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D・T転生シリーズ

CHILDREN 〜ロードマン家の子供達の話〜

作者: 紫龍院 飛鳥

第一章 長女 アニー・ロードマン



私の名前は『アニー・ロードマン』15歳、職業は冒険者

私は物心ついた頃から父から魔術を教わり10歳になる前には初級程度の術はほとんどマスターしてしまった。


その私の父というのが、私も所属している冒険者ギルド『猛者の集い』の代表にしてかつてこの世界を破滅の危機から救った英雄として讃えられた魔術師『アンディ・ロードマン』

父はかつて冒険者として各地を冒険し、数多の魔物や悪党達と戦い、今となってはこの国でその名を知らない者はいないほどの有名人だ。


現在父はギルド代表の傍ら、未来の冒険者を育成する為の学校を経営しており、あまり自ら任務に出たり戦う姿を見せることは少なくなった。

でも、父がこれまでに残してきた偉業の数々は今でも冒険者達や国中の人々に広く語り継がれている。


私はそんな父の存在が誇らしく思えた…子供の頃までは(・・・・・・・)




【ギルド本部】



「…ただいま戻りました」

「アニーさん、お疲れ様です!」

「はいこれ、任務の記録です」

「はい、確かに確認致しました!では報酬です、どうぞ」

「どうも…」


受付のお姉さんに任務の報告をして報酬を受け取る。


「それにしてもすごいですね〜、たったお一人でジェネラルウルフを討伐しちゃうなんて!」

「…別に」

「流石は『代表の娘さん』ですね!」

「………」

「では、またよろしくお願いします!」

「うん…」


と、報告を終えて帰ろうとすると、受付のところにいた二人の男性冒険者が私の方を見て


「おい聞いたか、アニーの奴がまた大物仕留めたらしいぜ!」

「あぁ、あんなチビのくせにやるよなぁ!」

「何でもあの歳でもうAランク昇格目前らしいぜ!」

「うらやましいよなぁ」

「無理もねぇって、何てったってアイツ『代表の子』だろ?強ぇに決まってんじゃん」

「っ!!」


と、私は男達をキッと睨みつけた


「お、おい何だよ!?なんか気に障るようなこと言ったか!?」

「…何でもない、フンッ!」

「…何だったんだ?」


…もうやだ、もううんざりだ…みんな二言目には『代表の子だから、代表の子だから』って、私がどんなに頑張ったってすぐに父様の子だからって甘くみられる…冒険者学校の頃からずっとそうだった。



『いやぁ流石だなアニー!流石は代表の娘だけあるな!その調子で頑張りたまえ!』



あの時から、父様の存在は憧れから段々と重荷プレッシャーとなった…私はこれまで自分の力だけで必死に努力をしてきた、なのに周囲の大人達は『代表の子なんだからできて当然』なんて思っていてちっとも私の努力を褒めてくれない。


そんな毎日に嫌気が差し、もう冒険者を辞めたいとさえ思うようになった。



「ただいまー」

「おかえりなさい、アニー」


この人が私の母様の『アリア・ロードマン』

かつては父様と一緒に冒険者パーティーを組んでいたことがあり、かなり凄腕の剣士だったらしい。

今はもう冒険者稼業はほぼ引退しており、家事や子育てをしている。


「おうアニー!邪魔してるぜ!」

「リリーナ姉さん、来てたんだ」


この人は父様や母様と一緒にパーティーを組んでいた『リリーナ・ハンドレット』さん

今は冒険者を辞めて『演芸ギルド』の代表をしているらしい。

ウチにもちょくちょく遊びに来てウチで一緒にご飯を食べたり弟達の面倒を見てくれたりしている。

私も子供の頃はよくリリーナ姉さんに遊んでもらった、本当にいいお姉さん的存在で弟達もすっかりリリーナ姉さんに懐いている。


「もうすぐご飯できるからね」

「いらない、外で食べてきたから…」

「そう…」

「もう今日は疲れたから寝るね、夕飯も私の分はいらないから…」


と、それだけ言い捨てて私はさっさと部屋へ戻ってしまった。


「…なんかアイツ最近随分素っ気ないな、なんかあったのか?」

「うーん、何か悩みでもあるんでしょうか?」



私は部屋へ戻り、倒れ込むようにベッドにうつ伏せで寝転がる

そして疲れていたからかものの数分で眠ってしまった。



…次の日の朝、私はいつも通りにギルド本部へ行き任務を受けに行く


「よぉ、おはようさん!アニー!」

「…あぁ、『グレン』ですか」


彼の名前は『グレン・マクレガー』、私の冒険者学校時代の同期生だ

私とは違い彼は魔術師ではなく戦士系の冒険者で大きな斧を両手で振るう剛腕の持ち主である。


「なんだぁ?相変わらずシケたツラしやがって!」

「あなたには関係ないでしょ…」

「ホントに愛想ないヤツだな…ちょっとぐらいニコっとしたらどうだ?そしたらちょっとは可愛いかもよ?」

「大きなお世話です!大体、私なんかに絡んでる暇があるのなら、一つでも多く任務をこなして来たらどうですか?そんなだから万年Cランクなんですよ」

「…痛いとこついてきやがるな、あぁそうだ!お前これから任務受けるのか?」

「えぇ、まだどの任務受けるかは決めてませんが…」

「そうか、ならウチのパーティーの仕事手伝ってくんね?ウチのパーティーの魔術師が昨日の任務で怪我しちまってよぉ、まぁAランク目前のお前からしたら今更Cランク程度の任務なんてやりたくないだろうけどよ、ここは同期生のよしみで何とか頼むよ…」

