魔王様と側近の気持ち
だいぶお待たせいたしました。
魔王の再選を見届けて姿を消したラーミカ。
力の劣る兄から当主の座を奪うべく、実家に戻ったラーミカを追い、採決直前で到着した魔王。
そこで吐露される思いとは?
どうぞ楽しみください。
「……んんっ、失礼いたしました魔王様。しかし何故ここに?」
咳払いをして空気を引き締めたラーミカの言葉に、
「えっ」
魔王は目を見開いて固まった。
「あ、その、えーっと、シシューにワシとカーターで乗って、んでカーターが一気に行ける距離まで来たら、大きめの籠に入れてもろて、それで……」
しどろもどろに説明する魔王の後ろに目をやり、廊下にへたり込むホークマンのカーターを見つけるラーミカ。
(聞きたい事はそれではなく、追いかけて来た理由なのですが……。いや、これはこれで良い事を聞けました。そこから攻める事にしましょう)
あり得ない早さの理由に納得しつつ、ラーミカの追求は続く。
「成程、それで間に合ったのですね。ですがそれでも私が転移してすぐ出発しなければ間に合わなかったはずです。城の仕事はどうされました?」
「ろ、ロクドに任せて……」
「参謀向きのロクドに城の全権を? 突発的事態に弱い彼が十全に動けるような対策はなさったのですか?」
「いや、それは、他の皆が支えてくれるやろし……」
「緊急事態に指揮系統が明確でないと、混乱から事態が急速に悪化します。今にも城は危機的状況に陥っている可能性があります。一刻も早く城にお戻りください」
「え、えぇ、ホンマ……?」
「魔王様には魔王城とこの国の安定以上に大事な事などありません。さぁ早く。今カーターに丸三日休まず飛んだ後半月寝込む薬を飲ませますから」
「それ代償重すぎん!?」
「魔王城を守るためです。さぁさぁ」
「……」
たじろぐ魔王を見て、ラーミカは勝利を確信した。
動揺から立ち直れば、魔王を言いくるめる事など容易い、そう思っていたからだ。
(あれだけ城の者や国民から愛されている事を知った以上、それを放棄する事はしないはず……)
しかし魔王は動かない。
「……どうされたのですか? 一刻も早く城に戻らなければ」
「その前に一つえぇか?」
「……何でしょう」
思惑と若干違う流れに戸惑いを隠しながら、どんな言葉でも耐えられるように、ラーミカは腹に力を込める。
それと同時に思考を巡らせ、様々な対応を想定した。
(『ホンマに吸血鬼の当主になりたいんか?』と来たら『昔からの夢』。『何で急に?』と聞かれたら『兄が態勢を整える前に勝負したかった』。『魔王城に戻る気はないんか?』と聞かれたら……、『魔王様には私がいなくても大丈夫』と……)
完璧を期したラーミカ。
満を持して魔王の言葉を待ったが、
「ワシに愛想が尽きたんか……?」
「そんな訳ないでしょう!」
あっさりと瓦解した。
「何を言ってるんですか! 私が離れた後も魔王を続けられるようあれだけ手を尽くしたのは何でだと思ってるんですか!」
「せ、せやったらこんな急にいなくならんでも……」
「魔王様と約束した通りに吸血鬼の当主になるには、兄がこの制度に気が付いて地盤固めをする前に選挙に持ち込まないといけなかったんです!」
「いや、ラーミカやったらそんな事せんでも勝てるやろうし……」
「そ、それはそうですが……。そ、それを言うなら魔王様こそ世襲制の廃止をこんなに急いで! 私の事を一日も早く追い出したかったのでしょう!?」
「え、そないなつもりは全然……」
「そうですよね! わかってますよ! 口うるさいですし厳しいですし、煙たく思われるのも無理は……、え?」
「いや、だからそないな事は思うてないって……」
「……何がです……?」
「せやからラーミカの事嫌とか全然思うてないって」
「……は?」
激情が上らせていた朱と熱が顔から引き、目を点にするラーミカ。
「……私を追い出すためではなかったのですか?」
「世襲制の廃止の事そないに思ってたん!? それで協力してくれへんかったんか……」
「で、でも、世襲制の廃止は、力があるのに当主になれないと不満をこぼした私との約束のため、でしたよね……?」
「せや。ラーミカが当主になる道も選べるようにした上で、これまで通り魔王城で働いてくれるんか聞こう思うとったんや。選択肢がないのに聞くのはずるいやろ」
「……では私を解雇したい訳ではなかったのですか……?」
「当たり前やろ! ワシは力も知恵もなーんもないクソザコナメクジや! ラーミカが辞めたい言うならともかく、ワシがラーミカを追い出したいなんて思うか!」
「……っ! 魔王様……!」
魔王の情けなくも力強い一喝に、ラーミカの顔が歪む。
「……よろしいのですか? 私は魔王様が魔王の地位を降りないように、他には取り柄のないクソザコナメクジと言い続けてましたのに……」
「あ、あぁ、うん、まぁそれはワシの事心配しての事やろうし、気にしとらんで」
「魔王様に取って代わろうとする愚か者を秘密裏に制裁したりしていましたし……」
「何をしとん!? それで魔王希望者少なかったんか! いや、守ってもろたんはわかるけど、今後は報告くらいはしてもろて……」
「魔王様が無意識に立てる恋愛フラグを丹念に折ったりしていましたのに……」
「嘘ォ!? そんな事してたん!? 全然知らんかった!」
「……こんな私でも、もう一度お側に仕えさせてくださいますか……?」
「……」
想定外の告白を聞かされた魔王。
しかしふっと息を吐いたその顔には、いつもの、ラーミカと出会った頃から変わらない、柔らかい笑みが浮かんでいた。
「当たり前やろ。これからもよろしゅう頼むで!」
「はい!」
それに答えるラーミカは出会った時の、いや、それ以上の笑顔を見せたのであった。
読了ありがとうございます。
ルクラド(助かった……)
レドルジ(ありがとう魔王様……)
他の吸血鬼(私達は何を見せられているんだ……)
カーター(み、水……)
さて、この話もいよいよ後一話で完結できる運びとなりました。
長らくお付き合いくださった皆様、ありがとうございます。
いよいよ連載当初から伏せていた隠し設定が火を吹くぜ!
……大した事はないのでご期待なさいませんように……。
最終話もよろしくお願いいたします。




