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魔王様と先代魔王の思い出

魔王は夢の中。

思い出すのは父との思い出。

託された思い、それは今も確かにその胸に……。

『グスラよ』


 ……お父ん……?


『ワレはワシの魔力の無さと、お母んの軟弱な身体を持って生まれてしもた。ホンマすまん』


 ……謝らんといてや。

 五体満足で生んでもろただけで御の字やで。


『せやけど、だからこそワレは他のヤツの弱さや痛みがわかる。それは強みや』


 ……ホンマそう思うで。

 うまくいかんモンの気持ち、落ち込んどるモンの気持ち、少しは寄り添える気ぃがしとる。


『せやからワシは世襲だからやのうて、ワレに跡を任せたい。ワシはここまでや。……頼むで』


 ……あぁ、お父ん、お父ん……!




「……夢か……」


 ベッドで目を覚ましたナメクジは、ぬるぬると部屋を出る。


「おはようございます魔王様」

「おはようさんラーミカ」


 扉の前で控えていた側近の吸血鬼・ラーミカがうやうやしく頭を下げる。

 高位魔族である吸血鬼が仕えるこのナメクジこそ、魔物の長であり、この魔王城の主、魔王であった。

 二人は連れ立って玉座へと向かう。


「そういや今朝お父んの夢見たで」

「先代の……。あぁ、そうですか、今日は……」


 ラーミカの顔が曇る。


「……早いもんやな」

「そう、ですね」

「お父んの好きな酒、用意しとかんとな」

「……はい」


 廊下を沈黙が包む。


「……あの、魔王様」

「何や?」


 耐えきれず口を開いたラーミカの声は、少し震えていた。


「魔王様は、先代から魔王の位を継がれましたが、今のお仕事、その、お辛い、ですか……?」

「しんどいか言われたら、まぁ、しんどいわな」

「そうですよね……」

「知らん事、わからん事、ぎょうさんあるし、してもろてばかりの事が申し訳なくなる事もある」

「……はい」

「お父んの強さや頼もしさと比べられてへこむ事も、ワシなんかが跡継いで悪いなぁ思う事もある」

「……」

「けどなラーミカ」


 魔王の声には、その弱々しい見た目とは裏腹に力強さと温かさが乗せられていた。


「ラーミカをはじめ、いろんな魔物が力貸してくれとる。こんな頼りないんを魔王として支えてくれとる」

「……魔王様」

「せやからワシは、お父んとは違う形で魔王の仕事を頑張ろ思うとんのや」

「……承りました。では不肖ラーミカ、身命を賭してお仕えいたします」

「頼むで。ラーミカがおらんかったらワシ、ただのクソザコナメクジやからなぁ」

「はい!」

「満面の笑みで返事する場面とちゃうやろ!?」


 笑顔の戻ったラーミカと共に玉座の間に着いた。

 よじよじと玉座に登る魔王。


「ほな今日の予定は」


 その時、勢いよく玉座の間の扉が開かれる。

 反射的に身構えるラーミカの目に、大きく逞しい影が映る。


「……久しぶりやなぁ……」


 そそり立つツノ、口からのぞく牙、はち切れそうな筋肉に包まれた四肢。

 発せられる言葉には威厳と風格があふれる。

 弱い者なら気を失っても仕方がない程の威容がそこにあった。


「あ、貴方は……!」

「お父ん! 早いやないか! いつもは午後から来るのに!」

「今日はジムが休みやったからな! 暇やから早よ来てやったで!」


 先代魔王・オーガのルスマンは、そう言って豪快に笑う。


「……この毎月の視察という名目の暇つぶし、何とかなりませんかね……」

「言えへんって……」


 ラーミカと魔王は、ルスマンに聞かれないように、こっそりため息をついた。

読了ありがとうございます。


さぁ皆様ご一緒に。

「生きとったんかワレェ!」


引退後の方が生き生きしている先代魔王でした。


さて、書き溜めが尽きましたので、ここからはのんびり投稿になります。

気長にお待ちくださいませ。

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― 新着の感想 ―
[一言] おとん、生きてんのかい! 引退してからも会社に来る社長、あるあるですな。 おとんがオーガってことは母親のほうがナメクジなのか。・・・・おとんの性癖、業が深すぎないか?
[良い点] お父様、凄く魔王様のことを理解している良いお父様ですね。 暇つぶしとはいうものの、やはり息子が心配で様子を見に来てるという面もあるのではないでしょうか。 [気になる点] 魔王様、五体満足と…
[一言] 早期セミリタイアだったのですね(笑)。 そしてナメクジ魔王様の父はオーガだったのですか。 毎月、仕事の様子を見にきて、大好きなお酒を飲んで帰る、と。理想のセカンドライフです(笑)。
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