「…仕方ありませんね、困ってる人がいたら迷わず助けてあげなさいと両親から教えられてるので、協力しましょう」

「ありがてぇ!これが終わったら一杯奢るぜ!」

「お酒はダメなんで、オレンジジュースがいいです」

「分かった!じゃあ早速手続きして来るぜ!」



・・・・・



と、いうわけで私はグレンのパーティーの仕事を手伝う事になった。


グレンのパーティーメンバーは彼も含めて三人、戦士のグレンと今回欠席の魔術師の『ルーシー』、それと長剣ロングブレードを使う剣士の『ニコラス』

基本的なスタイルとして戦士グレン剣士ニコラスの二人が前に出て戦って魔術師ルーシーが後ろから魔術で援護や防御を行なうという。


今回私はルーシーが行なっていた魔術での後方支援を担当することとなる


ちなみに今回の任務というのが『トライデントブル』の角と肉の素材調達

このトライデントブルというのは角が三本生えた牛の魔物で角や骨は武具の材料に、肉は高タンパクで食用として用いられる。


「…と、この辺だな」


すると、遠くの方から地鳴りのような足音が聞こえてくる


「来た!アニー!止められるか?」

「任せて!『【水×土】マッドトラップ』!!」


トライデントブルを泥沼に嵌める、すると途端に身動きが取れなくなる


「よし!でかした!」


身動きの取れないトライデントブルの首を容赦なく斧で叩き斬るグレン


「へへっ!一丁上がりだ!」

「油断するな、まだ来るぞ!」


と、続いて今度はトライデントブルの大群のお出ましだ


「おぉおぉ、いっぱい来たなぁ!狩り放題だぜ!」

「余計なお喋りはいい、やるぞ!」

「あぁ!アニーは援護よろしくぅ!」

「えぇ!」


と、二人してトライデントブルの大群を狩っていく

私も後ろから魔術で援護する


「…ふぅ、こんなもんか」


倒したトライデントブルが山積みになっている、ざっと数えて数十匹ぐらいはいる。


「…あ、グレン!血が!」

「ん?あぁ、ちょっと角が掠ったか?でもこれぐらい平気だ!ただのかすり傷だ!」

「…あの、良かったらこれ使ってください…エルメス先生にもらった傷に良く効く薬です」

「エルメス先生の?いいのか?サンキューな!」


私から薬を受け取り傷口に薬を塗る


「おっ?スゲーキレイに治った!スゲーなこの薬!」


ちなみに『エルメス先生』とは父様と母様の元冒険者仲間のエルフ族の人で父様の一番弟子らしい

今現在は現役のSランク冒険者にしてアドガリーノの街でお医者さんとして診療所を構えている。

私や弟達が産まれる時も先生が取り上げてくれたらしい


「おし、素材の還元終わったぞ」

「おう!じゃあ街に戻るか!」



【アドガリーノの街 酒場『STORONGER』】



「いらっしゃい!」

「おう!ウイスキーロックで!コイツにはオレンジジュース頼む!」

「あいよ!母ちゃん!ウイスキーロックとオレンジジュース一つ!」


ここは街の酒場で冒険者達の憩いの場、昔はここにギルドの本部があってお店も前の副代表さんが経営していた

今はギルド本部は冒険者学校の内部に移設され、この酒場は『ミシェルさんとアスカムさん』という親子が二人で切り盛りしている。


何でもこの親子もその昔、父様達に救われたらしい…


「はいお待ちどう様!ウイスキーロックとオレンジジュースです!」

「おっ来た来た!それじゃあ乾杯!」


乾杯するや否やグラスに入ったウイスキーを一気に飲み干すグレン


「くぅ〜、やっぱ一仕事終えた後の酒は格別だなぁ〜!」

「それは良かったですね…」

「お前もたまにはどうだ?いつもジュースか水しか飲まねぇじゃねぇか」

「遠慮しときます…前にも言いましたけどお酒はホントにダメなんですよ…」

「何だ、お前もまだまだお子ちゃまだなぁ〜」

「そういう問題ではないんです!全くこれだから無知な人は…」

「なぁ悪かったって…もう一杯奢るから機嫌直せよ、なっ?」

「…次はブラッドオレンジジュースがいいです」

「んなっ!?お前よりによってんな高いモンを…まぁいいや、おーいアスカムー!コイツにブラッドオレンジジュース一つ頼む!後、俺にもウイスキーおかわり!」

「あいよー!」

「まだ飲むんですか?またニコラスに怒られますよ?」

「へっ、ニコラスが怖くて酒が飲めるかっての!お、来た来た!」

「はいお待ちどう様!ごゆっくりどうぞ!」

「おう!グビグビ…くぅ〜!うめぇ〜!生きてるって素晴らしいなぁ!」

「…やれやれ、そんなんで喜んでられるなんておめでたい人ですね」


と、私はジュースを一口飲む

けど一口含んだ瞬間違和感を感じてすぐに吐き出してしまった。


「ゲホッゲホッ!苦い!」

「何ぃ!?ん?クンクン…おいアスカム!これ『果実酒』じゃねぇか!」

「えっ!?あっ!すみません!他のお客さんのと間違えちゃいました!」

「おいおいしっかりしてくれよ、アニー大丈夫か?」

「…大丈夫なわけないじゃないですか、うっぷ」


と、私はその場に白目を剥いて卒倒してしまった。


「おいアニー!しっかりしろ!おい!」



・・・・・



…気がつくと私は自分の部屋のベッドで寝かされていた。


頭がズキズキと痛む…私はあの後どうやって帰ってきたのだろうか?全く記憶にない。


すると、そこへ…


「あ、アニー!もう大丈夫なの?」

「母様…」

「大丈夫?酒場で間違ってお酒飲んで倒れたって聞いたからビックリしたわ…」

「うん…あの後私、どうやって帰ってきたの?」

「あぁ、それならあなたの冒険者仲間だって人があなたをここまでおぶって送ってくれたのよ、たしかグレンって名乗ってたわね、大柄な男性の人よ」

「そう…」

「具合はどう?ご飯は食べれそう?」

「うん、少しなら…」

「そう、すぐ準備するわね」



…その夜、私はグレンにお礼を言おうとギルド本部を訪れた。


「グレン!」

「ん?おぉ、アニーじゃねぇか!もう大丈夫なのか?」

「うん、その…あ、ありがとうございました、家まで送ってくれて」

「あぁ気にすんな気にすんな!困った時はお互い様だろ?」

「うん…」


「はっ!?代表!お疲れ様です!!」

「!?」

「うん、みんなご苦労…」


「父様…」

「ん?おぉ、アニーじゃないか…最近とても頑張ってると話を聞いたぞ!」

「はい…」

「まぁこれからも無理せず頑張りなさい…」


すると、その時だった…


「だ、代表!た、大変です!」

「どうした!?」

「ま、街に向かって大量の魔物の大群が押し寄せています!物凄い数です!」

「何!?こうしてはおれん!手の空いているAランク以上の冒険者は直ちに戦闘配置につけ!それ以外は街の住民の避難と街の守護を!」


「はい!!!!」


「………」


これは絶好のチャンスだ!ここで手柄を立てることができればきっとみんな私のことを認めてくれるはず…そう思った私はいの一番に外へ飛び出していった。


「ア、アニー!どこへ行く!?戻りなさい!お前じゃ危険だ!アニー!」


…一番乗りに現場に到着、そこでは無数の魔物達が真っ直ぐに街へと向かっていた。


「見てなさい!このアニー・ロードマンがまとめて相手してやるわ!はぁぁぁ!!」


バッタバッタと迫り来る魔物達を討ち取っていく、だがあまりにも数が多すぎて流石に手に負えなくなってきた。


「ハァ、ハァ…」


魔力も底を尽きかけ、とうとう術を出す余力もなくなってしまった。


「バオォォォ!!」

「!?」


魔物達に囲われ万事休すとなる


(…っ、もう…ダメだ)


半ば死を覚悟したその時だった。


「『エアロスラッシュ 乱舞』!!」


無数の風の刃が魔物達を斬り刻んだ


「!?」

「全く、手間をかけさせおって…」

「父様!」

「考えなしに突っ走るな!それで死んでしまったら元も子もないだろう!馬鹿者!」

「す、すみません…」

「まぁいい、説教は後だ!後は私に任せなさい!」

「は、はい!」

「さぁいくぞ!魔物達よ!」


その後、父様と駆けつけた冒険者達で魔物達を一網打尽にしてしまった。


「ふぅ、一先ずこれで難は去ったな…」

「あの、父様…申し訳ありませんでした」

「ふぅ、全くお前と言う奴は無茶なことを…だが、やはり血は争えんな…」

「えっ?」

「若い頃、私もお前と同じように後先考えずに前だけ見て突っ走って何かと無茶する癖があってな、そのおかげで何度も死にかけて母さんや他の仲間にも散々心配かけてしまった…」

