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第19話 メンバーと方向性の違いで仲違い

「コジロウ……」



 シルバーランク昇格試験。

 その試験会場である修練の場でオレたちを待ち受けていたのは、目つきの鋭い青髪ポニーテールの和装戦士だった。


 彼の名前はコジロウ・ヤナギダニ。28歳。

 東の島国出身で、武器として長短二本の刀を使う。

 自らを『サムライ』と名乗っているが、冒険者ギルドではファイターの上級職である『ソードマン』で登録されていた。



「どうしてコジロウさんがここに……?」



 まさかの人物の登場に、オレだけでなくユウキも戸惑いの声をあげる。

 その問いかけに答えるように、コジロウは静かに口を開いた。



「拙者がここにいるのは、ユウキ殿……おぬしのチカラを試すため」


「コジロウさんが試験官なの?」


「左様。とある御仁からの依頼でな。拙者にも戦う理由がある。故に引き受けた」



 コジロウはそう語ると、床に置いていた長短二本の刀を腰に差した。

 しかし、刀を抜いたりはしない。



「おぬし程度に刀は使わぬ。拳で十分」


「待て。まだやると決めたわけでは……」


「笑止。申したであろう――――」



 オレがユウキの前に出て止めると、コジロウは片膝を上げた。



「試験は始まっていると!」



 ――――ダン!



 床を力強く踏みしめるコジロウ。



「――――【壱ノ太刀(イチノタチ)】!」



『天剣』のコジロウの得意技、俊足の居合抜きスキルが放たれた!

 手刀を構え、目もくらむような速さでユウキに迫るコジロウ。



「人の話を聞けっ!」



 オレは咄嗟に間に入り、盾技スキルを使用する。



「――――【カバーリング】ッ!!」



【カバーリング】は、身をていして仲間を護る盾技スキルだ。

 素手の相手に盾を使うわけにもいかない。オレも素手でコジロウの手刀を防いだ。



「コジロウ。相変わらずおまえは血の気が多いな」


「ふん……」



 オレに攻撃を受け止められたコジロウは素直に身を退く。



「不落の二つ名はさび付いておらぬようだな。拙者の一撃をこうも容易たやすく防ぐとは」



 コジロウはため息をつくと、改めてユウキを睨み付けた。



「それに比べてユウキ殿はどうでござるか? 拙者の攻撃に対して指ひとつ動かせずにいた。そのようなていたらくで昇格試験に挑もうとは笑わせる」


「それは……」



 言いよどむユウキ。オレはコジロウに突っかかる。



「訳もわからず仲間に襲われたら誰だって戸惑うだろう」


「仲間……か」



 コジロウは肩をすくめる。



「そもそもせぬ。ユウキ殿の追放を決めたのは拙者だけではなかったはず」


「わかってる。オレも追放に賛成した一人だからな」



 コジロウはユウキを追放しろと圧をかけてきたメンバーの一人だ。

 当時のオレも足手まといだからとユウキを見棄てた。

 そんなユウキにオレは見殺しにされた。因果応報、というわけだ。



「急にこんなことを言っても信じてもらえないだろう。だけど今までのオレは死んだんだ。そして決めた。二度と仲間を見棄てないと」



 二度目の人生では、オレは誰も見棄てない。見放さない。手放さない。

 そうすることでしか、ユウキを闇に落とした罪は償えないと思うから。



「ロイス……」



 オレの言葉にユウキは目をウルウルと潤ませる。



「情にほだされたか。以前よりロイス殿は甘いところがあった。ユウキ殿の追放に最後まで難色を示しておったからな」



 オレとユウキのやりとりを見ていたコジロウが、くだらないと首を横に振った。



「情は刀を鈍らせる。拙者が往くは修羅の道。求めるのは最強の称号でござる。やはりユウキ殿は邪魔だ」



 コジロウは腰に差した二本の刀を鞘の上から軽く撫でた。



「ロイス殿のパーティーに所属したのも、最強に至るためにはそれが最短であると踏んだが故。不落の二つ名は冒険者の間でも有名でござるからな」


「天剣と呼ばれてるコジロウに褒められると悪い気はしないな」



 コジロウの言葉にオレは笑みを返す。

 すると、オレの背後に隠れていたユウキがぽつりと呟いた。



「そこで謙遜しないところがロイスだよね」


「うっ……」



 オレが言葉のナイフで後ろから刺されていると、それを見たコジロウが睨みつけてきた。



「試験は始まっている。そのような腐抜けた態度で合格できるほど昇格試験は甘くござらんよ」


「ごめんなさいっ」


「ユウキ殿にうらみはないが拙者には夢がある。そなたがパーティーにいるせいで強敵と死合しあず、我が刀がさび付いておる」



 コジロウは朴訥ぼくとつとした語り口調でユウキに辛らつな言葉を浴びせる。



「故にここで現実を叩き付ける。拙者に勝てぬようでは、この先に待ち受ける強者もさとの戦いについていくことは不可能。負けたらいさぎよく、くにに帰るでござるよ」


「……ぷっ」



 コジロウの言葉にユウキは吹き出す。

 これにはコジロウも虚を突かれて、驚いたように目を見開いた。



「なにゆえ笑った?」


「ロイスと同じ事を言ってると思って。パーティーから追放しようとしたのはボクの身を案じてくれたからなの?」


「そのようなことは……。拙者はただユウキ殿の存在を足手まといに思っただけ」


「うんうん。そうだね。そういうことにしておこう」



 ユウキは晴れやかな笑顔を浮かべると、腕を伸ばして準備体操を始めた。



「コジロウさんに夢があるようにボクにも夢がある。ロイスとおもしろおかしい旅をすることだ。その障害になるなら誰であっても容赦しないよ」


「容赦しない……? はて、どこからそのような言葉が出てきたのでござるか?」



 コジロウはそこで自分のステータスを表示させた。



 ――――――――――――――――


【コジロウ・ヤナギダニ】


 ●冒険者ランク:ゴールド

 ●クラス:ソードマン(Lv12) ファイター(LV30)


 ●能力値:【体力41】【反射69】【知覚38】【理知18】【幸運12】


 ●所持スキル:【ソードマスター】【居合い斬り/上級】【受け流し/上級】【先の先】【死中に活】【斬馬刀】


 ――――――――――――――――



「多少は鍛えてきたようでござるが、拙者とユウキ殿の能力差は歴然。この壁は越えられぬよ」



 ステータスを見せてわかりやすく実力差を示すコジロウ。



「……ボク、コジロウさんを勘違いしてたよ」



 だが、ユウキは挑発を無視して自分の右手にハンカチを巻き付けた。



「堅物かと思ってたけど意外とお喋りなんだね。よく考えたらボクたち会話も少なかった」



 ユウキはハンカチを巻いた手を握りしめて顔を上げる。

 それから不敵に笑ってコジロウに拳を突きつけた。



「だから、コジロウさん。ボクと()()しよう」


「よかろう。ならば拙者も拙者のやり方で()()()()()



 ユウキは拳を、コジロウは手刀を構える。

 会話をしていた間も、ジリジリと間合いを計っていた。

 一触即発いっしょくそくはつの気配。



「――――参るっ!」



 先に動いたのはコジロウだった。


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