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少女奮戦記~アイン・ソフ・オウル~   作者: PONぽこPON
第4章~共和国編~
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老師

 悔しかった。ただひたすらに悔しかった。そして(おぞ)ましくもあった。しかし、何より許せないのは、明らかに(よろこ)んだ自分の身体だった。


 マヤは貯まっていた休暇を纏めて申請し、一時的に任を離れた。王都を離れることは、エルザを始め何人も反対したが、珍しくマヤは自分の我が儘を押し通す。

 そして、今、マヤは自分の生まれ故郷の村に訪れていた。まず、両親に休暇の報告をし挨拶をすませ、そして、村外れの一軒家までやってきていた。

 表札のかかっていない、そのドアをノックする。


「先生、マヤです!」


 再びノックする。


「先生!」


「五月蝿いわい、そう騒がんでも聞こえとる」


 声と共に、唐突に扉が開かれた。


「久しいな、マヤ。どうじゃ仕事は?」


 現れた老人は、マヤを見つめ懐かしそうに声を上げる。


「その事で、少しお話をお聞きしたいのですが」


 マヤが伏し目がちで、控えめに答えた。


「悩み事かの?」


「まあ、そんなところです」


「ふむん。まあ、上がりなさい」


「お邪魔します」


 マヤは遠慮なく、師の家に上がる。かつての特訓が脳裏に甦る、それほどに室内は当時のままだった。


「あ、お土産です。王都名物ユニコーン饅頭」


「おぉ、マヤが土産を持ってくるようになるとはの。これを食べるのも何年振りか」


 老人は目を細め、嬉しそうに受けとった。土産そのものより、かつての教え子が土産を持ってきたことの方が嬉しそうな様子だ。


「茶を()てるかの」


 濃茶が良かったかの?と聞く師に頷くマヤ。

 土産をつまみ、茶を楽しんだ後で師は口を開く。


「相談はなんじゃったかの?」


 マヤは老人を見つめ、真面目な声で問う。


「魔王の呪いを解く方法は有りますか?」


「無いわい」


 間髪入れず即答された。


「そもそも、魔王を名乗る相手に、呪いをかけられるような隙を見せた時点で、死んでおっても不思議ではないわい」


 命があっただけで儲けもんだわい、と老人は口にする。


「どうしよう先生!あたし、このままだとあいつのモノになっちゃう!」


 切羽詰まった表情で叫び出すマヤを、そっと肩に手を置き宥める老人。


「まあ、待て。順を追って話してみんか」


 幾分か落ち着きを取り戻し、マヤは今までの経緯を語った。


「ふむん。欲望の魔王ウェグヴィエラとはの。また大物に目をつけられたもんじゃの」


「大物、ですか?」


 マヤが訝しげに尋ねる。


「72柱おると言われる魔王の中でも、最上位に位置する魔王じゃ。匹敵する力を持つものは他に僅かしかおらん」


 老人は断定的に口にした。


「その呪いを解くとなれば、仮初(かりそ)めにでも滅ぼさなければならんわい」


「滅ぼす、ですか?」


「魔王はこの世に置いては、その全力を出すことはできぬ。この世の姿は現身(うつしみ)で在るがゆえにな」


 魔王の本体は魔界から出られぬからの、と老人はゆっくりと語った。


「なればこそ、その現身(うつしみ)だけでも討ち滅ぼすことができれば、その力は一時的には失われるのじゃ」


現身(うつしみ)であの力なんですか!?」


「仮にも魔王じゃぞ、お前が生きておれるのも、そやつの気まぐれに過ぎんのじゃ」


 老人は嘆息混じりに伝える。


「嫌なら、アイン・ソフ・オウルを使いこなすことじゃ。あれは神代(かみよ)の宝具、無限光、人に与えられし神の(やいば)、人の愛にて悪を絶つ(つるぎ)じゃ」


 だから、絶対に魔王に渡してはならぬ、と老人は真剣な口調で続けた。


「使いこなすことが、あたしにできますか?」


「知らん」


 老人はすがるように聞くマヤを、あっさりと突き放す。


「少なくとも、自分の欲望を認められず、老いた師にすがるようでは使いこなせんわい」


 老人は矍鑠(かくしゃく)と笑う。


「自分の欲も汚さも認め、その上で正道を行く、その覚悟がなければ、使えるものも使えん」


 お主にできるか? とかつての教え子に問いかける。


「分かりません。でも、このまま良いようにされたくはありません」


「では、やるしかないの」


 マヤは手元の茶碗をじっと見つめた。


「分かりました。やってみます。見ててください」


「その意気じゃの。お前はわしの自慢の教え子じゃ。頑張るんじゃぞ」


 老人は満足そうに微笑む。


「ところで、こんなことにも詳しい先生は、一体何者なんです?」


 マヤがふと湧いた疑問をぶつける。


「何のことはない、隠退した『大魔法使い』じゃよ」


 老人はここぞとばかりに、改心の笑みを浮かべた。

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