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魔王様と人材交流

二ヶ月のご無沙汰、失礼いたしました、

書きたい事は決まっていたのですが、登場人物の設定に手間取りました……。

名前だけでも四回変わりましたし……。


そんなこんなでだいぶ長くなりましたが、お楽しみいただけましたら幸いです。

「魔王様。ノトヒ王国からオートウッド殿が見えました」

「通してや」

「はい」


 玉座の主の声に、側近の吸血鬼ラーミカが軽く指を返すと、玉座の間の扉が開いた。

 突然開いた扉に驚き、扉の前に立った年若い青年は、反射的に頭を下げる。


「こ、これはお初にお目にかかります! 私はノトヒ王国国王オイラエが弟、オートウッドと申します! この度は人材交流をお受け入れいただき、誠に有り難く……!」

「あー、そんなに緊張せんでえぇから、こっち入ってーや」

「え、あ、はい……。え……?」


 オートウッドは顔を上げ、そこで固まった。

 荘厳な玉座の間。

 豪奢な魔王の玉座。

 そこに座るのは魔王以外にあり得ない。

 なのに。


「な、ナメクジ……?」


 そこには中型犬くらいの大きさのナメクジが鎮座していた。

 魔王の風貌について知らされていなかったオートウッドは、理解が追いつかず硬直した。


「……またオイラエ陛下は、魔王様のお姿を伝えずに送り出したようですね」

「あの悪ふざけ癖は治らんなー。ははは」


 呑気な笑い声に我に返ったオートウッドは、慌ててもう一度頭を下げる。


「ま、魔王陛下であらせられましたか! 失礼をいたしました!」

「いや、オイラエが悪ふざけしたんやろ。そんなん気にする関係とちゃうから、気にせんでな」

「ご、ご厚情、感謝いたします……」

「そうです。たとえ前情報があってもこんなクソザコナメクジな姿を初めて見たら、驚くのが普通ですから」

「せやなせやな、っておゥーい! ワシの見た目そんなにおかしいか!?」

「あ、その、えっと……?」


 漫才のようなやり取りに呆気に取られるオートウッドには、何が何だかわからない。

 先代の国王が現国王オイラエに若くして跡目を譲り、隠居した静養地で生まれたのがオートウッドであった。

 当時オイラエには子がおらず、第一王位継承者と目されていたが、その数年後にメーフィが生まれ、王位継承権は白紙に戻された。

 その後生まれた静養地で育ち、十五となった今年。

 そろそろ王宮に入り役職を得るか、後見を得て領地を与えられるか、といったところで魔王城との人材交流に指名された。


(……兄上は私を疎んでいるのか……? それとも廷臣の中に私を快く思わないものが……?)


 そもそも魔王は国王オイラエと同格であり、外交上失礼があってはいけないはずの相手。

 それなのに驚くべき魔王の容姿について、誰も教えてくれなかった。

 陥れる意図があったと邪推するのも無理はない。


(大体こんな威厳も力もなさそうなナメクジから学ぶ事など何もない。何が人材交流だ。適当に魔王城の中を見て回って、それらしい報告をでっち上げよう)


 そう決めたオートウッドは、早々に役目を終わらせようと魔王に軽く頭を下げた。


「それでは早速ですが、城を色々見て回らせていただいてもよろしいですか?」

「えぇで。案内するわ」

「ありがとうございま……、え、魔王陛下、自らですか?」

「せや。いつもの見回りついでや。ラーミカ、ここ任せたで」

「はい。お気をつけて」

「えっと、その、よろしくお願いいたします……」


 オートウッドは意外な流れに、そう返事するのが精一杯だった。




「文官長のロクドや。内政の事やったらロクドに聞けば大抵の事はわかるで」

「の、ノトヒ王国国王オイラエが弟、お、オートウッドにございます」

「王弟殿下、よくぞお越しくださいました。様々な情報を交換できたら嬉しく思います」

「こ、こちらこそよろしくお願いいたします……」

(うわぁ、本当に骸骨だ……。賢者の骨から生まれ、高い知性と魔力を持つリッチ……。あまり仲良くしたい風貌じゃないな……)




「ここは訓練場や。今は飛行訓練をやっとるで」

「あ、魔王様! お客様ですか?」

「訓練中失礼いたします。ノトヒ王国国王オイラエが弟、オートウッドにございます」

「これはこれは! 飛行部隊所属、ホークマンのカーターです!」

「よろしくお願いいたします」

(有翼人か。さっきの骸骨に比べたらいくらか話しやすいな。こいつから少しか話を聞くか……)

「む、客人か」

(げぇ!? グリフォン!?)

「おぉ、シシュー! 人間の国の……、あー、王様の弟だ! 名前は、えっと……、何でしたっけ?」

「……オートウッドです」

「あ、そうだそうだ! オトウットさんだ!」

「……」

「カーター。オートウッド殿下だ。名前を間違えるのは失礼に当たるぞ」

「い、いえ、大丈夫です……」

(このホークマンも駄目だな……。人の名前も覚えられない奴が、碌な情報を持っているはずもない……。それと間近で見るグリフォン怖ぇー! 早く立ち去りたい!)

