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その4

俺達は、人猫族村に家族全員で遊びに来ている。魔法学園の生徒や人魚族のVIPも一緒だ。


先日行った課外授業の海キャンプの時に、アズと一緒に人食い虎をたまたまやっつけた。そのお礼で、猫達が家族を失った者達の鎮魂も兼で慰霊祭をする為だ。


学園の生徒達は、キャンプの時の縁でお呼ばれした。実はガイドも兼ねて、人猫達にボランティアを手伝ってもらったのだ。若い魔導師に、田舎村への居住を勧めるためとも見られる。


人魚族は人猫族と今後の交流を計画中で、それの一端らしい。海繋がりで、物品や人的交流をするとか。それに邪神の使徒に殺された人々の慰霊も、一緒にやるそうだ。


だから、しんみりとするかと思いきやドンチャン騒ぎになっている!(笑)

猫達はお祭り好きらしい。大道芸人みたいに両手に持った棒の先で皿を回していたり、ジャグリングやっている奴も居る。


族長の家の裏庭で、浜焼き風の宴会場が出来上がっていた。新鮮な魚介類が焼き網の上で旨そうな香りと音をたてている。子供達は、夢中でそれを食べている。


アッシュに賑やかだねと聞いてみたら、何時もの事とか返されてしまった。何と言うか、ひょうきんな連中だな。早速俺達も宴会に混じって、楽しんでいる。


今日は久しぶりにプルも一緒だ。俺は奴もキャンプに絶対ついてくると思っていたが、案外来なかった。それには理由があった。


族長が近隣の村で異変が起こっていないかを調べさせるため、韋駄天の能力持ちのプルを派遣したと言う訳だ。泣く泣く僻地を数週間かけて巡り、今日の朝方に帰還したらしい。


「うう、マサああああああ!」


いじめられっ子が泣きついてくるように、プルは俺の足にすがり付いた。おっちょっ、鼻水を擦り付けるのはやめろ!(笑)


「わかったわかった、今いいもの作ってやるから!(笑)」


困り顔でプルを引きはなそうとしているのを、ナルが後ろを向いて笑っている。何かキヒヒとか言ってるんですがそれは。


「プル、旦那様のズボンが台無しじゃないの。ほら、これ。(笑)」


アズも苦笑しながら、おしぼりをプルに渡した。予想通り俺のズボンはダラダラに。清潔化して、早速プルの為に旨いものを作り始める。


俺は立席パーティー用のテーブルにまな板を持ってきて貰い、出刃包丁と刺身包丁を分子クラフトして魚を捌き始めた。たまたまキダム氏が、脂の乗っていそうな青魚系を手土産に持ってきていたので、都合がよかった。


内蔵を取り出し、血あいを取り、三枚におろして腹骨をすく頃にはプルの足元がヨダレの海になり窒息すると言う。(笑)


「くっ...げはあっ、ハアハア...」


今度は違った意味で涙目になったプルの背中を、ライエとマニが擦っている。ナルがそれを観て後ろ向きで震えている。なんだこれ。(笑)


「なあアズさあ、プルはこれ以上御行儀よろしくならないって。魔石契約解除してやろうぜ。」


「ダメよ。前にも言ったでしょう?政府筋の監視役として、何処に行かせても恥ずかしくない様にしないと。」


アズは眉を吊り上げて反対した。アズ以外は多分俺と同じ意見だと思うが、プルも自分で契約してしまった以上、果たさなくては信用問題だろう。


窒息しかけて半べそをかいているプル。落ち込んでいるので、俺は背中を優しくポンと叩いて慰めた。仕上げた刺身をクラフトわさび醤油を付けて目の前に出すと、一気に気分が変わったみたいだ。


「おおお、マサの料理とか久しぶりにゃん!これ、全部食べてもいいかにゃ?」


「当たり前だろう、お前のために捌いたんだから、残さず食べろよなあ。」


「残すなんて勿体ないことしないにゃ...ムシャムシャ、ううっ、久々にうまいにゃあああ!」


ずーっと移動だったので、旨いものにありつけなかったらしい。涙をちょちょ切らせながら、プルは刺身をわさび醤油でかっ込んだ。


ウタの子供が、指を咥えてそれを見ている。大分元気になったようで、人見知りなのか視線を感じると母親の後ろに隠れてしまう。俺はそれを横目で見ながら、刺身の残りで寿司を握っていた。


「あなた、それはなあに?」


マニが不思議そうな顔をして聞いてきた。そう言えば、寿司みたいな料理も見たことない。生食をあまりしないからだろう。


「寿司って言うんだよ。水気の多い品種の米を酢飯にして、適温になったら握りつぶさないように軽く握るのさ。ほら、こんな感じ。」


シャリの上にワサビとネタを乗せて、軽く握ってから皿の上に綺麗に並べる。皆が注目している。俺は、ウタの息子のところまで寿司を持って行った。


「食べてみるかい?」


少年は少し躊躇したが、プルが鬼のようにかっ込んでいるのを見て、おずおずと手を出した。俺はわさび抜きの寿司を醤油につけて、皿の上に置いてあげた。それを食べた少年の目が、キラキラと輝いた。人魚語で一言、


「...美味しい。」


すごく満足そうな顔をして、もうひとつつまむ。どうやら、ハマったようだ。パクパクと、大きめのサイズの寿司を連続で平らげ、はっと気付いてウタの顔を見る。彼女はニコニコしながら、頷いた。


