第13話 不都合な事実
「あの…貴方、気を失って運ばれている間も片目が常に開いてましたが…」
移動中、村長に伴っている男衆の一人が俺に話かけてくる。
「ああ…イルカがする半球睡眠の真似事ですよハハハッ」
「いるか…?はんきゅう…?」あ
「あっ!あまりお気になさらず」
少し喋り過ぎたか…。やはりあまりコミュニケーションをとるのが得意ではないな、俺は改めて己の性分を自覚する。
「そういえば、村落で一人行方知れずになっていると仰っていましたよね?私を見つけていただいたのも、その捜索の途中だったとか」
「そうなんですよ…いなくなったのはクロォという青年なんですが、実は彼を探しているときに焼き討ちにあった集落を見つけまして、その近くにその…大量の血痕と彼の持っていた腕輪があったのです。」
男はそういうと、落胆した様子で俯いた。
「エルフに襲われたんでしょうかね…それは…お気の毒でしたね」
俺はひとまず一言弔意を示した。
「まぁ…確かに貴方の言うエルフ、奴らに襲われたのだとは思うのですが、一つ気になる点があるのです。エルフは強壮剤等の薬物の素材として我々を連れ去ります。移動が出来ない老いた者や病気の者はその場で殺してから火を放つのです。なので、彼のように大量の血痕だけ残して殺されるというのは異例なことなのです。近くには木に葉を立て掛けた新しい住居らしきものや石槍もありましたがこの件に関係があるのか、奴らがなにかしたの秘術を使ったのか、それとも別の生物に襲われたのか何から何までで全くわかりませんね。」
「はぁ…なるほど。焼き討ちのあった村から彼が亡くなった場所まではどのくらいの距離だったんですか?」
「ああ…だいたい歩きで一時間ほどの距離ですね」
「あっ…」
俺は気づいてしまった。
クロォとやらの遺体が見つかったのは俺のつくったシェルターの近く。つまり、転移時に俺の周辺に広がっていた血溜まりや肉片は彼のものであった可能性が高い。もしかしたら、俺が転送された際に発生した衝撃波なんかに巻き込まれてしまったのかもしれないな…。
「忘れよう…」
俺は小さい声でそう呟いた。
「何かおっしゃいましたか?」
「あっいえ…」
”クロォくん”の身に起こったことは、俺の胸の中にしまっておこう。
※クロォの下りについては「第2話 never生きねば」を参照のこと。
※半球睡眠:イルカなどが行っているとされる、特殊な睡眠法。片方の脳を休ませ、もう片方の脳は起きている。睡眠中も呼吸をしなければならない宿命にある、水中哺乳類のイルカらしい身体の仕組みであると言える。
山田は、睡眠中も周囲を警戒するためにこの睡眠法を行っていることがある。