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少女奮戦記~アイン・ソフ・オウル~   作者: PONぽこPON
第4章~共和国編~
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サヴォア撃沈

 戦艦サヴォアに雷でも落ちたかのような閃光が走り、轟音と共に第一砲塔から黒煙が上がる。

 撃ち抜かれたサヴォアの第一砲塔の弾薬庫では、何時でも使用できるように準備されていた主砲弾が、突然の衝撃に曝され固定が外れて転がる。

 艦底まで撃ち抜かれ、ダメージコントロールする人員も事前に全て転移させられているサヴォアは、浸水がみるみる増大し、ゆっくりと傾いていく。

 転がった主砲弾は勢いよくさらに転がり、装甲板やまだ固定されている他の主砲弾にぶつかった。

 その衝撃で信管が作動、主砲弾が弾薬庫内で炸裂する。

 連鎖的に他の弾も誘爆を起こした。

 海上を進むサヴォアの第一主砲塔から閃光が発し、大爆発が発生する。さらに誘爆は副砲弾や対空砲弾へと広がり、前檣楼下部から後部へと閃光が走り、後部弾薬庫が誘爆、一瞬にして艦の上部構造物が全て吹き飛んだ。




「ば、化け物か?」


 王国連合艦隊、艦隊司令ハウ提督は思わず呟く。


「魔導騎兵が一撃で戦艦を撃沈しただと?」


「あれが我々の味方、アドルフィーネ殿下の手駒という幸運に感謝したいですな」


 インヴィンシブルの艦長が、ボソリと漏らした。


「本当に最後まで味方なら、な」


 ハウはかすれた声で付け加える。彼にとって、個人が戦艦をも越えうる破壊力を操れると言う事実が、そして、それの発揮が個人の判断に委ねられているという事実は、非常に危険なものに思えた。





「やりました! サヴォア撃沈確実!」


 こちらはプリンセスアドルフィーネ号の艦橋。歓声に包まれていた。


「流石はミズキ三等海尉と言ったところですかな?」


 リーチ艦長が、当然だとでも言うように頷く。


「少々やり過ぎな気もするがな」


 フィリップ提督は同意しつつ、若干苦笑いした。


「だが、これで攻めてくる根性が、共和国の陸式海軍どもにあるかな?」


 共和国は周囲に国境線を接した敵国も多く、陸軍を重視した戦力構成をしている国だ、海軍は技量、志気ともに低い。王国が四方を海に囲まれている島国であるのとは対照的だ。当然、海軍戦力も充実している。共和国海軍の質の低さをフィリップは指摘していた。


「潜水艦もありますからね、どうでしょうか」


「殿下のご意志でもある。死傷者を出さずに切り抜けるぞ!」


 アドルフィーネからの緊急通信で、事の成り行きを把握しているフィリップは、気合いを入れるように全員を激励する。


「監視を怠るなよ!」






 共和国艦隊の首脳部は、混乱の極みにあった。

 そもそも、サヴォアは艦隊旗艦であり首脳部は、全員乗艦していたのだ。それを一瞬で魔導騎兵母艦の甲板に転移させられたのだ、とても対応できたものではない。

 そして、ありとあらゆる攻撃が、ただの一騎の魔導騎兵に無力化されている。


「悪夢か……」


 共和国艦隊司令バレーヌ提督が呆然と呟く。

 彼は訳も分からぬうちに、僚艦である魔導騎兵母艦ベアルンの甲板上に転移させられ、その後はただ事態を眺めているだけであった。


「……司令、()()はいったい?」


 副官が尋ねてくる。普段の冷静な性格はどこかに消え失せ、どうもぼんやりした顔つきだ。


「私に答えが出せるとでも?」


 バレーヌも同じく、ぼんやりして返す。

 サヴォアの艦体が完全に波間に没する、その時間の経過と共に、二人の脳裏にようやく職責(しょくせき)による判断力が戻ってきた。


「我々が無事であるなら、艦隊の指揮はとらねばならんな」


「ここはベアルンです。指揮施設があります」


 副官の言葉にバレーヌは大きく頷く。


「早速そちらで指揮を()る。それに、我々はまだ負けたわけではない」


 自らの制服の内ポケットにある、硬い感触を確かめながら、バレーヌは続ける。陸式などと揶揄(やゆ)されることのある共和国海軍だが、彼のような海軍軍人も存在する。そう、海軍の信条は見敵必殺、彼はまだ勝利を諦めていなかった。





「……やった」


 マヤは上空へ飛び出したアインの操作席で、大きく息をついた。

 眼下には爆沈したサヴォアの上げる黒煙が沸き上がり、天を突かんばかりの巨大なキノコ雲を形成している。


「これで逃げ帰る理由ができたでしょ! 帰りなさいよ!」


 通信が切ってあるのを確認し、一人叫ぶ。

 もし、共和国艦隊が引かねば、もう一隻、何か沈めてやらねばならない。

 共和国艦隊は一旦、王国領海外へと退避しているようだった。

 だが、そこで陣形を組み直しているようにも見える。


「もう一撃、撃ち込んでッ!?」


 しばらく共和国艦隊の動きを注視していたマヤが動こうとしたその時、強大な魔力の開放が感じられた。


「この魔力は!? 召喚している!?」


 何者かを召喚するような術式であった。こんなことかできるのは、マヤは一人しか思い当たらない。


「アリシア! 直接じゃない? 魔導結晶に召喚呪文を封じていた?」


 何か強大な力を持つものの現出に、全身に怖気が走る。


「何か、とんでもなく嫌な予感がする」


 マヤは、自分の予感が正しかったことを直ぐ様、思い知ることになる。

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