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魔王様と悪戯妖精

約ひと月半のお待たせとなってしまいました。

楽しみにしてくださっている方がいましたら、大変申し訳ありません。

どうぞお楽しみください。

 魔王城の玉座の間。

 魔王の側近である吸血鬼が、手に下げた鳥かごを忌々しげに見ながら玉座まで運ぶ。


「魔王様、失礼します」

「ラーミカ、どないした?」


 玉座に座る、というより乗っているというのが正しい中型犬ほどの大きさのナメクジ。

 魔王と呼ばれたそのナメクジは、ラーミカとその手の鳥かごを交互に見比べる。


「魔王様、この者に処罰を」

「えっへへー、やっほー魔王様ー」

「ラズタイやないか。……あー、お前また何かやったんか?」

「にひひ、捕まっちったー」


 鳥かごの中のピクシーは、悪びれた様子もなく屈託なく笑う。

 その様子に、鳥かごを持つラーミカの目が鋭さを増す。


「……ラズタイ。……貴様、反省はないのか……?」

「えー? だってちょっとした悪戯だしー」

「ちょっとした悪戯、だと……!?」

「あー落ち着きラーミカ。ラズタイは今度は何やったん?」


 魔王の言葉に殺気を収め、咳払いをしたラーミカが努めて冷静に説明を始めた。


「……魔王城で働く者の衣装を、幻術でピンクのフリル付きメイド服に変えて回りました」

「んぐっふ!」


 ラーミカの押し殺した怒りを感じ、抑えようとして抑えきれなかった爆笑が、魔王の口の中で弾ける。

 小刻みに震えながら、魔王は先を促した。


「そ、そんなら、ま、まぁ、悪戯の範疇やないか……」

「男に限って際どいミニスカートでも?」

「ぶるっふ!」

「へそにハートの穴が空いていても?」

「ぶばはっ!」

「動作に反応してランダムに『きゃるん』とか『ぽみゅん』とかとか『もるる〜ん』といった謎の擬音と共に、桃色の光があふれる仕様でも?」

「ふっふぐっ……、ふぐっ……」


 白目をむいて必死にこらえる魔王。

 息が止まる寸前までいって、何とか笑いを収めた。

 魔王の息が整ったのを見計らって、ラーミカが続きを話す。


「お互いの姿を見て笑う者、無駄にポーズを取って遊ぶ者、恥ずかしがって部屋に引きこもる者、反射で男のスカートの中に目を向けて壊れる者、城内は大混乱でした」

「ちょー面白かったー!」

「そら楽……、大変やったな」

「今楽しそうとか仰ろうとなさいましたか? 城の仕事がほぼ麻痺したこの状況を?」

「……すまん」


 ラーミカの圧に屈した魔王は、ふと疑問を口にする。


「そう言えばラーミカの服はいつものやな」

「かけたけど弾かれちったー。ざんねーん」

「私の魔力の前に、ピクシー如きの幻術は効きません。それとも何ですか? 私のメイド服姿を見たいとでも?」

「いやいやいや! ちゃうちゃう! 不思議に思うただけやって!」

「そうですか。ならば良いのです」


 慌てて触腕を振った魔王は、ラーミカの目つきが元に戻ったのを見て、安堵の息を吐く。


「という事ですので、ラズタイに処罰を」

「いや、処罰言うても幻術で服変えただけやろ? 多少騒ぎにはなったけど、そこまでする事は……」

「文官長のロクドが部屋から出てこなくなって、このままでは業務に深刻な支障が起きかねません」

「えぇ……。ロクドってそんなにメンタル傷つきやすかったん?」

「格好もそうですが、リッチである自分がピクシーに遅れを取った事がショックだったようです」

「あー、成程なぁ……」


 魔王は納得した様子で頷いた。

 困った様子の魔王に、ラーミカは更に言い募る。


「このまま何の罰もなしとなれば、いかにピクシーの悪戯が習性としてある程度容認されていると言っても、ラズタイの城内での評価に関わります」

「せやろなぁ……。せやろうけど、どないな罰やったらみんな納得するやろ……」


 触腕を組んでうなる魔王に、ラーミカが助け舟と言わんばかりに提案をします。


「では生皮を剥ぎましょう」

「び!?」

「過酷ゥー! そんなんしたらドン引きやろ!」

「ご安心を。顔ではなく背中とかですよ」

「部位の問題とちゃうねん! 何かもっと痛くない罰ないの!?」

「ならば縛り上げて振り回しながら城内を練り歩きましょうか。これなら罰と見せしめが同時に行えます」

「きゅ!?」

「発想が狂気ィー! それ結構な確率で死ぬやつやないか! わかった! ワシが一緒に謝って回るから堪忍したって!」


 魔王の言葉に、ラーミカとラズタイが目を丸くしました。


「魔王様が、何故?」

「部下のやらかしは上司の責任や! ワシが付いて謝ったらみんなも気ぃが済むと思うし、それでえぇやろ!? な?」

「魔王様やっさしー! 愛してるー!」

「黙りなさいラズタイ。声帯を摘出されたいのですか」

「しーします。しー……」


 口に人差し指を当てたラズタイが大人しくなったところで、ラーミカは溜息をついて鳥かごを開けました。


「魔王様がそう仰るのなら是非もありません。よろしくお願いいたします」