「守護さま、もっと食べていいですか?」


少年は、嬉しそうな顔で俺に近付いてきた。俺は頷くと、彼の頭を撫でながら寿司を皿に乗せて渡した。


「どうぞ、皆さんもつまんでください。」


俺はひたすら魚を捌き、寿司を握り続けた。200貫位作って、ネタが切れたので打ち止めとなった。ナルやマニやライエも、寿司の虜になったようだ。


「いつも、日本のレシピには驚かされるわね。生魚だけでも斬新なのに、それをご飯に乗せるんだから。それにこの、刺身の脂が酢飯?とすごく合うわね!」


「だろう?これぞ素材を活かした味と言う奴だな。ライエも、お代わりするかい?」


「パパー、美味しいね!もっと頂戴。」


プルと少年とライエが並んで、寿司を立ち食いしている。学園の生徒たちも遠慮がちにつまみ、次々と手が延びていく。結局、殆ど子供達が平らげてしまった。


俺は、工房の冷蔵庫へ格納してあった巨大猪の肉を取り出し厚切りにして、にんにく風醤油ステーキを焼いた。大人達は、こっちで満足した。


流石に寿司でお腹一杯のプルは、ふくれた腹を擦りながら自宅へ帰ろうと立ち上がった。移動疲れもあって、眠いのだろう。途中で倒れそうになり、よろめいた。


俺は無言でプルを背負って、母親のヨヴの案内で自宅のベッドに寝かせた。マニも一緒にくっついてきた。


「...こんな娘で申し訳ありません...。」


同じような謝罪を以前も聞いた気がする。


「いいえ、主人にとってプルは良き仲間なんですよ。密偵としても充分活躍しています。私達にとって、この子は癒しなんです。」


ほーっ、マニが珍しくプルを誉めている!明日は雪だな。(笑)


「何でもラヴィ様の仰せだと、彼女と俺は前世で縁があったようでしてね。何と言うか馬が合うんですよね。それに、やっている事の関係上殺伐としている雰囲気でも、彼女がいると柔和になります。プルを産み育ててくれたヨヴさんにも感謝を。」


ヨヴは無言で祈るように手を組んで、俺とマニを見ながら涙ぐんでいた。


「...この子があなた方と知り合えたのは、我々にとっても幸せでした。」


と、暫くの沈黙の後にポツリと言った。



プルを寝かせて会場に戻ると、酒の勢いもあってメチャクチャ賑やかになっていた。人魚族が、数人で合唱をしている。珍しい曲だと思ったら、一族の伝統曲なんだとか。


発声器官が特殊な為、コロコロと楽器のような音が意図的に混じり、カジカガエルの様な美しいハーモニーが響く。アンサンプルで、鉄琴のパートがカジカガエルの鳴き声になったみたいな感じだ。


曲が終わると、一瞬の静寂の後に盛大な拍手が巻き起こった。大変貴重な、美しい調べを堪能できた。ここから、子供達も混じってパフォーマンス大会が急遽始まった。


学園の生徒は、強化された魔力を活かして魔法の実演や応用の芸を披露している。エアフロウを逆立ちで発動して飛ぶ、ダークテンタクルスで綾取りをする、念動力の魔法で料理を皿にとって引き寄せる...etc。


猫や人魚達もビックリ仰天だ。料理の乗った皿が宙を飛ぶのを、ポカーンと口を開けて見ている。ま、誰だって驚くっちゅうの。


「君たち、オイタが過ぎると成績が下がるぞう。」


と注意したら、大人しくなった。素直だ。(笑)


入学予定者達は、その様子を目を輝かせながら見ていた。自分達も将来あんなことができる様になると、喜んでいるようだ。ライエも楽しそうだなあ。慰霊祭は、大盛況で幕を閉じた。あれは慰霊だったのだろうか?(笑)



「マサ先生、折り入って相談が。」


ダリアが真面目な顔をして隣に座った。学園の帰りに寄ったらしい。慰霊祭の次の日、俺は自宅のベランダでくつろいでいた。妻達とライエとプルは、一緒に風呂に入っている。


「やあ。何かな?」


「レンジャーの件ですけど、生徒会で仕切れと理事長先生より承りましたの。それの打合わせを済ませておきたいですわ。」


自由船内の集合住宅の屋上は、数週間で見事な緑化が果たされていた。ナルがたまに様子見をする位で、後は自然に任せていた。適度に剪定された森、みたいなイメージになった。


レンジャーは、その森林管理&上部甲板全域の治安管理を行う予定だ。邪神の手先とかが襲撃してくるかもしれない現状で、マンパワー不足を補うには適当かと思えた。中等部以上は一般の大人よりも格段に強いと言うこともある。