「そうだったんですか…」

「お前はまだ若い、早く手柄を立てたい気持ちも分かるが焦ることはない…焦らずゆっくり地道に頑張ればいい」

「…はい!」



・・・・・



その後、私はAランク冒険者へと昇格し、昇格してからも地道にコツコツと任務をこなしていった。


そして次第に周りのみんなは段々と私自身のことを見てくれるようになり、もう誰も『代表の子だから』とは言わなくなった。


「よぉアニー!」

「グレン、お疲れ様です」

「聞いてくれよ!俺達も等々Bランクに昇格したぜ!」

「そうですか、良かったじゃないですか…」

「この調子でじゃんじゃん成果上げてすぐお前に追いついてやるからな!」

「…あまり期待せずに待ってますね」

「コイツ、相変わらず余裕ぶりやがって…」

「Aランクの道は早々甘いものではありませんのでね…」

「まぁたしかにな、俺らの同期で結局Aランクになったのってお前だけだもんなぁ、やっぱスゲーよお前は…」

「何ですか?いきなり褒めたりなんかしだして…気持ち悪いです」

「人が折角褒めてやってんのに相変わらずだなお前…でも、俺はそんくらいお前の実力を誰よりも認めてるって話だよ!」

「グレン…ありがとうございます」

「てことでさぁ、頼みがあんだけどさぁ…また任務手伝ってくんね?」

「フゥ、またですか?」

「実は明日初めてのBランクの討伐任務にいくんだよ、俺もメンバーも上手くできるかちょっと不安でな…なっ?いいだろ?」

「全く、あなたって人は私がいないと何もできないんですから…」

「うーん、やっぱダメか…」

「別にダメとは言ってませんよ、困った人を見過ごさないのが我が家の家訓ですから、引き受けましょう」

「おぅ!流石はアニーだぜ!なんだかんだ言っても必ず引き受けてくれるもんな!ホント良い奴だよお前は!心の友よ!」

「…そんな露骨に褒められると、恥ずかしいです」

「おっ?お前もそんな顔するんだな…可愛いじゃん」

「か、可愛いなんて…気安くそういうこと言わないでください!」

「いや、ホントにそう思っただけなんだが?」

「も、もう知りません!フンッ!」

「ちょ、ちょっと待ってくれよ〜!任務はー?」





第二章 長男 アウロ・ロードマン



【幼少期 アウロとリリーナ】



『リリーナ姉ちゃーん!』


『よーしよし、アウロは甘えん坊だなぁ』


『うん!僕リリーナ姉ちゃんのこと大好き!』


『お、そっかそっか!アタシもアウロのこと好きだよ〜』


『わーい!じゃあさ、僕が大人になったら姉ちゃんと結婚したい!』


『おっ?プロポーズされちったよ…へへ、じゃあアウロがちゃんとした大人になった頃、それでもアタシのことまだ好きだって想っててくれたら結婚しよっか?』


『いいの!?』


『おう!姉ちゃんとアウロのお約束!』


『うん!僕将来絶対立派な大人になる!そんで姉ちゃんのこと幸せにする!』


『おっ?言ったな?楽しみに待ってるぜ!』


『うん!』




・・・・・



【アウロ 11歳】


…なんか、随分と懐かしい夢を見たな

結婚か…多分リリーナねえはそんな子供の口約束なんてとうに忘れてるだろうけど…



「おはようアウロ」

「おはよう、母さん」

「お兄ちゃんおはよー!」

「おうヴァレン、おはよう…」

「やっばい寝坊した!行ってきます!」

「あっアニーちょっと待って!はいお弁当!」

「ありがとう!いってきます!」

「姉さん朝から任務?大変だな…」

「そうね、朝早く行かないと依頼の取り合いになることも多いから…母さん達の頃は喧嘩っ早いような人も多くて喧嘩沙汰なんてのも日常茶飯事だったのよ」

「へぇ…ねぇ、今日ってリリーナ姉ウチ来る?」

「今日?今日はリリーナさん仕事ですって、たしか今日からしばらく巡業に行くって話だったからしばらく来られそうもないんですって」

「そっか…」

「んー?」


俺の顔をニコニコしながら覗き込むように見る母さん


「?、どうかした?」

「いいえ、何でもないわ!そうよねぇ、あなたもそう言う年頃だものねぇ、フフフ…」

「へぁっ!?ちょ、そんなんじゃないから!ご、ご馳走様!俺、出かけてくる!」

「はーい、気をつけるのよー!」



・・・・・



【ライサンダー邸】



「おはようございます、お爺様」

「よく来たなアウロ…」


俺は週に五回、母さんの実家であるライサンダー邸で剣の稽古や礼儀作法などを教わっている。


それもこれも強い立派な騎士になる為、立派な騎士になってリリーナ姉を守ってあげられるようになるんだ!


そうして今日もお爺様に剣の稽古をつけてもらう。


「やあっ!!」

「まだだ!踏み込みが甘い!もっと力強く!」

「はい!はあっ!!」

「フンッ!今のはいい筋だな!流石は我が孫!もう一度行くぞ!」

「はい!」



「…よし、少し休憩するぞ!」

「はい!ありがとうございました!」

「今日はヤマトの国の美味しいお菓子が手に入ったんだ、美味しい抹茶もあるぞ?」

「はい!」


お爺様は稽古の時はとても厳しいけど普段はとても優しくて俺が来る日にはいつも美味しいお菓子と抹茶を用意してくれている。


「お前も段々と強くなってきたな…私は嬉しいぞ」

「ありがとうございます!」

「うむ!その調子で頑張りなさい!お前はきっと強い騎士なれる!」

「はい!」


パラドワール王国の騎士団の入隊試験を受けられるのは『13歳』からだ、俺は後二年後…まだまだ時間はある、それまで全力で頑張ろう!



・・・・・



数日後、リリーナ姉が巡業から帰ってきてウチへやって来た。


「うぃーっす!お前ら元気かー!?」

「リリーナさん、いらっしゃい!」

「おう、はいこれお土産!」

「いつもすみません…」

「いいんだよぉ別に、アンディは?いる?」

「すみません、アンディさん今日はお仕事で…」

「そか、じゃあチビ達と遊んでやるかな〜?」

「あっ!リリーナおばちゃんだ!」

「おうヴァレン!元気だったか〜?あれ?アニーとアウロは?」

「アニーは任務で、アウロは私の実家に…」

「実家?あぁ、そういやアマロ団長に剣の稽古してもらってんだっけ?」

「えぇ、そうですもうそろそろ終わる頃かと思いますが…」

「そか、じゃあアタシが迎えに行ってやるよ!」

「そんな、悪いですよ!」

「いいんだよ別にこのぐらい、ヴァレンも一緒に兄ちゃん迎えに行くか?」

「うんーっ!」

「よーしよし、じゃあちょっくら迎えに行ってくるわ!」

「すみません、お願いします…」



【ライサンダー邸】



「よし、では今日の稽古はこれまで!」

「ありがとうございました!」


「失礼します、旦那様…リリーナ様とヴァレン坊っちゃまがお見えになられました…」

「ん?そうか、ヴァレンも一緒ということはお前を迎えに来たのやもしれんな」

「えっ?」


屋敷の外に出るとリリーナ姉とヴァレンが待っていた。


「おーい!アウロー!久しぶりー!」

「リリーナ姉!帰ってきたんだ!」


リリーナ姉のところへ走り出す


「毎日稽古お疲れさんだな!あれ?お前またちょっと背ェ伸びた?」

「ん?そうかな?自分じゃ分かんないや…」

「まぁいいや、とりあえず乗れよ!家まで送るし」

「う、うん!」


リリーナ姉の召喚したドラゴンに跨って家へ戻る


「…ねぇ、リリーナ姉」

「ん?どした?」

「…やっぱ何でもない」

「ん?」



・・・・・



【二年後】



俺は騎士団の入隊試験に見事合格し、晴れて正式に騎士になった。


新米騎士はやることが山積みで、剣や装備品の手入れや騎士団の屯所内の掃除などの雑務、騎士団の仕事についての研修や実践訓練…毎日へとへとになるまで行い、寄宿舎に帰るとすぐに気絶したかのように眠りについた。


おまけに休みもほとんどなく、たまの休みも疲れが溜まって動くこともできずにいた…


おかげでここ数ヶ月ぐらい家族にもリリーナ姉にも会えていない…流石にしんどすぎる。


リリーナ姉に会いたくてもやもやしていた矢先だった。


「アウロ・ロードマン、手紙だ…」


俺宛てに一通手紙が届いた

宛名を見るとリリーナ姉からだった。



『アウロへ、

アリアとアンディから聞いた、お前騎士になったんだって?良かったな!おめでとう!アタシの方も仕事で忙しくてお祝いロクにできなくてゴメンな…。

新人の内はやること山ほどありすぎて大変だってアリアから聞いてさぁ、大変だろうけどアウロならきっと大丈夫だよな?落ち着いたらまた遊ぼうぜ〜!

