二人の決意
「話が違いますわ」
村の駐在所まで二人が戻ってきたところで、エリザベートは天を見上げてぼやいた。
「わたくしは、精々狩り蜥蜴位としか聞いていませんのよ」
どこのどいつだ、出鱈目抜かしやがったのは、とマヤは内心呟く。
「それはそうと、ギルドへ増援の依頼はできませんか?」
腑抜けているエリザベートに、マヤは問いかける。
「難しいですわね、巨竜討伐隊は今、全て遠征中ですわ」
天を見上げたまま、エリザベートは言葉を返す。
「魔導騎の一騎、も無理ですわね」
たかが暴れ竜ごときに、とため息をつくエリザベート。
「最低、ふた月はかかりますわ」
「ふた月は不味いですね」
マヤも眉間に皺がよる。
「わたくしも任務未達で帰還するわけには参りませんわ」
家名にも関わりますわ、とエリザベートが苦い顔をする。
「わたくし達で、なんとか」
出来るわけ有りませんわね、と自嘲するエリザベート。
知らず知らずのうちにマヤへの態度から固さが抜けている。
魔法の実力を無意識に認めているのだろう。
「今使える物を全部確認してみましょう。結論を出すのはそれからです」
マヤは乗り気になっていた。
不可知の魔法が暴れ竜に通用したことで少しいい気になっているだけだが、そもそも、人々を守る仕事を希望したのは彼女自身だ。
自分達でどうにかするしかない状況で手をこまねいてはいられない。
「わたくしが持ってきたものは、これだけですわ」
ドサドサと、エリザベートは荷物を机の上に並べる。
猟銃の様な形状の魔導銃、魔導弾の麻痺の魔法と睡眠の魔法が付与されたものが一発ずつ、捕縛用の鎖、バネ仕掛けの罠がひとつ。後は彼女の身に付けている魔法具の長剣、鎧、盾。
「あたしの方は……」
魔導結晶が5個、暗視鏡と言ったところか。
「もうちょっと弾無かったんですか?」
「魔導弾はお高いんですのよ」
狩り蜥蜴程度と思われていればこんなものか、とマヤは思う。いや、むしろ多い位だ。
「あたしの魔法を主軸に、色々組み合わせて……」
「それにしても、貴女、魔力がかなり高いですわね」
感心したようにエリザベートが話しかける。
「子どもの頃から、大分しごかれましたからね」
はは、と照れ笑いしながら、マヤが答えた。
魔力と言うものは、人各々で有している総量が違う。
しかし、それは不変ではなく、例えば、魔力を限界まで使った時などは、回復する際に以前の総量より多く回復する。
これを繰り返すことで、魔力の総量を増やすことは可能であった。
「貴女の魔法で、こうバーンとやっつけられないんですの?」
期待の眼差しでエリザベートがマヤを見る。
「例え火炎の魔法を後先考えずに全力でぶつけても、魔法具も無しには無理でしょうね」
相当高級な魔法具があればなんとかなるかも、ですけど、とマヤは続ける。
「すっごくクサい臭いを魔法で出して、追い払うとかならできるかも……」
「村の方も山を利用できなくなりますわよ」
じとっとした目線でマヤを見るエリザベート。
ですよねーとマヤは頭を掻いた。
「でも、後先考えずに全力で魔法を使うなんてことは、普通はあまりできませんのよ?」
貴女は変わってますわね、とエリザベートが妙な感心をする。
「先生が変わり者だったものですから」
マヤは少し気恥ずかしげに、しかし、少し誇らしげに答えた。
一通り道具を触って何事か確かめ、うんうんと頷いた後、彼女はエリザベートを決意を込めた目で見つめる。
「ギリギリの可能性ですけど、なんとかなるかもしれません」
ご協力頂けたらですが、とエリザベートに告げる。
「失敗したら、たぶん二人とも死にます」
そう言うと、マヤは黙り込んだ。
「貴女は卑怯ですわ」
どこか吹っ切れたような、諦観にも似た表情を顔面に表しながら、エリザベートは答える。
「だだの役人である貴女にそう言われてしまったら、討伐隊のわたくしとしては拒否する選択肢は有りませんのよ」
コッフォフェルト公爵家の者が臆病風に吹かれた、などと言われるわけには参りませんの、とむしろ晴れやかに笑って見せるエリザベート。
「やりましょう」
「わたくし達で」
二人は拳をぶつけ合った。