「うん、その件は聞いている。具体的に君たちの案はあるかな?」


「ええ、生徒会で検討しましたが、当番制で日替わり担当に致しましたの。初、中、高等部生×各2名づつの配分で、合計6人で見廻り致しますわ。」


「うん、妥当だね。5名で前衛2、中後衛3、1人は遊撃で緊急増援要請の為って所かな。」


「流石ですわね。問題は、どの範囲で見廻るか、ですわ。」


「なるほど。流石に甲板全体は広すぎるものなあ。エアフロウの実習も兼ねるんだっけ?」


「ええ、不馴れだと魔力消耗が激しくなりますわ。」


「うーん、そこへ敵襲は勘弁だなあ...やはりアレを使うか。」


「流石マサ先生。何か対策をお持ちとは思ってましたわ。どんな手を使うのかしら?」


今は18時過ぎだ。俺はダリアに食事を食べていきなさいと誘い、食堂へ誘った。


「セネルさん、今日はダリアもここで食べていきますので、一食分追加で。」


「承知致しました。奥様方は、如何致しましょう?」


「ちょっと話があるので、全員分を同時に出して下さい。風呂上がりで大丈夫か、当人達に聞いてくださいませんか?」


「畏まりました。」


セネル氏は手を2回叩いた。メイドのメルがすぐにやって来た。


「奥様方に伝言で、食事のタイミングを風呂上がりにしたいと旦那様が仰せです。理由は打合せと伝えてください。」


「はい、只今。」


メルは御辞儀をすると、そそくさと風呂場へ歩いて行った。


「ダリアは、もうお酒は飲めるんだっけ?」


「...実は、あまり得意ではないですわ。頭痛がするもので...。」


「俺はコーヒーにするけど、君は何を飲む?」


「マサ先生と同じでお願いします。」


この世界では、15歳で飲酒できるそうだ。だが、そもそも法律そのものが定まっていない。あくまでローカルルールという感じだ。今後は法律にその辺りも反映させないとな...。


俺は手を2回叩いた。因みに1回はセネル氏を、2回はメイドを呼ぶ合図だ。早速ランディーが飛んで来た。


「ランディーさん、コーヒーを2つお願いします。」


「畏まりましたあ。お待ちくださいませえ。」


語尾がウゼエ。(笑) ダリアとコーヒーを楽しんでいると、妻達が風呂から上がってきた。


「あ、ダリア姉様だ!」


「いらっしゃい。今日はライエ目的?」


マニはダリアを以前から知っている。自分の姪のように彼女の事を思っているらしい。


「マサ先生に相談がありましたの。でも、ライエにも会いたかったですわ。」


ちゃんと気を利かせられる子だなあ。ライエも嬉しそうだ。


「皆で飯を食べながら打合せしよう。」


メイド達が食事を運んできた。和食で刺身と焼き魚、貝の味噌汁、海藻サラダ、メインはアワビの和風ステーキだ。レシピは勿論俺だ。


例によってプルが窒息しかけたりしたが、最近抵抗力がついたらしい。(笑) 気が遠くなった位で済んだ。俺達は食事を楽しみながら、レンジャーの構想について意見交換した。


「...まずはその、マサのアイディアを聞いてから、だにゃ。どうせそれ1択になるにゃ。」


「お前!(笑) ...まあこのアイディアで不足なら、追加検討かなあ。」


プルはアワビのステーキを旨そうに平らげている。


「そう言えば、2人のレッスンの時に何かを見せるとか言ってなかったかしら?」


アズが突っ込みを。流石鋭い。


「おう、それな。あの時は時間がね。実は新技能の紹介兼なんだよ。」


「へえー、と言うことは義父様案件?」


「そうとも言う。俺考案、サット構築だね。」


「早く私もクラフト使いたいわあ...。」


マニは現在、医療講習を受けている真っ最中だ。俺の治療風景を見学して、感動したらしい。勇者(笑)兼ヒーラーとか、どんだけ中二なんだ?


ナルは黙って黙々と食事している。機嫌は悪く無さそうだと、俺も最近判るようになった。多分必要性がないから、興味がないのだろう。


アズは超魔導クラフト&建築クラフト解放の影響で、最近は機能の把握をしている最中らしい。なので、ちょっとお疲れだ。今朝もリラクゼーションをやってあげたら、早速寝落ちしていた。


「まあ、ほぼ何でも出来ちゃう訳だし、想像出来るあらゆる事を実現可能と言う。寧ろ、どんなアイディアが出るのか想像つかないわね...。」


「そうなるよなあ。俺も初めて使ったときは、そんな感じだった。」


「ん、話が逸れてる。」


「ああ、すまんね。てか、ナルが最近突っ込み役だな。」


「ん?コントの役回り?」


「そうそう。ボケと突っ込みね。」


ナルは前次元のコンテンツにハマっているらしい。最近そっちの話も普通に出来るようになってきた。


「あーそれ、私も見たわよ。ボケてるのを突っ込むのが難しいわよね。」


マニが楽しそうに動画を思い出しながら感想を述べた。


「ん、ボケの方が難しい。」


「と、言いながら話が逸れていたりして。(笑)」


俺の突っ込みに皆が笑った。ダリアとライエは顔を見合わせて頭上に?マークが。サットと縁が出来たし、その内解るだろう。


「それで本筋なんだけど、食事後に庭先でテストしたいんだよな。ダリアはまだ風呂に入ってないよな?」


「え?ええ、そうですわね...?」


「それじゃあ、少し運動しても大丈夫だね?入浴はウチで入っていくといいよ。」


「ああ、そう言う...何をやらせる気ですの?」


「ちょっと格闘訓練をね。(笑) 大丈夫、あくまで新技能のテストだから。」


「私は被検体の相手、という訳ですのね。」


「そんな顔するなよな。心強い味方が増えるから。きっと助けになるからさ。」


「心配ないにゃあ!マサがそう言うときは、外した試しがないにゃあ。大船に乗った気持ちでいるといいにゃあ。」


飯を食い終わったプルが、満足そうに出っ張った太鼓腹を擦りながら太鼓判を押した。そう言えばこいつにも、地方巡視の報告を聞かないと。


「おいプル、地方巡視の報告をレポートにして提出してくれ。族長には報告したかい?」


いきなり耳がビーン!といきり立った。(笑) あっこいつ忘れてたな...。


「...疲れていたから忘れていたにゃ...」


「と言うくらいなんだし、大したことは判らなかった、で良いのかい?」


「...レポート提出するにゃん。」


あれ?微妙な反応が...。次第に小さくなっていくプル。案外問題案件かもな。お前、こう言うパターンが多いな。


「ん、何時もの事。」


ナルがプルの頭をナデナデしながら慰めていた。ライエも背中を擦っている件。(笑)



