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魔王様と側近の過去

魔王の側近である吸血鬼ラーミカ。

今回はその過去、魔王との出会いの場面に触れていきます。

過去が紐解かれる事で、物語はクライマックスへと動き出します。


どうぞお楽しみください。

 ちくしょう、ちくしょう……!

 生まれた順番が何だって言うんだ……!

 私の方が魔力も能力も優れているのに、何で長男ってだけで兄さんが当主に決まるんだ!

 兄さんも兄さんだ!

 最初は当主になるのを渋っていたのに、可愛い令嬢がお嫁さんになると聞いた途端に首を縦に振った!

 そんなので吸血鬼の当主が務まるとでも思っているのか!

 何が世襲制だ!

 生まれた順が早いのの何が偉いって言うんだ!


『よ。どないしたん? むつかしい顔して。折角のお祝いや。楽しまんと損やで?』


 何だこいつ……。ナメクジ……?

 ……魔力弱っ。ザコじゃんこいつ。クソザコじゃん。

 何でこんな奴が吸血鬼当主就任の宴に呼ばれてるんだ?


『やな事でもあったんか? そないな時は、美味いもん食うのが一番やで。ほら、これなんかめっちゃ美味いで!』


 我が家が主催の宴で、主催者側に食べ物勧めるとか、馬鹿なのかこいつ。

 ……しかしこいつの間抜けな顔を見てると、何か怒るのも馬鹿馬鹿しくなってくるな。

 苛々して腹も減ってたし、これを食うくらいは良いだろう。

 炙り肉なんて飽きるほど食べた味ではあるけれど……。


『!?』

『どないや? 美味いやろ?』


 こ、これは……!

 炙り肉にサラダのソースをかけたのか!

 野菜を引き立てる淡い味わいが、肉の奥に隠れた旨味を引き出している……!

 いつもの肉用の濃い味のソースでは味わえない繊細さ……!

 この組み合わせは、美味い!


『さっきな、サキュバスのねーちゃんに教わったんや。めっちゃ美味いから誰かに教えたかったんやけど、お父んもお母んも大人同士の話に夢中でなぁ』

『それで、私に……?』

『せや。喜んでくれて嬉しいわ』

『……』


 ……何なんだこいつ。

 ただ料理の新しい組み合わせを自慢したいだけなら、他にも大勢いるだろう。

 父さんが色々な種族を招待しているからな。

 親が大人同士で話しているから、子どもだけの集まりだって、そこここにできている。

 何でわざわざ私のところに……?

 そして何でこんなににこにこしてるんだ……?

 ……変な奴……。


『なぁ、もし良かったらでえぇんやけど、他の食いもんで新しい組み合わせ、一緒に探さんか?』

『……何で、私を……?』


 ……同情ならやめてくれ。

 今よりもっと惨めな気持ちになる……。


『何でて言われてもようわからん。何となくや』

『何となく……?』

『せや。何となく一緒に回ったら楽しそうな気ィしてん』

『……そうか。何となく、か……』


 その曖昧な言葉が、私の苛々の棘を柔らかく包んだ。

 ここで兄さんや一族に怒りを抱えていても、何かが好転する訳でもない。

 こいつみたいに能天気に楽しんで、すっきりしてからまた考えるとしよう。

 どうせあと数年魔力を高めたら、兄さんとそれを支持する奴ら全員灰にできるようになるしな。


『お前、名前は?』

『グスラや。よろしゅうな』

『私はラーミカだ。ラーミカ・イスチ』

『ほなラーミカ、行こか』

『うん!』




 ラーミカの眠りは、浅く短い。

 滅多に見ない夢に、ラーミカは身を起こし、何かを確かめるように手を見つめる。


「……久しぶりだな。魔王様と出会いの時の夢を見るなんて……」


 懐かしさと寂寥感に、ラーミカは自嘲気味に笑った。


「……魔王様との別れも近いものな……」




「……でしたら世襲で継いだ者がそのまま続けたいと主張し、周りが他の者を当主にしたいと望んだ場合はどうされますか?」

「そら選挙やろ。一旦現当主と新当主候補を同じ立場にして、一族の中で投票するんや」

「その結果、現当主派と新当主派とに一族が分断する可能性もありますが」

「それはそれでありやと思うんや」

「分断も是であると?」

「分かれんに越した事はないけど、自分達が認めた当主について行きたい言うんは当然の話やしな。ただし、その派閥の間での争いは禁止や。それは選挙前に厳命せんとな」

「御意」


 魔王とロクドが額を突き合わせて、世襲制廃止後の案について話し合いを続けている。

 そこにラーミカがふわりと虚空から現れた。


「失礼いたします魔王様。お疲れではありませんか? 必要とあればレヌに命じて茶や菓子などを持って来させますが」

「おー、ラーミカ。えぇところに来てくれた。途中までできた草案があるんやけど、見てくれへん?」


 ぱさぱさと紙を振る魔王に、ラーミカは静かに首を横に振る。


「いえ、出来上がったところで拝見させていただきます」

「そないな事言わんで……」

「いえ、ここでツッコんでは、傷が浅いうちに修正されてしまいます。もっと致命的になってから土台ごとひっくり返さないといけませんので」

「怖ァー! 何!? 薄々感じてはいたけど、ラーミカは世襲制の廃止に反対なん!?」

「クソザコナメクジな魔王様にとっては自殺行為ですから。次の仕事も見つからないまま今の仕事を辞めようとする暴挙、止められるものなら止めて差し上げたいです」

「え、いや、ワシの事はえぇねん。でもラーミカは」

「失礼します。お茶を持って来させます」


 魔王の言葉を遮るように、ラーミカは黒い霧になって姿を消した。

 一旦自室に戻ったラーミカは、深く溜息をつく。


「……魔王様はあの日の約束を守ろうとしてくださっている……。それは嬉しい。でも、今の私の幸せは吸血鬼一族の当主になる事ではない……。今の私の幸せは……」


 誰にも伝えられない言葉を部屋に落として、ラーミカは再び黒い霧に身を消した。

読了ありがとうございます。


魔王と会っていなければ、数年後吸血鬼一族の存亡がマッハでやばいところでした。

ラーミカはマジでヘヴィなパワーを持っていますからね……。


世襲制の廃止、それは魔王だけの願いではなく、ラーミカとの約束でもありました。

世襲制が廃止となれば、ラーミカは吸血鬼の当主、あるいは魔王の地位さえ得る事ができますが、今のラーミカの望みは別のところにあるようです。

さて、世襲制の廃止は本当に二人の別れに繋がってしまうのでしょうか?


世襲制廃止編は三話か四話でまとまると思います。

よろしければお付き合いください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 魔王様とラーミカさんの出会い、やさぐれていたところにのほほんとした顔でやってこられたら気が抜けますよね。 魔王様だと、祝いの席なのになんか難しい顔してるんがおるな、美味しいもん食べたら機嫌…
[良い点] ロリラーミカが可愛い。魔王様、子供の頃から空気読むの上手かったんやなあ。 [気になる点] クソザコナメクジのニコニコ顔ってどんな感じなんやろ? やっぱり目ん玉が^^になってんのかな。 [一…
[一言] ホントは、うまいところ使い分けるべきなんでしょうけど。
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