戦場へ
「アイン出します!」
叫びながらマヤは工廠に駆け込んだ。
「何だぁ!? どうした!?」
アインの整備の指揮を執っていたマクダニエルが、驚いた顔でマヤを見る。
アインの操作席に駆け上がりつつ、マヤは再度叫んだ。
「アインを出すんです! 戦争を止めないと!」
「出撃命令出てないだろ!」
マクダニエルが慌てて叫び返す。
「今から殿下にお願い……じゃあ間に合いません! 出てから殿下に伝えます!」
「ガチで軍規違反になるぞ!」
「構いません! 出して下さい! さもないと支持架を引きちぎりますよ!」
「待て待て待て! 一回冷静になれ!」
マヤの暴走気味の態度に、思わず自分も操作席へ駆け上がるマクダニエル。
「あたしは冷静です!」
とても冷静には見えない表情で、マヤは喚く。
「この莫迦野郎!」
マクダニエルは咄嗟にマヤの頬を張った。
「落ち着け! この莫迦娘!」
叩かれた頬に手をやり、キョトンとするマヤ。
「お前が一人で行っても、なにもできんだろうが!」
マクダニエルがマヤの肩を両手で掴み、ガクガクと揺らす。
マヤはようやく落ち着きを取り戻した。
肩のマクダニエルの手に、自分の手を添える。
「大丈夫です。何としても、誰一人死なせることなく、戦争を止めてきますから」
「そんなこと言ったってよ、お前一人で何ができる?」
マクダニエルが、まだ納得のいかない顔で問いかける。
「さっきの空の爆発、見ました?」
「あぁ、でかい爆発だったな、爆撃かと思ったぜ。何の爆発だったんだ」
「あれやったの、あたしです」
「はぁ!?」
マヤは自信をのぞかせ、言い切った。
「絶対に誰も死なせません。だから、行かせてください」
じっとマクダニエルの顔を、正面から見据える。
「ったく。わーったよ」
マクダニエルは、根負けしたように身をすくめた。
「ただ、約束だ。生きて帰ってこい!」
「はい!」
「よし! アイン出すぞ! 固定外せ! 魔導炉始動! 武装最終確認!」
叫びながら、マクダニエルは操作室の扉を閉める。
「最終確認終了! 異常ありません!」
作業員が叫ぶ。
「よし! 嬢ちゃん! 行ってこい!」
『行ってきます!』
マヤは叫ぶと、アインを工廠の外に移動させ、そこから空中に飛び上がった。
『こら! 勝手しちゃ駄目でしょ!』
アインにアドルフィーネから魔導通信が入ったのは、飛び上がってさほどもしない内だった。
「殿下! すみません。でもあたしがやらないと駄目なんです。これはあたしの戦いでもあるんです」
『前に言ってた、魔王がどうとかいう話?』
「はい」
はー、と通信の向こうで溜め息が聞こえる。
『事情はよくわからないけど、マヤを信頼、いいえ、信じてるから今回は許す』
「ありがとうございます。感謝します」
彼女を信じたアドルフィーネの言葉が、マヤには何よりも嬉しかった。
『そうよ、しっかり感謝して。命令とかは何とかしておく』
アドルフィーネは、茶目っ気を見せつつ恩を着せた。
『その代わり、頼むわ。皆を守って。王女として、王国人のことしか頼めないけど、貴女は共和国の人も守るつもりなんでしょ?』
「はい」
『だったら、私個人として、貴女の望みが叶うよう祈るわ』
「ありがとうございます」
『私は王城にいるけど、貴女の後ろに座ってるつもりでいるから』
「心強いです」
『じゃあ征きなさい。そして必ず帰ってきなさい』
「……分かりました、行ってきます」
会話を終えると、マヤはアインを一気に加速させた。海上へ進出したアインは、共和国艦隊と王国艦隊が対峙する海域を目指し、一直線に空を駆けた。