食事が済んでから、俺達は玄関前の庭に出た。元砂漠の一角だ。平らに馴らされ、適度に固められている。歩くのに支障がない砂地、と言った所か。広さも100平米ある。


「それで、どう致しますの?」


ダリアは怪訝そうな表情だ。まあ無理もないが。俺は無言で懐から一枚の封筒を取り出した。前次元の漢字で、表には「封」、裏には「禁」という文字が書き込まれ、それぞれの面に複雑な模様が印刷されている。


そして封を切って素早く中身を地面に投げた。魔方陣の描かれた紙が地面に接触した瞬間に紙が一瞬光り、大きさが30cm位の動物が飛び出てきた。ギャラリーが驚いている。


「ほほう、これは日本の式神じゃな?」


ラヴィ様の精神感応が。そう、陰陽道の自然霊を使役する術が原型だ。だが、これは少し違う。


「主よ、これは人工の式神です。西洋ではサモンビーストとか言うそうです。マナで造られた異形の存在ですが、俺の生気を触媒にしています。」


「ほう、御主のエネルギーを代償にしているから、霊的反動がない訳じゃな。成る程、流石我が司祭じゃ。」


「勿体無いお言葉です。」


半透明の淡く光る四つ足が、俺の周りを駆け回ってじゃれついている。外見はイタチとかをイメージしてみた。


「マサ先生、これと戦えば良いのですか?」


ダリアは驚きながらもそう尋ねた。妻達は、興味津々に式神を観察している。


「ん、可愛い。」


「あっ...」


俺が注意するより早く、ナルが撫でようと手を触れた瞬間、彼女はピリッと電気が飛んで来た感覚がした。同時にかなりの倦怠感で苦しめられる。


「...うー、体力を奪われた?」


「その通りだよ、ナル大丈夫かい?マナと生気を吸いとられるのさ。」


「ん、油断大敵。」


「ダリア、こいつと戦ってみてくれ。手加減できる相手ではないよ?」


「...解りましたわ、早速。」


ダリアが構えると、式神も戦闘体制を取った。俺は審判をかって出た。


「いざ、尋常に!勝負!!」


ダリアが無詠唱で光矢の魔法を発動した。6つの光弾が追尾する。が、式神の反射速度は通常の獣の数倍だった。目にも止まらぬ早さで、ダリアの懐に入り込んだ。


「エアシールド!」


連続キャストで無詠唱の防御魔法を展開する。が、その直前にダリアも感電したような感覚を覚えた。次の瞬間、膝が脱力し地面に座り込む。精神集中が切れて、光弾は霧散した。


「はい、勝負ありね。これでエネルギーの吸収能力は1/5位だから。」


「あなた、これもクラフトなのね。」


アズがフィジカルコンタクトで情報共有した。俺は頷くと、


「うん、術式は魔法で、触媒は俺の生命力だね。だからそう何体も召喚できない。直接イデアを介してイメージを召喚する方式だ。」


「ん、義父様スゴイ。」


「なるほどねー。さっきの紙を使えば、誰でも呼び出せる訳ね。」


いつの間にか腕や足に触れて、ナルやマニも情報共有している。無言で3人が頷いたのを見て、ダリアが苦笑した。


「...そちらで納得されても、私には伝わりませんわね。(笑)」


生気をごっそり持って行かれて、ダリアは脂汗をかきながら言った。


「やあ、すまんね。これの使い方は...」


ダリアには、式神の使い方を伝授した。いざとなったら、護身以上の能力を発揮するだろう。当直のリーダーが、独自の判断で使用することになった。居住者にも説明が必要だ。敵意を持つと、攻撃してくる。


「さっきの生命力吸収でも完全では無いわけですの?」


「そうだね。通常は昏倒するか、全身動かせなくなるレベルだね。」


「確かに。それで、消費マナは結構厳しいですわよね?」


「安心して。誰が使っても、俺の消費だから。因みに、生命力消費だからね? 故に常時一枚しか配布できないけど。」


「分かりましたわ。では居住区は私達で、それ以外はこの子に任せられると言うことで宜しいですわね?」


「ああ、そうしてくれ。」


「マサ先生のお陰で、明日にもレンジャー見廻り出来そうですわ。ありがとうございます。」


「風呂は1人になってしまうけど、それでもよければ使ってな。気が向かなければ勧めないけど。」


「ああ、別に構いませんわ。お借りします。」


ダリアはメルに案内されて、温泉に行った。俺達は食堂に移動して、プルの報告書について尋ねることにした。内容によっては自由船を移動させなくてはならない。


「おいプル、概略でいいから調査報告してくれ。ラヴィ様にもお伺いしないとだから。」


プルは肩をすくめた。


「そう言うことなら、いいけどにゃ。説明が足りないのは勘弁にゃ。」


プルの話は纏まっていなかったが、要約するとこうだ。少なくとも都を中心とした周辺の村は、なにがしかの深刻なトラブルを抱えていた。そして、そのどれもが邪神と直接関係なさそうで、あたかも元から存在する個別の原因で偶発したトラブルだと。