                   リリーナより


追伸、飯はちゃんと食わないと体持たないからな!忙しくても疲れててもしっかり食べろよ!』



「…リリーナ姉」


リリーナ姉からの手紙を読んでかなり元気をもらえた、明日からもまた頑張ろう!



…それからというものの、俺は雑務に訓練に研修に挫けることなく一生懸命に取り組んだ


そしてどんなに忙しくても疲れていたとしてもリリーナ姉に言われた通りご飯は毎日しっかり食べた。


そうしてまた段々と月日は流れ、次第に身も心も鍛えられ体力も十分についてきた。



そして入隊から二年後…俺は剣定試験を経て、小隊長の座に着いた。



…休みの日、久しぶりに実家に帰ってきた。


「アウロ!小隊長就任おめでとう!」

「おめでとうアウロ!」

「おめでとう!」

「お兄ちゃんおめでとう!」


小隊長就任を家族から祝ってもらった。


「ゴメン!遅くなった!」


と、後からリリーナ姉も遅れて到着した。


「リリーナ姉!来てくれたんだ!」

「あぁ!入隊祝いの時には来てやれなかったからさぁ、今回は来られて良かったぜ!おめでとうアウロ!」


と、俺を抱きしめて頬にキスをするリリーナ姉

イッショターム流の挨拶だ。


「さぁ、今夜はご馳走ですよ〜!アウロの好きなものいっぱいあるわよ!」

「よーし!今日はパァっといくかぁ!」


俺の就任祝いは夜まで続いた、まだ小さいヴァレンは早々に寝てしまい、それからは父さんと姉さんはリリーナ姉に半ば無理矢理お酒を飲まされ早々に潰れてダウンしてしまい母さんと俺はしばらく楽しく飲んでたけど、次第に眠くなって二人とも寝てしまった。


そして夜中になってふと目を覚ます、酔いで頭がクラクラして少し水を飲もうとグラスに水を注いで一口飲んだ。


「ん?おぉ、アウロか…」


台所にリリーナ姉がのっそりと現れた。


「リリーナ姉、起きたんだ」

「おう、アタシにも水くれぃ」


と、俺が使ってたグラスを奪ってそれに水を注いで飲んだ

…関節キスだ


「ふぃ〜、ん?どした?」

「えっ、いや…なんでも」

「??」

「あのさ、リリーナ姉…」

「ん?」

「俺さ、こないだ15になったんだよね…」

「おう、まさかお前と一緒に酒飲み合える日が来るなんて思わなかったな〜、ついこないだまで赤ん坊だと思ってたのに…いつのまにかこんなにデッカくなりやがって!」

「それでさ、リリーナ姉…俺が子供の頃に一緒にした約束、覚えてる?」

「約束?」

「うん…『もし大人になってもまだリリーナ姉のこと好きだったら結婚しよう』って…」

「…あぁはいはい!思い出した!ん?てことは、お前まさか…」

「うん…俺、リリーナ姉のことずっと好きだよ…子供の頃からずっと、だから…俺と、結婚してほしい!」

「…ハッ、冗談だろ?子供の頃と違ってアタシなんてもう四十過ぎのおばさんだよ?そんなんでいいの?」

「関係ないよ!俺はこの十数年間、リリーナ姉だけが好きだったんだ!歳なんて関係ないよ!それにリリーナ姉は昔から変わらず美人だし…顔見るだけですごくドキドキするし」

「…アウロ」

「俺、必ずリリーナ姉のこと幸せにする!リリーナ姉のこと一生守る!だから、俺と結婚してください!」

「…プッ、プハハハハ!!」

「リ、リリーナ姉?」

「いや、ゴメンゴメン!やっぱり人間血は争えねぇ(・・・・・・)なって思って…」

「…へっ?」

「お前の純粋で一途で真っ直ぐなとこ、アンディにそっくりだな!」

「父さんと?」

「アイツとはもう付き合い長いから分かるんだよ、アタシゃアイツほど馬鹿正直な奴見たことねぇよ、まぁそれがアイツのいいところなんだけどな!」

「リリーナ姉、それで?答えは?」

「ん?もちろんいいよ!こんなおばさんでよければな」

「…あぁ、もちろん!」


こうして、俺の十数年にわたる初恋はめでたく実った。



・・・・・



「…アウロ、リリーナさん結婚おめでとう!」

「父さん、ありがとう!」

「まさかアタシがお前らの息子と結婚するなんて夢にも思わなかったぜ…」

「ホントですよ…どうか息子をよろしくお願いしますね」

「おう!んーと、やっぱりお前らのこと『お義父さんとお義母さん』って呼んだ方がいいかな?」

「いえ、いつも通りで構わないですよ…ねぇアンディさん?」

「そうですよ、それにリリーナさんからお義父さんって呼ばれるのもなんか変な感じですし…」

「だよな、よく考えてみりゃアタシお前らよりも年上だしな…」


「「「「アハハハ…」」」」


「リリーナ姉さん、結婚おめでとう!」

「ありがとなアニー、今日からはお前の方がお義姉ちゃん(・・・・・・)だけどな!」

「あれ?あ、そっか!アハハハ!」


すると、そこへ…


「リリーナ!」

「おう!『ザンナ』!」


現れた一際背の高いドレスを着た女性、父さん達の元冒険者仲間の『ザンナ・ハイネリッヒ夫人』

今は貴族の人と結婚して冒険者は引退、聞いた話によると八人もの子供を出産したらしい。


「ザンナさん!あら?そのお腹、もしかして…」

「あぁ、『九人目』だ…」

「すごいな、流石巨人族…」

「フン、これしきまだまだ序の口だ…後五人は産んでみせる!」

「へへ、こりゃアタシ達も負けてらんねぇな…アタシらも頑張ろうな!なぁアウロ?」

「へっ!?あ、あぁ…うん」



…その後、リリーナ姉はめでたく第一子を妊娠した

お腹の子はすくすくと育ちそろそろ臨月を迎える。


「…うん、今のところ特に問題はありませんね…順調に育っているみたいです」

「そっか、ありがとうなエルメス…」

「いえいえ、けど油断しないでくださいよ!四十代での出産はリスクがとても高いですから…」

「分かってるって」

「それと!お酒は絶対にダメですからね!お腹の子に悪影響ですから!」

「もう分かったってば!ガキじゃないんだからそんなに言わなくても分かってるって!」

「…分かってるならいいです、ではお大事に」

「おう」


健診を終えて家へ戻る、妊娠中は何かと大変だろうと思い父さんと母さんの計らいでリリーナ姉は俺の実家で過ごしている。


「ただいまー」

「おかえりなさい、どうでした?」

「あぁ、順調に育ってるってよ…体もどこも異常なしだった」

「そうでしたか、よかった…そういえばもうすぐですよね?」

「…あぁ、そう…だな」

「?、リリーナさん?」

「??」

「やっぱり、不安ですか?」

「ん?あぁ…実は、な」

「そうですよね、私も最初にアニーを妊娠した時とても不安でいっぱいで眠れない日もありました…」

「それもそうなんだけどさ…それともう一つ、心配なことがあってさ…」

「何ですか?」

「ほら、アタシって元々捨て子だったじゃん?それでキースの親父に拾われて親父や演芸ギルドのみんなに育てられてさ…父親とか、兄弟とかってのはなんとなくこういうモンだって理解してるんだけどさ…『母親』ってどういうモンなのか全然分かんなくてさ、そんなんでアタシ…ちゃんとこの子育てられんのかな?って」

「リリーナさん…」


と、母さんはリリーナ姉の手を優しく手にとってこう言った。


「…リリーナさん、実は私は実のお母様を物心つく前に亡くしていて母に関する記憶も何もなかったんです」

「えっ…?」

「私も最初、自分がちゃんと母親として子供を育てられるかどうかとても不安でした…でも、何も一人で気負う必要はないんです…困った時は誰かに頼ったっていいんです!だからリリーナさんも、遠慮なく私を頼ってください」

