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少女奮戦記~アイン・ソフ・オウル~   作者: PONぽこPON
第4章~共和国編~
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艦隊司令

「失礼します!」


 艦長室の前で、マヤは声を上げる。


「誰か?」


 室内から誰何(すいか)の問いかけがあった。


「マヤ・ミズキ三等陸尉であります!」


「入れ」


 マヤは扉を開き、一礼して入室する。

 室内には二人の中年男性がいた。二人とも、王国海軍軍人らしい締まった体躯をしており、制服の着こなしもいかにも紳士といった様子である。


「マヤ・ミズキ三等陸尉、命により出頭いたしました」


 敬礼を行い、報告をする。その間に二人の男性をそっと観察した。二人とも穏やかそうな表情ではあるが、目の光は軍人のそれであった。


「艦隊司令を拝命することになる、フィリップ海軍中将だ」


 二人の内、細身の男が答礼をし答える。


「この艦の艦長を務めるリーチ一等海佐だ」


 がっしりとした体格の男が、重々しく答礼をした。

 二人の超上位者が手を下ろし、やっとマヤも手を下げる。


「早速だが、本題に入ろう」


 フィリップがそう切り出した。やや神経質そうに眉を寄せ、少しばかり声を潜めている。


「今回、王女殿下の海外歴訪は同盟国を巡り、最後に共和国に(おもむ)く予定だ」


 共和国とは王国の海を挟んだ西側に位置する国家で、15年前の戦争で王国と熾烈に戦った相手である。


「最近の共和国の王国に対する敵対的政策が、圧力を増してきている」


 フィリップは嘆かわしい、と言わんばかりに溜め息をつく。


「この間の多数の飛竜飛来も、共和国の意図があると思われる。そこで、王女殿下の親善訪問にかこつけて、艦隊で威圧するということになったわけだ」


 フィリップは手を身体の前で組み、唸る様に言葉を押し出す。


「今回の共和国訪問は、最悪の事態として共和国軍、或いは多数飛竜、またはその両方と戦闘になるかもしれん」


 マヤは黙って耳を傾ける。内心では、今の自分が知ったところで何ができるとも思えない内容に、若干戸惑っていた。


「我々は軍人だ。いざとなれば戦い、死ぬことすら結果として受け入れる覚悟がある。しかし、殿下を失う訳にはいかない」


 フィリップはマヤの顔を正面から見つめ、言葉を紡いだ。


「ミズキ三等陸尉、君は王女近習として、殿下の最後の盾となってもらう。もしもの時は、我々を見捨ててでも殿下を守って欲しい」


 ある種の悲壮な決意を顔面に浮かべながら、フィリップはそう告げる。


「君の魔導騎兵の操作席に、殿下が同乗できるようにする。それと、君を臨時特例的に三等海尉に任ずる。本艦以外に降りる際には必要だからな」


 それまで黙っていた、リーチ艦長が口を挟んだ。


「あの、質問してもよろしいでしょうか?」


 マヤが、自分でも嫌になるくらい冷静な声で発言した。


「言いたまえ」


「殿下が訪れたくらいで、共和国が態度を変えますか?」


 もっともなマヤの質問に、フィリップは溜め息と共に答える。


「変わらんだろうな。既に共和国内の王国との融和派は、政治中枢から排除されつつある」


「なら、何故敢えて危険を冒す必要が?」


「王国は融和に努力した。共和国が王国を拒絶した。という構図が必要なのだよ。世界の国々に我々王国は被害者で、正当であると示すために」


 フィリップは苦々しく吐き出す。その態度はまるで自分の言葉が信じられないような、そんな態度だった。


「まあ、王国も各派閥入り乱れての議会紛糾の末、こんな政策を行うのだから共和国を責められたものではないがな。こんなことをして殿下を失うことになったら、それこそ反王家派、ひいては国内の不穏分子どもに付け入る隙を与えてしまう」


「分かりました、殿下は必ずお守りします」


 マヤは決意と共に宣言する。マヤにとっても、アドルフィーネ王女は恩人である。つまらない政争で危険にさらすなど、看過(かんか)できるものではない。


「頼む。本来ならもっと大人の仕事ではあるのだが、君の実力を見込んでのことだ。すまんが命を懸けてくれ」


「はい、承知しました」


「本艦隊は明朝0600(まるろくまるまる)に集結。殿下の座乗式典の後、明後日1000(ひとまるまるまる)に出港する。魔導騎兵の改良を明朝までに終えるようにしたまえ」


「分かりました」


「下がってよろしい」


「失礼します」


 敬礼をし、艦長室を退出する。緊張と課せられた責任からどっと疲れが押し寄せるが、頭を振りそれらを振り払う。


「アインに殿下を乗せられるようにしないと……」


 先ほど来た道を引き返しつつ、マヤは独りごちる。


「責任重大だね……」


 思わず呟く言葉は、重く心にのし掛かった。

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