例えば、高齢化が進んで若者が居なさすぎとか、害獣が強すぎて対応しきれないとか、狩りや漁が不調で食糧難とか...。


「...にゃから、最初は邪神の手先が色々画策していると思ったにゃ。でも、調べるほどに各々に関連性がないと思える様になったにゃ。」


「成る程ね。」


「マサがどう思うか知らにゃいけど、そもそも村民自体が問題を仕方ないと諦めているにゃ。邪神は関係にゃいと思うにゃあ。」


「うーん、お前のそう言う勘は当たるからなあ。その事は信じるさ。でもな、今の話を聞いてると何か引っ掛かるんだよな。」


「ん、偶然が多すぎる。」


ナルが間髪入れず意見した。マニやアズも頷いている。


「結局人魚達も、操られていたりした訳だし。精神的操作が行われて、異常を感じにくくなっているとも考えられるわね。」


「うん、ナルとアズの意見も一理あるな。しかしプルの仕事が不足しているとも思えない。」


「ねえあなた、邪神の使いと戦っている時、どういう存在か探られている気がした様だけど...時間をかけて引きずり回して、私達の手の内を探るのが狙いかしらね?」


「おおー、マニの意見はクリティカルだな!あくまで可能性の内だけど、そう言う事もあるかもな。」


髪をタオルで拭きながら、ダリアが風呂から上がってきた。アズのとなりに座ると、心地良さそうにため息を漏らした。


「ああ、良い加減でしたわ。寮のシャワーも好きですけど、此方の方が気持ち良さが段違いですわ。」


「ライエもね、お風呂大好き。姉様と一緒に入りたいの。」


ちょっと眠そうにしていたライエが、ダリアの隣に移動して座った。2人共、ほのかに上気して頬が赤くなっている。


「良かったら、何時でも入りにおいで。セネルさんに頼んでおくからさ。」


「パパー、ありがと!」


「マサ先生がそう仰るなら、ありがたく使わさせて頂きますわ。」


アズがニコニコしながらダリアを見ている。可愛いんだろうなあ。俺はプルが半寝しかけているのに気付いて、話を戻した。


「さっきの件だけど、マニの言ったことが仮に真実だとすると、容易に手は出せない。しかし、放置すると弱小な村は存続が危うくなる。此方の嫌な部分を見事に看破した戦略と言うことになる。」


「え?何の話ですの?」


ダリアが口出ししてきた。俺はライエの方を見ると、


「はい、ライエが説明してあげて。」


と無慈悲にも話を振った。いや実は、この子がどれくらい大人の話を理解しているか、ふと知りたくなったんだよな。


「えっ?えーと、猫姉様が村巡りをしたら、問題がいっぱいで訳がわからなくなった、かな。えと、それでパパ達は悪い人がそう言う風に企んだ、と思っているとか。」


おおー、案外理解できている。6才なのに、やっぱこの子は賢いな。


「うん、大筋で合っていると思う。でもな、プルは邪神と関係なさそうだと判断したと言う事だからね。訳は分からなくなってないよ。(笑)」


「あ、そっかあ。(笑)」


「ま、まあ話は大体合っているから大丈夫にゃあ。」


プルはライエの頭をナデナデしながら同意した。ダリアは首を捻った。暫く考えてから、こう切り出した。


「そのまんま返し、と言うのは如何かしら?」


「ん、例えば?」


ナルが身を乗り出して聞き返した。


「相手が有効と考える戦略なら、相手にも有効と言う場合がありますわよね...静かな侵略を仕掛けてくるなら、静かに互助すれば宜しいのではないかしら?」


おおー、流石アズが褒めるだけあるな!中々智恵者だなあ、ダリアさんよ。


「一理ある。」


ナルが大きく頷いた。アズはダリアの後ろから抱きついた。


「ふふ、あなたがいて本当に良かったわ。将来が楽しみね。」


くすぐったそうにしているダリアを、妻達が絶賛している。ま、そんなに単純ではないかもだけど、各村が諦めてしまってるのでは結局こちらが介入しないと問題解決できない訳だしね。


「んー、それじゃあ久しぶりに、謎の冒険者パーティー復活と行こうかね。」


「ああ、武術大会前のあれね?」


マニが、思い出して吹き出しそうな顔をした。


「そうそう、勇者マニとゆかいな仲間達というあれね。」


「あーなーたー!!(笑)」


マニが半笑いしながら詰め寄った。俺はライエの隣に逃げた。プルがメッチャうけている。


「にゃははは、マニがウッキーって言ってた奴にゃあ。アレには正直笑ったにゃあ。」


全員が笑った。マニは仕返しに俺の脇腹をつねると、ムスッとしている。


「ごめんごめん、皆ちょっとからかってみたくなったのさね。マニ、機嫌治してくれよ...。」


マニは気を取り直した。最近こう言う話題を引きずらなくなったのが、成長の証だろう。


「何て言うか、あの時はちょっとイライラしてたのもあるわね。先生が尊敬していたのは知っていますけど、真祖様がちょっと苦手だったのよ。」


「マニさんて、前からそうだったものね。あの方の良さを理解するのに、浅い付き合いでは中々難しいわ。」


アズがちょっと寂しそうな表情をした。尊敬していたからなあ。社長が消滅した時の2人の反応は、俺への配慮はともかく対照的だった。表面上は同じニュアンスだったが、アズは非常に悲しみ、マニは安堵していた。


