魔王様と聖なる夜
三週間ぶりのご無沙汰です。
クリスマスに合わせて、無理矢理魔王にもクリパ的な事をさせてみました。
どうぞお楽しみください。
「魔王ー! 準備できたぞー!」
「おー、メーフィ。ほな食堂に行こか」
「かしこまりました魔王様」
エプロンをつけた人間の姫・メーフィの言葉に、玉座の脇に控えた高位魔族の吸血鬼が、玉座に座る中型犬程のナメクジを抱え上げた。
「あー! 魔王の抱っこいいなー! ラーミカ、あたしにもやらせてー!」
「いけませんメーフィ様。魔王様のお身体は粘液に塗れております。私は魔力で弾く事ができますが、メーフィ様ではお召し物が汚れてしまいます」
「えー、別にいいのにー」
「お父上であるオイラエ王もお越しの今日は、いつもよりおめかしをなさったのでしょう? パーティには可愛いままで行かなくては」
「そっか……。うん! わかった! じゃあ早く行こ!」
頷いたメーフィは、待ち切れない思いそのままに駆け出す。
ラーミカと呼ばれた吸血鬼が、魔王と呼ばれたナメクジを抱えたまま、滑るようにその後を追う。
「いやー、おもろい事になったなぁ。人間の祭りをこの城でやる事になるとはなぁ」
「人間の国の国教創始者の誕生祭、魔族にはない風習ですね。もっとも一年を終える節目の祭りという意味合いの方が大きいようですが」
「理由は何でも、魔族と人間が仲良うするきっかけになるなら、やって損はないやろ」
「仰る通りです。しかし先代の時には考えられませんでしたね」
「あぁ、お父んにも言われたわ。『ワシの時には人間がビビって近寄っても来なかったのに、グスラは大したもんや』ってな」
「まさに魔王様の御威光と徳の賜物です。今後も維持して参りましょう」
「勿論や!」
「ですが魔王様」
移動しながら、ラーミカの鋭い目が魔王を射抜く。
「改めて釘を刺しておきますが、メーフィ姫の求婚は、たとえ冗談でもお受けになりませんように」
「わ、わかっとるがな」
「万が一お受けになった場合、三日以内に私の指示で、魔王様の国内での呼び名を『ロリコンクソザコナメクジ様』に変更いたします」
「刺す釘太ォー! だ、大丈夫やて! 十になったばかりの子に何言われたって動じたりせぇへんて!」
笑いながら言う魔王に、しかしラーミカの視線は緩まない。
「以前メーフィ姫が肉じゃがを作られた際には、危うく結婚の約束をするところでしたが?」
「あ、あれは深く考えとらんかったからで、今はもう大丈夫やって!」
「泣かれても、ですか?」
「え、あ、う、うん……」
歯切れの悪い返事に、ラーミカの視線が鋭さを増す。
「泣かれても、ですよ?」
「わ、わかった! わかったからその目ェやめて!」
「あ、メーフィ様、魔王様、ラーミカ様。どうぞ、皆様お揃いです」
気が付けば食堂の扉が見えていた。
扉の横で控えていたコボルトのメイド・コッヌイが、頭を下げると扉を開く。
「父上ー! 魔王連れてきたぞー!」
「おぉ魔王。この度は『冬祭りを魔王城でやりたい』という娘のわがままに応じてくれて感謝する」
立ち上がって礼をする人間の王・オイラエに、ラーミカの腕から下ろされた魔王が触腕を振った。
「こちらこそ人間の国の風習を教えてもろて、有り難い思うとるんや。堅苦しいのは抜きにして、楽しもうやないか!」
「……そうだな。よし、久しぶりに国王オイラエではなく、魔王グスラの友人オイラエとして、存分に楽しむとするか!」
「えぇで! その意気や!」
「父上ご機嫌だな! じゃあかんぱーい!」
「えっ!? あの、乾杯の御発声はオイラエ様の予定では……?」
リッチの文官長・ロクドの戸惑いを、魔王がやんわりと制する。
「えぇんや。今日はオイラエは国王とちゃう。唯一の王族が乾杯したっておかしな事ないやろ?」
「……! 成程、確かにそうですな! ……では乾杯!」
「「「乾杯!!!」」」
ロクドが続いた事で皆が杯を差し上げ、近くの者と打ち合わせた。
魔王はラーミカが近くから取り寄せた杯を受け取り、少し遅れて乾杯を交わす。
一気に食堂は宴会の空気となり、サキュバスの料理長・マァニがメーフィから聞き取って作った料理に一斉に手を付けた。
「わー! これが人間の冬祭りに欠かせない鳥肉の丸焼きなんだねー! おーいしー!」
「……あ、アペリちゃん、こっちの半生肉の薄切りも美味しいよ……?」
「おー! ニオコは美味しそうなの見つけたなー! ミカーオもこの焼けてない肉気に入ったぞー!」
「ふわぁ、美味しい、美味しい……!」
「……ミカーオ。コッヌイ。食べるのもいいですが、魔王様やオイラエ様のお飲み物が足りなくなったら、すぐに注ぎに行くのですよ?」
