第14話 とあるゴールドランク冒険者の報告書
別視点での幕間となります。
聖王歴××××年、▲月○○日。
我々は教会の依頼により、件の難易度A級ダンジョン【魔竜の洞窟】へ向かった。
ダンジョン攻略開始から6時間後。
ファイアードレイクの猛攻を退け、溶岩の間を抜けた先にある大扉の前に到着。
ダンジョンの主とされたダークドラゴンの姿は発見できず。
大扉を開き、内部に突入した。
扉の奥に宝物庫を発見。
宝物庫には金銀財宝、古代文明の武具、貴重な文献が収納されていた。
財宝の一覧は別紙を参照のこと。
財宝を確保した後、我々は調査任務を続行した。
宝物庫の奥に封印が施された魔法の扉を発見。
しかし、封印はすでに解かれていた。
経年劣化により封印の効力が弱まったものと推測される。
封印の扉の先に、ターゲットを発見。
遺体を確保したのち、【魔竜の洞窟】を脱出した。
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◇◇◇◇
「ま、こんなもんかしらね」
依頼主への報告書を書き終え、メイメイ・ライラックは羽ペンをテーブルに置いた。
さすがは周囲一帯の教区をとりまとめる大教会だ。
割り当てられたゲストルームも豪奢なもの。調度品にも金をかけている。
メイメイは教会が編成した調査隊と共に【魔竜の洞窟】を攻略した。
危険度が高かったものの依頼料は破格。
報酬として財宝の一部を分けてもらえる契約にもなっていた。
お金に目がないメイメイに断る理由はなかった。
「ロイスちゃんには悪いことしちゃったわね」
前の依頼主は夢ある若者だった。
一流の冒険者と名をはせようと躍起になってクエストをこなしていた。
彼のパーティーならいち早く【魔竜の洞窟】にたどり着くだろう。
そう思って協力していた。
だが、ユウキという無能プリーストのせいで足止めを食っていた。
だから他のメンバーを煽って追い出そうとしたのだが、まさかロイスがユウキの側につくとは。
もしもユウキを追放していたら、ロイスと手を取り合って【魔竜の洞窟】を攻略していただろう。
結果論だがドラゴンもいなかった。楽して財宝を総取りだ。
冒険者を引退して悠々自適なスローライフを送っていたかもしれない。
「ま、そうはならなかったって話よね」
ダンジョン攻略は早い者勝ちだ。
ロイスが目指していた【魔竜の洞窟】を先に攻略したことを悪く思いつつも、そういうものだとメイメイは割り切っていた。
「さて、と。これで準備は整ったわ」
メイメイは部屋の片隅に置いてある、人形を見つめる。
椅子に座らされた人形には金色のカツラがつけられ、四肢が枯れ木のように痩せ細っていた。
人形にしてはやけに精巧な造りで、朽ち果てた女性の死体と言われても信じてしまうだろう。
呪いの効果を抑える聖骸布で下半身を包んでいるが、見栄えをよくするためのカモフラージュに過ぎなかった。
――――コンコン。
部屋のドアがノックされる。
「失礼します」
部屋に精悍な顔つきの男神官が入ってきた。
彼はメイメイと一緒に【魔竜の洞窟】を調査した、凄腕のプリーストでもあった。
「大神官さまがお呼びです」
「わかったわ。人を呼んでくれる? そこに置いてある魔女の遺体を運んでほしいの」
「かしこまりました」
「ああそれと、夜の予定も空けておいてね。アナタの……いいえ、アナタたちのために部屋を予約しておいたから。今夜も皆で楽しみましょう」
「……っ!! はい! メイメイさま!」
凜々しかった表情はどこへやら。
男プリーストは淫靡な誘いに顔をほころばせたあと、部屋を出て行った。
「ほんと、男って馬鹿ばっかり」
どいつもこいつも節穴だ。どうせ大神官も報告書や魔女の遺体の真偽を調べもせず、「脅威は去った」と無邪気に喜ぶだろう。
調査隊も全員丸め込んでいる。メイメイが犯した罪をとがめる者は誰もいない。
メイメイは思う。悠々自適な生活は性に合わない。
だから結果的にこれでよかった。これが私の運命なんだろう。
「みんなで宴を愉しみましょう。ふふ、ふふふふ……っ」
メイメイはローブの下――腹部に刻まれた死印を撫でながら恍惚とした表情を浮かべた。
1章&幕間はここまで。次回から昇格試験編がはじまります。
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