「アリア…フッ、ありがとう!スゲェ頼もしいよ」

「フフ、伊達に三人も産んで育ててませんからね!それにこの子は…私にとっても大事な孫になるんですから」

「…そうだよな、頼りにしてるぜ!アリアお婆ちゃん(・・・・・)!」



…そして、迎えた出産の日

出産はやや難産となってしまったものの、母子共に無事に元気な女の子が産まれた。


「おめでとうございます!リリーナさん!」

「あぁ…」

「リリーナさん!」

「リリーナ姉!」

「アンディ先生、アウロ君…今丁度産まれましたよ!元気な女の子です!」

「あぁ…良かった、ホントに良かった!ありがとうエルメス先生!」

「いえ、お礼ならリリーナさんに…」

「あぁそうだった!リリーナ姉、ありがとう!」

「バカ、泣きすぎだよお前…ほら、顔見てやんな」

「うん…あぁ可愛いなぁ、俺の…俺達の娘だ」

「そういえばこの子、アウロの子ってことは僕らからしたら…『初孫』ってことになりますね」

「あ、そういえば!」

「そうか、僕もとうとうおじいちゃんかぁ…」

「父さん…」


すると、そこへ…


「リ、リリーナぁぁぁ!!」

「アウロぉぉぉ!!」


お爺様とリリーナ姉のお父さん、キースさんが転がり込むようにして入ってきた。


「親父!」

「お爺様!」


「もう産まれたのか!?」

「え、えぇ…もちろん」

「そうか、で?男の子デスか?それとも女の子デスか?」

「女の子です」

「ワォ!女の子デスか!」

「なんだ女の子か、男らしい立派な名前を沢山考えたのに…」

「親父達も顔見てやってくれよ…」

「えぇ、では…オォ、ベリーベリープリティーデスネー!我が愛しの孫娘マイスイートベイビーよ」

「私にとっては曾孫だな…」

「可愛いなぁ、孫が産まれるとこんな気持ちなんですね」

「分かるかアンディ君!私もアニー達が産まれた時はもう飛び上がるほど嬉しかったものだ…」


と、孫が産まれた喜びを分かち合う『おじいちゃんズ』


「そうだアウロ、名前は決めてあるのか?」

「うん、リリーナ姉と相談しながら決めたんだ…男の子だったら『アーロン』、女の子だったら、『マーロ』」

「アーロンにマーロ…なんかどれもお義父さんの名前とそっくりですね」

「あぁ、そうだな…」

「始めから決めてたんだ、自分に子供ができたら自分が一番尊敬する人の名前(・・・・・・・・・・)からとってつけようって、リリーナ姉もそれがいいって賛成してくれて」

「そ、それってつまり…私のことか?」

「えぇ、もちろん…」

「アウロぉ…私のことをそんな風に思って…うぉぉぉん!!」

「なぁアウロ、お義父さんが一番って言ってたけど、一番は父さんじゃないのか?」

「ゴメン、父さんは…二番目かな?」

「に、二番目って…しょぼん」

「ドンマイアンディ、そんなしょげんなって」

「よし決めた!アウロの中では一番でなくとも、これからはマーロが一番尊敬できる立派なおじいちゃんを目指す!」

「ノンノン!マーロのナンバーワングランパは私デスヨ!」

「いや、そこは私も曽祖父として譲れんな!一番は私だ!」

「いやお義父さんはもういいでしょ!少しは僕にも譲ってください!」

「ほらほら、じいちゃん同士で醜い喧嘩しない!」

「そうですよ!父さんもお爺様もお義父さんも少し落ち着いてください!」

「す、すまん…」

「ソーリーデス…」

「悪いなアウロ…みっともないところを見せて」

「全く…」



・・・・・



それからマーロはすくすくと成長し、すっかり大きくなった


俺に似た銀色の髪に所々リリーナ姉のピンク髪が混ざった珍しい髪色、瞳の色は少し紫とピンクが混ざったような赤紫色でややつり目がちで赤ん坊にしてはふてぶてしい顔つきであまり泣かない子だ

お義父さんの話では、リリーナ姉も昔あまり泣かない子だったらしい。


何にしても、これから俺は騎士として…また父親として愛する家族を守っていこうと胸に誓った。





第三章 次男 ヴァレン・ロードマン




【冒険者学校 学長室】



「失礼します学長殿、今回行なった実践訓練の結果を纏めました」

「うむ、ご苦労…ふむふむ、今回は随分と優秀な結果じゃないか…ん?これは…」



【ヴァレン・ロードマン《実践訓練評価:『F』》】



「うーむ…」

「ご覧の通り、御子息の実践訓練の結果は全生徒の中でも最下位…これはいただけませんな」

「だが、昨年までは魔術の座学や剣術の稽古ではトップの成績だったはず…」

「ですが、何故か4年生になって実践訓練が始まった途端これですからねぇ…いくら成績が良くとも実戦で役に立たなくてはこの先とても冒険者としてはやっていけますまい…」

「………」



・・・・・



僕の名前はヴァレン・ロードマン 14歳 冒険者学校4年生だ。


僕の夢は、父ちゃんや姉ちゃんみたいなカッコ良くて強い冒険者になること、その為に僕は毎日魔術の勉強をして剣の稽古だって手に血豆ができるぐらいに必死なってやった。


でも、肝心の実戦にもなると緊張して足がすくんで体も思うように動かなくなってしまう…


それに、いざ野生の魔物と向き合うとやっぱり怖くて勇気が出せない…だからいつも実践訓練だとビクビクしてしまい怯えて逃げ惑うばかり…

自分でも逃げちゃダメなのは分かってるけどやっぱり怖くてたまらない…僕は父ちゃんや姉ちゃんみたいにはなれないのかな?きっと僕みたいな臆病者の弱虫なんか冒険者には向いてないのかもしれない…。



そんなある日の学校終わりの帰り道でのこと…


「あ、ヴァレン君!」

「エルメス先生…こんにちは」

「こんにちは、学校帰りですか?」

「はい、先生はお仕事ですか?」

「えぇ、丁度往診の帰りなんです…ヴァレン君、浮かない顔されてますけど何か悩み事ですか?」

「あ、うん…聞いてくれる?」

「えぇ、私でよろしければ…」


僕はエルメス先生の診療所で今僕が悩んでることを先生に打ち明けた。


「…なるほど、そういうことでしたか」

「うん…僕、一体どうしたら?」

「ちょっとだけ、昔の話をしてもよろしいですか?」

「エルメス先生の?」

「はい、実は私は…昔、治癒魔術が使えなかったんです」

「えっ!?」

「驚いちゃいますよね、でも本当なんです…私はどれだけ頑張っても治癒魔術が使えないままで、同族のみんなからもいつも馬鹿にされて心ない言葉を投げかけられることもあり、私は堪らず故郷を離れて旅に出たんです…そんな中であなたのお父さんであるアンディ先生に救われたんです」

「父ちゃんに?そっか、そういえば先生って父ちゃんのお弟子さんだったんだっけ?」

「えぇそうです、そんな時アンディ先生は私に仰いました…『人間できるって思えば何だってできる!大事なのは才能なんかよりも自分は必ずできるって信じる心です!』って…アンディ先生の言葉を信じたおかげで私は治癒魔術を使えるようになりました…もしあの時私がアンディ先生と出会ってなかったらと思うと、やっぱりどれだけ先生に救われたことなのか計り知れません…本当にいくら感謝しても足りないぐらいなんです!」

