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少女奮戦記~アイン・ソフ・オウル~   作者: PONぽこPON
第5章~軍大学編~
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図上演習

 軍大学での学びは、学習というよりは研究に近い。

 さらには、将来の参謀、指揮官を育てるための組織のため、個々の戦技などよりも戦術、戦略の教育が重視される。


「む、難しい……」


 手始めとして、戦史研究から始まった講義内容にマヤはてこずっていた。ここでは彼女の卓越した魔導知識も膨大な魔力も、全く役には立たない。


「まだ、教養程度ですわよ」


「何があったかは、先生のところで勉強したからわかってるんですけど、それがどういう意図で行われたか、は考えたこと無かったですから」


 目を見開いて資料を漁るマヤに、エリザベートは軽く溜め息をつく。


「貴女の場合、まず感覚的に理解した方が早いかもしれませんわ」


 腕組みをして考え込んだエリザベートが、口を開いた。


「今日、講義が終わったら、わたくしの宿舎で復習いたしましょう」


「え、いいんですか?」


「大丈夫ですわ。ちょっと指揮官の気分を味わっていただきますから」


 ニヤリ、とエリザベートは笑う。何か秘策有りと言わんばかりの表情である。


「お願いします!」


 すかさず頭を下げるマヤに、楽しそうにエリザベートは微笑み返した。




「では、これをやってみますわ」


 その日の午後、講義が終わり自分の宿舎にやってきたマヤを出迎えたエリザベートは、なにやら机の上に大きい図面を広げる。


「これは、地図?」


 マヤが訝しむ。確かに地形が書き込まれ、都市や道路などの表記もあるが、何より特徴的なのはそれら全てが、ます目で区切られていることだ。


「百年前の大陸戦争の際の、ノルガルディア上陸作戦の舞台となった、ノルガルディアの地図ですわ」


 エリザベートは説明しながら、なにやら駒のように細かく切られた厚紙を大量にマヤに渡す。

 見れば、一つの駒が大隊を示す記載がしてある。


「貴女は防衛側の将軍。わたくしは攻撃側の指揮官として、図上演習を行いますわ」


「え?」


 図上演習とは、地図上で実際の部隊に見立てた駒を配置し、どう戦うかを仮想的に再現して訓練とする手法である。エリザベートは過去の戦いで起こった上陸作戦を再現することで、マヤに指揮官としての経験をさせようとしていた。


「最初に配置できる戦力は、ここに書いてある通り、その後は順次増援として拠点から出現できますわ」


 テキパキと駒を置いていくエリザベートに、呆気に取られていたマヤは我に返る。


「いきなり、無理ですよ!」


「大丈夫ですわ。所詮演習ですから、大負けしても何の損も有りませんわ」


「負けるの確定ですか!」


「指揮官の判断を体験することが目的ですの。勝ち負けは関係有りませんわ」


 むう、と唸りマヤも準備を始める。


「これだけの戦力を把握して動かすんですか?」


 膨大な量の自軍の駒を見て、マヤは驚くよりも呆れていた。


「戦場の一部を切り取った演習ですから、実際はもっと大量に考えないといけませんわ」


 ひーっ、とマヤは悲鳴をあげる。しかし、自分が将来の指揮官として期待されている以上、出来るようにならねばならないことでもある。


「とにかく、やれるだけやってみます」


「各駒の移動力や戦闘力は書いてありますわ、それを相手に見えないように、上に目隠しになる空の駒を乗せて配置完了ですわ」


 エリザベートは手早くルールを説明する。


「戦闘になった際は参加する部隊毎の戦力を計算して、どちらが有利かを算出しますわ」


 じゃあ、始めましょうとエリザベートが微笑んだ。




「か、勝てない」


 マヤは呆然と呟いた。防御側として、戦力では攻撃側より優越しているにも関わらず、部分部分で戦力を集中され防御陣を抜かれてしまう。


「貴女は全てを守ろうとしすぎですわ」


 エリザベートが諭すように語る。


「そんなに薄く広く布陣してしまえば、食い破るのは難しいことではなくてよ」


「でも、抜かれたら都市が奪われてしまいますよ」


「後で取り返せばいいんですわ。まずは攻撃側の意図を読んで、その目論見を阻止しませんと」


 守れるものも守れませんわ、とエリザベートは付け加える。

 図上演習の状況は、ほぼ決まりつつあった。エリザベートの圧勝である。


「守るべきは都市ではなく、移動経路と要害地形。相手の目的を阻止するのではなく、相手を思う通りに動かせないこと、ですわ」


「なるほど……」


 マヤは地図を見つめ、唸るように呟く。


「これが、指揮官としての見方……」


「現実よりずいぶん簡単にしてありますけれど、考え方の参考にはなりますでしょ」


 しばらく黙り込んでいたマヤは、ふと顔を上げる。


「今度は攻撃側をやってみたいです」


「良いですけれど、時間をご覧なさい」


 言われて、ふと時間を確認するマヤ。


「わ、すごい時間!」


 とっくに日は暮れ、かなり遅い時間になっている。


「また、明日にしましょう」


 エリザベートが笑いながら告げ、片付けを始める。


「はい、そうします」


 少しめげつつ、マヤも駒をまとめ始めた。


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