「では魔王陛下。次にまいりましょう」

「せやな。工房に行こか」




「あー魔王様ー。こんにちはー」

「おー、アペリ。元気にやっとるかー?」

「うん、ばっちりだよー。で、その人はお客さんかなー?」

「初めまして。ノトヒ王国国王オイラエが弟、オートウッドにございます」

(ドワーフの女か……。汚れた服装にぞんざいな言葉遣い……。ドワーフだから押しつけられたのだろうが、男が就くべき職人の世界に染まるとこうなるのだな……)

「でー、何を直すのー?」

「は?」

「あぁアペリ。客言うても修理やないんや。魔王城の仕事を見てもろうとんのや」

「そーなんだー。何か壊れたら持ってきてねー」

(……挨拶もそこそこに作業に戻るとは……。こいつも話す価値はなさそうだ……)




「ここは厨房やで」

「あらぁ、魔王様ぁ。つ・ま・み・食・い、かしらぁ?」

「!」

(な、何だこの女……! まるで痴女のような服装……! しかもこのむせかえるような色気……! さ、サキュバスか!?)

「ちゃうでマァニ。客人の案内や」

「わ、私は、の、ノトヒ王国国王、お、オイラエが弟、お、オートウッド、です……」

「初めましてぇ。料理長のマァニでぇす」

「りょ、料理、長……? し、失礼ですが、その、サキュバスの方、ですよね……?」

「そぉよぉ。魔王様が取り計らってくれたのぉ」

「マァニの飯は美味いんやで」

(嘘だろ!? サキュバスの能力関係ないじゃないか! 何を考えて人材配置してるんだこのナメクジは!)

「ほな次行こか」

「あぁん魔王様ぁ。今度はゆぅっくり遊びに来てねぇ」

(そ、そうか! 敢えて厨房に配置する事で、夜はサキュバスの肢体を独り占めにする算段に違いない……! う、うらやま……、い、いや、けしからんぞ魔王!)




「ここは倉庫や。いろんなものが備蓄してあるで」

(……食べ物と、水、屋外宿泊用の道具……。成程、平時にも戦争の備えはしているというわけか。しかし……)

「魔王陛下。武器をここに置かないのは何故ですか?」

「そらここは災害用の備蓄倉庫やからな」

「さ、災害用の備蓄倉庫!?」

「せや。地震に台風、大火災なんかもあるからなぁ。備えあれば憂いなしっちゅうやつや」

「そ、そうですか……」

(……いや、それは表向きだろう。魔族は武器がなくても戦える者が多い。きっと陸軍にドラゴンのような強い魔族が配属されているに違いない!)

