表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/30

魔王様と修復士

さて第四話。

前話で割れたツボを巡ってもうひと騒動。

どうぞお楽しみください。

「魔王様ー。できたよー」

「おー、アペリ。おおきになぁ」


 謁見の間に入って来た小柄な少女は、魔王と呼ばれたナメクジの前に木箱を差し出す。


「すまんなぁ、ツボの修復なんて頼んで」

「ふふーん。ドワーフの天才アペリ様にかかればー、こんなツボの修復なんて朝飯前なのだー」


 アペリは得意げに胸を張る。

 先日コボルトのメイド・コッヌイが割ってしまったツボの修復を、騒動を聞きつけたアペリが、


「やりたいやりたい直したーい」


 と手を挙げたので頼んでいたのだった。


「あのツボ地味だったから、前からちょっと直したかったんだよねー」

「え?」

「じゃーん! 見て見てこの見事なきん継ぎー!」

「……お、これ……」


 木箱から取り出されたツボには、まるで稲妻のように割れた線を金色の線がなぞっていた。


「せっかく割れたなら、より美しく生まれ変わらせるー! 修復士の本懐だねー!」

「アペリ! あなたは何という事を……!」

「えっ!?」


 側近の吸血鬼ラーミカの悲鳴に近い叱責に、目を丸くするアペリ。


「これは魔王様がお母様に贈られた、思い出の品ですよ!」

「え、えーっ!?」

「それを勝手にこんな加工を……!」

「ご、ごめんよ魔王様ー! ぼ、ボクそうとは知らなかったから……!」

「知らないですむ話だと思っているのですか!」

「ううー! ご、ごめんなさい……!」


 真っ青な顔をするアペリに、魔王は優しく微笑む。


「えぇやん」

「……え?」

「この金の線、キレイやけどいやらしくない。上品や。こらお母んも喜ぶで」

「よ、よろしいのですか? 魔王様の思い出の品を……」


 ラーミカの戸惑う言葉に、魔王は笑顔のまま触腕を振る。


「別にツボが壊れたり形が変わったからって、その思い出まで壊れるわけとちゃうやろ」

「……は、はい、確かに……」


 本人にそう言われては、ラーミカもそれ以上言う言葉を知らない。


「で、でも……! ボク、勝手な事を……」

「ワシかてお母んに贈ったツボ、宝物みたいに飾られてしもたから、照れ臭い言うて内緒にしとったんや。知らなかった事でやらかすのはしゃーない。教えなかった方の責任でもあるんや」

「魔王様ー!」


 感謝と感激のあまり、魔王に抱きつくアペリ。


「ごめんね、ごめんねボク……!」

「えぇて。ワシはこのアペリが生まれ変わらせてくれたツボも気に入ったしな」


 泣きじゃくるアペリの頭を、魔王は触腕で優しく撫でる。


「アペリ。魔王様はクソザコナメクジなのですよ? 勢い余って抱きつぶしたらどうするのです。離れなさい」

「えっ!? 魔王様ー、大丈夫ー!?」

「ワシそこまで弱ないで? 大丈夫やからなアペリ」

「うん!」


 魔王の言葉に、ラーミカの目がすぅっと細くなる。


「……ほう、では魔王様は若い娘を粘液まみれにするのがお望み、という事ですか? このセクハラドスケベゴミクズゲス野郎クソザコナメクジ様?」

「あ、しもた! アペリ、離れぇや! 服汚れてまうで!」


 ラーミカの言葉に、魔王は慌てて触腕でアペリの肩を押し、身体を離させる。


「えへへー、ぬるぬるして気持ちよかったよー」

「アペリ、用事は終わったのですから、退室して服を着替えなさい」

「はーい」


 元気を取り戻したアペリは、駆け足で謁見の間を出て行く。

 後には魔王とラーミカ、そしてツボが残された。


「……あ、あの、ラーミカ?」

「……魔王様、本当はショックだったんじゃないですか?」


 落ち着いたトーンのラーミカの言葉に、魔王はふぅと息を吐く。


「……まぁ、何も感じん、と言うたらウソやな。でもこの金継ぎが気に入ったのもほんまやで?」

「でしょうね」


 ラーミカがふっと微笑む。


「ま、次からは頼む時にちゃんと言うた方がえぇな」

「そうですね。飾る所にも由来を書いてはいかがですか? 皆大事にすると思いますよ?」

「うーん、それは恥ずかしいけども……」

「よろしいではないですか。お母様を思う気持ちは隠す必要などありません」

「……せやな。そしたら修復したアペリの名前も載せよか」

「ではこのツボには、『魔王様がお母様に贈り、修復したアペリを魔王様が粘液まみれにした記念のツボ』と記しましょう」

「表現の暴力ゥー! うっかり粘液まみれにしてもうたのは事実やけど、そこ抜き出さんでもよくない!?」

「そう思うなら、鼻の下を伸ばさずに毅然とした対応をなさってください」

「ワシ鼻ないけどな!?」


 後日このツボには、『魔王様がお母様に贈ったツボ 修復・アペリ』と記された。

読了ありがとうございます!


言わなかった、伝え忘れていた自分への怒りを、つい相手に転嫁してしまう事、よくありますね。

言った言わないにならないように、文書に残すのは大事です。

でも職場の小学生向けイベントの申込用紙を、二回も無くした上に期日を忘れて申し込めなかったのに、泣きわめくのはやめていただきたい。


次話は犬メイド・コッヌイ再び!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 魔王様のぬるぬるとした懐の深さにほっと包み込まれたような気がしました。 「別にツボが壊れたり形が変わったからって、その思い出まで壊れるわけとちゃうやろ」 この言葉が好きです。目に飛び込ん…
[良い点] アペリちゃんは元気溌剌系ボクっ娘ですか、とても可愛くてツボに入りました、壺の話だけに。 うっかり粘液まみれになったみたいですが、粘液を落としてみたらお肌がつるつるのすべすべになってたら面白…
[一言] ナメクジ魔王様のまったり感がいいですね。 でも粘液まみれは、ちと……。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