魔王様と母親
女性分を足さねば、という事でお母様登場です。
違うそうじゃないのはわかってます。
でも仕方がないんです。思いついちゃったんですから。
天然系お母様の話を楽しんでもらえましたら幸いです。
「お母ーん、元気かー?」
「あら〜、グスラちゃ〜ん。元気よ〜。グスラちゃんは元気に魔王してる〜?」
「まぁ何とか。みんなに助けてもろてぼちぼちやっとるで」
庭の池から現れた、透き通った水色の女性が、縁側の大ナメクジを魔王と呼んで微笑みかける。
「ミーズィ様。ご無沙汰しております」
「ラーミカちゃ〜ん。元気〜?」
「お陰様で問題ありません」
隣に立つ側近の吸血鬼・ラーミカは深々と頭を下げる。
「お父んはまたジムか?」
「えぇ〜。最近入ったミノタウロスのインストラクターさんがいい人だって、すっごく楽しそうよ〜」
「そら良かった。最初魔王になりたい言うて来てたんやけど、別の仕事を言う話になった時、ラーミカが勧めてくれよったんや」
「そうなの〜。すごいわね〜」
「恐縮です」
「ワシが何も思いつかんかったから助かったで」
「いつもグスラちゃんの事支えてくれてありがとうね〜」
「勿体ないお言葉」
再び頭を下げるラーミカ。
「何やラーミカ。お母んの前やといつも固いな〜。緊張してるん?」
「当然です。ミーズィ様は先代魔王妃様ですから」
「もうあの人が引退したんだから、私はもう普通のウンディーネよ〜」
「だとしても魔王様のお母様なのは変わりません」
ミーズィがほんわかと微笑んでも、ラーミカの姿勢は崩れない。
「真面目やなぁ。いつもはワシの事クソザコナメクジ言」
「魔王様?」
「……何でもない」
柔らかい刃物のような言葉を突きつけられ、魔王は冗談まじりの言葉を飲み込んだ。
「それにしてもグスラちゃ〜ん、お仕事忙しいのはわかるけど〜、お母さん早く孫の顔が見たいわ〜」
「気ィ早いなー。孫の前に嫁見つけなあかんがな」
「いい人いないの〜?」
「おらんおらん。ワシ魔王以外に取り柄ないからなぁ」
手を振って否定する魔王に、ミーズィはラーミカに水を向ける。
「そんな事ないわよ〜。ねぇラーミカちゃ〜ん?」
「はい。魔王様はその優しさと大らかさで魔王城に働く者全てから尊敬されております」
「はぁっ!?」
「まぁ〜。ラーミカちゃんがこんな風に言ってくれるなら、きっとすぐ結婚できるわねぇ〜」
「え、ちょ、ラーミカ……?」
普段とあまりに違う対応に驚いて見上げると、ラーミカはにっこりと笑っていた。
意図が読めず、混乱する魔王。
「なら早く結婚してお母さんを安心させて〜」
「魔王までやっとんのにまだ何か心配なん!?」
「だって〜、お父さんの魔力の弱さと、お母さんの柔らかい身体を持って生まれちゃったんだから、守ってくれるお嫁さんがいないと〜」
「嫁に守られる言うのも情けない話やけど……」
頬をかく魔王の頭をミーズィが優しく撫でる。
「とにかく〜、お母さんって言うのは、息子の事がいくつになっても心配なのよ〜」
「お母ん……」
「だから頑張って〜」
手から、言葉から伝わる母の愛を感じ、目を細める魔王。
「……おおきに。なるたけ頑張るで」
「で、どんな女の子がタイプなの〜?」
「話終わらんのかい!」
「実に興味深いですね。魔王様。詳しく」
「ラーミカ! さっきから何や変やと思うとったら、ワシをからかうためやったんやな!?」
「いいえまさかぜんぜんそんなことはとんでもない」
「棒読みィー!」
「この子は結構甘えん坊さんだから、頼りになる女の子がいいと思うのよね〜」
「成程」
「集めてた女の子の肖像画からすると〜、髪が長い子が好きみたい〜」
「ほう。その肖像画というのはまだ残っているのですか?」
「堪忍してー!」
拷問のような時間は、ジムでいい汗をかいて満足げな父・ルスマンが戻って来るまで続いた……。
読了ありがとうございます。
母親はいつまでも母親。
気恥ずかしい。けどありがとう。
でもお願い。
実家に帰った時に、高校生の頃の食欲を基準に食事を作ろうとしないで!
十分だって言ってるのに、冷凍焼売をチンしようとしないで!
自爆前のセ◯みたいになるからぁ!
愛は時に重いのです。
また次回もよろしくお願いいたします。