「エルメス先生…」

「だから、ヴァレン君もどうか自分に自信を持ってください…きっと必ずできるはずです」

「………」


…エルメス先生はこう言ってくれたけど、やっぱり僕は自分に自信が持てる気がしない…僕にもっと勇気があれば


「ただいまー」


「おかえり、ヴァレン」

「うぃーすヴァレン!」


出迎えるおじいちゃんとリリーナおばちゃん

リリーナおばちゃんはマーロちゃんを産んでからは演芸ギルドのお仕事をお休みして僕らの家で暮らしている。

おじいちゃんも騎士団の団長を引退して僕らと一緒に暮らしている


「…ねぇ、おじいちゃん、リリーナおばちゃん」

「ん?」

「どうしたヴァレン?悩み事かおじいちゃんに何でも話してみなさい…」

「うん…」


僕はおじいちゃんとおばちゃんに話した。


「なるほど、そういうことだったらおじいちゃんに任せなさい!」

「えっ?」

「リリーナ君、君の力も貸してくれないか?」

「いいっすよ」

「??」


と、おじいちゃん達に連れられて街の近くの森までやってきた


「この辺でいいだろう、ではリリーナ君!よろしく頼む!」

「あいよ!『召喚サモンズ!ウルフ』!!」


魔物を召喚するリリーナおばちゃん


「ガルルル…」

「ひ、ひぃ…」

「怯えるな!まっすぐ前を見ろ!一瞬でもそらしてはならん!」

「あ、あぁ…」


「グワァ!」

「ひぃやぁ!」


ウルフにいきなり飛びつかれて僕は咄嗟に手に持った木剣で押さえ込む。


「ぐ、うぅ…」

「まだだ!押し返せ!」

「う、うぅ…」


と、僕はウルフのお腹目掛けて風の魔術を放ち押し返す


「ギャン!」

「ハァ…」

「油断するな!またすぐに来るぞ!」

「!?」


吹っ飛ばされたウルフはすぐに態勢を立て直して再び僕に向かってきた


「!?、えっと…こんな時は…『グランドウォール』!」



“ガツンッ!”



土の壁に頭からぶつかっていき、目を回して気絶するウルフ


「…?、や、やったの?」

「うむ!見事だ!まだまだ及第点ではあるがそれにしてはよくやった!」

「フフ、やるじゃねぇかヴァレン!」

「おじいちゃん、おばちゃん…」

「どうだ?少しはお前の自信に繋がればと思うのだが…」

「うん、ありがとう…でも」

「まだ、魔物が怖いか?」

「うん…」

「そっか…」

「それだけじゃないんだ…僕、いざって時になったらどうしても緊張しちゃうんだ、絶対に上手くやらなきゃって思えば思うほど…」

「ヴァレン…」

「やっぱり僕なんか、冒険者になんか向いてないよ…」

「………」



・・・・・



「…どうしたものか」

「そうっすね…なんか余計に自信なくさせちまったかな?」

「すまない…私が余計なことをしたせいで」

「アマ爺は悪くねぇって!まぁ、後は本人の頑張り次第って感じじゃね?」

「うむ…」



【数日後 実践訓練】



「よーし、では始めるぞ!今回はゴブリンを狩るんだ!倒せた班は先生に報告しに来ること!いいな!」


「はいっ!」

「よし、では…始めっ!!」


先生の合図でみんな四方八方に散っていく


「あ、あの…よ、よろしくね『ダイン君』『ルーズさん』」

「…チッ、へなちょこのヴァレンと一緒かよ!ツイてねぇなぁ」

「ホントそれな、つーわけでヴァレン!アンタどーせアタシらの足引っ張るに決まってんだから余計なことはしないで!アンタはせいぜい魔術で最低限援護にでも徹してれば?」

「…う、うん」

「よーし、じゃあとっとと行こうぜ!一番は俺らがいただきだ!」


ゴブリンを探しに森を歩く、すると茂みの向こうに数匹のゴブリンの群れを見つけた。


「おっ!いたいた!よーし、早速狩ろうぜ!」

「オッケー!」

「ヴァレン、お前はそこでじっとしてな!足引っ張られても困るしよ!」

「え〜、でも班全員で力を合わせてやらないと意味がないんじゃ…」

「うっせぇ!お前みたいな役立たずいてもいなくても一緒だっつーの!いくぞルーズ!」


と、二人だけでゴブリンの群れに突っ込んでいく


「フゥ〜、一丁あがり!ざっとこんなもんよ!」

「なぁんだ、ゴブリンって案外大したことないのね!」

「この調子でガンガン狩ってくか?」

「いいねぇ〜、二人でこの森のゴブリン狩り尽くしちゃいましょ!」

「………」


それからも僕ら、基二人はどんどん森の奥まで進んでいきゴブリンを狩りまくっていた。


「フゥ〜、大分狩ったわね…とりまこのくらいでいいんじゃない?」

「もうちょっと奥行ってみようぜ!そしたらもっと多く狩れるかもしんねぇし!」

「も、もうやめようよ!ただでさえ結構森の深くまで来ちゃったのに、これ以上進んだらホントに危ないよ!」

「あ?ビビってんのか?ダッセェな!そんないちいちビビってたら冒険者として失格だぜ!」

「で、でも…」

「あーもううっせぇな!弱虫野郎はすっこんでろよ!勉強しかできねぇボンボンのくせにいちいち俺に意見すんじゃねぇ!」

「ダインの言う通り!弱虫は帰ってママのミルクでも飲んでな!」

「そんな…」


すると、その時だった…近くでとても大きな足音が聞こえた。


「な、何!?」

「こりゃ、大物か?」


するとそこへ、普通のゴブリンよりも少し大きめで手に棍棒を持ったゴブリンが現れた。


「ありゃあ、『リーダーゴブリン』…ゴブリンの上位種だな、こいつはラッキー!」

「や、ヤバいって!早く逃げよう!」

「は?何言ってんだ?上位種とはいえゴブリンはゴブリンだろ?ビビってんじゃねぇよ!」

「そーそー、弱虫は引っ込んでな!アタシらだけで十分!」

「ダメだって!」

「いくぜ!」


僕の制止も虚しく二人は無謀にもリーダーゴブリンに挑みかかっていく


「あっ!」

「うらぁぁぁ!!」


リーダーゴブリンに飛びかかり剣を振り下ろす、しかし斬りつけた途端に刃は通ることなく折れてしまった。


「なっ!?」


次の瞬間棍棒で叩き潰されてしまった


「がはっ!」

「ダイン!よくも…」


ダガーナイフを構えて突撃していくルーズさん


「ルーズさんダメだ!」


リーダーゴブリンの攻撃を華麗なステップでかわし、太腿にナイフを突き刺す


「…あれ?ぬ、抜けない!」


その瞬間、呆気なく棍棒で叩き潰されてしまった


「あぐっ!」

「ルーズさん!」


二人とも呆気なく倒されてしまい、とうとう僕一人だけになってしまった。


「ど、どうしよう…」


今すぐにでも逃げ出したかったけど足がすくんで動けなかった…それに今ここで僕が逃げてしまったら二人のことを見殺しにしてしまう…それだけは絶対に嫌だ!