「前世の親父が社長だったとか、忌の際に知るべき話じゃあないよなあ。あれは衝撃だったな。」


「ん、それは命数の尽き。死ぬときは誰でも必然。」


ナルがスピリチュアルな知識をモノにし始めている。これは嬉しい兆候だ。


「まあ、そうなんだけどなあ。後悔するのが人間の仕様だ...。」


「マサが精一杯やってたのを私は知っている。」


ナルがちょっと怒ったように言い放った。俺は彼女の肩に手を置いた。


「そう言ってくれると、救われるよ。ありがとうな、ナル。」


ムフーッと、ドヤ顔するナル。アズやマニは苦笑していた。


「そう言えば、あの時は適当にパーティー名を決めていたんだっけ。えーと、何だったかな...。」


「やあねえあなた、もう忘れちゃったの?砂漠の旅団、じゃない。それに私達が決めたんじゃなくて、元からあった砂漠の旅団に短期間入れて貰ったのよ。」


マニが苦笑しながら突っ込んだ。もうね、そんなの覚えている余力はありませんがな。


「ああ、そんなだったな。(笑) 今度は連れて行くメンバー増やすかな。人数がいた方が、存在を誤魔化せるかもな。」


「そうね。少数で依頼のクリア率が高いと、すぐにギルドランクを引き上げられそうだし、注目されそうね。」


アズが腕を組んで考えながら発言した。


「そもそも、邪神の目を欺く方法なんて、そんな方法で良いのかなあ。俺達が居れば、すぐにバレるレベルじゃないか?」


うーん、と全員が唸った。全知全能が神の能力だ。人間の基準では通用しないだろう。


「その答え、我が何とかしようぞ。」


ラヴィ様が顕現された。今日は御約束のインドの民族衣装だ。ダリアはその場で跪いて、両手を組んで前に突きだした。絶対服従の敬礼だ。


「おお、御主がアズナイルの姪子かえ。そう畏まるでない。普通に接するのじゃ。」


「勿体無きお言葉ですわ。御意のままに。」


ダリアは立ち上がった。主は微笑みながらダリアの頭を優しく撫でた。


「ラヴィ様、答えをお教え頂けますか?」


「うむ。実はのう、御主等に与えた加護が隠れ蓑になっておる。何故今までフロートジョイが邪神に攻撃されていないか、考えてみるがよい。」


「おお、気付きませんでした。この前の人魚村では、相手からすると待ち伏せしていて、やって来た存在だから特定できた、と言う事でしょうか?」


「そうであろうな。我がその場に居なかったのもあるじゃろう。御主の存在も、本当の所は何者か判らなかったじゃろう。ただ近寄ってくる微弱なエネルギー体を捉えた、と言う所じゃな。」


「ありがたい。これで心置き無く活動できまする。」


「マサよ、アルタレスも連れて行くのじゃ。かの者が居れば、他の村長達と交渉するのに役立つであろう。艦内の事は、サヴィネの事もあるじゃろうからマデュレに任せれば良かろう。」


「親父様は顔が広いですからね。今の居住区なら、マデュレだけでも問題は無いかと。2人とも残念がるでしょうけど。」


「もう4ヶ月になりますからね。そろそろ悪阻も落ち着くでしょうしね。」


マニが主婦らしい意見を述べた。ラヴィ様は頷くと、


「ではサヴィネが落ち着いて、マデュレに余力が出来たら出発するがよい。メンバーは、それまでに選定しておくのじゃ。」


そう言われると、主は依り代にお戻りになられた。


「ん、私行く。」


ナルが1番に手を挙げた。アズは学園の運営で無理そうだ。マニは言わずものがなだろう。プルも控えめに挙手している。


「私も行ってみたいですわ。でも、学業や生徒会がありますもので...。」


ダリアも残念そうだ。若手の実戦訓練には、冒険者の経験がうってつけなのだが。しかし何かあっても自己責任と言うのもあるしなあ。


「そうだね、ライエも学業に専念しなさい。ダリア、この子の事を頼めるかな?」


「ええ、言われなくてもそういたしますわ。」


「ダリアさん、ライエをよろしくね。」


マニも、ダリアにお願いをした。ライエは冒険に行けないのが残念そうな様子だが、学校も凄く楽しみにしていたので特に文句は出なかった。


「いや、君達にも実戦訓練の一環として手伝って貰うかもしれないよ?まだ計画はないけど、この仕事は下手すると数年単位でかかかるかもしれないからね。」


「そうねえ。事が事だけに、広域調査で問題を潰しながら情報を集める、となれば手間がかかるのは仕方がないわね。」


アズが眉を潜めた。この子はこの表情が怒っている風に見えるんだよな。勘違いされやすい分、下手に扱われないという利点もある。


「そう言えばアズさあ、全然話は違うけど、学園のシステムに勤労学生を加えるのはどうだろう?」


「いきなりね。勤労?何をやらせるつもり?」


アズは聞きなれない言葉に首を傾げた。


「うん、セネルさんとキャンプの時に話したんだけどさ。貧しい子供達の為に、学費と生活費を船内の施設で稼がせながら修学させる、と言うシステムさ。」


「あなたが学園の事を気にかけてくれるなんて、嬉しいわ。確かに、今の学園は裕福な家限定だわね。諸々の採算が合うなら、是非検討してみたいわ。」


「うん。そうしてくれると、ここの人口も増やせるだろう?若手の比率が上がるのは、メリットがあるよな。在野の才能を埋もれさせておくのは惜しいし、貧しい家からすれば生活費がかからなくなる。」


