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少女奮戦記~アイン・ソフ・オウル~   作者: PONぽこPON
第5章~軍大学編~
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軍大学入学

「叙勲ですか!? あたしが!?」


 マヤは驚いた声を上げた。呼び出された王城の王女私室で、悪戯っぽい笑顔のアドルフィーネに「勲章をあげる」と言われたのだ。


「貴女はそれだけの功績があるの。貴女を叙勲しなければ、今後、誰も叙勲できないくらいだわ」


 アドルフィーネがにこやかに告げる。


「それと、昇進ね。速やかに二等に昇進。軍大学にも入学させてあげるわ。将来の将軍様って訳ね」


「ちょ、ちょ、ちょっと待って下さい。軍大学って貴族しか入れないんじゃあ?」


 軍大学というのは、将来的に軍のを指揮することになる、指揮官や参謀を育てるための学校だ。

 もちろん、今の制度では入学できるのは、貴族かそれに類する者、あるいは特別に認められた者となっている。


「もちろん、だから貴族にもしてあげる。丁度、ヴォルフガング伯爵がこの間の事件で失脚したからね」


 アリシアに操られ、王都で魔導騎兵で暴れるという騒ぎを起こした事件だ。


「ヴォルフガング伯爵は独り身で、世継ぎも無し。伯爵領は今王家預かりになってるの、貴女が養子だったことにしてあげるから、領地ごと相続しなさい」


「いや、そんな無茶な……」


「ヴォルフガング家をとり潰すより、そちらの方が家令やら使用人を、路頭に迷わせなくて済むわ」


「あたしで務まらないですよ」


「ヴォルフガング家の家令は優秀な人物よ。それに使用人として、何人か私の配下を回してあげるから」


 あぁ、殿下に、ずっと監視されてるみたいなものだわ。と心の中でマヤは嘆いた。

 どのみち、マヤに断る権利は無い。アドルフィーネが「してあげる」と言っているからだ。相談を持ちかけてくるなら「これならどう?」と言うはずだ。


「あたしはギルドで働きたかったんです」


 駄目を承知で、ポツリと漏らすマヤ。過去形で言っているところが、彼女も自分の立場を理解している証拠だろう。


「今はそんな贅沢はさせてあげられない。むしろ、ギルドに行ってる連中を呼び戻したところなんだから」


 アドルフィーネが、やや困った顔で告げる。彼女とて、マヤに重石を背負わせることは、本当は避けたいことなのだ。


「共和国は宣戦布告したまま、今のところ動きはないけど、次は何か仕掛けてくるかも。そうすると、大陸側の帝国やら連合やらが動き出すかもしれない」


 共和国の隣国の帝国、連合などがどう動くか、現状では予想は困難だ。


「軍の編成強化は今の急務なの。そして、優秀な人間を遊ばせておく余裕は、我が国には無いの。分かってくれる?」


 アドルフィーネの頭を下げんばかりの態度に、マヤは驚く。彼女はマヤに王女としてだけでなく、友人としても頼んでいる。本当はするべきではない態度だ。それほどに、王国は危険な立場にある、と言うべきだった。


「殿下の御心のままに」


 すっと片膝を付き、臣下としての態度をとる。

 マヤとしては、アドルフィーネの立場を(おもんばか)ってのことだ。ここまで、親身になってくれる王族に返す態度など、これ以外取りようがなかった。


「ありがとう」


 アドルフィーネはマヤの手を取り、両手で握りしめる。その暖かさが、マヤにはアドルフィーネの心遣いと重なって思えた。




「マヤ・ミズキ・ヴォルフガングの入学を認める、か……」


 急に立派になった自分の名前に苦笑しつつ、マヤは軍大学の正門前で書類を見直す。


「入学式典まで時間があるなぁ」


 所在無(しょざいな)げに辺りを見渡す。おそらく同輩となるであろう、入学者とおぼしき人々が行き交っていた。その年齢層は幅広い、マヤは最年少くらいである。上は中年に届こうかという人もいた。

 と、ポンと肩を叩かれた。


「お久しぶりですわ」


 驚いて振り替えると、エリザベートの笑顔が出迎える。


「エルザさん! お久しぶりです!」


 思わずエリザベート手を取り、ブンブンと上下に振ってしまうマヤである。


「どうしてここへ?」


「わたくしも入学ですわ。ギルドから呼び戻されましてよ」


 やれやれ、とばかりに肩をすくめるエリザベート。


「今は国家存亡の非常時、仕方ありませんわ」


「そうだったんですね」


 と納得しつつ、安堵するマヤ。さすがに一人では心細かったところだった。

 しばし二人で雑談を交わす。久々なこともあり、話が弾んだ。


「おい! そこのメスガキ二人! 何時まで遊んでやがる! いつから軍大学は女子供の遊び場になったんだ!?」


 唐突に嫌味な声がかけられる。振り返れば、いかにも貴族の荒れた子供、といった風体の男が二人を睨んでいた。


「……あんなんでも軍大学って入れるんですか?」


 マヤが小声でエリザベートに尋ねる。


「親のコネでどうにか、ってとこですかしら? 今年は入学枠が拡大されましたし」


 エリザベートも小声で答える。


「おい、こそこそ喋ってないで、はっきり答えろよ! てめえら何者だ?!」


「失礼、エリザベート・コッフォフェルト二等陸尉ですわ」


「マヤ・ミズキ・ヴォルフガング二等陸尉です」


 二人は敬礼せずに、そう答える。男の階級章が三等であることを確認しての態度だ。

 男の顔色が変わる。


「三等陸尉……ですかしらね、官姓名を名乗りなさいな」


 エリザベートが鷹揚な態度で求めた。


「失礼しました! 自分はリーベスト・グランハイツ三等陸尉であります!」


「新品尉官さん。相手の階級章はよく確認なさることをお勧めしますわ」


 反射的に敬礼をした男に、エリザベートは優しく声をかける。しかし、まだ答礼を返していない。敬礼は階級の下の者が先に行い、上の者が答礼し姿勢を解いた後、下の者はようやく姿勢を解ける。この場合、エリザベートとマヤが答礼しない限り、リーベストは敬礼の姿勢をし続けなければならない。

 しばらく敬礼をし続け、ようやく二人の答礼を受けたリーベストは腕を下ろした。まだ、気をつけの姿勢のままだったが。


「わたくし達の名前をご存知無いかしら?」


 嫌味っぽくエリザベートが問いただす。


「はい! 存じ上げております!」


 リーベストが叫ぶように答える。

 エリザベートは生身単身で暴れ竜を討伐したとして、マヤは先の海戦で単騎で戦艦撃沈したことで、軍内部では相当名前が知られてしまっている。


「では、外見で判断する癖は直された方がよろしいですわよ」


 エリザベートが行っていいと、手で示しながら語りかける。

 リーベストは、逃げるようにその場を後にした。


「エルザさん、カッコいい」


 一連のやり取りを見たマヤが、憧れるような声を出した。


「あら、貴女もこれくらいはできるようにならないと駄目ですわ」


 事も無げにエリザベートは答える。


「そろそろ式典が始まりますわ。会場に参りましょう」


 その言葉にマヤは我に返り、会場と向かうエリザベートを追いかけた。



よくある、入学の時のいちゃもん付けをやってみました

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