魔王様と新年の抱負
お陰様で無事新しい年を迎えられました。
本年もよろしくお願いいたします。
さて魔王城も新年を迎え、魔王も新たな決意を固めたようです。
どうぞお楽しみください。
魔王城の玉座の間。
居並ぶ魔族を代表して、魔王の側近であり高位魔族である吸血鬼・ラーミカが玉座に向かって声を上げる。
「魔王様、明けましておめでとうございます」
「「「おめでとうございます!」」」
「おー、おめでとさん。今年もよろしゅうなぁ」
それに応える玉座の主は、魔王らしい威厳は微塵も感じられないナメクジのような姿であった。
「魔王様、どうか私共に年頭に当たっての訓示をお授けください」
「いやラーミカ、勘弁してくれ。いつも言うとるけど、ワシ偉そうな事言える立場やない。みんなに言える事なんて、元気で楽しくやってくれ、くらいなもんや」
「聞いたか皆の者! 魔王様は元気で楽しくと仰られた!」
「何その熱量!?」
戸惑う魔王をよそに、ラーミカの言葉には更に熱がこもる。
「この一年、いかなる怪我や病気も許されない! そしてただどれほど辛い状況であっても、楽しさを失った者は城から出される事も覚悟しろ! 良いな!」
「良いわけあるかァー! どんなパワハラや! そないなえげつないもんとちゃうて、もっと気楽にやな……」
「では気楽にできない者は処罰する流れでよろしいですか?」
「そんな流れで気楽にできる奴おらんやろ! 何でそないに極端なん!?」
「でしたらこの城の長らしく、堂々としたお言葉をくださいませ。城の者は皆、今年一年の道標として魔王様がくださるお言葉を待っているのですから」
「……! ……せやな。わかった」
ラーミカの意図を汲み取った魔王は、咳払いを一つして話し始めた。
「あー、うん。みんな、いつも城のために頑張ってくれとってありがとな。嬉しく思っとる。今年も同じように頑張ってもらえると嬉しい」
「「「はい!」」」
「せやけど仕事だけが生きる意味やない。家族、趣味、娯楽、そういったもんもちゃんと大事にしてほしい」
「「「はい!」」」
「そのためには健康や。仕事も生き甲斐も、元気やからこそ目一杯できる。そういったもん大事にして、今年一年も楽しくやっていこ。以上や」
「「「はい!」」」
「魔王様、素晴らしいお言葉、ありがとうございます。皆魔王様のお言葉を胸に、今年一年も忠勤に励むように! 良いな!」
「「「はい!」」」
「では速やかに食堂に移動! 年始の祝い会を開始する!」
「「「はい!」」」
ラーミカの言葉に、玉座の間から続々と出て行く。
魔王とラーミカだけがその場に残った。
「……魔王様。偉ぶりたくないというお気持ちはわかりますが、節目節目の場面では毅然としていただきませんと、皆の気持ちが定まりません」
「いやー、すまん! フォローしてくれて助かった!」
「いえ、魔王様にお仕えする者として、当然の事です。これからも末永く魔王様がつつがなくお仕事されるためになら、不肖ラーミカ、全力でお支えいたします」
「……あー、その事なんやけどなラーミカ」
「はい」
少し重々しい魔王の声に、ラーミカが背筋を伸ばす。
「ワシは今年、世襲制を廃止しよと思うとる」
「……!」
目を見開くラーミカに、魔王は触腕で頬をかきつつ言葉を続けた。
「ほんまに力があって、ほんまにみんなを助けてやれる、そういうもんが魔王になれるようにしようと思うとるんや」
「……今の魔王様こそ、それに相応しいと私は思います」
「ありがとな。そう言ってもらえるんは嬉しいけど、世襲制やから声を上げられんもんもおると思うんや。そん中にワシより魔王に向いとる奴がきっとおると思う」
魔王の言葉に、ラーミカの声には力が込もる。
「今の平和な治世に何のご不満があるのですか? 何か妨げるものがあるなら、私が全力で排除いたします」
「いやちゃうて! 不満なんてない! 怖っ! 『逆らうもん皆殺しにしたる』みたいな空気出すのやめてェ!」
悲鳴に近い魔王の叫びに、ラーミカは息を吐いて殺気を収めた。
「……失礼しました。しかしご不満がないのなら何故……」
「……みんなのためにより良くしたい思うとるだけや。ワシは力も知恵もないクソザコナメクジや。より良いもんがおったら席を譲るのが筋やろ」
「……っ」
言葉に詰まるラーミカ。
奥歯を噛み締め、何かに耐えるようなその姿に、魔王は慌てて触腕を振る。
「ま、まぁ次の決め方とかまだ決まっとらん事も多いし、そこら辺はみんなの知恵借りんとあかんけどな」
「……ならば選挙がよろしいでしょう」
「選挙?」
「えぇ。なりたい者、または他者から相応しいと推薦された者が、目指す国の姿を語った後、国民から一番支持された者が王となる制度です」
ラーミカの説明に、魔王は触腕をぽんと打った。
「ほー! えぇな! それやったらみんなが納得するもんが魔王になれそうや!」
「ではロクドに、制度の案を作るよう伝えておきます」
「頼むで!」
微笑むラーミカに、魔王も笑顔を返す。
「ラーミカに話しといて良かったわ! 年の初めにえぇ話ができた!」
「はい。今後とも何かありましたら、私にご相談くださいませ」
「頼りにしとるで! 今年もよろしゅうな!」
「今年と言わずいつまででも」
「ほな年始の宴に行こか!」
「かしこまりました」
魔王は大きな勘違いをした。
今のやり取りで、ラーミカが自分の退位を前向きに考えたと思い込んでしまったのだ。
この後ロクドがドン引きするほどの『魔王様再選計画』が練られる事を、魔王はまだ知らない……。
読了ありがとうございます。
選挙にしたとして、今の魔王の支持率で対抗馬が現れるのかどうか……。
現れたとしても、ラーミカの全力プレッシャーに耐えられる者がいるかどうか……。
魔王の治世は安泰です(白目)。
次話もよろしくお願いいたします。