純夜オープン!
「さて、看板も一旦店の中に取り込んだけど、本当に異世界に繋がるのかしら?…と言うかこれで何もなかったら、あのレテスって子詐欺で訴えてやるわ!」
純夜は疑惑を抱きながら19時を待った。
後たった30分なのに、妙に長く感じた。
「お、19時になったわね…」
純夜は恐る恐るドアを開けてみた。
するとそこにはファンタジーのような風景…いや、ファンタジーそのものが広がっていた。
さっきまで雑居ビルの一室だったのが、ドアを開けるとそこは中世ヨーロッパのような街並みになっていた。
いろんな色の髪の人や耳がとんがった人や体の大きな人、体の小さな人、トカゲのような人が街を歩いていた。
「はえ〜ここが異世界…って言うか言葉は通じるのかしら?」
看板を出しながら唐突に不安を抱き始めた純夜。
「と言っても、オープン初日に誰もこんな知らない店に入らないわよね〜…まぁ、1週間出してダメだったらまた考えましょ」
2時間くらい経っただろうか、案の定客は1人も来ず。
暇を持て余した純夜は、店に置いてあるカラオケで時間を潰すことにした。
「どうせ異世界だし、私が歌ってても何も言われないわよね」
カランカラン…
暫く歌っていると、お店の扉が開いた。
「あら、いらっしゃ〜い!」
純夜は慌てて曲を止めた。
視線を向けると、そこには金髪の20代くらいの男が立っていた。
「何やら楽しそうな歌が聞こえて来て入ってみたんだけど、ここは酒場かい?」
「そうよ、ゲイ…男限定の酒場よ〜」
危ない危ない、同性愛厳禁な異世界でいきなりカミングアウトする所だったわ…
「男限定…?それになんで女みたいな口調なんだ?」
「そうねー、女がいると男って見栄を張っちゃうじゃない?ここは男同士本音を語り合う酒場にしたいなって思ったの、口調は前働いてる職場で喋る方がきついって言われて変えてみたの」
「へ、へぇ〜…この店初めてみたけど最近できたのか?」
「今日オープンしたばかりよ!貴方がお客さん第一号」
「そうなんだ、じゃあ折角だしちょっと飲んでいこうかな…」
「あら、嬉しいわ!私は純夜、この店のママよ」
「ははは、男なのにママって面白いな!俺はカイル、よろしく」
「よろしくね〜飲み物は何にする?」
純夜はメニューをカイルの前に広げた。
「なぁママ、純夜って聞かない名前だけどどの辺出身なんだ?」
「んー、遠い島国よ」
「へぇ、どうしてエルガンダルでお店開くことになったんだ?」
「エルガ…?あぁ、まぁ、ちょっと深い事情があってね、知り合いに頼まれたって感じかしら」
「へぇーそんな事もあるんだ〜、所で見た事のないお酒ばかりだけど…」
「あぁ、そうよね、このお酒みんなうちの島でのお酒だから、馴染みがなかったわよね!」
純夜はお酒の種類とシステムの説明をした。
「なるほど、ちょっと高いけど最初ボトルで買えば今後安く飲めるのか、じゃあ取り敢えず1番安いこの超月で」
「あら、いいの?お試しならショットで飲んだ方が安いわよ?」
「まぁ、なんかこの辺で見かけないお店だし面白そうだから先行投資さ」
「まぁ!嬉しい割物はどうする?」
「割物も見た事ないものばかりだ!」
「甘いのと甘くないの、どっちが好き?」
「甘い飲み物もあるのか?」
「え?どう言う事?」
「いや、砂糖とか、果汁って贅沢品だから一般の人はなかなか手に入らないんだ」
「あら、そうなの」
「甘いのだと、オレンジジュース、グレープフルーツジュース、アセロラジュース、シークヮーサージュース、グァバジュース、レモンティー、アイスティーとかがあるわよ」
「どれも聞いた事ない飲み物ばかりだ」
「じゃあ、よかったら飲み比べしてみる?」
純夜はショットグラスに各飲み物を入れた。
「オレンジジュースは甘酸っぱくておいしい!グレープフルーツジュースは香りがいいな!アセロラジュースも美味しいぞ!シークヮーサージュースはオレンジジュースとグレープフルーツジュースの間のような味だな!グァバジュースも甘くて美味しい!レモンティーは…」
カイルは初めて飲む飲み物の美味しさに驚きながら感想を述べていく。
「気に入ったのあった?」
「正直全部美味しい…レモンティー割りでお願いするよ」
「はい」
純夜ははボトルを取り出すと、目の前でお酒を作る。
「これはカイルのボトルだから、ボトルに自分の名前書いてね」
純夜にペンを渡されたカイルは、ボトルに自分の名前を書く。
あら、言葉は通じても文字はわからないわねぇ…
「ねぇ、カイル、私まだこっちの字に慣れてないから、ココに私の国の字で名前書いていい?」
「あー、いいよいいよ!」
純夜はカイルの名前が書いてある面と反対側の面に「カイル」とカタカナで書いた。