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魔王様と結婚式

間が空いてしまいましたが、クソザコナメクジな魔王様の更新です。

今回は結婚式。

さぁ、誰とでしょう?


どうぞお楽しみください。

「魔王様、よろしいですかい?」

「お、おう。どんと来いやで」

「では誓いの口づけを」


 ゴブリンのツソクーゴの呼びかけに、両者の顔が近づき、そして唇が触れる。


「この両名の幸せな結婚に皆の祝福を!」


 ツソクーゴの言葉に、参列者から割れんばかりの拍手が沸き起こった。




「お疲れ様でやした魔王様。この度はタブとリモの結婚を見届けてくださって、ありがとうございやす」

「いやー、緊張したわー。結婚の見届けなんて初めてやったからなぁ」


 ツソクーゴに魔王は肩の凝りをほぐすように、触腕を動かす。

 中型犬サイズのナメクジのような身体のどこに凝りが溜まる要素があるのかわからないが、気にせずツソクーゴは話を続ける。


「二人も喜んでやしたぜ。魔王様自ら見届けしてもらえるなんてって」

「そら良かったけど、ほんまにワシで良かったんか? 直属の上司であるロクドの方が良かったんちゃうか?」


 魔族の結婚は、目上の者が見届け役になり、二人が誓いを立てる事で成立する。

 もっとも今回のオークのタブとドライアドのリモのように、異種族での結婚の場合、双方の一族が列席の上で行う事が多い。


「何言っとるんですか。魔王様ってだけでも十分でやすけど、二人が結婚するきっかけは、魔王様が北の荒地の開発に、あっしら三人の案を混ぜてくれたからですぜ?」

「いやー、そうなんやけど、実際ああいう場に立つと、こう、威厳足らんなワシって思うんや」

「そんな事ありませんぜ。ご立派でやした」

「せやったらえぇな。さ、披露宴といこか」


 そう言うと、魔王とツソクーゴは控え室を後にした。




 披露宴の会場は和やかな雰囲気に包まれていた。

 豪華な料理、高価な酒、二人の登場を今か今かと待つ客達。

 魔王はその様子を満足げに眺めながら、上座へと向かう。


「あ、魔王様、お疲れ様です」

「おうラーミカ。準備お疲れさん」


 席で魔王を待っていた側近の吸血鬼・ラーミカが恭しく頭を下げる。


「いやー、祝い事はえぇな」

「そうですね」

「しかし独身のワシが見届けをするとはなぁ」

「ご立派でしたよ魔王様」


 普段は厳しいラーミカの微笑みに、魔王が相好を崩す。


「そ、そっか? せやったらラーミカが結婚式やるってなったら、ワシが見届け」

「結構です」

「即答どころか食い気味ィ!」


 高い高いからのボディスラムのような返しに、魔王は目を見開く。


「な、何で!? 一応直属の上司なんやけど!?」

「私は魔王様が魔王である限り、結婚する気はありませんから」

「えぇ……。側近の仕事大事に思うてくれんのはありがたいけど、それと結婚とは別やで? せやったら早いとこ魔王やりたいって言」

「駄目です」

「まだ途中ゥー!」


 ラーミカは先程にも増して鋭い返しで、魔王にその先を言わせなかった。


「部下の結婚のために魔王の座を譲るなんて、通ると思ってるんですか?」

「い、いや、せやけど……」

「それとも何ですか? 上司権限で本人が望んでいない結婚を強要すると? パワハラですか? パワハラですね? 我が身を守るために全力で反撃してよろしいですね?」

「わ、わかった! 確かにラーミカの問題や! 口出しせぇへん!」


 穏やかな口調ながら凄まじい圧力に、魔王は諸手を挙げて降参した。

 と、入口の扉が少し開いて、ツソクーゴが手で合図を送る。


「さぁそれでは二人の用意もできたようですから、披露宴を始めましょう」

「せやな」


 圧力を収めたラーミカに促され、魔王は壇上に上がる。


「みんな、よう集まってくれた。今日はタブとリモの新たな門出や。盛大に祝ってやってくれ! まずは本日の主役の登場や!」


 魔王の言葉に、扉が開き、美しく着飾ったタブとリモが現れる。

 万雷の拍手の中を通り、二人は一番奥の席へと座る。


「さぁ、用意はえぇか? よーし、二人の明るい前途を祝して、乾杯!」

「「「乾杯!」」」


 唱和と共に、器がぶつかり合い、弾けるように賑わいが広がる。

 魔王は壇上から降りると、新たな夫婦となった二人の元へと向かった。


「魔王様、この度はオイラ達のために、ありがとうございます!」