「おや、魔王様。ご視察ですか?」

「!?」

「お、ツター。今客人に魔王城の案内をしとってな。オートウッド、倉庫番のツターや」

「初めまして」

「いや何でドラゴンが倉庫番とかしてるんだよ!」


 こらえにこらえたものが噴き出したオートウッドは、激しめにツッコミを入れた。


「え? そらツターが倉庫番やりたい言うから」

「はい。この薄暗い感じ、奥まった感じ、私の生まれ育った洞窟に似ていて、とても落ち着くのです」

「いや、でも、ど、ドラゴン、なんだろ? ほ、炎を吐き、空を飛び、鱗は鋼をも跳ね返す、ドラゴンなんだろ!?」

「はい」

「じゃあ何で倉庫番なんか……!」


 自分の価値観を根底から覆され、頭を抱えるオートウッドの肩に、魔王の触腕が伸びる。


「ワシはな、親が魔王やったからその跡を継いだ。ワシ自身にはなーんの力もないんや」

「は、はぁ……?」

「せやから皆の力を貸してもろてる。そんなワシやから、ぱっと見て得意そうな事より、その魔族自身がやりたい事をやってもろとるんや」

「……えぇ……?」


 オートウッドの混乱がさらに深まった。

 そんな子どものままごとのような決め方で、仕事が回るのかわからず、うわごとのような質問が口をつく。


「……それが向かない事だったらどうするんだ……?」

「ほんまに向かない事やったら、うまくいかん事が続いて辞める事になるやろ」

「なら……!」

「せやけどまだ不得意なだけでやりたい仕事やったら、諦めんからいつかはほんまもんになる。それは回り回って、城のためにも皆のためにもなるからな」

「……!」


 その言葉は、オートウッドの心を強く揺さぶった。

 隠居し、悠々自適の生活を送る両親。

 親子ほども歳の離れた、王にして兄であるオイラエ。

 次代王位継承者と目される、妹のような歳近としちかの姪メーフィ。

 オートウッドが王になるのかメーフィの補佐に回されるのかわからず、扱いに困る周囲の人々。

 何をなすべきか誰も示してくれない生活で、与えられるものを享受するだけだった十五の青年に、魔王の優しくも堂々とした生き様は輝いて見えた。


「……あの、魔王陛下」

「何や?」

「その、このドラゴ……、ツターさんから少し話を聞いても良いですか?」

「えぇで。なぁツター」

「はい。喜んで」

「……それと、これまでに挨拶した方にも、改めてお話を聞いて回りたいのですが……」

「わかった。ワシは一旦玉座に戻るで、一通り終わったら戻ってきてや」

「ありがとうございます!」


 深々と頭を下げたオートウッドは、早速ツターに話しかける。

 その目はキラキラと輝いていた。


「この仕事のやり甲斐とは何ですか?」

「城の宝を守り、適正に管理しているという充実感でしょうか」

「宝物庫ではなく備蓄倉庫の倉庫番を志願したのは?」

「この備蓄倉庫こそ、国民をいかなる時でも守ろうとする魔王様のご意志の現れ。これに比べれば、光り輝くだけの金貨や宝石には気持ちが動かないのです。それに……」

「それに?」

「備蓄用とはいえ食料ですから、年が経つと痛みます。そうなる前に新たなものを用意し、古いものを厨房や炊き出しに回す楽しさは、金貨や宝石では味わえますまい」

「成程!」


 盛り上がるオートウッドとツターを残し、魔王は備蓄倉庫を後にする。

 すると虚空からラーミカがふわりと現れた。


「魔王様、お疲れ様です。首尾はいかがですか?」

「あぁ、えぇ顔になったで。最初はワシでえぇのかと思うとったけど、これでオイラエの頼みも解決やな」

「王として臣下に関わる姿の手本を見せるのに、魔王様ほど適した方はいませんからね」

「まぁオイラエが自分でやった方がえぇと思うたけど、身内やとやりにくい事もあるわな」

「いえ、そうではなく……、まぁ良いです」


 玉座の間に向かって並んで歩く魔王とラーミカ。


「でもこないな事頼むゆう事は、オイラエはオートウッドを次の王にと考えとるんやろな」

「そうでしょうね」

「王の弟、か……」

「……魔王様?」

「ほんまに良かったんかな? オートウッドのほんまにやりたい事を知る前に、王の弟やからってこんな誘導するような真似して……」


 考え込む魔王に、ラーミカがそっと寄り添う。


「よろしいではないですか。まずやってみて、そこでわかる事もあります。そこで困難に阻まれた時に、お手を差し伸べれば良いのですよ」

「……せやな。おおきにラーミカ」

「それにオートウッド殿が王位を継いだ方が、我々にとっても都合が良いですからね」

「? 何がや?」


 首を傾げる魔王に、ラーミカは溜息を一つこぼした。


「魔王様……。もしメーフィ姫が王位を継いだ場合、魔王様と同格の立場になりますね?」

「あぁ、せやな」

「女王となったメーフィ姫が魔王様と結婚したいと仰った時に、いかなる理由でお断りになるおつもりですか?」

「あ!」


 魔王の驚きに、ラーミカの目がすうっと細くなった。


「全く想定していなかったという反応ですね」

「え、いや、それは、今回の人材交流にラーミカが反対せぇへんかったから、その……」

「私が何も申し上げなかったのは、今回の件をお受けになったのは、そういうお考えの元だと思っていたからですが」

「それは、その、何と言うか、し、信頼感のすれ違い言うか……」

「……今回は結果として良い形になりましたが、今後はよくお考えの上でお受けなさいますように」

「わ、わかった! 気ィ付ける!」

「お願いいたします。では玉座の間に戻りましょう」

「は、はぁい……」


 とぼとぼと付いてくる魔王を肩越しに見ながら、ラーミカは正面を見ながら微笑む。


(打算なしに他者に力を貸せる、それがどれほど稀有な事かを魔王様は考える事すらされないのでしょうね……)

読了ありがとうございます。


オートウッドの名前の由来はカーターがばらしてしまいましたが、『弟』からそれらしくもじりました。

逆読みにできなかったのだけが心残り……!


なお、オイラエが魔王の風貌を伝えなかったのは、オートウッドの価値観に揺さぶりをかけるためでした。

めっちゃ驚くだろうなーって気持ちは、ちょっとしかありません。

……少年の心を忘れないって素敵だなぁ……(震え声)。


また間が空くとは思いますが、完結までの道は見えていますので、よろしくお願いいたします!

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― 新着の感想 ―
[良い点] やりたいことを仕事に出来て、それが上手にこなせるのって楽しいし幸せなことですよね。 現実ではなかなかそうはいかないことの方が多いですが、魔王様の配慮のおかげでやりたいことを仕事に出来ている…
[一言] オートウッドってなんか名前かっこいい・・・ >完結までの道は見えていますので 永劫続いてもいいのよ♡
[一言] こりゃすごい! 何にも考えていないふりをして、「やり方」を見せるとは! まあ、魔王様の姿問題ですが。(笑)
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