さえながら顔を上げると、芝生の広場の真ん中に屈む美紀みきを見る。

 ベンチから立ち、「美紀ー」と呼ぶ。

 立ち上がった美紀が、こちらに駆けてくる。

 由美は屈んで腕を広げると、目を瞑る。オレンジの寂静じゃくじょうを駆けてくる足音が近づいてくる。

 胸に飛び込むあたたかい衝撃。

 力一杯抱きしめ、立ち上がる。重さ。私を支えてくれる生きた重力。

 腕の中ではしゃぐ美紀の声が、耳の中で踊る。

「何を見ていたの?」

「アリさんが列を作ってた。一列になって。なが~く、なが~く。ねえ、アリさんはどこにいくの?」

 その声は、由美の鼓膜に触れ次々と弾ける。

「さあ。でも、どこかへ行くんでしょうね」

 由美は両腕に力を込める。

 落葉を浴び、ひとつの影が芝生に伸びる。その影は震えている。


『女性の降伏』了

『男性の克服(未筆)』へ続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