「おめでとさん! タブ、色々難儀な事もあるやろうけど、ワシらみんなで応援するから、頑張りや!」

「はい!」


 タブの力強い返事に、魔王は満足そうに頷く。

 次はとリモに向き直ると、既にその顔は感動と嬉し涙で染まっていた。


「魔王様、オラ、オラ……!」

「綺麗やなぁリモ。幸せになってや!」

「……ぁぃ……」


 何度も頷くリモにつられて、魔王も少し涙ぐむ。

 リモの肩を優しく撫でながら、タブは真剣な眼差しを魔王に向ける。


「……魔王様、この度は本当にありがとうございます!」

「えぇってえぇって! 見届け役なんてえぇ仕事やらしてもろたし」

「いえ、それもそうなのですが、今回リモと結婚できたのは魔王様のおかげなのです」

「そんなんロクドに無茶振りしただけや。礼ならロクドに言ったってや」

「あ、北の荒地の仕事の事もそうなのですが……」

「? ワシ他に何かしたか?」

「その……」


 首を傾げる魔王に、少し言い淀んだ後、意を決してタブは口を開く。


「魔王様がその弱い身体でも立派に魔王の仕事をされてるのを見て、オイラ達は迷っていた結婚に踏み切る事ができたんです!」

「……あぁ、せやったんか」


 魔物は異なる種族でも子をなす事ができるが、それにはリスクを伴う。

 お互いの長所を得た子が生まれる事もあれば、魔王のようにお互いの短所だけを受け継ぐ事もある。

 聞きようによっては非常に失礼なその言葉に、魔王は嬉しそうに微笑む。


「おおきに。ワシが二人の背中を押せたんなら、魔王やっとる甲斐があるっちゅーもんや」

「ありがとうございます!」

「本当に、ありがとう、ごぜぇます……!」

「二人の子が生まれたら、見せに来てや。きっと可愛いんやろなぁ」

「はい! 是非!」

「絶対、連れて、来るだ……!」

「楽しみにしとるで。おっと、主役の独り占めはあかんな。ほな存分に祝われてや!」


 後ろで待つ客達に場所を譲り、魔王は席へと戻る。


「お疲れ様でした、魔王様。お飲み物をどうぞ」

「おおきにラーミカ。いやー、あんなに喜ばれると、何や照れるな。ひゃー、酒が旨い!」

「タブが魔王様のクソザコナメクジなお姿を見て結婚を決めたと言ってましたね」

「ぶほっ! ごっほごっほ!」


 ラーミカの言葉に、魔王は勢いよくむせた。


「ら、ラーミカ!? 聞いとったん!? あの距離で!?」

「私、耳は良い方なので」

「た、確かにそう言っとったけど、いやクソザコナメクジは言うてへんけど、不敬とかそういうのとちゃうねん! むしろワシは自分の弱い身体が後押しになった言うてもらえて嬉しかったし! 聞いとったよね!?」

「必死ですね。私がそんな事で二人を罰するとでも?」

「え、せんの?」


 ぽかんとする魔王に、ラーミカは怖い笑みを浮かべる。


「してよろしいんですか?」

「いやいやいや! 意外やっただけ! 何やラーミカって、ワシ守るためなら何でもする感あったから……」

「否定はしませんが、今回の話は魔王様が魔王の地位を前向きに考える結果になったので、咎める必要はありませんでした」

「良かったぁ……」


 魔王は大きく安堵の息を吐いた。


「もし魔王様が傷付いたり不快な思いをなさっていたら、『披露宴』と言う言葉を聞くだけで震えが止まらなくなるような目に遭わせるつもりでしたが」

「全っ然大丈夫やから! 祝いの席でそんなんやめてェ!」


 そんな紙一重の危機があった事など誰も知らず、披露宴は更なる盛り上がりを見せていたのだった。

読了ありがとうございます。


ラーミカの忠誠心が、溢れて吹きこぼれてます。

まぁいつもの事……(遠い目)。


ちなみにゴブリンのツソクーゴ、オークのタブ、ドライアドのリモは、第二話で出てます。

最初はドライアドも魔王様に矢印を飛ばす予定でしたが、あまり矢印を飛ばされると魔王様が耳毛契約獣ののごとく穴だらけになりそうなので、やめました。

運の良い奴……。


また気まぐれ更新になるかと思いますが、よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] タブとリモの結婚式、二人とも幸せそうで本当に何よりです。 魔王様も見届け人、お疲れ様でした。 魔王様の優しい人柄の出ている素敵なお話で、あったかい気持ちになりました。 [気になる点] あり…
[一言] ワイと契約して、魔王になったってや!
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