「マサらしいアイディアだにゃ。賛成にゃ。」


プルが珍しく素直に賛成してくれている。まあ、こいつは普段あまり意見を言わない方だが。


「プルってさあ...何て言うか、元血族のアズの従者をやっていた割には庶民派だよな。案外コスパ重視しているし。そう言う感覚が、直感的な嗅覚の基準になっているんだろうな。」


「こ、コスパって何にゃ?」


「あーすまん、費用対効果の事だね。」


「ああ、そう言うセンスはアズ様からの教えだにゃ。」


俺はアズの方を見た。頬杖をついて俺とプルの会話を聞いている。


「やはり庶民のために仕事をするなら、感覚も同じ基準にしないとね。価値観とかがずれていると、一般人には嫌味だわ。」


「アズがそう言う人で、俺は助かるよ。なまじ裕福なのに、有効活用しない輩は知性を疑うな。」


「パパー、費用対...って何?」


「うん、費用対効果ね。よりお得な方へ仕向ける、ってことさ。同じ食べ物を買うなら、より支払う時間の短い方が良いと思わないかな?」


「うん。ああそっかあ、安くて良い物や方法を考えたり見つけたり、かな?」


「それで合っているよ。そう言う案を、より学問的に表現しているだけさ。何となく解ったかい?」


「うん!ライエもね、安くて美味しい物の方が良いと思うの。」


「ライエは凄いにゃ。経済の話を理解するとか、とても子供とは思えないにゃあ。」


「そんなことないよ...猫姉様だって凄いってパパが言ってたもん。」


「そ、そうかにゃ?何だか照れるにゃあ!」


プルは頭を掻きながらモジモジした。普段バカにされているから、褒められるのが嬉しいのだろうな。いや、こいつの能力は馬鹿にならないんだよな。マナーとか素行が珠に傷な。(笑)


「まあともかく、今期は終わっているだろうから来期からでも検討してみてはどうかな?若手が増えれば防衛力の増強にはなるし、俺はそう言う方向に話を進めたいんだが、アズはどう思うかな?」


「あなたが協力してくれるなら、喜んで。それに、今後の学園の運営に関わってくれるなら、私の方も願ったり叶ったりだわ。」


アズは目を細めた。まあ、君としては俺を教員みたいな立場で迎え入れたいんだろうさ。弟子はとらない主義だから「教師と生徒」の関係でとか思っているんだろうな。ある意味同じだっちゅうの。


俺は手を叩いた。セネル氏がやって来た。


「セネルさん、例の勤労学生の件と合わせて、ラガー工場と大衆食堂のプロジェクトを推進します。音頭を取って頂けますか?」


アズも頷いている。セネル氏の目がキラリと輝いた。


「お任せください、旦那様!既に人選は済んでおります。経営は得意な者を紹介できます。食材調達は船内の市場で、店の使用料はその人と詰めます。勤労学生は運営が安定してきてからになりますので、最低でも半年くらいはかかるかと。」


おおー、ヤル気満々じゃないか。この様子なら、任せておけるな。


「ラガーの原料だけど、当面麦は都と交渉ですね。品質の管理をしないと。土壌汚染とか故意でなされる可能性も加味して、チェックをしないとね。輸入交渉は、基準作りは俺達で、交渉は経営者に任せましょう。」


「そうねえ、使っている水にヴァンパイアウィルスとか、ありそうだものね。」


マニが顔をしかめた。村長親子は、揃って血族嫌いなんだな。ああそうか、だから19番を設立したんだったな。


「それもそうだし、邪神の使いが何を仕掛けてくるか判らんし、都とかでうちの大衆食堂をもう1店舗出店しようと思っているんだよ。他の同業者からの影響とかね。」


「ん、危機管理が超重要。」


ナルの一言って、無駄を省いて単刀直入だから短い会話でも案外通じるんだよな。これはこれで優れている。


「ま、簡単に盗めるものは盗めばいいさ。でも、容易に真似できなかったり、知らなければ普通思い付かないアイディアというのが真の技術やノウハウだろう。それを自らいい加減な管理で漏らすのは愚策というか怠惰だな。」


全員が頷いた。こういった意識を高めておくのは、有意義なことだ。何時如何なる事態が起きるか分からない。事前に心構えを確かめておくも重要だろう。


「セネルさん、そう言う訳で、今の打ち合わせに沿った方向性で進めてください。工業区は今から1ヶ月以内で建物だけ完成させます。内部の設備や作業場は、職人と打合せで決めましょう。」


「はい。最終面接はいつ頃に致しますか?」


「面接と言う形では行いません。セネルさんのこの人はと思った人材を先程の打合せに参加させます。そこで人柄を見て最終的な判断をします。多分追い返すことにはならないと思いますがね。」