そうして僕は意を決して剣を抜きリーダーゴブリンの前に立ちはだかった。


「ヴァレン…お前、何してんだ?」

「リーダーゴブリン…僕が、僕が相手だ!」

「バカ!アンタみたいな弱虫が敵うはずないじゃない!」

「勝てなくてもいい!せめてでも、二人が逃げられるだけの時間を稼ぐ!さぁ!早く逃げて!」

「バカ野郎!そんなの無理に決まってんだろ!早く逃げろ!」

「逃げない!傷ついた仲間を見捨てて逃げるなんて、そんな酷いこと…僕は絶対にしない!うぁぁぁ!!」


と、リーダーゴブリンに斬りかかる

でもやっぱり力及ばず、軽くあしらわれてしまう。


「うわっ!!」

「ヴァレン…なんでお前そこまで必死に?」

「僕は、絶対になるんだ…父ちゃんや姉ちゃんみたいな強くて優しい冒険者に!真の冒険者は、仲間は絶対に見捨てたりしない!仲間を大事にできない奴は冒険者失格だ!」

「ヴァレン…」


「うぉぉぉ!!」


次の瞬間、棍棒が僕の脳天に直撃し、僕は気を失って倒れてしまった。


「ヴァレン!」

「これ…いよいよ本格的にヤバくない?」


二人に向かってのそりと近づくリーダーゴブリン


「畜生!こんなとこで終わりかよ!」



もう終わりかと思った次の瞬間だった。



“ムクリっ”



「ヴァレン?」



“ユラリっ”



「嘘…気を失ってるのに立ってる」


「スゥゥゥゥ…」



“バチ、バチバチバチ!”



「!?」


(な、何アレ?紫色の、雷の魔力?でも雷の魔力って普通黄色とかでしょ?それも紫色なんてみたことない、しかもそれをあんな風に体に纏うなんて…)



“チャキン”



「「!?」」



“ズバンッ!”



(えっ!?)


(なんだ今の!?速すぎて見えなかったぜ!)


「…はっ!?」


僕が気がつくと目の前にリーダーゴブリンが倒れていた…しかもたったの一撃で倒れたみたいだ。


「何、コレ?一体どうなってんの!?」

「お前がやったんだよ、ヴァレン…」

「えぇっ!?ぼ、僕が!?そんな…」

「いや、アタシらハッキリこの目で見たんだ…アンタがこいつを一撃でぶった斬ったところを、なんていうか…すごく神掛かってたって感じ?」

「え、えぇ〜!?」

「その、なんだ…お前のこと弱虫とか散々悪く言ってごめん!」

「アタシもゴメン!ヴァレンってホントは強かったんだね!」

「い、いや…その…」



・・・・・



「ん?お前達遅かったじゃないか」

「それなんですけど教官、実は…」


ダイン君は教官に起こったことを事細かに説明した。


「信じられん…まさかリーダーゴブリンをたった一撃で、戦闘記録を見る限り嘘ではないようだが…」

「えぇ、僕にも何がなんだか…」

「だが、よくやったな…」

「は、はぁ…」



【冒険者学校 学長室】



「…ということなんですが、如何でしょうか学長殿?」

「まさか、ヴァレンがリーダーゴブリンを…にわかには信じ難いな」

「ですが、戦闘記録を見る限り彼らが嘘を言っていないことは明白です、ただ当の本人は何も覚えてないそうです」

「そうか…」

「そういえば、同じ班のメンバーの生徒達がその時ヴァレンは紫色の雷の魔力(・・・・・・・)を全身に纏い目にも止まらぬ速さでリーダーゴブリンを断ち斬ったと話してました」

「紫色の雷の魔力?というと、『派生術式』か…だがヴァレンはまだ派生術式は会得してなかったはず…」

「きっと、極限のピンチの中で彼の内に秘めた眠った能力が覚醒したのでしょうか?」

「たしかに、そういった話はよく耳にするが…まさかな」



・・・・・



「ただいま」

「おかえりなさいアンディさん、今日は早かったんですね」

「えぇ、まぁ…ヴァレンはまだ起きてる?」

「えぇ、多分…」

「そうか…」



【ヴァレンの部屋】



「ヴァレン、父さんだ…少しいいか?」

「うん、いいよ」

「邪魔をする」


「どうしたの父ちゃん?なんか話?」

「あぁ、まぁ…今日の実践訓練のことでな…教官から聞いた、リーダーゴブリンをたった一人で倒したそうだな」

「あぁ…まぁ、うん」

「そうか、やるじゃないか」

「で、でも僕…正直その時のこと覚えてなくて…仲間を助けたい一心で無我夢中になっていたっていうか…」

「そうか…だが、それは素晴らしいことだ…冒険者にとって一番大事なことは『仲間を大切にすること』お前は、その手で大事な仲間を守ったんだ、堂々と誇りに思いなさい」

「父ちゃん…」

「冒険者とは、弱い立場の人や困ってる人を助け守ることが使命なんだ、お前は優しくて強い子だから沢山の人を守って助けてあげなさい」

「…うん!」

「さぁ、今日はもう疲れただろう…ゆっくり休みなさい、頑張りすぎるのもあまりよくないからな」

「うん、おやすみなさい」



・・・・・



【パラドワール城 地下牢】



「…異常なし、さて次は…んんん!?」


牢の中を見ると壁に大きな穴が空いており、中にいたであろう囚人は姿を消していた。


「た、大変だ!!」


脱走騒ぎが起き、逃げた囚人を探そうと駆け回る騎士達


「いたぞ!捕らえろ!」


脱走囚を捕縛する為飛びかかる騎士達、しかし一瞬にして騎士達は蹴散らされてしまう。


「逃げたぞ!追えー!!」



・・・・・



一夜明けて次の日の朝、アドガリーノの街の門の前


「う、うぅ…」

「?、おい誰か来たぞ?」

「ちょっと待て、なんか怪我してないか…」


見ると、やってきたのは全身傷だらけでボロボロの騎士だった


「おい!しっかりしろ!すぐに警備部へ連絡を!」

「ハァ、ハァ…待ってくれ、冒険者ギルドへ、冒険者ギルドに連絡してくれ…」

「冒険者ギルド?分かった!」



「失礼します、代表!たった今門の警備の者から連絡が来まして…何やら傷だらけの騎士の男性を保護したとのことです」

「騎士?ということは王都からの使いか…?傷だらけとは、穏やかではなさそうだな…」

「今はエルメス医師のところで治療をしているそうです」

「分かった、すぐに向かう!」



【エルメスの診療所】



「エルメスさん!」

「あ、アンディ先生!」

「それで、保護した騎士というのは?」

「そ、それなんですが…」


治療中の騎士の顔を見て驚愕した

その騎士というのが紛うことなき息子のアウロだったのだ。


「アウ、ロ…?アウロじゃないか!?しっかりしろ!」

「落ち着いてください!幸い命に別状はありません!容態もかなり落ち着いているので心配はいりません」

「そうか、ありがとう…」



倒れていたのがアウロだと聞き、家族みんなが診療所に集まった。


「う、うぅ…アウロぉ」

「パパ…」

「リリーナさん、マーロ…大丈夫ですから、落ち着いて」

「兄ちゃん…」

「ヴァレン、アウロならきっと大丈夫!きっとその内目を覚ますわよ」

「うん…」


「う、うぅ…」


「あ、アウロ!」

「アウロ!」

「アウロぉ!!」

「パパ!」

「アウロ!」

「兄ちゃん!」


「父さん…母さん、みんな…」

「大丈夫ですか?」

「エルメス先生…うぐっ!」

「まだ動かないで!傷に障ります!」

「それで、一体何があった?」

「あぁ、実は、奴が(・・)…奴が牢屋を脱走したんだ…」

「奴?」

「アウロ、奴って?」

「『クロム』だ…」


「「ク、クロムだって!?」」


「父ちゃん?クロムって誰?」

「そうか、ヴァレンは多分知らなかったわね…」

「そのクロムという男は…私の、『元』弟子だった男だ」

「父ちゃんの弟子?でもなんでそんな人が捕まってたんだ?」

「…話せば長くなる、あれはたしか十五年ほど前のこと」



・・・・・



【十五年前】



ある日、門の前に衰弱した一人の少年が倒れていた

少年は栄養失調で痩せ細っており、体にはいくつもの殴られたような痣が無数にあった。


少年の名は『クロム』といい、彼は母親ともども奴隷商人によって売られてそこで酷い扱いを受けたという。


そんな折、母親と一緒に逃げ出そうとするも結局捕まってしまい、何とか母親の手引きでクロム一人は逃げ出すことに成功したものの、ここまで飲まず食わずでずっと逃げ続けてきたらしい。


