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魔王様と法改正

魔王が取り組んできた『世襲制』の廃止。

その告示がとうとう行われた。

魔王の地位はどうなるのか?


どうぞお楽しみください。

 世襲制。

 それは魔族の国に古くからある、もはや風習とも言うべき制度。

 生まれながらの力に大きな差がある魔族は、二番目以降の子どもが優秀だった場合、誰が跡を継ぐべきかで必ず揉めていた。

 血で血を洗うような争いにまで至った事も一度や二度ではない。

 そこで当時の魔王が、『魔族の跡取りは長子が継ぐ事』と定めた。

 以来最初に産まれた子が家を継ぎ、それ以降に産まれた子は長子を支えるか、家を出て新たな活躍の場を探すかという形になった。

 勿論地位を奪うための暗殺や脅迫、追放などがないわけではなかったが、大きな混乱は確実に減っていた。

 それを当世の魔王は、


「段階的に世襲制は廃止する」


 と発表した。

 魔王が出した公布はこうだ。


 一、家や仕事を継がせる者は、長子に限らない

 二、跡を継がせる際には、継ぐ者の意思を尊重する

 三、現行の当主を否定するものではない

 四、当主の座についた者は最低三年はその地位を保証される

 五、保証される期間の後は、協議で継続か変更かを決める

 六、変更の際には、決定方法も含めて魔王に申し出る

 七、病気などにより当主の責務が果たせない場合は、この限りではない

 八、複数の当主希望者がいた場合は、協議または選挙によって決めるものとする

 九、それによって選ばれた当主に不満がある場合は、魔王に申し出た上で分離独立する事を可とする

 十、魔王が承認した方法以外で当主の交代が行われた場合は、その家は取り潰しとする


 そして現魔王はこの公布に実効性を持たせるべく、自らの退位とそれに伴う魔王選挙の開催を宣言した。

 魔王自らの宣言により公布は大きな影響を与える、かと思われたが、魔界は平穏そのものだった。

 報告を受けた魔王が一番衝撃を受けていた。


「えぇ!? 何で全然反応ないの!? 何や色々当主交代とか、魔王立候補者とかで大騒ぎになるか思うて準備してたのに! ワシの退位ってあんま意味ないん!?」

「これも全て魔王様のクソザコナメクジ感あっての事かと」


 玉座でおののく中型犬サイズのナメクジ型魔王に、側近の吸血鬼・ラーミカがうやうやしく失礼な事を口にする。


「魔王様の退位に対する国民の反応ですが、調査した結果『魔王様を再選したい』という意見が九割を超えております」

「何で!?」

「主な意見としては、『現状に不満がない』が四割、『地位を退いた後の魔王様の生活が不安』が二割、『暴君にならない安心感』が二割、『他の魔王が想像できない』が一割です」

「えぇ……。そんな理由で魔王が決まってえぇの……?」


 複雑な顔をする魔王に、ラーミカは微笑みかけた。


「ですから魔王様は魔王様であるべきなのです。世襲制を廃したくらいで逃げられると思ってはいけませんよ?」

「丁寧な口調で言われると怖さが更に増すゥー!」

「では選挙をお楽しみになさっていてください」


 笑みを深めるラーミカに、魔王が悲鳴を上げる。


「わからせる感がえげつないやん! ま、まぁ実際選挙になったらどうなるかわからんしな……」

「ご安心ください。対立候補は現時点でゼロです』

「嘘やろ!? 前々から思うとったけど、魔王って人気ないん!?」

「それはそうでしょう。今魔王様の跡を継ぐのは、実質貧乏くじですから」

「実質貧乏くじ!?」

「魔王様がこれまで行ってきた施策を考えたらわかるでしょう。それぞれの能力を活かすために裁量権を与えた流れは、これまでの絶対的権力の否定です」

「う……、ま、まぁ、そらそうかも知れんけど……」


 勢いが弱まる魔王に、ラーミカは更に言い募った。


「魔王を目指す者の大半は、おのが力を思う様振るいたいと思っています。支配し、服従させ、おのれの力の大きさを示そうと思うものです」

「そういうもんなん? ワシは他の誰かの力借りるのが当たり前になっとったからなー……。それでシウとか魔王やりたがらなかったんか……」

「たとえどれ程強い力や魔力、幅広い知識や経験を持っていても、魔王様以上にこの国を良く治められる方はいないでしょう。それ程魔王様の適性は高いのです」

「ほんまか……? ラーミカが魔王やる言うたら、任せよ思うもんもいるんちゃうんか……?」


 魔王の言葉にラーミカはにたりと笑う。


「恐怖政治ってご存知です?」

「何急に!?」

「三年間は何しても地位を追われないんですよね? そうすると色々出来てしまいますね?」

「怖い怖い怖い! 何する気なん!?」

「私や悪意ある候補から国民を守りたいなら、魔王の地位を続ける必要があるのですよ」

「……脅迫されてなるもんとちゃうと思うんやけど……」


 溜息をつく魔王に、ラーミカが冷たくささやきかけた。


「期日までに対立候補がいなかった場合には、魔王様の信任投票になる予定でしたね」

「そ、そうやけど……」

「信任不信任問わず、理由を書かせるのはいかがでしょう? そうすれば現状の不満や改善点も洗い出せるでしょうし」

「お、それえぇな!」

「ついでに記名制にすれば、魔王様に不満を持つ輩を特定して排除する事も可能となります」

「あかーん! ワシの名前で恐怖政治するんはやめてェー!」

「冗談です」

「冗談ならえぇけど……」


 胸を撫で下ろす魔王を眺めながらくすくすと笑うラーミカ。

 ふぅと息を吐くと、魔王に一礼する。


「ではロクドに信任投票の用紙に理由記入欄を追加するよう、指示してまいりますね」

「ま、まだそうなると決まった訳やないけどな! 頼んだで!」

「かしこまりました」


 身体を黒い霧に変えて玉座の間を出たラーミカは、ロクドの部屋へと転移した。


「ロクド、魔王様の承認をいただいた」

「かしこまりました。これは実質信任投票というより日頃の感謝の手紙を集める会ですな」

「それで良い。魔王様が今後も魔王の地位に居続ける理由になるだろう」

「そうですね。まぁこんな事をしなくとも、ラーミカ様がお側にいる限り、辞める事は出来なさそうですが」

「……」

「……ラーミカ様?」


 ロクドの声に応える事なく、ラーミカは黒い霧と化して部屋を去った。


 

読了ありがとうございます。


次回は信任投票。

ぶっちゃけ勝ち確ですが、その後ラーミカはどうするのか。


また間が空くかもしれませんが、よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 魔王様の統治が一番、安心して暮らせるのですから他の人に魔王になって貰いたいと思わなくて当然だと思いますが、魔王様がなんでや!? となっているのが面白かったです(笑) 魔王様への日頃の感謝…
[一言] やっぱりな・・・
[一言] はっはっは、魔王様は自分を客観的に見られないのですね(嘲笑) 魔王様以上に慕われる候補なんかいるわけないじゃないですか(大草原)
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