「んもぅレヌったらぁ。今日は働く者もぉ、皆楽しめっていうのがぁ、魔王様のお望みでしょぉ? 飲み物もぉ、食べ物もぉ、自分で取れるように手配してあるわよぉ」
「せや! マァニの言う通りや! 酒の席では魔王も国王も関係あらへん! 飲め! 歌え!」
「ルスマン様! あまり飲み過ぎると筋肉の再生に悪影響が……!」
「大丈夫よ〜シウさ〜ん。ウチの人にとっては〜、お酒は水みたいなものだから〜」
「さっすがルスマン様だねぇ! あんた! 男ならあれくらい気っ風良く飲んでみなよ!」
「勘弁してくれドザリー……。オーガのルスマン様に、リザードマンの俺が敵うわけないだろ……」
「よっひゃあ! もれがるふまんはまとひょうぶひてくるぅ! ひひゅーもいくろ!」
「よせカーター。一杯目でべろんべろんではないか」
「よっし、ならオイラが……!」
「お前さん、オラはそんな事で張り合わんでも、お前さんの男前な事、知っとるでよ……」
「おーおーお熱いこって。……ニオコも大きくなったし、あっしもたまにはカミさんといちゃつくかねぇ……」
「お! あのオークとドライアドとゴブリンは前の時にいなかったよねー! よーし、あたしの幻術で更に盛り上げちゃおう!」
「待てラズタイ! 以前は不意打ちにて不覚を取ったが、この文官長ロクド! 人間との重要な交流の場、邪魔はさせんぞ!」
「大盛り上がりですね魔王様」
「せやなぁ」
ラーミカと魔王が喧騒を楽しみつつ食事をつまみ、杯を傾けていると、ジュースを片手にメーフィが駆け寄って来た。
「魔王ー! 楽しんでるー!?」
「あぁ、めっちゃ楽しいで」
「良かったー! 絶対このお祭りを魔王と一緒にしたかったんだー!」
「ほー、何でや?」
「このお祭りの日に一夜を共にすると、一生一緒にいられるんだって!」
「ぶっふ!」
「魔王様!」
酒を吹き出した魔王に、ラーミカがハンカチを指し出す。
顔を拭きながら魔王が、にこにこしているメーフィに問いかけた。
「え、この祭り、そんな謂れがあるん!?」
「そうだよー! だから父上にお願いしたのー!」
「!」
「……!」
「……」
魔王とラーミカの視線に、そっと目を逸らすオイラエ。
そこには国王ではなく、娘の願いに膝を屈した父の姿があった。
「一生一緒って事は結婚だよね! わーい! 魔王と結婚!」
「え、ちょ待って!? それは人間の国の風習であって、魔族のワシとは関係」
「えっ!? 魔王、私と結婚するの嫌なの!?」
「あ、その……!」
笑顔から一転、目に涙を溜めるメーフィに、魔王はてきめんにうろたえる。
そこに、
「メーフィ様」
隣に侍るラーミカが割って入った。
「その風習ですと、これだけ大勢と過ごした時はどうなりますか?」
「え? んー……、みんなと結婚?」
「結婚とは一人とするものです。ですからこの日に一緒にいたのが二人きりなら結婚かもしれませんが、大勢の時はきっと、皆でずっと仲良く、という事ではないでしょうか?」
「あ! そーかも! ラーミカ頭いい!」
「魔族も人間もいつまでも仲良くいられる……、素晴らしいお祭りですね」
「うん! 父上にお願いして良かった!」
「ではお父様にもその話をお伝えするといいでしょう」
「はーい!」
オイラエの元に駆けていくメーフィ。
話を聞いたオイラエが、しきりに頭を下げる。
「……助かったぁ……。ラーミカ、流石やなぁ……」
「魔王様をお守りするのが私の役目ですからこれくらいは。それよりも」
ずいとラーミカが魔王に詰め寄った。
「来年以降、二人きりで過ごそうという誘いは絶対に断ってくださいね?」
「も、勿論や!」
「本当ですね?」
「お願い信じてェー!」
「……まぁ私の目を盗んで逢引に及ぶ度胸はないでしょうから、そこは信用いたしましょう」
「辛辣やけど助かった……!」
「それともう一つ」
「ま、まだ何かあるんか?」
怯える魔王に、ラーミカは笑みを向ける。
「ここにいる者とずっと仲良し、という事は、魔王としての地位も命ある限り続くという事でよろしいですね?」
「え、いや、それはまた別と言うか、その」
「よろしいですね?」
「わ、ワシは魔族やから関係ないし! あ! お父ん! お母ん! 飲んどるか!?」
「くっ、先代ご夫妻の元に逃げるなど卑怯ですよ魔王様!」
「何とでも言うてェー! ワシはクソザコナメクジやもーん!」
宴は騒がしく賑やかに、日を跨いでも盛り上がりを続けていた……。
読了ありがとうございます。
クリスマスのノリに任せて、これまでに名前の付いた全員をガヤで出してみました。
全員わかったらすごい。
誰か出し忘れてたらこっそり教えてください。
こっそり追加します。
あ、最終回じゃないです。
もうちょっとだけ続くんです。
次回もよろしくお願いいたします。




