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少女奮戦記~アイン・ソフ・オウル~   作者: PONぽこPON
第4章~共和国編~
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アリシア襲撃

「なるほど、アイン・ソフ・オウルをそこまでは使えるようになったわけね」


 唐突にかけられた声に、マヤは驚いて振り向く。


「アリシア……なんで……」


 気配もなくそこに佇んでいたアリシアに、問いかけるように言葉を発する。


「なんでって? そうね、そろそろ実が熟したようだから、収穫にね」


 可愛らしい顔に、嫌らしい笑みを浮かべつつアリシアが告げた。

 右手をマヤの方に向けて突き出す。


「拘束」


 魔方陣が展開、魔法が発動しマヤの自由を奪う。

 しかし、マヤの体に魔方陣が展開、アリシアの展開した魔方陣を破壊した。


「へぇ、抗魔法ね。凄いじゃない」


 アリシアが、感心したような声をあげる。


「もう、あんたの思い通りにはならない!」


「ふぅん。でもね、それでこそねじ伏せ甲斐があるのよ」


 叫ぶマヤを、嘲笑うアリシア。


「絶望で歪む貴女の顔、私は大好きなの」


「思い通りにはならないって言ったからね!」


 マヤは両手をアリシアに向ける。己の胎内から膨大な魔力を引き出し、術式を組み上げた。


「魔器具現!」


 マヤのかざした手の先に、魔力の光が集中し、なにかを形作り始める。


「戦乙女の手投げ槍、ね。凄いわ、アイン・ソフ・オウルの力だけじゃなく、直接繋がっていない魔導具からも力を引き出せるなんてね」


 マヤが魔力で作り出しているものの正体を見極めたアリシアが、言葉とは裏腹のたいして驚いているでもない口調で呟く。むしろ、できて当然、といった様子だ。


「でもね、それを私に当てることは不可能よ」


 すうっと、影に溶けるように消えるアリシア。

 一瞬の後、近衛の工廠上空に姿を表す。


「逃がさない!」


 アリシアの眼前に魔方陣が展開し、マヤがそこから飛び出すように現れる。


「へぇ、やるじゃない」


 再度、姿を消そうとしたアリシアを、巨大な魔方陣が取り囲む。


「逃がさないって言った!」


 マヤは吠えると、両手を左右に開く。


「複製! 『千本槍』!」


 マヤの眼前に形作られていた光の槍が、一瞬で複製される。その数、千本。

 ぐるりと自分を取り囲んだ光の槍を見て、アリシアが満足気に微笑む。


「やってごらんなさい。貴女の力、味わってあげる。殺す気で来ないと通用しないわよ」


「……行けッ!」


 一瞬の逡巡の後、マヤが魔法を放つ。魔方陣に囲まれて動けないアリシアめがけ、千本の光の槍が殺到した。

 猛烈な勢いで降り注ぐ光の槍は、アリシアの展開した障壁の魔法を次々と打ち砕く。即座に障壁を張り直すアリシアだが、徐々に押し込まれていく。

 やがて、光の槍がアリシアの最後の障壁を打ち砕き、その肉体に直撃した。

 巨大な爆発が起こり、視界が遮られる。

 マヤは油断なく身構え、爆発を凝視していた。

 最後の光の槍が打ち込まれ、爆発。

 ようやくにして、視界が晴れてくる。

 そこには、左足と右腕、さらには顔の半分を吹き飛ばされた、アリシアの無惨な姿があった。

 ふらり、と力を失い落下してゆくアリシアの身体。


「やった?」


 マヤが大きく肩で息をする。さすがに大量の魔力消費で息が上がっていた。

 アリシアの身体が工廠の屋根に激突する寸前、くるりと身体が回転し、()()で屋根の端に立つ。


「殺したくらいじゃあ、魔王は死なない。常識でしょ?」


 ()()の人差し指を頬に当てながら、()()の笑みを浮かべるアリシア。


「くッ! なら、もう一回!」


 魔力を集中させようとするマヤを、アリシアは指を振って制止した。


「魔王に一度見せた技が、二度通用するとは思わないことね」


 クスリと笑いアリシアが続ける。


「でも、私のかけた呪いは、私を殺せたんだから解けたわね」


 えらいえらい、とアリシアは煽るように笑う。


「後、もう一個ご褒美で教えてあげる。共和国の艦隊が出撃したわ。もう間もなく、王国の領海に入る頃ね」


 アリシアの顔が嘲笑に歪む。


「放っておけば、世紀の大海戦よ。どっちが勝つかしらね?」


 さあ、どうする、と言わんばかりのアリシアを見て、マヤは歯噛みする。


「貴女が望むなら、これを止めてあげる。その代わり、貴女から一つモノを貰うわ」


「何を奪うつもりよ?」


 マヤの問いに、アリシアは肉食獣のような笑みを浮かべた。


「貴女の私に対する嫌悪感ってとこかしら」


 笑みを湛えつつ、アリシアは続ける。


「貴女は私に対する負の感情が強いからね、それを奪って上げれば冷静に話ができるでしょ」


「ふざけないで!」


 マヤは思わず叫んだ。確かに冷静ではいられない。しかし、アリシアを許すことはできなかった。


「あんたが今までやってきたことを、忘れたとは言わせない!」


「あら、そう。じゃ、自分で何とかすることね。人が死ぬのは嫌なんでしょ?」


 さあ、時間がないわよ、とアリシアはさらに煽る。


「くッ!」


 マヤは一言呻くと、アリシアに背を向ける。


「その隙だらけの背中、見逃してあげるわ」


 アリシアの嘲りを背に、マヤはアインの元へと急いだ。

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