クロムは、あの時自分にもっと力があれば母親を助けることができたのに、と自分を責めて嘆き悲しんだ。


そこで私は、彼を冒険者学校に受け入れて魔術と戦うすべを教え込んだ。


それからクロムはメキメキと実力をつけ、冒険者学校始まって以来初めてとなる通常4年のカリキュラムを1年で修了し、飛び級で卒業した。


冒険者となったクロムは目覚ましい活躍を見せ、大いにギルドに貢献した。


しかし、彼は純粋に力を求めるばかりとなり周りのことなどお構いなしに暴走しがちとなっていた。


そして、とうとうクロムは自分に反論した冒険者達を次々と殺害していった。


私は彼の暴走を止めるべく、全力で闘った…


そしてクロムを制圧し、冒険者の資格を永久剥奪…重罪人としてパラドワール城の地下牢へ収監された。



「まさか、あのクロムが脱走するとは…」

「父様…!」

「事は一刻を争う!すぐに冒険者達を全員招集する!」


すると、その時だった。



“ゴゴゴゴゴゴゴ…”



「な、何!?」

「この気配、もしや!?」


慌てて外へ飛び出す

すると、そこにいたのは紛れもなくあの『クロム』だった。


「ク、クロム…」

「…お久しぶりですね、アンディ先生…お変わりないようで安心しましたよ」

「下らん世辞は止せ、クロム…大方、この私を殺しに来たのだろう?」

「流石はアンディ先生、話が早くて助かります…では、早速そのお命をいただきましょう」

「やれるものならやってみろ、このたわけめ!」



“ドゴォォォン!!”



術同士が激しくぶつかり合う


(不味いな、このまま全力で闘ってしまえば街に多大な被害が…何とか街から遠ざけないと…)


「父さん!」

「父ちゃん!」

「アンディさん!」


「!?、ダメだ!こっちへ来るな!」

「おやおや、先生のご家族ですか…丁度いい、えぇい!」


と、アニー達に向けて魔力光弾を放つクロム


「!?」


「『エレクトロシールド』!!」


咄嗟に防御魔術を展開し、家族を守る


「ハァ、ハァ…」

「父様!」

「己クロム!卑怯な真似を…」

「フン、私は自分の目的の為であれば手段などは問いません…何なら、この街ごとあなたを葬って差し上げてもよろしいのですよ?」

「そんなこと、この私が許すと思うか?この街の者は、誰一人死なせはしない!冒険者ギルド代表の名にかけてな!」

「ならば、止めてごらんなさい!!」

「たわけが!身の程を知れ!」

「母様、リリーナ姉さん!私達は住民達の避難を!」

「えぇ!」

「任せな!アマ爺、マーロのこと頼む!」

「分かった、私の命に代えても守ってみせる!」

「ママ!おばあちゃま!」

「心配すんな、ママもばーちゃんも強ぇから!よし、いくぞ!」

「はい!」


住民達の避難をみんなに任せ、私はクロムを全力で止める。


「うぉぉぉ!!」

「やっと本気を見せましたね先生、そうでなければ面白くない…」

「黙れぇ!!」



“ドゴォォォン!!”



激しくぶつかり合う、長らく闘ってなかったせいか息も上がり、術のキレも悪くなってしまった。



「ハァ、ハァ、ハァ…」

「もうおしまいですか?昔のあなたはもっと強かった気がしますが…」

「くっ…」

「ククク、最早これまでです…これで終わりにしましょう」

「!?」

「サヨナラ、アンディ先生!」


最早これまでと覚悟したその時だった。



“バチバチバチ!”



「うぉぉぉ!!」



“ザシュッ!!”



突然ヴァレンがクロムの後ろから剣で斬りつけた

不意を突かれたクロムはのけぞって膝をついた。


「ヴァレン!」

「父ちゃん!大丈夫!?」

「馬鹿、お前なんで来た!?」

「父ちゃん言っただろ?冒険者は大事な仲間を守ることが一番だって!だから僕も、一番大事な家族ものを守る!父ちゃんは絶対に死なせない!」

「止せ!お前の敵う相手じゃない!下がりなさい!」


「ククク、やってくれましたね坊や…少しお仕置きが必要なようですねぇ、お父上ともども葬って差し上げましょう!」

「やってみろよ…これ以上僕の大事な家族を傷つけてみろ!僕はお前を許さない!」



“バチバチバチ!!”



再びヴァレンは全身に紫色の雷の魔力を纏う


「ヴァレン、お前…」

「うぉぉぉぉ!!」


(フン、単純に怒りに任せた単調な攻撃…実に愚か!これしき、かわすほども…)



“バシュンッ!”



(何っ!?消えた!?)



“ザシュッ!”



(!?、は、速い!馬鹿な、この私が見切れぬほどのスピードをこんな子供が…)


立て続けに目にも止まらぬ速さでクロムを斬りつけていくヴァレン

その姿はまるで、私の『紫獣雷神』とアリアさんの必殺技『ライジングモーメント』を彷彿とさせるほどの速さと力強さだった。



「これで、終わりだぁ!」


「ぐはぁっ!!」


トドメの一撃をくらい、地に伏すクロム


「ハァ、ハァ…どんな、もんだ」


魔力も気力も使い果たし気を失うヴァレン


「ヴァレン!…お前という奴は、でも…よくやったな!」


「く、まだだ…私は、まだ終わらない!」

「それほどの手傷を負ってまだ立ち上がるか…せめてもの情けだ、この私自らの手で終わらせてやる」

「いやだ…やめてくれ!やめてくれぇ!!先生ぇぇぇ!!」

「さらばだ、我が弟子よ…『フェニックスフレア』!!」

「ぐあぁぁぁぁ!!」


業火の炎で焼かれ骨まで残らず塵と化した。



・・・・・



【翌日 ギルド本部】




「『表彰状 ヴァレン・ロードマン殿、貴殿の勇敢なる行動のお陰で一人の負傷者及び死傷者も出すこともなく、街の平和は保たれた。よってここに、貴殿の勇気を讃えここに表彰する。冒険者ギルド代表 アンディ・ロードマン』おめでとう!」

「ありがとうございます!」



“パチパチパチパチ!”



「それと、もう一つ…」

「??」

「『卒業証書 ヴァレン・ロードマン殿』」

「えっ!?そ、卒業って…卒業試験はまだまだ先の話じゃ…」

「まぁまぁ、最後まで聞きなさい…ヴァレン・ロードマン、貴殿の勇気ある行動は冒険者の規範たる素晴らしいものであった…もう教えることは何もない、よってこの冒険者ギルド代表及び冒険者学校学長 アンディ・ロードマンの名の下に、貴殿の卒業試験を免除とし、本日付けを持って正式に冒険者として認める!」

「僕が、冒険者?」

「卒業、おめでとう…」

「あ、ありがとうございます!!」



“パチパチパチパチ!!”



こうして、僕は晴れて冒険者となった。



そして、次の日…



「おはようヴァレン…」

「父ちゃんおはよう!」

「今日から初任務だな…」

「うん!緊張するなぁ…」

「そうだな、それはそうと…ヴァレン、これを持っていきなさい」


そう言って父ちゃんが渡してきたのは一本の両手剣だった。


「こ、これって…?」

「名は、『魔剣 紅き嵐テンペスタ・ディ・ロッソ』…私の自慢の愛剣だ」

「父ちゃんの?いいの?」

「あぁ、その方が彼女(・・)も喜ぶだろうよ…」

「彼女?」

「いや、なんでもない…こっちの話だ」

「…まぁいいや、ありがとう!大切にする!」

「うん、頑張れよ!」

「はい!行ってきます!!」




Fin…

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