「任せとき!」

「魔王様よろしくー」

「まったく……。魔王様は甘いのですから……」


 溜息のラーミカに見送られ、二人は玉座の間から出て行った。




 翌日。


「ラーミカ様助けてー!」

「ラズタイ? どうしたのです? とりあえず呼吸を整えなさい」


 朝早くにすごい勢いで飛んできたラズタイに、ラーミカはそう言って落ち着くよう促す。

 深呼吸したラズタイは、ラーミカの親指にしがみついて懇願した。


「お願い! もう悪戯しないから、魔王様と謝りに行くの終わりにしてー!」

「何があったのですか?」


 ラーミカの問いに、ラズタイの目が潤む。


「だって、魔王様がふうふう言いながら城中を歩いて、色んな人に謝ってるの、最初は『あたし偉くなったみたーい』とかふざけてたけど、段々辛くなって……!」

「……そうですか」


 ラーミカは必死な様子のラズタイを見て、魔王が意図しなかったであろう効果に嘆息した。


(単なる罰よりも、罪悪感に訴えた方が再犯を防げる……。魔王様が弱い身だからこそ有効な手段ですね……。もっとも魔王様はただ謝罪に付き合っているおつもりでしょうが……)


 そして指にすがりつくラズタイに目を向ける。


(これなら今後大きな迷惑をかけるような悪戯も控えるでしょう。罰としては十分かもしれませんね)


 かすかに優しさを浮かべたその顔が、


「私が飛び疲れたら、背中に乗せてくれるし……」

「は?」


 ラズタイの言葉に音がきこえそうな勢いで凍りつく。


「乗ったの、ですか? 魔王様の背中に?」

「うん。ぬるぬるしないようにって近くでタオルまで借りてくれて……」

「あなたの謝罪だと言うのに、付き添ってくださる魔王様の背中に乗ったのですね?」

「あ……! で、でも悪いからちょっとにしたし……」


 失敗に気づき、俯くラズタイ。

 しかしラーミカの追及は止まらない。

 

「魔王様は見た目通り体力もクソザコナメクジなのですよ? 悪いと思うなら最初から乗るべきではないのに、やはり反省の意思は薄いと判断しました」

「え、いや、だって、一回乗ってみたかったし、魔王様が『えぇで』って言うから、そ」

「言い訳無用。謝罪行脚は最後までやり遂げてもらいます。そして私が影から監視をします。一切の甘えは許しませんからそのつもりでいなさい」

「そんなー! 許してー!


 ラズタイの小さな絶叫は、聞き入れる気のないラーミカの耳にしか届かなかった……。

読了ありがとうございます。


反省を促してこその罰。

しかし当初は、罪を犯した者のセカンドチャンスの話だったはずなのに、どうしてこうなった……。


ちなみに各キャラの反応。

文官長ロクド(リッチ)……プライドを折られ部屋にこもるも、魔王の説得で戦線復帰。

リモ(ドライアド)、タブ(オーク)……夫婦仲良く北の開墾で難を逃れる。

ツソクーゴ(ゴブリン)……同上(妻と共に出張中)。

メイド・コッヌイ(コボルト)……大喜び。

メイド長レヌ(ラミア)……文句を言いながら満更でもない様子。

修復士アペリ(ドワーフ)……修理に夢中で気が付かない。

雑用係ニオコ(ゴブリン)……恥じらうも嬉しそう。

料理長マァニ(サキュバス)……露出の少なさがやや不満だが、概ね気に入った。

インストラクター・シウ(ミノタウロス)……ジムにいて難を逃れる。

魔王の父ルスマン(オーガ)……同上。着たら一番破壊力が酷い人。

魔王の母ミーズィ(ウンディーネ)……自宅にいて難を逃れる。

姫メーフィ(人間)……後で騒動を聞いて、自分達もやりたいとごねる。

国王オイラエ(人間)……メーフィの説得に半日を要した。

飛行班シシュー(グリフォン)……ワシの頭とライオンの身体にメイド服の組み合わせで、多くの仲間の腹筋を葬る(自覚なし)。

飛行班カーター(ホークマン)……シシューの最初の犠牲者。

狼メイド・ミカーオ(ワーウルフ)……服を脱いでも服がある事を面白がり、そのまま走り回るも、幻術が解けた瞬間真っ先に気がついたコッヌイによって惨事は回避された。


キャラの確認にも使えて一石二鳥。


また少し間が空くとは思いますが、のんびり更新をお楽しみいただければ幸いです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 無自覚に他者の反省を促し、改心させる魔王様、流石です! ラズタイも謝罪行脚が終わる頃にはもう二度としません!という気持ちになるでしょうし、良かったです。 [気になる点] もし、魔王様にラ…
[良い点] 待ってました、クソザコナメクジ再登場! なんだかんだ言って 名君だよね この魔王は! 部下の話をよく聞く 良き仲裁者だ。 いびり令嬢と同じく 読んでて 癒されます。 たまにでもいいんで 更…
[一言] 魔王達をアニメ化したら、どんな人が声優さんになるか?……のと考えながら読みました。 続きが気になるくらい、メチャクチャ面白いです(*´ー`*)
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