「承知いたしました、段階的に進めますね。一応、建物の建造の時に職人代表を連れてきます。間取りとかの打合せ、必要ですよね?」


「おお、そうですね!では、その時に代表の判断を致しましょう。」


「では、日取りが決まったら教えてくださいね。私は職人達に通達してきます。」


セネル氏は嬉しそうに笑うと、部屋を出ていった。待ち望んでいたんだろうなあ。


「アズ、そう言う訳で、一年後くらいを目処に勤労学生の制度を俺と一緒に考案してくれ。色々な部族で、様々な才能が活かせる世界を。」


「何か、あなたがそう言うと現実味を帯びてくるわね。分かったわ、早速教員達で会議をしてみるわ。色々な意見が出るでしょうけど、若者の未来の為に。」


そう言うと、アズも嬉しそうな笑みを浮かべた。ふと横を見ると、プルは寝ていた。(笑)


メイドのラピスがプルを寝室へ運んでいった。あいつ体重は小学生低学年位だから、女性でも運べる重さではあるんだが。軽々と担ぎ上げたラピスが頼もしい。


「さて、君達もそろそろ就寝時間だね。そう言えばダリアは明日学校は休みだっけ?」


「ええ。でも生徒会の活動で顔は出さないとですわ。昼過ぎ位から、ですけど。」


「今日は遅いから、泊まっていきなさい。来客室を使っていいから。」


「何から何まで、マサ先生には感謝ですわ。久しぶりに叔母様とお話ができますわ。」


「ふふ、そうねえ。最近忙しかったし、貴女は寮に入ってしまったし...。」


「叔母様は結婚してしまわれましたし。(笑)」


「ま、宿泊していくなら、ちょっと位遅くなっても平気かな。ライエは、限界みたいだね。」


うとうとしていたライエが、はっと姿勢を正す。俺はマニにお願いした。まだ姉様とーとか言ってたけど、多分もう無理だっちゅうの。(笑)


「さて、そこの御嬢さん、君にも話があるんだが。」


俺はナルに声をかけた。ラガーを片手につまみを食べていたナルは、ぐるんと首をこっちに回した。今でもホムンクルスの頃の動作が抜けないのだろうか?(笑)


「ん、何用?」


「時代劇じゃないんだし。(笑) えーっとな、君んちに訪問したときの事なんだがね、何で君は親にああいう態度なの?」


ナルの眉がピクッと動いた。それを聞くかあ?という感じの表情で俺を見る。


「ん、昔にちょっと色々。」


「うん、誰だってそれはそうだろう。君は彼らが本気で愛していると思っていないのかね?」


「...判らない。多分そうだと思う。」


「ナルさ、愛情の反対って何だと思う?」


「んー、憎しみ?」


「正解は無関心、だね。憎むことは、ネガティブな愛なんだよ。」


「...よく解らない。」


「じゃあさ、愛ってどういう行為だと思う?」


「見返りを求めずに誰かに尽くすこと?」


「うん。じゃあ同じく憎しみは?」


「...ネガティブな念を持ちながら嫌ったりする事?」


「そうだね。何かが共通していると思わんかね?」


「んー、相手に対して想いを持っている事かな?」


「そう、それさ。何とも想ってないのに、相手を憎んだり愛したりするかね?」


「あ、無視する。」


「だろ?そう言うことさ。そう言う話からすると、君んちの両親は少なくとも君に対して無視はしてないよね?親子の愛かは判らんけど、想いはあるんじゃね?」


「...そうか。」


「いくら親戚って言っても、愛してない奴にあそこまで心を砕くかね?手間隙かけているから、わざわざ俺を呼び寄せたりしたんじゃないかな?いや領主の立場がとかもあるんだろうけどさ。」


「...言いたいことは解った。私もわざとじゃないの。何となく、こうなってる。」


「それそれ、勿体ねえよ。俺が思うにナルはさ、本当はプルとか弱い立場の奴に心をあげられる子なんだよ。何で両親に同じ優しさが表現できないのかなって、思うのさ。甘え方が不器用過ぎだと思う。」


「甘え...?」


「他人にあんな振る舞いするかい?」


「ん、それはない。」


「ほれ、俺からはそう見えるぞ?特殊な甘え方だなあと。」


「マサに指摘されるとは思わなかった。」


「うん、俺もこんな事言いたくはないな。でもさ、両親があの様子で自由船に来るとするだろう?そのまま移住とか言い出し兼ねないと思わんかい?」


「この前、あなた抜きのこの面子で話をしたのよ。御両親なら、フロートジョイで引き籠れるねって。」


アズがフォローしてくれた。いつの間にか戻ってきていたマニも、頷いている。


「...それ、あるかも。(笑)」


ちょっと萎えた顔をして、ナルはフンと鼻で笑った。俺達の心配が、理解できただろうか。


「ま、すぐには無理だろうけど、ちょっと考えて欲しいんだな。あれを見て、あんまりだと俺は思ったわけさ。人口を増やすためにも、亜空間から移住してくる希望者を、ましてや君の両親を拒否する理由は、うちには無いんだよな。」


「...マサ、ありがと。愛してる。」


俺は無言でナルを優しく抱きしめた。何かちょっと涙ぐんでいた気がする。フィジカルコンタクトでも分かったけど、気にしていたんだな。ま、お互い解っていたけど、言葉にする必要があった、とも言う。


マニが気を利かせて、コーヒーを持ってきてくれた。俺、マニ、ナル、アズ、ダリアは、それを啜りながら世間話を暫くした。深夜前になったので、ミーティングはお開きとなった。


今日はナルと一緒に寝る日だ。さっきの話はもう心の整理をつけたらしく、ナルは子作りを望んでいた。ま、せがまれていたしな。まだ俺の今夜は終わらない。

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