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第2部 12 衝撃①

 報道が収まるまで、ホテル暮らしになりそうだった。

 由美は柏木のマンションに置いていた着替えをボストンバッグに詰めると、部屋を後にする。

 一度新宿駅のコインロッカーに着替えを預けてから、地下鉄を乗り継ぎ、東京拘置所に向かう。

 移動の車内で『週刊プレス』を読む人間を何人も見た。

 面会室に入った由美は、高木瑠香が現れるまでの間、昨日までの取材内容から質問事項を整理する。

 訊ねなければならないのは、子どもの件だ。

 妊娠していたのか。相手は誰か。子どもはどうしたのか――全てはそこだった。事実を確認できれば、記事にできる。

 高木瑠香が入ってくる。

「こんにちは」

 先日のことなどまるで覚えていないかのような笑顔。

「よろしくお願いします」

「いいえ、また来てくれて嬉しいです」

「そうですか?」

「ええ。ここはとーっても暇ですから」

 そう言うと、高木瑠香は猫のようなあくびをする。

「昨日まで富山に行ってました」

「もしかして八尾まで? 良いところでしょう」

「本当にそう思ってます?」

「ええ。私はここを出たらあそこに帰るつもりです」

「そうですか……」

 高木瑠香に翻弄されないよう、由美は慎重に話を進める。

「今日はノリが悪いですね。つまんない」

「川端幸子さんにも会いました」

 由美が注目していたのは、名前を聞いた時の反応だったが、高木瑠香は気にする様子もなく、「お元気でしたか?」と訊ねる。

「はい」

「それはよかった」

 一度会話が止まる。ここだと思った。

「高木さんは、貴之さんの子どもを妊娠されてましたか?」

「はい」

 拍子抜けするほど、あっさりした答え。

「その子は?」

「産んで捨てました」

 衝撃的な告白も、まるで「ごちそうさまでした」とでも言うように軽い。

「いつ、どこで?」

「生まれてすぐに。富山で」

「どうして?」

「だって、育てることなどできませんから」

「そうだとしても……」

「もしかして無責任って思ってます?」

 軽い。その軽さが心をざわつかせる。

「道徳的な話ですか? その点で言うと、私は女性であっても、母性はないんです」

「どういうことですか?」

「母性なんて幻想です。私に言わせれば」

「それが貴之さんの子であっても?」

「私は彼を愛してました。大切な人でした。事故に遭いました。死にました。悲しかった。それだけです」

「高木さんがそう思うのは構わないと思います。ですが、そのことと他人の生命を奪うことは違うのでは?」

「違いません。全ては私の気持ち次第ですから」

 何にも囚われていない。だから、彼女には誰の声も届かない。

「ところで、中川さんは産むつもり?」

 高木瑠香の言葉に、血の気が引く。

「やめておいた方がいいんじゃない」

「どうしてですか?」

 そう訊ねる声は震えていた。

「産むということになれば、色々諦めなきゃいけないわけでしょ」

 たしかにその通りだ。でも……と、由美は続きの言葉を探す。

 だが、言葉は見つからなかった。

 様子を感じ取った書記官が、早々に「時間です」と告げる。

「中川さん」

 高木瑠香は笑みを浮かべていた。

「私、控訴を取り下げます」

 そう言うと、高木瑠香は席を立つ。

 控訴を取り下げる――つまり、刑が確定し、これ以上面会はできなくなる。

 由美はしばらくの間、椅子から立ち上がることができなかった。


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